Porsche Carrera S
(2008/4) 徹底試乗記 前編
→ 後編
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誰が見ても911と判るそのスタイルは、基本的に40年来不変というダントツの歴史を持っている。 |
このHPではポルシェについては既に主要なモデルの試乗記を発表済だが、クルマというのは本来チョイ乗り程度では本当の良さが判らないのは言うまでも無い。
実は最近、ちょっとした理由からポルシェカレラSに3週間程乗る機会があった。という訳で、本物のオーナーからみれば大した経験とは言えないまでも、試乗としては20日間というのは長期とも言える訳で、長期試乗だからこそというレポートをしてみようと思う。
ポルシェといえばマニアの憧れだし、一度は所有してみたいというのが、クルマ好きの共通した気持ちだろう。そのポルシェの中でも、やはり911系というのは、クルマ好きにとっての思い込みという面でも他を圧倒するものがある。今回の試乗車は現行型である997のRHDでミッションはTipS、要するに右ハンのATという、ある面では最も敷居の低い911でもある。
ただし、敷居が低いというのは乗りこなしについてで、予算的にはベース価格が
1373万円、そしてポルシェの常でベース品には便利機能は殆ど付いていないので、普通は+100万円程度のオプションが必要となるから総支払額は概ね1500万円。首都圏の郊外なら、3LDKの中古マンションが充分買える値段でもある。
エクステリアは誰が見ても911と判るもので、今ではクルマに興味のない人でも、これがポルシェと言い当てる確率はかなり高い。しかし、フロントを見た瞬間に多くの人がポルシェと認識するのはボクスターでも同じだから、世間の普通の人達に対して、カレラがボクスター&ケイマンと比べて圧倒的にステータスが高いかといえば、そうでもない。
だだし、クルマ好きが見れば一目でカレラもしくは911と判るし、更に好き物ならば、このクルマがカレラSであるとも認識できる。
カレラとカレラSの外観上の判別は、キャリパーの色が黒(カレラ)か赤(カレラS)というのは有名な話だが、後ろから見れば排気管が左右各1本がカレラで左右ともダブルの計4本出しならばカレラSとなる(写真5)。そしてカレラとカレラSの価格差は195万円と、インプレッサの中級モデル1台分にもなる。
クルマのデザインなんていうのは、それこそ個人の好みだが、同じポルシェのクーペモデルであるケイマンとカレラを比べた場合、リアオーバーハングが長くてなだらかにリアに繋がるフールラインを持つカレラの方が、優雅さを感じて個人的には好ましく思っている。実際に、クルマに乗るためにカレラSに近づく度に、
(借り物とはいえ)この優雅なリアの眺めて悦に入ったのは事実だった。
ところで、カレラSのライバルはといえば、実は中々難しい。なぜなら、価格から言えば充分に高級スポーツカーだからアストンマーチンヴァンテージ(6AT:1555万円)やマセラティ グラントゥリスモ(1530万円)などがライバルのようにも感じるが、幾ら最近のカレラがピュアスポーツではなくグランドツーリングカーだとはいっても、スポーツ度という面ではこれらをライバルとするのは釈然としない。
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PORSCHE |
NISSAN |
JAGUAR |
BMW |
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CARRERA S |
GT-R |
XK R |
M3 Coupe |
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寸法・重量・乗車定員 |
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全長(m) |
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4,425 |
4.655 |
4.790 |
4.620 |
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全幅(m) |
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1.810 |
1.895 |
1.895 |
1.805 |
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全高(m) |
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1.300 |
1.370 |
1.320 |
1.425 |
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ホイールベース(m) |
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2.350 |
2.780 |
2.750 |
2.760 |
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最小回転半径(m) |
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5.1 |
5.7 |
5.3 |
5.9 |
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車両重量(kg) |
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1,500 |
1,740 |
1,740 |
1,630 |
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乗車定員(名) |
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4 |
4 |
4 |
4 |
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エンジン・トランスミッション |
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エンジン種類 |
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水6 DOHC |
V6 DOHC ターボ |
V8 DOHC SC |
V8 DOHC |
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総排気量(cm3) |
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3,824 |
3,799 |
4,196 |
3,999 |
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最高出力(ps/rpm) |
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355/6,600 |
480/6,400 |
426/6,250 |
420/8,300 |
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最大トルク(kg・m/rpm) |
40.8/4,600 |
60.0/3,200-5,200 |
54.1/4,000 |
40.8/3,900 |
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トランスミッション |
