CROWN 3.5 Athlete (2010/10) 後編 ⇒前編へ戻る


アスリートのエンジンを始動するには、インテリジェントキーを所持してダッシュボードのステアリングに対して左側にあるスタートボタン(写真21)を押すという、最近の国産車では当たり前の方法による。 ATセレクターはジグザクゲート(写真22-1)という今ではチョッと時代遅れ気味の方式だが、実用上は何の問題もない。フーガはストレートでレバーの根元にはレザーのブーツ、そしてノブはMTのような形状という欧州車で御馴染みの方法(写真 22-2)を採用していて、アスリートより一歩進んでいる。 なお、最近のBMWでは5シリーズ以上に 電子式のセレクトレバーを採用していて、レバーは単なるスイッチになっている。それにしても、この分野では常にBMWが世界の先端を行っていて、国産車はその数年から10年程の後追いというのは、実に情けないことだ。

スタートボタンを押すとエンジンは始動し、例によって殆ど振動のない、エンジンが回っているのか定かではない程に静かなアイドリングを続けている。正面のメーター (写真24-1)は当然ながらトヨタ得意の自光式だが、一時期のようにヤタラと派手な、まるで モーテルの看板のようなデザインではなく、メーターらしさを残したタイプになっている事は好ましいことだ。 最近はメルセデスの上級モデルでも自光式を採用していて、これが中々センスが良いのだが、国産車もこれを華麗にパクッた、ではなく、参考にしたのか、とに角良い方向にはなっている。そして、アスリート(というよりもクラウン)のメーター配置はセンターに大径の速度計を配したデザイン で、メルセデスに端を発している。 これに対してフーガ(写真24-2)の場合は左右に回転計と速度計が同径で対称に配置されているBMW方式であり、これは両車がそれぞれお手本としているクルマに似ている事になるのは、偶然か確信犯か?そういう意味ではトヨタが世界をリードしているHVの場合は、トヨタのメーターが世界をリードしていることになり、HVでの先行はドイツ車に対して初めて日本が先を走ったことになる。 パチパチパチ。

今回は走り出した時に偶々ECOモードになっていたが、一般道を10m位ユックリ走ってから幹線道路に出て、そこで加速してみたら、多少のライムラグはあるものの、3.5ℓの余裕からか、その走行自体は決してトロくはなく、アスリートとはいえクラウンであることに対する先入観からすれば、結構マトモなレスポンスにさえ感じる。 次に本命のSPORTモードに切り替えるために、コンソール上のATセレクター手前にあるSPORTスイッチ(写真23-1)を押し、正面のメーター内のグリーンの表示を確認する。このモードで30km/hまで速度が落ちた時 に再加速するためにスロットルを半分ほど踏んでみると、多少の遅れはあるものの素直にATはシフトダウンして充分な加速を見せてくれる。 また、シフトダウンするまでの短い瞬間でも、3.5Lのエンジンは低速から充分なトルクがあるから、1,500rpm程度でもある程度の加速を し、これもイラつく事がない理由となる。このレスポンスとトルクは先日乗った兄貴分もといえるマジェスタのV8エンジンと大きく変わらない、というよりも、ATのシフトスケジュールがスポーティなので、こちらの方が動力性能が上にすら感じる。そういえば、アスリート3.5とマジェスタの関係はレクサスGS350とGS460の関係と似ていることを思い出した。 要するにS350とGS460を乗り比べてみるとV6とV8の動力性能差は殆ど感じられないことで、考えてみればエンジンはアスリート3.5=GS350(2GR−FSE)、マジェスタ=GS460(1UR-FSE)とそれぞれ同じエンジンだった。 そういえば、レクサスの国内展開で初期にラインナップされたISとGSの夫々3.5リッターモデルは、プレミアムブランドであるレクサス専用のエンジンと言われていたのに、ホンの2〜3ヶ月後には、何とクラウンアスリートに塔載してしまった。これは当時、レクサスの初物に飛びついて、レクサスだけのプレミアムなエンジンだと思ったユーザーが怒ったのは無理も無い。

