Tesla Model S (2016/7) 後編 その1

  

ドライバーズシートに座ると、その感覚は高級欧州車と変わる事は無く、着座位置も適度な高さだからサイズ的に近い7シリーズなどと感覚は同じだ。すなわち広い道なら問題は無いが、狭い裏道はどうだろうか? しかもスリーポイッテッドスターやキドニーグリルを付けているわけでも無く、相手がビビって左に寄ってすれ違いを待っているという事は期待出来そうもない。コレばかりは最近出来た新興メーカーでは100年以上の伝統に裏付けられたアイデンティティには敵うわけも無い。とは言え、最近ではベンツ・ビーエムなんて決して珍しいモノでもなく、都心は当然ながら郊外の新興住宅地でも正にウジャウジャという表現がピッタリなくらい走っているから、テスラのアイデンティティの無さも大した弱点ではないかもしれない。

冒頭からテスラの最も痛いところを突いてしまったがコレばかりはどうにもならないから、その分どこまで本来のクルマとしての魅力で迫れるかということだ。それでは先ずは走り出す準備だが、前編でも述べたようにテスラSではメカ式の (ハード) スイッチはハザードランプ (写真31@) とグローブボックスのオープンスイッチ (写真31A) のみで、その他は全てタッチパネル上のソフトスイッチを使用する。従って画面の上下端に並ぶスイッチも全てソフトウェアによるタッチスイッチとなっている (写真33) から、将来のマイナーチェンジなどでは制御ソフトを入れ替えるだけでパネルデザインの大幅変更も可能だろう。この方法は何やら未来的だが、何の事はない iPad のデッカイのが付いているようなもので、今の時代としては技術的に特に進んでいるとも言えないが、これをクルマに採用したところが先進性に繋がっている。

テスラの販売は全てインターネットの特設サイトを経由して行うが、考えてみれば最小限のパソコンリテラシーも無いユーザーにテスラを売ったら、その後のサポートで大騒ぎとなるであろうから、この販売方法は最低限の ”ユーザー資格試験” という事かもしれない。

と言う事だから、HV や EV でお馴染のシステムをON する丸い押しボタンスイッチも当然無い! 実は何もしないで良いらしい? クルマをスタートさせるにはブレーキペダルを踏んでセレクターをDに入れるだけだ。要するにパーキングブレーキスイッチはどこを探しても見つからなかった。なおセレクターもコンソール上には無いが、これはステアリングコラム上のレバーに違いない、と思ってレバーの表示を見るとNを中心に上下にRとD、そして先端の押し釦らしきものはPと描かれているから戸惑うことは無い (写真32) 。このタイプのセレクターはそのパターンと共にほぼ共通化されているから、最近はこれをスタンダードと思って良いだろう。


写真31
ハザードスイッチ @ とグローブボックスのオープンスイッチA 以外は全てタッチスクリーンによるソフトウェアスイッチとなっている。


写真32
最近のメルセデスと同様にセレクターはステアリングコラムから生えたレバーを使用する。

写真33
ディスプレイの画像は上下端に必要なスイッチのアイコンが有り、これによりディスプレイを切り替えるというデジタル方式の嫌らしい階層構造がある。

 

いよいよ発進するためにブレーキペダルから足を放すと、クルマはゆっくりとトルコンのクリープと同じ感覚で僅かに前進する。そこから静かにアクセルを踏むと実にスムースにしかも無音で動き出すが、これは既に i3 やリーフ、それにプリウス等の PHV でも経験済みだが、絶対トルクの大きいテスラのスムースさはそれらを上回っているようにも感じる。そのまま適度に加速して流れに乗るが、ペダルに対するレスポンスも申し分ないし、1,000N-m!というバケモノのようなトルクの割には穏やかに踏めば穏やかに走る事出来るから、この辺の制御は上手く出来ている。

当日は生憎の雨模様で試乗直前などは土砂降りで道路に水が溜まる程だったが、上手い具合に出発直前に小降りとなった。何しろ1,000 N-m という恐ろしいトルクで 0 - 100kmg/h が3秒というクルマのフルスロットルを試そうと思っていたので、ウェット路面は痛い! とは言うものの、折角のチャンスを活かしたいのと試乗コースの青山から赤坂、永田町界隈といえば都心の中の都心というくらいで、道路の舗装や排水だってそこら辺の道路とはワケが違う。つい今しがたまで豪雨だったのに路面はドライとは言わないまでも少なくとも水溜りは全くない。今まで2/3 程度踏んだところではタイヤは充分にグリップしていた感覚だから、青山通りの赤坂御陵前の直線で他にクルマが居ないことを確認してソレっとフルスロットルを踏むと、上体がバックレストにめり込むような加速であっという間、まさに "あっ" と一瞬声を発した時には既にヤバそうな速度域に達しそうになるし、充分に離れていた筈の前車は迫ってくるしで、慌てて減速する破目になってしまった。まあ2秒チョイで80km/h に到達するのだから当然だが。

ここで驚くのはこれ程の加速でも殆ど無音だということで、これがガソリンエンジンでこんな加速をしたらばエクゾーストノートとギアノイズ等で盛大な音がキャビンに侵入してくるだろう。いや無音というのはチョイとオーバーかも知れないし、何しろ2秒チョイだから音がしたのかしないのか、よく判らないというのが本当のところだ。

しかし良い事ばかり書いていると、あいつはテスラの回し者じゃねぇか? 何て言われそうだからネガティブな面も書いておくと、テスラに限らないが低回転から絶大なトルクを出す電気モーターの特性は言い換えれば高回転に向かってトルクが減ってくるから、ガソリンエンジンのような回転が上がる程に加速が良くなるというワクワクするような気持ち良さは全く感じられ無いし、しかもトランスミッションが無いからメリハリが全く感じられない。まあ、これは長年親しんできた内燃機関が基準となっているからであり、新時代に適応出来るかどうかの話なのだが‥‥。

写真34
ステアリングホイールは比較的普通の形状だが、メーターは当然ながら液晶表示となっている。とはいえドライバーからの眺めは特別な雰囲気は無い。

 

写真35
液晶パネルのメーターには勿論回転計も水温計も無い。実際に走行中に見るのは正面のデジタル速度計くらいだ。

ここでテスラ モデルSの駆動方式について纏めてみる。モデルSには RWD と AWD があり、其々のモーター配置は以下のバリエーションがある。

RWD タイプは下の2グレード、すなわち 60 と 75 にラインナップされていて、リアに 285kw (380ps) のモーターを搭載するシングルモーター方式となっている。

次に AWD では 60D、75D そして 90D ではフロントとリアにそれぞれ193kw (257ps) のモーターを搭載して、これにより前後が駆動されて AWD となる。なおモデル名の最後の ”D” はデュアルモーターを意味している (ようだ) 。

次に同じデュアルモーターでも P90D ではリアに375kw (500ps)モーターを搭載して他のグレードよりも更にハイパフォーマンスなモデルである。

 

この先は ”後編その2” に続く。

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