スバル レガシィ B4 3.0 (2005/6/3)
※この試乗記は2006年2月現在の内容です。現在この車種は新車販売が終了しています。

 

 

BMW116i


BMW120i


BMW320i


これぞレガシィというアイデンティティが全く感じられない外観。性能的には国産車のトップに間違いないが、それだけでは済まないのがクルマの難しさだ。

リアも何かに似ているような、いないような。

一度でも欧州車のユーザーになると中々抜け出せない、まるでヤ○ザの世界のようだが、中には経済的理由から泣く泣く国産車に戻る場合もある。そんなユーザーの多くが選ぶのがレガシィ、それもセダンのB4だ。そんな訳で、今回はレガシィがどこまで欧州車の味に近いかを検証してみよう。

その前にレガシィの歩みを簡単に振り返ってみる。スバルといえば軽自動車のスバル360が有名で、これは、もう日本の自動車史に残ることは間違いない。それに比べるとスバルの小型車のルーツであるスバル1000はイマイチ知名度が低い。ところが、スバル1000は水平対向4気筒の縦置きFFという、当時の標準からすれば驚く程の技術レベルの高い構成で、この時既にレガシィの基本は完成されていたことになる。
実はB_Otaku が高校生の時、3年生に成ると誕生日の月によっては十分に運転免許の取得が可能になるので、中にはクルマで来て、学校(決して私立のお坊ちゃん学校ではなく、マジな公立校だったが)の傍にクルマを隠して登校するなんていう奴がいた。そのクルマを隠すのに格好の場所に、ある日ピカピカのスバル1000を発見。一体持ち主は誰かといえば、お寺の息子の同級生で、噂によると進路として仏教系の大学を志望して、将来は親の後を継いで住職になるのを了解したご褒美に買って貰ったとか。数年前のクラス会で、その友人に何十年ぶりかで合ったが、風貌は正しく”坊さん!”だった。昔はフォークグループを結成して、長髪でウッドベースを弾いていたのが嘘のようだ。
それで、B_Otaku はと言えば、当時中小企業経営者の父親は高度成長真っ只中で、高校生のバカ息子にクルマを買い与えるなんて、中学生に自転車を買ってやる程度の出費感覚だったようだ。4月生まれだったので5月には免許を取得して、取り合えず与えられたのが中古のガタきたベレット1500セダンだった。これは大垂水峠を始めとしてアチコチ走りまくったりと、練習用には実に役立ったが結構故障も多く、4ヶ月後の9月には新車のカローラ1200SLに変った。このクルマは普通のカローラに多少のエンジンチューニングやフロントディスクブレーキ(これがまた効かない!)や回転計にセンターコンソールボックス、バケット(風)シートなどのスポーティな内装を装備してもスバル1000より、確か10万程度安かったと思う。実際の内容は圧倒的にスバル1000が優秀だが、見かけの良さやスポーティさ、それにスペック(何しろ1000と1200!)では、カローラの方が遥かに凌いでいた。今や世界のトヨタと、隙間市場狙いのスバルの差は、既に三十数年以上前に勝負がついていた事になる。

そんなふうだからスバル1000は商売という点では決して成功作ではなかったが、その内容から一部のマニアには高い評価を受けて、その後はFF-1、レオーネと名前を変えながらも改良されていった。その中でも1972年のスバル レオーネバン4WDは、これこそ4WDの王者レガシィのルーツとなるクルマだった。元々は電力会社が自社の施設を巡回する際に、特に冬季の積雪や不整地走行を考慮して4WD車を使用していたが、当時の4WDというのはランドクルーザーやパトロール(後のサファリ)、更には三菱ジープなど、そのルーツを軍用車両に持つようなヘビーデューティなオフロード車両で、価格もさることながら、運転のし辛さなど乗用車ベースのバンとは雲泥の差だった。そこで、乗用車ベースバンの4WDというスバル4WDのルーツともいえるモデルが特注で電力会社に供給された。これを元に一般市販されたのがレオーネバン4WDだった。


レガシィのルーツと言える2台
写真左は1966年発売のスバル1000。水平対向エンジンと前輪駆動(FF)という当時としては画期的な構成だった。
写真右は1972年発売のスバル レオーネ エステートバン4WD。これぞレガシィ4WDのルーツだ。当時4WDと言えば大型オフロード車のみだったため、乗用車ベースのバンによる4WDという発想は極めユニークだった。

ところが、技術的には最先端を行くレオーネも、商売としてはパッとせず、1980年代の後半には経営的な危機に陥り、巷ではスバルの名前もこれまでか?などと言う噂も飛んでいた。そして、1989年にレオーネの後継として、より上級モデルとなった正に起死回生のレガシィを発売した。
このレガシィの成功により、見事に危機を脱出したばかりか、4WDワゴンという独特のポジションを築きあげたことは、皆さんご承知だろう。

