トヨタ MARK X 250G (2004/11/20)

 


ニッサン スカイライン



スバル レガシイB4


トヨタ アべンシス


BMW 116i


ホンダ オデッセイ

※この試乗記は2004年 11月現在の内容です。
従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。


現物を見ると、このスタイルは誰が何と言ってもマークUだ。写真の白い車は展示車両

黒い車が試乗車で、展示車と異なり標準タイヤを履く

試乗車は250Gというグレードで価格は273万円(消費税含む)で、この下のFパッケージ(245.7万円)に対してアルミホイール、ディスチャージランプ、本皮ステアリング、パワーシートなどの高級車必須装備が加わる売れ筋グレードだ。写真で見た外観は、ラインがBMW5シリーズをパクッた等と言われていたが現物を見ると、これは誰が何と言ってもマークUに見える。従来のマークUに最近のトレンドをミックスすれば、成る程こうなると言う訳だ。

乗り込んでシートに座りドアを閉めると、クラウンに比べて左右、上下共に狭いと感じる。特に頭上空間はあまり余裕が無いことから、マークXが最近のセダンには珍しく全高が低い車であることが判る。これにより、マークXオーナーから見れば、クラウンよりタイトでスポーティなクルマと思わせ、クラウンオーナーからは、所詮安物で車内も狭いと100万円の投資に満足させるという実に上手い手法だ。
シート表皮も国産車の定番であるスエード調で、良ぉ〜く見れば安物だが、チョッと見は高級感に溢れているのも従来からのマークU路線だ。シート座面右横のスイッチで調整するパワーシートは、これまた如何にも高級車という雰囲気にさせる。見せ掛けだけだろうが、何だろうが270万程度で、この高級感を買えるというのは正にトヨタの力と関心するしか無い。

運転席から眺めるダッシュボードは、最近の国産高級車が判で押したようにBMW5&7シリーズをパクったのに対してマークXは全く異なるデザインで、センスが良いかどうかは別にしてもオリジナリティという点では好感が持てる。ディスプレイを配した横長のシルバーのパネルは、トヨタにしては質感がイマイチだが、何やらプラズマディスプレイのようなイメージで、成る程、これは憧れのプラズマテレビとサラウンドシステムのあるリビングルームをイメージしたのかと思ってしまう。こんな辺りも、マークXの顧客層の心理を実に掴んでいるのが心憎い。


プラズマテレビをイメージさせるようなセンタークラスタは、オリジナリティがあって好感が持てる。

Dレンジの横はSと書かれており、そこから前後すると+、−となるのは最近の欧州車と同じ。

シートベルトを締めて、ブレーキを踏みながらセレクターをDにしようとして、ハテ?エンジンは本当に掛かっているのだろうかと思うほどにアイドリングは静かで、振動も少ない。10ヶ月程前に乗ったクラウン2.5アスリートのアイドリングはこれ程静かではなかったから、これは1年程の間に改良されたと言うことなのか?

このクルマのミッションは6速ATで、クラウンが3ℓのみ6速で2.5ℓは5速だから、この点ではマークXのほうが進んでいるが、これは近い将来クラウン2.5も6速化されるだろう。ジグザクゲートをDに入れると、その右横のゲートにはSと前後に+、-と書かれているから、欧州車のティプトロニ ックなどと同じように、スポーツモードから前後でマニアルモードになるのだろう。この辺もクラウンの3ℓと同じだが、ゲートを切ったパネル自体は、クラウンに比べて何やら安っぽい。


この角度から見ても、マークUの進化版であることが判る。
毛足の長いマットは高級ジュウタンに憧れる庶民の心を掴んでいる。
国産車丸出しのスエード調シートにはレースのハーフカバーが似合いそうだ。
 

