ホンダ オデッセイ アブソルート (2005/1/8)

 


ミニバンと言うよりもステーションワゴンに近い外観。アブソルートは若者が好みそうなエアロ仕様。
 
左右から出る排気管も走りを予感させる。
が、実際には・・・・。
 
 

試乗車はアブソルート2WDでベース価格は273万円(消費税含む)で、さらにオプションのナビゲーションシステムを装備のため、車両価格で300万円超、総額なら3百数十万となる。

全高1550とミニバンとしては最も低い部類のオデッセイの外観は、確かにミニバンと言うよりもステーションワゴンと言える雰囲気だ。それに加えて、試乗車はアブソルートなので、大径ホイールやエアロパーツもついていることから、若者が喜びそうな雰囲気がムンムンしている。オーナーは、この車に飽きても、結構良い値で処分できるだろう。ただし、二人目のオーナーに渡ったら、低い全高は更に低く、マフラーはゴ太く、音はヴォー・ヴォーと下品に吠える、頭の悪そうな車に変身することは間違いないが。

運転席に座ってダッシュボードを見れは質感は中々良く、オプションのナビを装着しているため、センタークラスターには何処かで見たようなダイヤル式の選択スイッチ(プログレッシブコマンダーと言うらしい)がある。シートを合わせるために、スイッチを探すが、見つからない!実は手動だった。これだけハイテクの車なので勝手にパワーシートと勘違いしたのだった。気を取り直して調整するが、どうもシックリこない。シート位置を足に合わせればステアリングの距離は遠いし、ステアリングを基準にすてば、足は不自然に曲げる必要があるし、何を如何調整しても正常な運転姿勢が取れない。更に膝はダッシュボートに当たるし、キーホルダーは足にチャラチャラと触れる。シート自体も、如何にも国産車で、手抜き丸出しの安物ウレタンを使用しているであろう座り心地は、不自然な足の位置も手伝って30分で腰が痛くなった。

このように冷遇されている運転席に比べて2列目のシートは、広さで言えばセルシオやシーマにも勝る特等席といえるだろう。前後に平均的な男性(170cmクラス)が乗ったくらいでは、2列めの膝の余裕はコブシ2個以上もある。
この車はやはりミニバンなのだ。


質感は中々良いが、ナビの選択ダイヤルは何処かで見たような?

いよいよ走り出すために、セレクタをDに入れる。7〜8年前に乗ったCR-Vのセレクターは節度がなく、思ったポジションを通り越してしまう等かなり酷かったが、このオデッセイはまあまあの感触で、これなら合格だろう。走り出した第1印象はスロットルを少し踏むと、この大柄な車がソコソコのトルク感を伴って走り始めるので、これは中々と感心する。が、それ以上踏んでも大した事はなく、アブソリュートの200PSを持っても空車で1640kgのデカいドンガラをスポーティに走らせるのは不可能だ。勿論、ホンダのエンジンらしく、ベタ踏みすれば躊躇なく7000rpmまで回るが、低回転からレッドゾーン直前までトルク感は細い。この車を外観に似合うように走らせるには3ℓが絶対に必要だ。

最初に狭い駐車場から出るために直角に曲がると、異様に回転半径が大きい事に気付く。それに長いホイールベースに依る内輪差も大きく、オマケに全く先の見えないボンネットや、太いAピラーによる死角の大きさで、とに角取り回しは最悪だ。後方視界も非常に悪いので、バックでの車庫入れや方向転換も大事で、更に悪いことにサイドミラーも見難い。ところが、この試乗車のようにナビが付いていれば、後方のモニターにもなるので、慣れればこれに頼ることで、何とか安全性は確保できるだろう。では、純正ナビが付いていない場合はどうなるか?

オデッセイに限らず、ラージサイズのミニバンは取り回しは良くないのだが、同じように前が見えなくても、エスティマあたりは遥かにフロント先端を感覚で認識し易い。トヨタはやはり技術的に勝るのか、個人的感覚の差なのか、ホンダ車と相性が悪いのか?