では、今回の試乗が何故ワゴンでは無くて、セダン(B4)なのかというと、クルマとしての運動性能を考えれば、リアの重いワゴンよりも、セダンの方が圧倒的に有利な事と、ライバルとなる欧州プレミアムカーと比較するためにもセダンに乗るほうが公平に評価できると考えるからだ。また、身の回りでは実際に欧州車からレガシィに乗り変えるユーザーの多くがセダンを選んでいる事実も加味して、レガシィとしてはむしろマイナーなB4の試乗となった。


リアの広さはミドルサイズとしては十分だ。
と言ってもドライバーズカーには違いなく、特等席はフロントシートだ。

以前に比べれば質感もかなり向上したが、何となく垢抜けない田舎臭い雰囲気が抜けていない。レガシィの特徴とも言えるサッシレスの窓は、剛性の点では疑問が残る。ポルシェやBMWのクーペのように窓がボディに食い込む構造なら良いのだが。
 

試乗車はB4 3.0Rでベースグレードの299.2万円(消費税込み)に対して濃色ガラス、マッキントッシュサウンドシステム、VDC、クルーズコントロールが付いて338.65万円。さらにナビが装着されていたので、370万程度になり、総額では400万くらいだろう。試乗車としては珍しく走行距離は1万キロを超えており、しかもマイナーチェンジ前の車種だ。

外観はこれぞレガシィという特徴はないから、クルマに詳しくない普通の人には、このクルマが何なのか判らないだろう。最近のトヨタやニッサンは一目でそれと判る特徴があるようになったが、レガシィの色んなクルマの特徴をごちゃ混ぜしたような無国籍的な外観は、まるで韓国車のようだ。これがワゴンならば、レガシィの雰囲気というのは何となく伝わるのだが、セダンは最初から売る気があるのかと疑いたくなる。

シートに座って室内を見渡せば、ダッシュボード全体の雰囲気は決して悪くない。以前のレガシィがなんともセンスの悪い内装だったのに比べれば、かなり良くなっている。それでも何となく田舎臭い雰囲気は残っている。ここで、良く見れば、特にセンタークラスタのエアコンやオーディオのコントロール付近が何処かで見たことのある雰囲気だ。と、思って考えたら、そうだ、ポルシェに似ている!色具合と良い、デザインと良い、偶然かも知れないが意識しているのかもしれない。そう言えば、スバルデーラーの一部ではポルシェセンターを併設している店がある。今時水平対向エンジンを量産しているのはスバルとポルシェだけだから、意識していないということは無いだろう。

最近の国産車のシートは10年前に比べてれば各段に進歩しており、少なくとも300万級のクルマで、すぐに腰が痛くなるようなシートは無くなった。このレガシィも短時間乗っただけでは、大きな欠点は見られなかった。また、シートの調整は電動で、どうもこの3ℓは高級志向のようだ。


オプションのナビを装着したダッシュボード。この雰囲気は何処かで思えがあると思って考えたら、そうだポルシェに似ている。
ATのセレクターは最近流行のティプロトニクスタイプでポジションは奥からP、R、N、DでDから右に倒すとマニアルモードになる。

これはポルシェ911カレラSのセンタークラスタ付近。オーディオとエアコンのパネル形状や色使いなど、何となくレガシィと似ているような?

国産車丸出しの電子自光式メータは、このクルマの性格には合わない。こういうセンスが折角の性能を台無しにしている。
 

いよいよ走り出してみると、最初に感じるのは3リッター級にしては、低速トルクが細く感じる事だ。勿論、普通に街中を走るには十分すぎるのだが、BMW330iなどのように低速からグイグイと背中に加速度を感じるような特性を期待すると、チョッとガッカリする。この辺はホンダレジェンド等も同じような感覚だったから、国産オタクにはこれで良いのだろうか?
そこで、今度は一気に踏み込んでみると、4000rpmあたりから独特のバルブ音が聞こえるが、それでも意外と静かで、このクルマは高級車を狙っているのかと思ってしまう。6000rpm程度まで回しても全域で振動も少なく、エンジンの素性は良いのだろうが、これまたBMW330iは言うに及ばず、クラウン3リッターでも感じる、チョッと油断するとトンでもない速度になっている、あの感覚が無く、3リッターを積んだミドルクラスにしては物足りなさを感じる。

