トヨタ セルシオ Cタイプ (2002/08/23)
 

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試乗車はCタイプで、シートはファブリックだったので、ベース価格は620万円でこれにオプションのナビが付いていたので、650万円程度だろう。

室内はさすがに出来がよい。シートの表皮もウールファブリックで、クラウンの一見豪華、実は安手の贋物とは訳が違う。ただし、シートの座り心地はイマイチ(柔らかく腰が無い)で90分の試乗が終わった時には、すこし腰が痛かった。この点は150万円のオペル・ヴィータに負ける。日本人が椅子に座るようになったのはホンの100年程度で、やはり椅子のノウハウは欧州に敵わないのだろう。 この際発想を変えて、畳にあぐら掻いて運転する車でも作ったら、日本人にとって疲れない理想のシートだったりして? メーターは当然オプティトロンで、基本的には前回乗ったクラウンに似ているが、良く見ると視点はさら遠くて目に優しい。細かい表示もコストをかけているのが良く判る。

Dレンジに入れてブレーキから足をはなすと、クリープが大きいのに驚く。良く考えれば国産車としては標準的なのだけれど、セルシオは欧州の一流どころと張合うべきクルマの筈。これはチョットいただけない。 クリープの大きさに不満を持ちながらも、そっとスロットルを踏み込むとクルマは実にスムースに音も無く走り始めた。走り始めて直ぐに感動したのは530以来だ。

乗り心地は当然良く、細かい路面の段差などは簡単に通過する。意外だったは、段差で多少のインフォメーション(極弱い振動がボディとステアリングに良い意味で伝わる)があったことで、話に聞いていた、靴の底から足の裏を掻くようなジレッタさは感じなかったし、ハンドリングもそこそこ機敏(クイックとは言えないが)だった。滑り止め処理をした路面では、欧州車のようにザーという音さえ聞こえた。

と、ここでメーター内にダンパーの絵とともにsportの文字を発見した。と、言うことは現在可変ダンパーはスポーツモードになっているらしいので、コンソール上のそれらしきスイッチをnormalにしたら、路面のショックは殆ど感じず、しかしステアリングをグイッと切るとグラッと来るという、想像どおりのセルシオとなった。10分程このモードにしておいたが、趣味に合わないので、その後はsportにしたままだった。

スロットルのレスポンスはかなり良く、オーマのキックダウンもかなり機敏に反応し、以前乗ったマークUブリットのツインターボに比べて、格段に良い。4.3ℓのV8は、さすがにスムースかつ静かだけれど、フルスロットル時に3000rpmあたりからは、V8のビート(BMWのように官能的ではないが決して不快ではない)が聞こえる。

取り回しはあまり良くない。狭い裏道に入ってみたが、結構苦労した。クルマの大きさから当然とも言えるけど、メルセデスはチョットヤバイと思える狭い道でも、入ってみると以外に取りまわしが良く、外形からは意外なほど小回りが効いてビックリする。BMW5シリーズも見かけが小さく見え、乗ってみても小さい気がするけど、実際には幅1800、全長4800あり決して小さくは無い。

ブレーキはこのクルマの最大の欠点だった。まず、効きが悪い。踏力が大きいと共に食いつき感が全然無く、不安がある。さらに、強く踏むとストロークがグーッと延び、如何にもブレーキ全体に剛性がなく、あちこちが変形している様子がわかる。アルミのオポーズドをオゴッタ割には、テーベスのFNに全く歯が立たないようだ。

やはりセルシオは世界で勝負するために、本気で開発された車というのが確認できて、日本人としてホットした。クラウンのように、でかいドンガラのガラクタに一見豪華そうなインチキ装備で結構な値段をふんだくるのとは、根本的に違う。この3代目は、結構ヨーロッパ的になっているのは、やはり米国の成功の割に、欧州では全く相手にされなかった反省なのか?ただし、今回乗った限りでは、欧州のこの手の車を買うユーザーの基準であるメルセデスにBMW、そしてアウディに対して、セルシオを買うメリットは価格だけとなるのではないか。低価格以外には、あえてセルシオを買う理由がないと言ったらあんまりか?

今回試乗したCタイプの620万円というのは、530iハイラインより30万安く、新型E320より80万円安い。しかも、ライバルが6気筒の3Lクラスなのに対して、セルシオはV8の4.3ℓと一クラス上。それじゃ、650万の予算あったらセルシオ買うのか?と聞かれたらNO。自分なら530かもう一頑張りしてE320か、動力性能我慢してもE240にするだろう。

でも、これはアクまで個人の趣味だから、セルシオが良いという人には是非とも勧めたい。Aタイプならば540万円で、クラウンだって3ℓなら400万円はするわけで、あと140万でセルシオが買えるのだから、クラウン買いたい人は140万借金してセルシオ買うべき!下取りで元が取れるのだから貯金したと思えば結局得する筈。

トヨタは頑張って、世界の上級車市場を目指し、北米ではそれなりの実績を残した。一時はメルセデスにかなり近づいたかのようだった。この3代目でそれなりの成果に至ったのは立派だった。が、しかし、10年掛かって追いついたと思ったら、Sクラスは違う世界へ行ってしまい、7シリーズはさらに異なる物を求めて行った。新Eクラスも先進性でセルシオは敵では無くなってしまった。モデル末期の5シリーズも着実な改良から、現行はオールアルミのサスにより、エレキを使わないメカスプリングの後輪駆動としては究極のしなやかさだった。アウディA6はクワトロという手で、メルセデスともBMWとも違う独自の世界を築いた。ところが、セルシオは何の先進性も持たず、ひたすら高品質な製造技術を追求していたら、ライバルは違う世界に行ってしまった。

我々の先祖が大八車引いていた時に、既にガソリン自動車作っていた連中を追い越すことは不可能なのだろうか。