VOLVO V70 3.2 SE (2008/1/13) 後編


写真9
雰囲気としてはドイツ車的な新V70のダッシュボードや内装。
ただし、今時のクルマとしては、ナビの搭載を考えていないのは販売上のハンディと思うが。
 

エンジンのスタートは 最近の流行でもあるインテリジェントキーを所持して、スターターボタンを押す方式で、これも特に違和感はない。ATセレクターも現在では世界的に主流と成っている、奥から’P’→’R’→’N’→’D’でDから左に倒してマニュアルモードという、ティプトロタイプだから初めて乗っても迷う事は全く無い(写真11)。ボルボというと、何 やらとてつもない発想で、操作にまごつくようなイメージがあるが、ここまでは極普通のクルマだった。
次に、パーキングを解除しようとコンソールをみれば、パーキングブレーキレバーはないから、これは足踏み式に違いない、と左足のフートレスト付近を探すと・・・・・・無い。実はダッシュボード右端にあるスイッチ(写真13)を引くと解除される。逆にパーキングをオンにするには押せばよい。これは説明を聞かないと判らないから、素人のクルマ泥棒からの盗難防止対策にもなるかもしれない。あっ、泥棒がこの試乗記を読んでいたらマズイじゃないか!
 


写真10
アナログメーターは速度計と回転計のみで、燃料計もディスプレに電子的に表示される。速度計の目盛りは140km/h以下と以上で間隔が異なるから、日本の高速道路では指針が丁度真上に来る。

 


写真11
セレクターのパターンは一般的なもの。
 

 


写真12
何となくドイツ車的になった内装のV70だが、センタークラスタのパネルは如何にもボルボ的なデザインだ。
 

 


写真13
パーキングブレーキは写真の下側にあるスイッチを押すとON、引くとOFFという珍しい方式を採用している。

 


写真14
横置きの直列6気筒、3.2ℓエンジンは238ps/6200rpmの最高出力と320Nm/3200rpmの最大トルクを発生する。
長いエンジンの横置きの結果は、全幅1.9mに迫る幅広ボディとなる。
 

走り始めた第一印象は、 極々普通のクルマと感じる、逆先代V70のベースモデルのように、3000rpm以上は殆ど回転が上がらない程にトロいという事もない。 試乗車のエンジンは直6、3.2ℓ、238psで、数値的にはメルセデスベンツE300ワゴンとほぼ同じで、実際に乗ったときの加速性能やトルク感も似たようなものだ。すなわち、嬉しくなる程の強烈な加速感ではないが、普通に使うなら十分過ぎる動力性能でもある。ではBMW5シリーズと比べるとどうかと言えば、元々メルセデスに比べて排気量の割にパワーがあるBMWエンジンということもあり、排気量としては一クラス小さい525iが近い性能を持っているし、排気量としては同等な530i(272ps)はE300やV70 3.2より明らかに動力性能では勝っている。
新型V70には上級モデルとして3ℓターボにより285psを発生するT-6TE AWDがあるが、これなら530iと同等の性能を発揮しそうだ。

ステアリングも先代に比べれば大いなる進歩で、これまたメルセデス的に適度に反応は鈍いが、それがむしろ運転のし易さや、長距離での疲労感の減少につながるなど、一般的な用途には適した特性でもある。と、いうことは5シリーズのように、図体のデカいワゴンがスポーツカーのように操舵できるという点に満足感を覚えるようなタイプのユーザーには適さないとい うことだ。先代V70は切り始めても反応がないのに、ある程度の角度から突然急激にタイヤが動きだすような感覚で、これは剛性の低いステアリング伝達機構により、切り始めはシャフトなどのねじれにより、タイヤ角度は動いていないが、さらに切り始めることでねじれにより溜まっていたエネルギーが一度に回転に変わる事で、行き成りタイヤの向きが変わる・・・・・そんな、感じだった。これは、ハッキリいって運転し辛いというよりも、今時危険ですらあると唖然としたものだった。それに比べて、新型は穏やかながらも切れば切っただけ反応するから、実にまともなクルマになったものだ。
今回はワインディングロードという程のコースは無かったが、チョットのチャンスを見つけて、できる限り速い速度でコーナーリングを試してみたが、図体のデカいFFとしてはとても素直で、アンダーも少ないし、ボディのたわみや、不安定さは感じなかったから、この点でも先代に比べて各部の剛性も大幅にアップしているのではないか。

乗り心地 は硬めではあるが、決して悪くは無い。この点でも欧州車の水準に達している。これをメルセデスEクラスと比べると、流石にEクラスの方が乗り心地の面で勝っているようだ。まあ、Eクラスはスペック的には同等でも、価格は150万円も高く、値引きも殆ど無いから、実売価格では更に差がつくことになり、伊達に 高価格ではないと納得できる点でもある。これに対して、5シリーズはといえば、例のランフラットタイヤというハンディがあるし、元来がスポーティな挙動を重視したスポーツサスペンション的な設定でもあることから、どうしてもゴツゴツ感があるが、決して不快ではないから、これはもうユーザーの好み次第ということになる。

