AUDI A1 1.4TFSI Sport Package (2011/2) 後編 ⇒前編へ戻る


A1のエンジン始動は最近では珍しく、ステアリングコラム側面のキーホールに金属製のキーを差し込んで回すというオーソドックスな方法をとっている (写真31)。フロアーのATセレクターはP→R→N→DとDから左に押してマニュアルモードとなるのは他車とも共通のオーソドックスなものだが、Dの手前にはS(スポーツ)がある のはVWとアウディに独特のものだ (写真32)。ブレーキを踏んでコンソール後方のオーソドックスなレバー式のパーキングブレーキを解除してブレーキを放すと、DCTタイプ(アウディではSトロニックという)としては極自然にクリープするので、ユックリとアクセルを踏み増して駐車場内を移動する。

このディーラも4車線国道沿いのために、速いクルマの流れの切れ目を未だか未だかと待って、やっとのことで切れ目を見つけ左いっぱいにステアリングを切りながら本線に入る。 走り出した第一印象は結構トロい感じがする。その理由はDCTによるスリップの無さからエンジン回転数は低めになり、いくら低回転側からターボが効くといっても、流石に 1,200rpm前後では大したトルクが出ないことと、国産車のようにスロットル特性に細工して、チョイと踏んだだけでガバっと開くような小細工をやっていないことが原因だろう。 Dレンジでの巡航時の回転数は1,200〜1,500回転ほどで、ここから静かにアクセルを踏んでも大した反応は無いが、2/3程度まで踏んでやれば多少のタイムラグと共に素早くシフトダウンが起こり、それからはマアマアの加速をする。今度はDレンジの手前にあるSレンジに入れてみる。Sレンジでは巡航時の回転数が2,500〜3,000rpmとなり、既に充分な過給が行われている事から、アクセルと踏めば素早く反応する。 とはいっても、絶対的なパワー(122ps)はそれほどでもないし、Bセグメントとはいっても車重は1,190kgだから、パワーウェイトレシオは9.8kg/psという実用車レベルであり、胸のすくような加速を期待してはならない。 

想像通りにイマイチの加速だが、フルスロットル時の音は中々良く、アルファロメオとは言わないまでもスポーティーな音質が耳に心地良い。この辺りが、うるさいだけで不快な国産の安物コンパクトカーと大いに違うところで、パワー不足を上手くカバーしている。A1のマニュアル動作は、ステアリング上にパドルスイッチがなく、コンソール上のセレクターを使うしかないのがイマイチだ。しかも、 パターンはノブを押してアップ、引いてダウンという個人的にはあまり嬉しく無いものだ。それでも、動作自体はデュアルクラッチらしく素早い変速が行われる。アウディではDCTのことをSトロニックと呼んでいるが、これはVWのDSGと全く同じだから、経験という意味では世界一で、実際の動作も特に気になるような事もなかった。 マニュアルでシフトアップした時に気が付いたのだが、たとえば2速で4,500rpm(53km/h)まで引っ張って、セレクターレバーを素早く引くとミッションは3速に入るが、この時に回転計を見ていると、指針は4,500rpmから3,000rpmへとスパッと一瞬で移動する。これはエンジンのレスポンスが極めて良いから実現できるのだろう。この点では国産のB、CセグメントのようにCVTを使用していればトロくさいエンジンでも誤魔化しが効くが、DCTではそうはいかない難しさがあることに気が付いた。
 


写真31
エンジンの始動は今時珍しい金属キーを挿入して捻るという古典的な方法による。

 


写真32
アウディ&VWに共通のパターンで、Dの手前にSがある。ノブの先端には”S tronic”の書かれている。
 

 

写真 36
4気筒DOHC 1,389ccターボで
122ps/5,000rpm 20.4kgm/4,000rpmとVWゴルフ コンフォートラインと同一スペックのエンジン。
 

A1には今流行のアイドリングストップ機能が装備されている。この機能で興味のあるのは、程良いタイミングで解除できるか、ということで、先日乗ったヴィッツのように、レスポンスが悪いために信号が青になってさあ発進とばかりにアクセルを踏んでもクルマは発進しない。あれっ?と思って無意識にアクセルを踏み増ししたら、突然エンジンが始動してビョンと飛び出すようだと、エコの前に危険だったりする。そこで、信号待ちから青信号に変わったら、素早くブレーキからアクセルに踏み代えてみると、ブレーキを放した瞬間に、グッというセルモーター が僅かに回ったタイミングでエンジンが始動した。その動作は、これでもかっ!という感じで、言ってみれば体育会系の乗りだった。これなら全く不安は無い。

メーターといえばアウディの速度計の目盛 は10、30、50という奇数の数字が大きく、20、40、60という偶数が小さく表示されている。しかし、これは慣れないと視認性が良くない。日本人の常識では偶数が基準だろうと思うが、ドイツ人は違うのか、と思ってよくよく考えてみたらば、メスセデスもBMWもポルシェだって奇数数字を大きく表示なんてしていない。それではVWはといえば、これまた偶数の数字が大きい。そう、何故かアウディのみが奇数主体の表示(写真33)なのだ?
また、A1のメータークラスターには大径のメーターが2個あり、その中に夫々小径メーターが1個づつ組み込まれている。しかし、本来アウディのメーターは大径2個と別に小径が2個あるのが普通であり、その面ではA1のメーターはA3以上に比べて省略されている。差別かなのか、それとも軽快さを狙ったのかは定かではない。

