Mercedes Benz C200 Avantgarde (2011/8) 後編


Cクラスのシートといえば、W203の手抜きシート(それでも当時の国産車よりは遥かに良い)が脳裏に浮かんでくるが、W204の場合は結構良くなっている。まあBMWにしても、3シリーズのシートは決して絶賛できないが、それでもMスポーツならば随分良いし、これが5シリーズ、7シリーズと上級のシリーズになるに従って、どんどんと良くなってくる。 それにCクラスのアバンギャルドのシートは、3シリーズのMスポーツのような張り出しの大きい、サポート重視のタイプではないので、ちょっと物足りないかもしれない。とはいえ最近は随分と良くなった国産のDセグメント車、スカイラインやレクサスIS と比べれば、それでも未だに負けてはいないが・・・・。

エンジンを始動するには、電子キーをダッシュボード右端のキースロット(写真21)に差し込んで右に回すというオーソドックスな方法で、電子化されてもキースロットを残すのは、ポリシーなのだろう。今回からEクラスと同様の7速にグレードアップされたATのセレクターは、Eクラスがステアリングコラムに 移動しコンソール上に何も無いのと異なり、オーソドックスなコンソール上であり、外観上では旧5速ATと全く変わらない (写真23)。 メルセデスのフロアセレクターの特徴として、パターン表示は直線になっているが、実際の動作は僅かにジグザグとなっていて、しかも根元はブーツで囲われているためにゲートを確認できずに、感で左右に動かす必要がある。 ただし、よく見ればコンソール上の表示には微妙なゲートが表示されてがいる(写真25)のだが、これを見ながら左右に動かすというのも現実的ではない。と、いってもオーナーなら慣れているから問題ないのかもしれないが、偶に乗ると、メルセデスを知らない貧乏人除けみたいで気分は良くない (というのは考えすぎか?)。

パーキングブレーキは左足でペダルを踏みことでONとなり、リリースはダッシュボード右の下端にあるレバーを引くという、メルセデスが昔から伝統的に採用している方法で、国産車ではクラウンなどが採用している (写真22)。 また言っているのか、しつこいなあ、と言われそうだが、国産車の多くが採用しているプッシュ/プッシュ式というのか、踏むたびにON/OFFと繰り返すタイプの使い辛さは、 本当に腹が立つ。

その昔はメルセデスのアクセルベダルといえば、物凄く重くて”これでもか”と踏まないとフルスロットルにはならないというのが定番だったが、最近は極々普通のクルマに近づいてきて、今回の試乗車も適度な重さではあるが、決して世の中の常識から飛び出たほどには重くない。この適度な重さのアクセルをユックリと踏むとクルマはスムースに走り出す。 公道に出てから1/2スロットルくらい踏んでみると、1,800rpmから27.5kg・mという3L並みのトルクを発生するエンジンは、低回転域から充分なトルク感があり、ターボで加給しているとはいえ1.8Lという小排気量が信じられないくらいだ。

その後、2車線の一般道を50km/h程度で巡航したが、このような日本の市街地で一般的な遅い流れでは、C200のトルクやレスポンスに、全く不満は出ない。そこで、前車との距離を 空けて30km/hくらいから2/3程度スロットルを踏んでみたらば、ちょっと長めのタイムラグと共にシフトダウンされ、気持ちよく加速していった。 Cクラスのシフトモードは穏やかな”E”とスポーティーな”S”があり、切り替えはコンソール上のATレバーのゲート表示の手前にあるスイッチを押すたびに切り替わる(写真25)。 そこで、最初はEで走っていたが、今度はSモードに切り替えてみた。ただし、これはシフトスケジュールが変わるだけだから、世間で流行っているようなスロットルやステアリングなど全ての制御系をスポーティーにする、というものでは無い。なお、その手のスポーツモードは、AMGスポーツパッケージというオプションに付いてくる。 さて、Sを選択して同様に30km/hの巡航から2/3スロットルを踏んでみると、先ほどよりもシフトダウンのレスポンスは良くなったが、それでも良く言えばマイルド、悪く言えばチョイとトロいが、これ がドライバーの癖を学習機能が感知すれば変わっていくのかどうか、ということは判らなかった。 とはいえ、メルセデスというブランドのポリシーからいえば、この程度のレスポンスが寧ろ使いやすいということなのかもしれない。
 


写真 21
電子キーはスロットに差し込んで捻る方式で、スタートボタンは無い。
 

 


写真 22
足踏み式パーキングブレーキは、ダッシュボード下端のリリースレバーで解除する。
 

 

写真 2 3
ミッションは5AT⇒7ATと変更されたが、セレクター自体は全く同じものを踏襲している。

 


写真 24
コマンドダイヤルという、BMWのiDriveのようなセレクター。BMWが今ではダイヤル周りに多数のスイッチを配置しているのと対照的だ。
 

 