ブレーキ も、これまた欧州車の標準的な効き味で、特に不満はない。と、思って試乗後にホイールから覗くキャリパーを良く見たらば、その形は明らかにドイツテーベス社のFNタイプで、これは先代BMW3シリーズ(E46)に使われていた事で有名な、欧州のスタンダード的なキャリパーだ。ただし、最近の5シリーズなどに使われているアルミ製とは違い、ベーシックな鋳鉄製で、ある面では完成されたオーソドックスなメカニズムだから、信頼性は高いだろう。広い道路に後続車もいない状況となったところで、60km/h程度から強いブレーキを踏んでみたが、クルマの挙動が乱れるようなこともなく、安定して制動が出来た。実は、これも先代V70の時は、結構乱れて恐ろしい目にあったのを思い出した。先代もキャリパー自体は同じような物を使用していたが、なにしろボディが軟で、その弊害は急制動にも現れていた。ブレーキというのは、いくらキャリパーやパッドを良くしても、ボディ自体がボロくては何にもならないという見本のようだ。ポルシェのブレーキは世界一と評判が高いのは、ブレンボ製のキャリパーやドリルドローターも良いには違いないが、それ以上にボディの造りや重量配分などの、クルマの基本の出来が良いからに他ならない。
 


写真15
フロント・リアともに255/50R17タイヤが装着されている。写真はフロント。


写真1
キャリパーは形状からBMW3シリーズで御なじみのドイツテーベス社製のようだ。
 

 

今回の3.2SEはV70としては中間グレードで、言ってみれば一番の売れ筋と考えていたが、ディーラーによると売れるのは殆どがベースグレードの2.5T LEとのことだった。2.5ℓは5気筒で、先代V70に乗ったときに、その振動の多さというかバランスの悪さに驚いたものだが、ボルボのエンジンは1気筒が0.5ℓのユニットを直列に繋げる事で、4気筒の2ℓ、5気筒の2.5ℓそして6気筒の3ℓという具合に、基本部品を共通化して生産効率を上げるモジュラー方式という、どう考えても高級車のエンジンとは言いがたい思想で成り立っている。性能の為ならばエンジンブロックに、高価で製造の難しいマグネシウム合金を使ったりというBMWとは根本的に違うのだ。この モジュラー方式のエンジンはポルシェ設計と言われている。 う〜ん、なるほど、911の水平対向エンジンを設計している隣で、ボルボのエンジンも設計された・・・・・・・のではない。ポルシェといっても全く別会社のポルシェデザイン研究所の設計で、ここはボルボ以外にも多くの自動車メーカーに対して設計委託を受けているし、自動車以外もカメラや電気製品など、あらゆる分野の設計を行なっている会社だ。ディーラーマンやユーザーで、知ってかどうかは判らないが、ボルボのエンジンはポルシェ設計だからBMWに勝るとも劣らないとか、甚だしい場合には、V70のエンジンはポルシェ製だと悦にいっている例さえあるようだ。まあ、自分の車に誇りを持つのは悪い事ではないし、何より本人は幸せなのだから、他人がとやかく言うことではないのだが。

話を戻して、新型V70を試乗した印象は、先代に対して、あらゆる面で進化して、実に普通のクルマになったという事だ。その内容は正にプアーマンズEクラスワゴンというところだった。元来、日本におけるボルボは、正にプアーマンズメルセデスで、ベンツ様には敵わないが国産車やVWよりは高級だ、という位置づけだった。確かに、バブル崩壊以前のボルボの内装などは、北欧というイメージから想像する、高品質家具のような内装に、ある面で納得するものがあった。しかし、その後の経営難からのフォードへの身売り、そしてドル箱である先代V70の出来の悪さによるイメージダウン。更には、輸入元の経営方針の悪さから、長年ボルボを育ててきた老舗のディーラーを行き成り切り捨てたり、ボルボファンである有難いユーザーがクレームを付けたからと逆切れして、悪徳弁護士を雇って訴訟という手段に出たら、逆にユーザーが徹底抗戦したために、民事訴訟で 旗色が悪くなるばかりか、それに関係したディーラーが刑事事件でも摘発されるなど・・・・・まあ、その件については有名なWEBサイトやスクープ系の雑誌の記事に詳しく載っているので、知っている人は百も承知とは思うが。
そんな事もあり、V70自体は馬鹿でかい車幅を気にしないなら、価格を考えれば決して悪いクルマではないが、輸入元やディーラーの評判を考えれば安易に勧められないのもまた事実である。しかも、製造元のボルボ自体もフォードの不振から身売りされ、 さらには買い手が未だ決まっていないという、何とも不安定な状態でもあるから、尚のこと購入には慎重な検討が必要でもある。

ところで、先代V70はクラシックという名称で現在も売られているようだ。先代の方がコンパクトで良いというユーザーの為に並行して売られているようで、実際にディーラーでクラシックに試乗している複数の若い家族連れがいた。だっ、誰だ。大量に売れ残った旧型の在庫処分だ 、等といっているのは。旧型ではなく、クラシックというモデルだから、間違いないように。ねっ!