試乗車の5速ATは最近流行のDレンジから横に倒すとMTモードになる、欧州で言うティプトロ二ックが装着されていた。AT自体は最近の水準に達していて、変速はスムースだし、キックダウンの反応も特に問題ない。だからと言って、感心するほどでもない。今回は時間的に余裕がなく、MTモードを試すことは出来なかったが、レガシィの場合は6MTの設定があるので、積極的にギヤを選ぶ走り方をしたいのならMTを選んだほうが楽しめるだろう。欧州車の場合はMT自体が少ないし、しかもRHD(右ハンドル)となると、ほぼ絶望的だから、この点での国産車の強みを見逃すことはない。

ステアリングは適度にクイックで国産車としては最良の部類だ。試乗したコースは途中に中速コーナーが数箇所連続する場面があったが、この時のコーナーリング速度と安定性は正に欧州車並で、適度なアンダーステアはトルクを駆けても、お家芸の4WDにより実に安定した挙動を示す。同じく4WDでは世界的の定評のあるアウディクワトロと比べてもコーナーリングの楽しさではむしろ上回るくらいだ。ただし、直線走行時の無類の安定性はアウディの方が上回るようだが、それも先代までの話で、新型は何故か劣っていたから、今やスバルの4WDは世界でもトップには間違いない。

これだけハンドリングが良いにも拘わらず乗り心地も良く、まるで良くできた欧州車のようだ。国産車の弱点は、走りを左右するダンパーの性能が悪く、乗り心地と安定性を両立できない点にある。レガシィは一体何処のダンパーを使っているのかと思ったら、何の事はない、3.0は標準でビルシュタイン製のダンパーが付いていた。勿論、ダンパーだけ良くても、この特性は出ないだろうが、何れにしても、欧州車から国産車への出戻りユーザーの多くがレガシィを選ぶ理由が納得できる。

ブレーキはと言えば、踏み始めから重めで遊びも少なく、何となくメルセデス的だ。踏力は大きめで、最近国産車でも流行の欧州車的な摩擦係数の高そうなパッドを使った喰いつくようなフィーリングではなく、軽く足を乗せた程度ではスーッと滑るような感じだ。もちろん、力を増せば十分に強力な制動力を得られるが、乗り心地や操舵性が欧州車的なのに対して、何となく期待を裏切られたような気もする。
フィーリングはとも角、レガシイは初代からブレーキに関しては他社に比べて、金がかかっていた。フロントはフローティングタイプとは言え2ポット(ピストン)で、ミドルサイズセダンにも拘わらず重量級のSUVと同じクラスのキャリパーを使っていた。ビルシュタインのダンパーといい、見えないところへ金をかけるのは立派なものだ。

215/45R17のタイヤと17インチ2ポットのブレーキ
これを見ればバリバリのスポーツセダンだが
エンジンはおとなしく、どうもターゲットが不明瞭だ。
 

低速トルクや3リッターらしいパワー感にはもう一息だし、スポーツセダンなのか高級車なのか、今イチハッキリしないコンセプトなど、アラを探せば限はないが、国産車としては限りなく欧州車に近いという事も事実だ。最近Eセグメントはゼロクラウンやフーガなど、欧州車に迫るものもボチボチ出てきたが、何故かDセグメントとなるとプレミオやプリメーラなど、Cクラスや3シリーズと比較するのはチャンチャラ可笑しいオヤジグルマばかりの現実にあって、唯一このレガシィが何とかその資格ありと言える。
願わくば、もう一息頑張れば、真のプレミアムカーに成れそうなのに。今のままでは、やはり廉価版のベンツ・ビーエムの地位が相応しい。なにより、このクルマを買って、果たして所有する喜びが有るかと考えてしまう。

今回試乗した3リッターのセダンはイマイチそのコンセプトがハッキリしなかったが、そういう意味では4気等ターボが、しかもワゴンならば、独特のコンセプトを持っている訳で、成る程、世間でレガシィと言えばワゴンのGTなのは納得できる。流石に、このクラスのユーザーというのは厳しいもので、シッカリ見抜いているという訳だ。

名門のエリートである弁津クンや美伊江武クンと比べても勝るとも劣らない実力を備えているのに、コネが無いのと、謙虚な性格の須場瑠クンは、コネが有る以外は、仕事は出来ないし頭は悪い、性格も悪くて口だけ達者な募留募クンにまで追い越され、完全に出世街道から外れてしまった。でも、周りは友達にするなら須場瑠クンが一番、と言いつつも、どうせ付き合うならやっぱり美伊江武クンあたりを選んでしまう。それでも、マトモな連中はちゃんと認めているのだから、この際、地道にわが道を行けば良いんじゃないかな、須場瑠クン!