普通に走る分には5速ATはシフトショックもなく、無難に仕事をこなす。いざと言うときのキックダウンは結構トロいが、後述するようにレベルの低い操舵性能を考えれば、スポーツドライビングとは縁遠いので、まあ良いことにしよう。このATは欧州車のティプトロニクスと同等のマニアルモードを持つが、これを使うのは無意味だろう。


前後に170cmクラスの乗員が乗っても、後席の膝はコブシ2個以上の余裕がある。

シートは座面がクロスでサイドサポートがレザー風?

ステアリングはホンダ車のイメージからすると、かなりトロい。中心付近から切り始めても中々クルマは曲がりださない。以前乗ったCR-Vはチョッと切ると即座に反応したので、流石はホンダと思った記憶があるが、これは如何したものだろう。試乗中に結構狭く、カーブもきつく、オマケに登りながらというコーナーがあったが、トロイだけではなく不正確なステアリングと、かなりのアンダーステアに加えて、出来の悪いワゴンボディによくある、後輪の不安定さも加わって最悪のコーナーリングを体験できた。この感覚は何処かで覚えがある。考えて見たら、ボルボのV70で体験したのと同じだった。

こんな特性だから、街中でも無理は出来ない。事故を起こしたくなければ、常に慎重に、言い換えればトロトロとノンビリ、状況により即減速という運転に徹するしかないだろう。そんな時に救いとなるのは、結構フィーリングが良く、割と剛性感のあるブレーキだ。ストロークも短かめだし、踏力も丁度良く、踏んだ分だけ減速するから、危なさそうになったら早めに減速して、レベルの低いアクティブセーフティーを補うのが良いだろう。雑誌の特集で、「アブソリュートはスポーツカーと見紛うほどの走り」と書いていたレポーターは、一体何なんだ?

走りの酷さを別にすれば、乗り心地は結構良い。その外観やスポーツグレートというイメージから、ガチガチかとも思ったが、タイヤも215/55R17という設定で、普通の路面では、細かい凸凹は上手く吸収する。ただし、橋などの段差や、飛び出したマンホールなど少し衝撃が大きい場合は、ボディ全体が振動して不快だが、これもデカくて安物のドンガラからして当然と諦めるしかない。

 
ステアリングのスイッチで各種のコントロールが出来る。
 
タイヤは215/55R17と以外に大人しいので、乗り心地は良い。
 

如何にも速そうな外観と、ハイテク満載の最新装備に広い室内空間で、イザとなれば7人が乗れる。スペックを見れば、これで300万円は大バーゲンと思える。
が、しかし・・・・。
視界の悪さと、大きな回転半径、それにパワー不足、しかも不正確なステアリングと格闘しながら、変てこりんなドライビングポジションと安物のシートで、腰は痛いし、足も痺れるという重労働を物ともせず、これも家族の為と、渋滞の中を頑張るお父さん。長期連休中に報道される大事故には必ずと言って良いほどミニバン家族が絡んでいて、一家数人が死んだり、重症を負ったりという悲惨な事故は、成るほど納得出来る。そのミニバンとしては、重心も低く、セダン並に軽快と言われているオデッセイの、それも一番スポーティなグレードであるアブソルートに今回乗ったが、やはりミニバンだった。1ヶ月程前に乗った、マークX 250Gは価格的にほぼ同じだが、動力性能やコーナリングなどの基本性能では、正に月とスッポン。安全性を考えれば、マークXを買うのが正解だろうが、世の中の女房族やガキ共はミニバンを欲しがる。自分たちが楽を出来るからだろうが、その多少の楽のために、命を落としては何にもならないと思うのだが?

日本人がミニバンの危険性に気が付いて、真っ当なセダンが復権するのは何時なのだろうか?