なお、アスリートのモード切替スイッチ(写真23-1)はコンソール上にある為に一瞬なりとも下を向かないと操作できない。これは走行中の操作に危険を伴う事になり、感心しない。これに比べてフーガの回転式スイッチ (写真23-2)ならば手探りでスイッチをつかんで回せば良いために、走行中でも安全に操作できる。

話をアスリートに戻して、今度はフル加速に挑戦してみる。例によって信号待ちからフルスロットルを踏んでみると、あっという間に1速から2速へ。そして気が付いた時は既にヤバイ速度となっていたので慌てて減速する。体感的な加速はスペック的に近いBMW535iに迫るものがある。 元々クラウンは3ℓのロイヤルでも、高級サルーンとしては十分な加速を持っていたが、それより0.5リッター多いアスリート3.5は、当然ながら結構速い。これなら、中古車がヤンキー兄ちゃんの憧れになるのは間違いない。事実、初期のゼロクラウンをドレスアップしたクルマは結構見かけるし、これは丁度少し前のアリストに匹敵する。 あっ、そうそう。アリストと言えば今でも結構見かけるが、ノーマル車は殆ど見たことがないのは気のせいだろうか?

クラウンといえば巡航中のエンジン音は殆ど無音で、フル加速でも微かに聞こえるというイメージだが、アスリート3.5の場合は巡航中でも多少のエンジン音は聞こえるし、フル加速中は結構勇ましい音が適度に聞こえる。ただし、フル加速中の音も、回転上昇のフィーリングもBMWの6気筒に比べれば・・・・いや、今更言うまでもないが。


写真21-1
スタート/ストップボタンはダッシュボード右端にあり、右手で操作する。

 


写真21-2
アスリートとは逆にステアリングの左側にあるスタートボタンは左手で操作する。

 


写真22-1
チョッと時代遅れ気味のジグザクゲート式ATセレクターのアスリート。

 


写真22-1
根元にレザーブーツを持ち、各ポジションを直線に配列したフーガのATセレクターは現在の欧州車に標準的なものと同じ。

 


写真23-1
スポーツおよびECOモードスイッチ。コンソール上のために走行中の操作は一瞬下を向く事になる。

 


写真23-2
モードスイッチは回転式のために手探りで操作が可能でアスリートより安全性が高い。

 


写真24-1
センターに大径の速度計を配したデザインは、メルセデスに端を発している。

 


写真24-1
こちらは左右に回転計と速度計が同径で対象に配置されていて、これはBMW方式。

 

アスリートの操舵力は低速から中速まで一貫して軽い。ただし中心付近の不感帯は少ないし、レスポンス自体も決して悪くはない。しかし、なんとなくシャキッとしないというか、操舵系全体が剛性感に乏しく感じられるのと、路面から手に伝わるインフォメーションが全く感じられない。 言ってみればBMWとは対極をなすフィーリングで、スポーティーな感覚ではBMWに譲るといわれるメルセデスEクラスのように、緩味さを直進性と安定性に繋げているのとも違うから、アスリートの直進安定性は決して良くない。 と、まあ結構厳しい評価をしてしまったが、それは世界のトップを走るEセグの王者である5シリーズやEクラスと比較したからで、アスリートだって慣れれば、結構スポーティに走れるから、悲観した ものでもない。そして、兄貴分のマジェスタのように、ノーマルやECOモードでは不正確なステアリングから速度を上げられない・・・・と、言うわけではない。

ところで、クラウンのライバルであるニッサンフーガだが、フーガもBMWの旧5シリーズ(E39)を手本に開発したと言われた初代は確かにBMW的だったが、昨年FMCした新型では、特にコンフォートモデルにおいてはフニャフイニャサスとフワフワステアリングが復活してしまった(ついでにベロアシートも!)。 それでもスポーティーモデル(タイプS)ではフーガらしく欧州車的で、アスリート3.5とフーガ370GTタイプSを比べると、操舵性では、やはりフーガに軍配を挙げたい。