最近のクルマはメータークラスター中央にあるディスプレイに各種情報が表示されるのは当然であるが、A1の場合、目新しい機能としてはカーナビと連動して、交差点の右左折などの情報が表示されることで、最初は突然表示が変わった理由が判らなかったが、良く見れば左折の表示をしているようだと気が付いた。慣れると、中央のカーナビ画面に視線を移動する必要が無く、なかなか便利だった(写真35)。
 


写真33
10、30、50・・・と奇数が大きく表示されているA1の速度計。兄貴分のVWも含めて、偶数標記が普通だが。
 


写真34
アウディは 大径メーターと小径メーター各2個が普通だが、A1は大径2個で内部に小径メーターを組み込んでいる。
 

 


写真35
ナビと連動して交差点の進路案内が表示される。
 

 

ステアリングは国産コンパクト並みに軽く、しかも結構クイックだから、スポーティーという面では結構良いところをいっている。試乗車はスポーツパッケージのためにサスペンションも固められていることと、Bセグメントという小柄なボディと1,190kgという比較的軽い車重も手伝って、実に軽やかな操舵特性を持っている。 そして何よりも驚くのは、FFとは思えないニュートラルなコーナーリングで、これはFFスポーツのお手本であるVWゴルフGTIにも勝るのではないか、というくらいの出来の良さだ。 しかも、全幅1,740mmのコンパクトなBセグメントボディは狭い道でも取り回しが良く、ワインディング路などでは安定して旋回特性に加えて幅の狭さが大いにメリットとなり、 取り回しの悪さから減速を余儀なくされる高性能スポーツを尻目に、軽快なコーナーリングを楽しめる可能性も大となる。

その代償としては、硬い乗り心地と、ドライバーによってはクイック過ぎると感じるかもしれないステアリングだから、A1のプレミアム性を気に入って買う、決して走りのマニアではないユーザーには、このスポーツ パッケージは勧めない。ただし、スポーツパッケージの標準タイヤが215/45R16であるのに対して、今回の試乗車にはオプションの215/40R17が装着 されていたから、操舵性はより過敏で、乗り心地の面でもさらに硬い方向だったであろう点も考慮が必要だ。なお、ベースグレードには205/55R15が標準となり、スポーツパッケージ程には硬くはないであろうサスペンションと共に乗り心地は大きく改善されていると思う。

既に述べたように、試乗車はスポーツ パッケージで足が固められているために乗り心地は相当に硬い部類には入るが、出来の良い欧州系スポーツサルーンの例に漏れず決して不快ではない。そしてブレーキは ホイールの隙間から目で見た限りでは極普通の片押しキャリパーで、フロントは鋳物製でリアはハウジングのみがアルミ製のようだった。実際には軽い踏力でよく効く欧州車の典型的なフィーリングで、これまた十分な性能を持っている。
 

写真37
全幅1,740mmのコンパクトなBセグメントボディは狭い道での取り回しも良く、パーソナルユースには実に無駄が無い。


写真38
試乗車はオプションの7.5J×17ホイールと215/40R17タイヤが装着されていた。スポーツパッケージの標準は 7J×16ホイールと215/45R16タイヤとなる。
 

 


写真39
ホイールの隙間からは普通の片押しキャリパーが見える。
 

 

今現在、A1の一番の弱点はやはり動力性能だろう。勿論ユーザーの考え次第では全く問題の無いレベルなのかもしれないが、プレミアムという面では多少オーバーパワーくらいなほうが、それらしい。そんな要求には、同じ1.4Lでターボに加え てスーパーチャージャーまで塔載したツインチャージャーがVWポロGTI(179ps)とVWゴルフ ハイライン(160ps)に塔載されているから、これを塔載したモデルをA1に追加すれば問題は一気に解決ということになる。いや、これは近い将来追加設定されてもおかしくは無い。

アウディA1のベース価格は289万円 と、アウディとしては随分安く感じるが、実際にはベース仕様そのままで乗ることは殆ど無さそうで、最小限バイキセノンパッケージ(15万円)くらいは付けるだろうから、実質304万円となる。更には、標準の内装はBセグメントのコンパクトカーとしてはダントツに高級感があるとはいえ、よくよく見るとドアトリムの一部にはレザー仕上げでステッチくらいは欲しい 、となるとレザーパッケージ(28万円)が追加となる。

パーソナルユースとして一人で乗る機会の多い独身者ならBセグメントで充分だが、国産のBセグコンパクトなんて安っぽくって嫌だ、というユーザーにはA1を選ぶ理由は充分にある。また、子供たちも巣立ってしまい、 同乗するのは長年連れ添った熟年夫婦、という場合にも、小さくても高級感のあるA1を選ぶのは正解だと思う。 勿論、富裕層のサードカー、フォースカーにもピッタリなのは言うまでも無い。そう「金持ちのアルト」という感じで。

事実、A1の売れ行きは上々で、A1目当てにディーラーを訪れるユーザーで、アウディディーラーとしては前代未聞の盛況だったらしく、A1を見に来たユーザーが結局はA3やA4を購入したこと もあり、2010年1月の売り上げはアウディとしての新記録で、輸入車3位のBMWに迫ったそうだ。このA1が充分な成功を収めれば、他車もプレミアムコンパクト 市場に挙って参加するだろう。トヨタもヴィッツベースでレクサスブランドでもデッチ上げるのかな?

それでは、国産コンパクトと比べてみたら、一体どのくらい高級感があるのだろうか?という疑問に答えるために、やってみましょう、その比較を。
という訳で、

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回はプレミアムコンパクトのアウディA1に対して、何と国産コンパクトの代表であるヴィッツ1.5RSを比較してみる。 まあ、どちらもBセグメントには違いないが・・・・。  

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