写真 25
ATのシフトポジションは直線ではなく、表示のように微妙にジグザクとなっている。
手前のE、S表示のスイッチはスポーツとエコの切り替え用。
 


写真 26
メーラークラスター内は、中央に大径の速度計を持つのはメルセデスのポリシーだから変わらないが、配置は同じながらデザインは大きく変わった。

 


写真 27
インフォメーションディスプレイはパソコン並みのTFTカラー液晶化されて、表示は実に綺麗になった。
 

 


写真 28
左の集合メーターは温度計と燃料計。デザインは前期と全く異なる。

 

実は今回のマイナーチェンジ(MC)でC200のミッションが5ATから最新の7ATに変更となった。 7AT化はEクラスのベースグレードであるE250でも実施されたが、E250の場合は5ATのデメリットがハッキリ出ていたから、MCされた7ATモデルは大いに期待できるが、C200の場合は車体重量がEクラスよりも軽いこともあり、従来の5ATでも決して苛々するほどにはレスポンスが悪いわけでもなかったが、それでも7AT化によるメリットはきめ細かいギア比によりシフトダウン時の回転落ちが少なくなることによる、よりスムースなシフトダウンは、結果的にシフトダウン時のレスポンスの向上に役立っていた。要するに5ATは、もっとトロかったという訳だ。 なお、今回のMCで7AT化とエンジンの過給がスーパーチャージャーからターボに変更されたと記したが、厳密には前期型でも末期モデルでは既にエンジンのみターボ化された、ターボ+5ATというモデルも存在する。

走り出して最初に感じたのはエンジン音が殆ど聞こえないことで、基本的には同じエンジンである前期型に比べて車内の静粛性が大幅に向上している。それに加えて、4気筒エンジンのスムースさも大いに改善されていているから、充分なトルクと共に、まるでV6気筒2.5Lクラスと同等というくらいの内容だった。そう考えれば、これがエンジンとしてはCクラスのベースモデルであることが信じられないくらいで、ライバルのBMW320iを完全に上回っている。

今度はスタートからのフル加速をしてみる。例によって信号待ちに際して、青信号を合図にフル加速を試みてみると、想像通りに2.5L級の加速で、しかも5,000rpmくらいまで滑らかに吹け上がり、ここでも1.8Lというのが信じられないほどのトルクと4気筒とは思えない程のスムースな回転を見せてくれた。 今回は試乗コースに4車線以上の国道がなく、殆どが地方道だったことから、レッドゾーンまでのフル加速が出来なかったが、最高出力を5,250rpmという比較的低い回転数で発生するエンジンの性格上から、回転計のゼブラゾーンの始まる6,200rpmまで引っ張る意味は無さそうだが、ATのシフトアップ点はどうなっているのだろうか。 なお、回転計は6,200〜7,000rpmまでがゼブラゾーンとなっているが、本当に7,000まで回せるのだろうか?と思ってEクラスのメーター類を調べてみたらば、基本的に同じエンジンのE250は当然として、V6 3LのE300も6,200〜7,000rpmがゼブラゾーンの回転計が装着されていた。
 
ここで、正面のディスプレイについて触れてみよう。今回のMCで大きく変わったのはエンジンとミッションとともに、実はメーターのデザインも 目立った変更店でもある。写真26のようにデザイン自体も変わったが、なによりセンターの大径速度計の内周にあるインフォメーションディスプレイがカラー液晶化されたことで、世間一般のクルマのディスプレイに比べれば表示は格段に細かく綺麗になった(写真27)。まあ、この手のディスプレイは既にレクサスLSが採用していたが、このクラスでは初めてではないだろうか。これを機に、国産車も続々と液晶化されるのだろう か。

Cクラスの車幅は1,770mmとライバルより狭く、加えてメルセデスは伝統的にフロントの操舵角度が大きく、その外観からは想像もつかない程に 取り回しが良い。実はこれに加えて、メルセデスのドライバーはボンネット先端中央にある3ポインテッドスターのマスコット、いわゆる”ベンツマーク”をマーカーにして車両感覚を得ることが出来ると同時に、自分はメルセデスを運転しているという事実を常に教えられているのだが、今回の試乗車であるCクラスアバンギャルドには、このマスコットは付いていない。これがEクラスだと、アバンギャルドにも付いているのだが・・・・。
 

写真 29
同クラス他車よりも狭い全幅と見通しの良いドライビングポジション。そして、回転半径の小さいフロントサスペンション設計など、取り回しは実によい。
しかし、メルセデスの証であるボンネット先端に立つ”ベンツマーク”がない。

    

MCされたC200が走行中にエンジン音が静かなことは既に述べたが、実はタイヤのノイズも殆ど聞こえないことと、乗り心地が非常に良いことも印象的だった。 路面の細かい凹凸はほとんど伝わってこないし、それでいて決して柔らかい訳ではなく、カチッとした乗り心地は、いかにもボディ剛性が高そうなフィーリング とともに、ドライバーに無類の安心感を伝えてくれる。乗り心地の面ではスポーツ嗜好がより強く、しかもランフラットタイヤを標準装着しているBMW3シリーズ と比べれば、Cクラスは明らかに勝っている。