今回の試乗コースには本格的なワインディング路は無かったが、途中何箇所かは適度な中速コーナーでは実に素直な弱アンダーでクラウンとしては最上のコーナーリング特性であることは間違いない。 こうしてみると、不正確でインフォメーションに乏しいステアリングが実に惜しい。これさえ改善されれば、結構良いスポーツセダンになる可能性があるのだが。


写真25-1
V6 3,456cc 315ps/6,400rpm、38.4kg・m/4,800
rpmを発生するクラウンアスリートの2GR−FSEエンジン。
 


写真25-2
V6 3,696cc 333ps/7,000rpm、37.0kg・m/5,200
rpmを発生するフーガ370GTのVQ37VHRエンジン。
 

アスリート3.5のブレーキはフロントに4ポットのアルミ対向ピストン(オポーズド)キャリパー(advics製)を塔載している。このキャリパーはレクサスGSでも採用されている。 なおリアは、これもGSと同様に通称片押しと呼ばれるフローティングキャリパーとなる(写真27-1)。というように、キャリパーはレクサスと共通ではあるが、あちらはブレーキバイワイヤ方式を採用しているのに対して、クラウン系は例えキャリパーは同じでもシステム自体はオーソドックスなバキュームサーボ方式を採用しているのはゼロクラウンと同じだ。 レクサスのようにバイワイヤ方式だと、キャリパー自体の剛性やパッドの圧縮変形などの特性は判らなくなるが、オーソドックスなバキュームサーボ方式ならば、これらの特性はペダルを通じてハッキリ伝わるから、トヨタの採用しているアルミオポーズドキャリパーの特性が判ることになる。

そしてブレーキフィーリングはといえば、ペダルを踏んだ時の遊びはオポーズドキャリパーとしては長めで、一般的な片押しキャリパーと同じくらいであり、その面ではオポーズドらしくない。 これは、恐らくパッドとローターの隙間を多く取っているのだろう。ということは引きずりの軽減による燃費の向上か?いや、単なるクラウンユーザーの好みに合わせただけかもしれない。ただし、遊びのストロークを過ぎてからはカチッとしたフィーリングで、停車時に思いっきりペダルを踏んでみたが、この時のストロークは短かく、軽い踏力と適度の喰い付き感で中々良かった。まあ、遊びは好みにもよるが、オポーズドらしいフィーリングではフーガ(akebono製、 リアもオポーズド、写真27-2)の方が上回っていたが、それでもランエボ](brembo製)のようなガチガチではなかった。今度は後ろに車がいないことを確認して、50km/hくらいから思いっきりブレーキを踏んでみたが、強力な減速度と安定した車輌の挙動で、緊急時もこれなら安心できる。 要するに少なくとも合法的な速度では、アスリート3.5のブレーキについてはBMW5シリーズ(F10)と同等、といっても嘘にはならない。
 


写真26-1
前後とも225/45R18タイヤを装着している。  

 


写真26-2
アスリートよりも大径で扁平な245/40R20タイヤを装着している。

 


写真27-1
フロントはアルミ4ポット対向ピストン、リアは鋳物のシングルピストンのフローティングチャリパーを採用している。

 


写真27-1
フロントは4ポット、リアは2ポットのアルミ対向ピストンキャリパーでシルバーにニッサンのロゴマークが入っている。ブレーキとタイヤ・ホイールはアスリートよりも金が掛かっている。
 

 

