BMW New(F10) 528i  (2010/6) 後編 ⇒前編

 

前回の535iは充分な時間も無く、コーナーリング特性を本気で試すことは出来なかったが、今回は何時もポルシェ各車をテストするときに使っているワインディング路に持っていく事にした。 ここは適度にタイトなコーナーが続く事と、何より道幅が広く、さらには畑のど真ん中で建物は全くないから実に見晴らしが良いという文句なしの場所だ。

ワインディグを楽しむならミッションはマニュアルモードで操作しよう・・・・・ということで、最初からATセレクターをDSから前後させてMモードで走ってみる。 まずは適度にタイトなコーナーを50km/hで侵入するのだが、いつもの感覚で3速をセレクトしたら回転数は3,000rpm弱で、これは何時もの感覚よりも少し高めだ。そこで、4速にすると今度は2,200rpm程になった。 ところが、4速ではコーナーによっては40km/h程度まで減速が必要な場合に、1,700rpmくらいまで回転数が落ちてしまう。どうもいつもの感覚と違うのは、8速ATによる細かいギア比が仇になって、無意味に段数が多いことが 返って使い難さとなってしまったようだ。 因みに320i 6MTだと、3速で50km/hは2,300rpm、40km/は1,900rpmとなり、40km/h時の200rpmの差が使いやすさで大いに利いてくる。まあ、これは慣れもあるだろうが、これなら下手にマニュアル操作なんかしないで、出来の良いDSモードを使った方が正解かとの結論から、以後はDSに入れっぱなしとした。 そういえば、今回の528iも前回の535iも標準ではステアリングにパドルスイッチは付いていないが、確かに要らないのがよく判った。

さて、一回目は前述のミッション特性のチェックとか、コース途中に工事中の片側交互通行や、路肩にハンドセットを付けた”公務員”が隠れていないかなどの状況を確かめたのちに、2回目より少し本気で走ってみる。 ステアリングは5シリーズではお馴染みのアクティブステアリングだが、535iの時に述べたように初期のE60の異常にクイックで過激な特性は年を追う毎にマイルドになり、今回の新型では何も知らなければ気が付かない程度に自然な特性となっている。 とは、いっても、並みのクルマと比べてば大いにクイックだから、クルマ好きには堪らない。

一回目の試走で既に驚く程にニュートラルな特性を感じていたが、今度は速度を上げてコーナーに突入すると、それでも全く何も無かったかのように殆どニュートラルステアで旋回していく。コーナーリングを重ねる度に速度を上げていったが、これ以上の増速は何かあった時にチトやばいというところで、それ以上速度を上げる事はせずに、以後のコーナーをクリアしていった。 ハッキリ言って、この時のコーナーリングは、このコースを走った中では抜群に面白かったフェイズ2のカレラSに”近い”速度で安定してクリアできる程だった。いや、この程度の速度でもちょっとばかり特殊な乗り方をしないとアンダーが出まくってしまうカレラSに対して、528iはちょっとクルマ好きの普通のオトウサンでも、カレラ並の速度で簡単に安全にコーナーリングを楽しめる。 昔からBMWサルーンでワインディング路を走ると、自分の腕が何ランクも上がったような錯覚をする、と言われているが今回も全くその通りで、これこそがBMWの価値でもある。

ポルシェの話が出たところで、それではパナメーラと5シリーズのハンドリングの違いはといえば、パナメーラも大型のサルーンとしては驚異的なハンドリングではあるのだけれど、そこはやっぱりポルシェのこと、BMWのように誰でも速いという訳にはいかない。更には 車格からいってもパナメーラと比較するのは7シリーズであり、5シリーズと比べるのは無理があるが、ハンドリングと言う面では7シリーズより有利な5シリーズではあるのだが・・・・。

それにしても、欧州車、取り分けドイツのカーメーカーは自分のポリシーを常に前面に出しているが、これが人気のある理由だろう。逆に言えば、どれも似たような無味無臭の国産車に比べると、BMWとメルセデスのように乗り味が大きく異なることで、競合するというよりも、それぞれの好みでの選択となるところが大いに異なるのだが、それでも最近はメルセデスがBMWのスポーティーな魅力に迫ろうと、特にCクラスのように3シリーズ的に変化して、何やら昔のメルセデスは何処へやら、という状況もある。

ブレーキはBMWお馴染みの軽い踏力でガツンっと効く、言ってみればカックン気味の特性だから、人によっては好まないかもしれない。ただし、軽すぎてスムースに停止できない、という意見についてはハッキリ言って操作方法に問題があるのではないか、と言いたい。ブレーキペダルの踏み方は2通りあり、一つは踵を床に付けておいて、この踵を支点として爪先に微妙に力を入れる方法で、緩い減速度で穏やかに減速するときに使用する方法だ。この方法だと、BMWのように軽いブレーキでも、停止寸前で爪先の力を抜いて、僅かに触れる程度の力で停止されれば、結構スムースに停止できる。そして、もう一つは、踵を浮かして足の裏の前 部1/3程をペダルにシッカリと載せて、足全体、体全体で思いっきり踏む方法で、これは強めの減速、とくにパニックブレーキ時に使用する。コツとしてはヒザを中心に足全体をリンクとしてペダルを踏むというよりも、体をリンク機構としてヒザを下に下げるようにする。文章では判り辛いが停車状態で練習してみると意外に上手くいくし、ブレーキペダルへの強力な力で、普段はビクともしないブレーキペダルでも驚く程ストロークするのを感じると思う。この方法ではタイヤがロックするためのブレーキ力を簡単に得られるし、ABS装着が常識の最近のクルマならば、タイヤのグリップの限界を利用した制動が得られる。
と、まあ、こんな事は常識だから、このサイトの読者の多くを占める、クルマ好きで教養もある人たちに対しては釈迦に説法かもしれないが、世の中にはBMWのブレーキは軽すぎてガツンと停止してしまう、なんて言っている輩も居るようなので・・・・。
ところで、カックンブレーキという言葉は、最近はBMWのように軽い踏力のブレーキを意味するようになったが、本来は昔のドラムブレーキ、特にデュオサーボという極めて効力は高いが、踏力によって減速度のコントロールが出来ない、まるでオン/オフのような特性のブレーキをカックンと呼んだのだった。こういうブレーキはチョンと踏んだら、直ぐに離して、またチョンと踏むしかない。昔の教習所ではポンピングブレーキというのを教えていたが、これこそカックン対策だったのだろう。