ステアリングは低速では極軽くて中心部分が明瞭ではないが、巡航状態ではシッカリと復元してセンタリングがハッキリした直進性重視のステアリングは如何にもメルセデスらし くなる。それでも3シリーズを意識したと思われる現行のCクラスは、Eクラスと比べればメルセデスとしては結構スポーティーでもある。 そして、コーナーリング性能は素直な弱アンダーで、ある面3シリーズのニュートラル感に追いついた感じだ。試乗車はスポーティーグレードであるアバンギャルドではあるが、ライバルの3シリーズMスポーツがフロントはアバンギャルドと同じ225/45R17 ながら、リアは255/40R17という明らかにオーバースペックのタイヤを標準装備していることと比べれば、大人し目のタイヤを標準としている。 Mスポーツの場合、170psの2L NAエンジンに255幅は無いだろう、と言いたくなるが、見掛けは実にスポーティーでカッコ良くなるから、多くのユーザーにとってはコレで良いのかもしれない。こうして考えれば、Cクラスがアバンギャルドでも前後に255/40R17という組み合わせを標準としているのは、素直な操舵性の原因としても大いなる貢献をしているだろうと想像できる。

ところで、CクラスにはMスポーツのようなタイヤは無いのかといえば、オプションのAMGスポーツパッケージ(40万円)を装着すれば、フロント225/40R18、リア255/35R18という、3シリーズMスポーツよりも、更に扁平なタイヤと、如何にもスポーティーなAMGホイールが付いてくる。因みに、AMGスポーツパッケージの主な内容は、 タイヤ以外では外装のエアロパーツや内装ではスポーツシートやステアリング、ペダル類がよりスポーティーとなり、パドルシフトやスポーツモードも追加されるなど、40万円分の内容はシッカリと付いてくる。 しかし、アバンギャルドに更に40万円ということになると、ライバルの3シリーズに対して、随分高い買い物となってはしまうが、なんちゃってAMGに魅力を感じるオーナーには勧められる。

190Eの時代のメルセデスのブレーキは、最善か無かのポリシーが生きていた頃だったから、全て対向ピストン(ただし、鋳物製ではある)のキャリパーを装着していた。しかし、それが何時の間にやら、というかCクラスと名前を変えたW202くらいからフロントが片押しのキャリパーを使うようになってきたが、それでもリアは伝統的な2ポットの対向ピストンキャリパーを使っていた のだが、それがW203辺りから、何時の間にやら前後とも片押しキャリパーとなってしまった。 勿論、対向ピストンでなければ駄目だとは言わないが、何やら寂しいものもある。そして、ブレーキフィーリングはといえば、先代のW203までは、ブレーキペダルに足を載せると殆ど遊びが無くて、そこから重くてガチガチのブレーキペダルを踏み込むとクルマが減速するという独特のフィーリングを持っていたが、現行のW204(前期型)からは、極々普通のフィーリング、すなわち最初にチョッと踏むと直ぐにストロークする遊びの部分があり、そこから重くなって 効き始めるという具合になっている。 そして今度の後期型でもそれは変わっていない。ただし、効き自体は適度に軽い踏力で確実に減速するから、実際の走行にあたっては全く問題は無い し、普通のドライバーにとっては、この方が一般的なフィーリングだから、むしろ好ましいのかもしれない。
 


写真30
アバンギャルドには225/45R17タイヤ が標準で、オプションでフロント225/40R18、リア255/35R18というサイズが用意されている。
 

 


写真31
ブレーキキャリパーは片押しタイプで、ローターはフロントのみベンチレーテッドタイプで、リアはソリッドディスクとなる。
 

 

そういう訳で、Cクラスはやっぱりメルセデスのクルマだから、3シリーズのように積極的にコーナーリングを楽しむのではなくて、安全に移動する途中で曲がりくねった道を 通過しなけならない場合に、極々安全に通り過ぎるために、弱いアンダーステアや安定したコーナーリング性能を備えている、と思えば両車の違いを理解できるだろう。
そういうことを別にしても、今回のC200ブルーエフィシェンシー アバンギャルド(しかし長い名前だ!)の結果は実に良かった。320iと比べてどちらを選ぶかといえば、これは好みの問題だが、個人的には結構Cクラスが気に入ってしまった。特に、ベースグレードのC200ライトは399万円という価格ながら、必要な物は全部付いていて、むしろ使いもしない機能が省かれてC200よりも40万円も安い399万円というのは多いに勧められる (しかし、実際には売れないようだが)。

2012.10 追記: 1年前に予告したC200 vs 320iがようやく発表できる状況になったため、遅ればせながら公開いたします。今回は以前にも増して毒舌が激しいことから、強度の辛口好き読者専用とします。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、 お帰り願います。

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