VOLVO V70 3.2 SE (2008/1/13) 前編


全長4.825m×全幅1.890m×全高1.545mという寸法はライバルであるEクラスや5シリーズ
のワゴンに比べて一回り大きく、威圧感としては先代V70を大きく上回る。

元来、日本でのボルボのイメージは頑強なボディと進んだ環境・安全対策などという良いイメージに支えられて、メルセデスやBMWに継ぐブランド、いや人によっては同等とさえ思っている場合もあったようだ。 ところが、その後は徐々にメッキが禿げてきて、今や国内販売台数は落ち目の一途。こうなった原因は主力車種である先代V70の出来の悪さも一因ではあるが、フォードの 傘下に入ったがために、短期的な業績のみを追求した日本法人上層部の問題など、営業的に致命的な問題を抱えていることもあるようだ。そんなボルボからV70の新型が発表された。B_Otaku の試乗記では6年前に先代のV70を試乗したが、正直言って剛性感最悪のグニャグニャボティに3000rpm以上はマトモに回らないエンジンや、見せ掛けのスポーティさを演出したことによる、極めて低次元で危険なハンドリング等、等・・・・・・これはもう唖然としたものだった。
その後は4年前にS40を試乗し、この時はV70に比べれば遥かにマトモなクルマだと感じたが、何のことは無い中身は殆どマツダアクセラだったから、それなりの基本性能を持っていてあたり前でもあった。そして、今回の新型V70は、ベースが現行VOLVOとしては最上級のS80という事で、これは少しは期待できるのではないかとも思い、今回の試乗となった。

さて、本題に入る前にVOLVOのステーションワゴンについて振り返ってみよう。ボルボといえばワゴンがイメージされるほどになったのは何時ごろだろうか?現代のV70の先祖は91年に発表されたFFモデルである850(写真2) である。850の前は1974年に発売された200シリーズがあり、この末期モデルの240は1994年まで販売されていた から、ボルボは早くからワゴンに力をいれていたことは間違いない。 850は97年のマイナーチェンジに際して、V70と名称を変更した(写真3)。
FFの850に対して、FRのシリーズは940/960であり、デビューは1991年。960は940(写真1)に対してリアサスがマルチリンクだったり、後期モデルではエンジンが6気筒など、高級モデルでもあった。 960は850⇒V70と同様に1997年のマイナーチェンジでV90と名称変更されたが、V70に対して価格が高い事などから売れ行きは伸びずに、結局生産中止となった。
2代目V70は2002年に発売されたが、初代に比べて幅広で、しかも丸みを帯びてしまったことから、ボルボ=真四角というボルボファンから敬遠され、発売 当初は中古車市場では旧型と価格が逆転してしまう事実もあった(写真4)。発売当時に
B_Otaku もベースモデルとライトプレッシャーターボに試乗をしたが、結果は散々だった。


写真1 940(1991〜)
940/960は850のFFに対して、FRの高級モデル。その後はMCでV90と名称変更したが、850(V70)に対して高価なことから売れ行き不振で、生産中止となった。

 


写真2 850(1991〜)
FFモデルで、最近のボルボの主力モデルとなった。
その後V70と名称を変更する

 


写真3 初代V70(1997〜)
1997のマイナーチェンジで850からV70と名称を変更した。フロントのデザインは850よりも現代的となった。

 


写真4 2代目V70(2002〜)
発売当初は先代に対してボルボらしさが薄れたデザインが不評で、中古車市場では新旧で価格が逆転する現象も現れた。 FMCされた現在もクラシックとう名で併売されている。
 

 

新型V70のラインナップは ベースモデルが直5、2.5ℓ、200psのライトプレッシャーターボエンジン搭載の2.5TLEで価格は488万円。中間モデルとして直6、3.2ℓ、238psの3.2SEが575万円で、AWDは600万円。最上級モデルは直6、3ℓ、285psターボエンジン搭載のT-6TE AWD で価格は750万円となる。
 
    VOLVO VOLVO Mercedes Benz BMW スバルレガシイ
      V70 3.2 SE 旧V70 2.5T E300ステーションワゴン 525iツーリング ツーリングワゴン3.0R
寸法重量乗車定員
全長(m)   4.825 4.720 4.885 4.855 4.688
全幅(m)   1.890 1.805 1.820 1.845 1.730
全高(m)   1.545 1.480 1.505 1.490 1.190
ホイールベース(m) 2.815 2.755 2.855 2.885 2.670
最小回転半径(m) 5.5 5.5 5.3 5.7 5.4
車両重量(kg)   1,770 1,610 1,820 1,740 1,500
乗車定員(   5 5 5 5 5
エンジン・トランスミッション
エンジン種類   直6 DOHC 直5 DOHCターボ V6 DOHC 直6 DOHC 水6 DOHC
総排気量(cm3)   3,192 2,521 2,996 2,496 2,999
最高出力(ps/rpm)   238/6,200 209/5,000 231/6,000 218/6,5050 250/6,600
最大トルク(N・m/rpm) 320/3,200 320/4,500 300/5,000 250/4,250 304/4,200
トランスミッション   6AT 5AT 7AT 6AT 5AT
サスペンション・タイヤ
サスペンション方式 ストラット ストラット 4リンク ストラット ストラット
  マルチリンク マルチリンク マルチリンク インテグラル・アーム マルチリンク
タイヤ寸法 225/50R17 205/55R18 225/55R16 225/50R17 215/45R17
  225/50R17 205/55R18 225/55R16 225/50R17 215/45R17
価格
  車両価格   5,750,000 5,390,000 7,230,000 6,680,000 3,460,000