なお、535iがM5と同系統の馬鹿でかいオールアルミキャリパーをフロントに搭載しているのに対して、528iは3シリーズなどの仲間である鋳鉄サポート (フレーム)のブレーキキャリパーを使用しているし、ディスクローターもワンサイズ大きい(写真10〜11)。といっても、踏んで直ぐに気付く程の違いは感じられない。5 35iというグレードは本来、アウトバーンを200km/h巡航するために強力なエンジンと大容量のブレーキを備えている訳で、日本の交通状況で合法的に走る分には、あまりご利益は無い事になる。 えっ、俺の運転なら充分にご利益があるぞ、って? そりゃあ、チトやばいっしょう。
 

写真 8-1
直6、3ℓ NAにより258ps/6,000rpmの最高出力と 31.6kg・m/3,000rpmの最大トルクを発生する528iのN52B30Aエンジン。


 

写真 8-2
535iは、直6、3ℓ ターボにより333ps/7,000rpmの最高出力と 36.8kg・m/5,200rpmの最大トルクを発生するN55B30Aエンジン。


写真9
528iに標準の225/55R17と、大人しいデザインの5本スポークのアルミホイール。

 


写真11-1
528iのフロントキャリパーはE60 525iと同一の鋳鉄サポートのキャリパーを使用している。この点では535iよりワンランク落ちる。

 


写真10
ディスクローターも535iはワンサイズ大きい。

 


写真11-2
535iはM5や7シリーズと同様のオールアルミキャリパーを搭載し、528iとは差別されている。

 

5シリーズのライバルといえばメルセデスEクラスとアウディA6というのは世の中の常識なので、比較一覧表は3リッタークラスのEセグメント車として みた。そして、国産代表としてはクラウン3.0を取り上げたが、理由はフーガには3ℓが無く3.7と2.5というラインナップだし、残る国産Eセグメント車としてはホンダレジェンドがあるが、流石にこれはマイナー過ぎる し3.5ℓだし、ということで、国産3ℓのEセグメント車はクラウンしかないのが実情だった。
 
    BMW BMW Mercedes
Benz
Audi Toyota
      新(F10) 528i 旧(E60) 530i E300 2.8 FSI Quattro
S Line
Crown 3.0
Royal saloon G
 

車両型式

  FR30 NU30 212054C 4FCCES GRS-202

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.910 4.855 4.870 4.925 4.870

全幅(m)

1.860 1.845 1.855 1.855 1,795

全高(m)

1.475 1.470 1.470 1.435 1,470

ホイールベース(m)

2.970 2.890 2.875 2.845 2.850

駆動方式

FR 4WD FR
 

最小回転半径(m)

  5.5 5.7 5.3 N/A 5.2

車両重量(kg)

  N/A 1,650 1,710 1,850 1,630

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N55B30A N52B30A 272M30 CCE 3GR-FSE

エンジン種類

  I6 DOHC V6 DOHC

総排気量(cm3)

2,996 2,996 2,772 2,994
 

最高出力(ps/rpm)

258/6,000 272/6,650 231/6,000 220/6,800 256/6,200

最大トルク(kg・m/rpm)

31.6/3,000 30.6/2,750 30.6/5,000 28.6/5,000 32.0/3,600

トランスミッション

  8AT 6AT 7AT 6AT 6AT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

  10.4 9.4 9.6 N/A 11.8
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

N/A 6.1 7.4 8.4 6.4

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ダブルウィシュボーン 3リンク 4リンク ダブルウィシュボーン

インテグラル・アーム マルチリンク ダブルウィシュボーン マルチリンク

タイヤ寸法

  225/55R17 225/50R17 225/55R16 255/35R19 215/55R17

価 格

車両価格

715.0万円 780.0万円 730.0万円 697.0万円 520.0万円

備 考

ECOカー
50%減税
対象車
  E250 CGI
634万円
2.8 FSI Qua.
ベースグレード
645万円
 

535iに比べればフルスロットル時の加速は劣るものの、巡航域からのレスポンスでは自然吸気のメリットで寧ろ535iより良いくらいだし、なによりエンジン以外は殆ど変わらないのに価格が120万円も 安いのが嬉しい。E60時代のベースグレードである525iは645万円だから、F10でこれに相当するグレードは今現在では用意されていない。 メルセデスには出来はともかく、1.8ℓターボのE250CGIが634万円でラインナップされており、しかもエコ減税の適用により、買い替え特例も合わせれば実質的には500万円代で買える事になる。こ の状況を考えれば5シリーズもボトムのモデルを早急に追加する必要があるだろう。欧州では既に2.5ℓNAの523iというのがあるらしい。ユーロ安も手伝って、是非とも500万円代 (前半!)で発売して欲しいものだ。

さあて、ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回のテーマは勝ち組はどんなクルマを選ぶべきかについて。

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