いよいよ走り始めると、最初に驚くのがそのスムースな走行感覚で、これはBMWのスムースさや、それを目標にしたフーガとも違い、はたまたクラウンとも違うというマークX独特の感覚だ。だが少し慣れると、そのスムースさが何やらワザとらしい、作られた物のように感じてくる。試乗車は標準装備の215/60R16を履くこともあって、昨日登録したばかりの全くの新車にも係わらず、乗り心地はかなり良い。特にそれ程荒れていない道では、多少の路面の凸凹は難なく通過する。が、しかし、飛び出したマンホールなど、ある一定以上の段差を超えると行き成りガツンとくる。そのときの振動から、ボディの剛性は大したことは無いようにも思われ、クラウンアスリートが国産車としては可也の剛性感を伴っていたのとは対照的で、この辺りも同じプラットフォームとは言え、100万円の価格差分はコストダウンしていると言うことだろう。 クラウンでも十分な動力性能をもたらした2.5ℓのV6は、それより50kg軽く、ATも6速であることから想像できるように、通常の使用には十分過ぎるくらいの動力性能を持ち、特にこのクルマを買う層の使用を考えれば、3ℓの必要は無いだろう。エンジンも又、特にスムースでもないが不快な音や振動も無く、低速トルクも十分に満足できる範囲だ。ATのキックダウンも結構迅速だし、流石に6速ATだけあってシフトダウンの時のつながりもスムースだ。
今回は時間が無く、Sモードやマニアルモードが使えなかったが、恐らく無難にこなすだろう。 ステアリングは極めて軽い。フーガに試乗した人の多くがステアリングが重いと指摘したそうだ(ニッサンのデーラーで聞いた)が、成る程、このマークX辺りと比べるとフーガは重いと感じるのか?レスポンスはイラつく程トロくはないが、クイックでもない。普通のドライバーが普通に運転するのに丁度良く、クルマオタクが乗っても特に文句は出ないし、ドヘタなオバちゃんでも効きすぎると言うことはないだろう。
それはコーナーリングにも言え、少し速いくらいの速度でコーナーに入った程度では難なくクリアするが、このとき軽いステアリングからは多少のアンダーステアを感じるから、軽さに任せてチョッと余計に切るようだ。何と言っても後輪を駆動すると言うことが最大の強みで、コストダウンされていようが、やはりRWD(FR)という基本的な素性の良さがあり、この素直さはRWDが出来ないので目一杯凝った4WDで切り抜けようとしたレジェンドあたりでは太刀打ち出来ないものがある。言い換えれば王者トヨタは正攻法で買い得セダンを作れるのに対し、ホンダは必死で頑張っても高級セダンは無理という世の中の厳しさを見せ付けられたようだ。

だが、良いことばかりではない。エンジンや操舵性など、実に無難で優等生的80点主義のマークXの最大の難点はブレーキだった。ストロークが長く、効きも低く、チョッと強めのブレーキをかけようとすると、ブレーキペダルはグニューっと奥まで入って行く。試乗車が降ろしたての新車で当たりが十分でない点は考慮が必要だが、それにしても良くない。クラウンも良くなかったが、マークXはさらに酷い。ボディまで含めたブレーキ系全体の剛性がないのと、パッドのミューが低いのか?こんな面でもクラウンよりコストを削っているのが判ってしまう。ブレーキはクラウンも含めて(言い方を変えればトヨタ車)フーガ(と言うよりニッサン)のほうが遥かに勝っている。


試乗車に装備されていた215/60R16
最廉価グレードではスチールホイールに
キャップが付く。

スポーツグレードに標準
で上級グレードにオプションの225/45R18。試乗車のグレードではオプションでも付かない
 

クラウンが大きくコンセプトを変えたが車名自体は残して、通称ゼロクラウンと言って、その変身ぶりをアピールしたのに対して、車名自体をマークUからマークXに変えたからには、どのくらいの変貌があったのかと楽しみにしていたが、こちらは丸っきりのマークUその物だった。すなわち、特にクルマに関心はないが、安物のコンパクトカーには乗りたくない。と言ってもクラウンは高いし、何より上司の部長と同じクルマに乗るわけにはいかない。そんな(自称)中流階級のために、手ごろな値段と高級感、それにソコソコの性能という抜群のコストパフォーマンスでユーザーを満足させるが、決してそれ以上ではない。しかも、モデルチェンジの度に前より少しずつ良くなって行くというセオリーを今回も踏襲しているように見える。最も、欧州車的なクルマを好むユーザーには同じ価格帯でアベンシスがあるから、マークXはジャパンオリジナルに徹していられるとも言える。一部の雑誌では、無謀にもBMW5シリーズと比べて如何した、こうしたと言っているのがあったが、5シリーズどころか3シリーズと比べるのも筋違いだ。マークXのライバルは本来のユーザーを横取りした同じトヨタのエスティマを始めとするミニバンだろう。今回、それなりに良い車に進化したマークXも、バブル時代のように(3兄弟合わせて)軽く2万台/月などというのは夢物語で、そう考えると、今やそれ程に売れそうも無いセダンをこれだけ本気で開発できるトヨタの凄さを見せ付けられた感じだった。

 

追記:(2005/4/29)


Fパッケージの外観。最廉価版といっても外観上で大きく変るところはない。

一見スポーティなアルミホイールに見えるが、良く見ればホイールの隙間から見えるのはブレーキキャリパーではなくスチールホイールだ!
 

発売から約半年が過ぎ、セダン冬の時代と言われる割には、結構街中で見かけるようになった。この試乗記では実際に試乗したグレードの250G(273万円、消費税含む)が売れ筋と思ったが、どうも街で見かけるマークXは最廉価版のFパッケージ(245.7万円)が多いようだ。普通のオジサンにとってアルミホイール、ディスチャージランプ、本皮ステアリング、パワーシートなどに30万円も出す気にはなれないのだろう。