今回試乗したグレードは3.2SEで、上表には2.5〜3ℓクラスのEセグメントワゴンをライバルとして、また先代V70も比較のために並べてみた。
現在、これらに匹敵するEセグメントの国産ワゴンは見当たらない。強いて言えばクラウンエステートがあるが、セダンが全てを一新してゼロクラウンとなり、更に近い将来フルモデルチェンジと思われるのに対して、ワゴンは今でも旧型 を継続生産している状況だ。SUVが主流の現在において、国産のステーションワゴンで順調な販売を維持しているのは唯一レガシィのみと言っても過言ではない。という事で、表にはレガシィの3ℓも比較に入れたが、やはりクラスが違うのは歴然で、横並びの比較は無理 だろう。
表を見て気が付くのは、Eクラス、5シリーズと比べても幅は最も広く、その他のスペックは数字では同等で、同クラスといっても良いようだ。また、先代V70に比べると外形寸法は一回り大きく、同じV70といっても1クラス上になった。価格的には525iツーリングに比べて約100万円安いが、これによって、「同クラスで100万円も安く、しかも排気量では1クラス上の530i以上、 おまけに530iと比べれば200万円も安い。更にはボルボはBMWに匹敵するプレミアムブランドだから、大いに買い得だ」と、思うユーザーもいるだろうし、「馬鹿言っちゃあいけねえよ!ボルボなんて安物のガラクタで、BMWと比較するのが間違っている。何百万円安かろうが、マッピラ御免だ!」というユーザーもいるはずだ。まあ、この件は各自の考えかた次第でもある。ところで、5シリーズはナビを含むiDRIVEが標準装着されているが、V70にはオプションとなるから実際の価格差は 縮まるから注意が必要だが、値引きを考慮すれば、これまた状況が変わるので何とも言えない。

それでは、新V70のエクステリアから見てみよう。データーからも判るように先代に比べて一回り以上も大きくなったために、結構な迫力がある。偉そうな点ではEクラスや5シリーズ に勝るとも劣らない。もともとボルボのデザインというのは中々優秀で 、850やV70が真四角で直ぐにボルボと判るスタイルだし、V50のようにベースがマツダアクセラとは思えないほどにボルボ的に見えるなど、ボルボの人気の多くがスタイルにあることは間違いない。そのボルボも先代V70の発売当初は、幅が広すぎたり、真四角な形状から多少の丸みを帯びてしまったことなどが原因で、むしろ初代の方が人気があり、中古車市場では価格が逆転していた。
それにしても、新V70の大きさ、特に1900mmに迫る全幅は、ウィークデーには奥方の買い物用となるような場合は、近所のスーパーの狭い駐車場に 停めるのは至難の業だから、この大きさ故に購入計画が廃案となることだって十分に考えられる。


写真5
殆ど垂直に切り落とされていた先代のリアエンドに対して、新型はバンパーが大きく出っぱっている。

 


写真6
ウエストラインが高く、ルーフが低いのが良く判る。ただし、全高はライバルに比べても決して低いわけではない。サイドウィンドウの高さを低く、狭くする事で、低くスポーティな雰囲気を出している。
 

 


写真7
リアのスペースは十分にある。とりわけ、幅方向は伊達に1.9m近い全幅ではないと納得する。
 

 


写真8
シートの高さを一杯に下げても、頭上のスペースは狭い。

 

ドアを開け て最初に目にする光景は、ドイツ車的な内装だ。S40/V50から始まった板状の薄いセンタークラスタは新V70でも採用されているが、一見ではそれと判らない程度でS40/V50程は強調されていないし、如何にも北欧風のモダンな雰囲気でもない。このクルマは明らかにメルセデスやBMWのオーナーが見ても違和感がない雰囲気に仕立てられているように感じる。
実は十数年前に、ボルボのワゴンとしてはFRの高級モデルである960を見たときに、内装の出来の良さに関心したものだった。その後、850がV70となり、更に2代目になったことから、どうも以前の高級感が薄れていったようだ。その原因にはボルボの乗用車部門がフォードに売却されてことも原因の一つだろう。何しろ、先代のV70のレザーシートは、滑りやすいし、勿論よく見れば安物のレザーを使っているし、何ともインチキくさかった。十数年前の960が、実に高級な表皮を使っていて、これ以上といえばレンジローバーを見たときだったと思うくらいに質が高く、これこそ高級北欧家具がクルマの内装になったようだと関心したのが、嘘のように成り下がってしまった。それに対して、今度の新型V70は、流石に960程ではないにしても、Eクラスや5シリーズと比べても、それ程引けを取ることは無さそうだ。
シートに座ってポジションを調整するために側面の標準的な位置にあるスイッチで、前後やバックレストの角度を調整して、次に高さを下げると、あれっ、思いのほか下がらない。と言うよりも、シート自体は下がっているのだが、最近の標準的なサルーンやワゴンに比べて、頭上の隙間が狭い。要するに天井が低い事が原因で、スペック上の全高は決して低くはないのだが、ウエストラインが高く、車内のレイアウトが上に寄っていることから、事実上の天井高が低いようだ。ガラスエリアが狭く、スポーティでカッコ良いワゴンのデザインの代償は、外形の割りには狭い頭上空間というデメリットを生んだようだが、頭上すれすれの天井は、人によってはスポーティに感じるかもしれない。本物のスポーツカーでもあるカレラやケイマンの頭上空間はもっと余裕があるのに、と言いたい気持ちをグッと堪えておこう・・・・。ただし、シートの座り心地は決して悪くないし、30分程運転して限りでは腰が痛くなったりすることも無かった。

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