現行クラウンへのFMCが実施された2008年に試乗したアスリート2.5は、先代ゼロクラウンと比べるとスポーティーなテイストでは残念ながら一歩退いていた。今回乗った3.5も基本は同じで、言ってみれば 現行アスリートがゼロクラウンのロイヤルがくらいになっている。 前述のように、これはフーガでも同様で、発売時のBMWを髣髴させる欧州テイストはMCで多少削がれてしまい、その後のFMCでは特にコンフォートモデルがクラウン的はフワフワサスとベロアシートに戻ってしまった。 それでもフーガの場合はスポーツ系のタイプSを選べば結構シッカリしたハンドリングを得られるから、国産車に欧州車的なものを求めるというか、BMW5シリーズ的なものを求めるユーザーには良いかもしれない。 勿論メリットは5シリーズならば2.5ℓでファブリックシートの523iを買う予算よりも更に安くて、3.7ℓの大パワーとレザーシート(それも結構まともなセミアニリンシート)も付いてくることだが、それ以上に国産車に乗っていることが世間的に必要な立場の場合はBMWを選択する余地がないが・・・・。

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Benz
D BMW
      Crown 3.5
Athlet
GS350
Version I
フーガ 370GT
Type S
E350
Advantgarde
535i
 

車両型式

  DBA-GRS204 DBA-GRS191 DBA-KY51 DBA-212056C CBA-FR35

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.870 4.850 4.945 4.870 4,910

全幅(m)

1.795 1.820 1.845 1.855 1,860

全高(m)

1.470 1.425 1.500 1.455 1,475

ホイールベース(m)

2.850 2.900 2.875 2.970

駆動方式

FR
 

最小回転半径(m)

  5.2 5.6 5.3 5.5

車両重量(kg)

  1,650 1,650 1,750 1,710 1,820

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  2GR-FSE VQ37VHR 272 N55B30A

エンジン種類

  V6 DOHC I6 DOHC Turbo

総排気量(cm3)

3,456 3,696 3,497 2,979
 

最高出力(ps/rpm)

315/6,400 333/7,000 272/6,000 306/5,800

最大トルク(kg・m/rpm)

38.4/4,800 37.0/5,200 35.7/5,000 4038/5,000

トランスミッション

6AT 7AT 8AT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

10.0 9.5 9.5 10.6
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

5.3 5.2 5.3 6.3 5.9

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ダブルウィシュボーン 3リンク ダブルウィシュボーン

マルチリンク インテグラルアーム

タイヤ寸法

  225/45R18 225/50R17 245/40R20 245/45R17 245/45R18

価格

車両価格

487.0万円 593.0万円 492.5万円 850.0万円 835.0万円

備考

G Package:
    559.0万円
 2.5:425万円

GS350:552万円

タイプS+セミアニリンシート
   :537.6万円
250GT:427万円
370GT:458万円

E250:634万円
E300:730万円

523i:610万円
528i:715万円

フーガは米国向けのインフィニティMを国内向けに販売しているのだから、本来のライバルはレクサスGSとなるはずだが、このGSがモデル末期で鳴かず飛ばず状態となっていて、これは米国でも同様だ。すなわち、2010年の上半期(1〜6月)米国販売台数ではインフィニティMが6,602台に対して、GSは3,486台と大きく水を開けられている。因みにメルセデスEクラスは22,778台、BMW5シリーズは15,846台となっている。この時期は5シリーズが丁度FMC直前の為に時期としては最悪だが、それでもレクサスGSの5倍近くも売れている。そして、Eクラスはヤッパリ強い!なお、アウディA6は4,079台でGSよりは多少マシだったが、インフィニティには負けている。なお、アキュラRL(レジェンド)は872台と風前の灯火だ。

という訳で、今回のクラウン 3.5アスリートは、まあクラウンシリーズとしては一番マシだが、フーガ370GTタイプSと比べると、どうも分が悪い。それでも、クラウンのブランドは絶大だし、下取り価格はどう考えてもフーガより高いだろう。

んっ?こんなのに500万円も出すんだったら、あと百万ちょい追加してE250か523iを買う、って?
だ・か・ら〜、買いたくても立場上買えない場合と言っているでしょうに!!