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5AT |
6AT |
6AT |
6MT |
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駆動方式 |
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RR |
AWD |
FR |
FR |
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サスペンション・タイヤ |
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サスペンション方式 |
前 |
ストラット |
ダブルウィシュボーン |
ダブルウィシュボーン |
ストラット |
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後 |
マルチリンク |
マルチリンク |
ダブルウィシュボーン |
5リンク |
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タイヤ寸法 |
前 |
235/35ZR19 |
255/40ZRF20 |
245/40ZR19 |
245/40ZR18 |
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後 |
295/30ZR19 |
285/35ZRF20 |
275/35ZR19 |
265/40ZR18 |
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価格 |
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車両価格 |
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13,730,000 |
7,770,000 |
12,500,000 |
10,300,000
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備考 |
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カレラSと寸法的に近いのはBMW M3だが、よくよく比べてみればM3は全長で
195mm長く、ホイースベースに至っては410mmも長い。そしてカレラSのリアエンジンという方式は、今現在の車としては殆ど唯一無二でもある。あっ、そういえば日本の軽自動車の中には三菱 i(アイ)や軽トラのサンバーなんていうリアエンジン車があったが。
何処のメーカーの車でもフラッグシップカーというのは、何故かメーカー以上にオーナーのほうが拘ることが多い。すなわち、M3はBMWオーナーの誇りであり憧れで、同様にニッサンGT−Rはニッサンのオーナーの、インプレッサSTIはスバルオーナーの心の支えだったりする。
だから、M3をけなされるとBMWオーナーは湯気を立てて怒ることが多い。そして、GT−RやインプSTI、ランエボなどは、メーカーのフラッグシップを通り越して、日本車擁護派の心の支えでもある。
と、まあ、この件はこれ位で止めておいて、話を次に進めよう。
ポルシェの信頼性と維持費というのは誰でも気に掛かるだろう。結論を先に言えば水冷化された後のモデル(986/996)以降なら、修理費で所有を諦めるということはない。
まず信頼性については、大きなトラブルはないが、少なくとも07モデルまでの987/997には、どうもちょっとした持病があるようだ。その一つがリモコンキーで、キーを押した覚えが無いのにフロントトランクリッドのロックが外れる。ボクスターの場合にはリアのトランクも同様
に勝手に動作をする。それはエンジン始動後には起こらないし、当然走行中にも
出ない。まあ、走行中にトランクのロックが勝手に外れたら、間違いなくリコールだろうが。一番腹が立つのは、ドシャ降りの大雨の中でびしょ濡れになりながら、やっとの事で低い運転席に乗り込んだと思ったら、ボンッという音が聞こえて、何かと思いながらエンジンを掛ける。
この時点ではシートベルトの警報が優先されているので判らないのだが、ベルトをロックして赤い警報が消えると、今度はフロントトランクオープンの警報が!そう、あのボンッという音は、キーを押した覚えが無いのに、勝手にトランクオープンの信号を出しているのだった。
そして、怒り心頭で外に出てトランクを閉め、慌てて車内に戻った時には、既にびしょ濡れになっているという、実に人をおちょくった不具合がある。この持病は、今回のように3週間程乗れば、ちゃあんと再現してくれた。この対策として、ディーラーでのセッティングで反応時間を変えらるのだが、反応を遅く
すれば多少は改善されるが、根本的な解決とはならず、それよりも本当に開けたい時には一生懸命押し続けないと開いてくれないという、漫画的な結果となる。
もう一つ気になるのは、寒い朝などでクルマが冷えた状態でフルステアすると、ガンッ・・・・ガンッという2〜3秒おきのショック(微速で動いた場合)を感じる事で、どうもパワステと関係があるらしいが、これもボクスターで出ているのと同じ症状をカレラSでも再現してくれた。特に問題は無いようだが、気持ちの良いものではない。考えてみれば、フロント部分、すなわちスカットルプレートから前は足回りを含めて、911(997)とボクスター&ケイマン(987)では共通となっているから、不具合も同じという事になる。もちろん、電子ロックの構造やキー自体も同じだし、何より997と987のキーは見分けが付かない、全く同一品である。
次にメンテナンスの代表であるエンジンオイルについては如何だろうか。これも、オイルがロングドレイン化された987/997ならば、維持費としてはBMW5
シリーズと変わらない程度だろう。オイルの交換サイクルはポルシェによれば3万キロ!勿論、天下のポルシェが太鼓判を押すのだから、3万キロで問題はないのだろうが、ここでBMWの場合と比較して考えてみよう。
BMWの場合は新車時やオイル交換時にオイル交換サイクルのカウンターがリセットされて、ここで25000kmを指す。この表示はエンジン始動の度に表示される。な〜んだ、そんならオドメーターの数字から逆算すれば判るじゃないか・・・・な〜んて言っていると、これまた恥をかく事になる。BMWのオイルカウンターは使用条件により、減算する距離が変わってくる。
すなわち都内の渋滞を1000km走った後は、オイルの寿命は1500km減算されるかもしれないし、郊外の空いた道をクルージングしたらば、1100kmの減算で済むかもしれない。したがって、最初に25000kmを指していたカウンターがゼロとなって、オイル交換のサインがでるまでの距離は、使用条件によって大きく変わる事になる。
さらにBMWの場合はオイルの酸化をチェックする酸化センサーを持っていることで、使用条件とともにオイルの変質をもチェックしているという完璧さだ。だから、BMWで5000km毎にオイル交換をする、なんていうのは、ハッキリ言って無駄・・・・・なのだが、それで安心するならば、オーナーの勝手にすれば良い。
ただし、知ったかぶって、安いオイルを頻繁に代えるのが通だとばかりに、鉱物油を使ったりすると、合成油を前提に設計されたエンジンは、あっという間にガタが来てしまうので、要注意だ。
と、なぜか、BMWのオイル交換に話が進んでしまったが、ポルシェの場合にはBMW程には完璧なオイルマネージメントシステムを持ってはいないので、単純に3万キロというのはチョッと気に掛かるということが言いたかったのだ。
それでは、どのくらいの頻度で交換するかといえば、さ〜て、何とも言えないが、BMWの経験から言えばオイル交換のサインが出るのは、郊外を主体の走行パターンで18000km程度だった。ただし、ポルシェのエンジンは一般的なBMWよりも出力は多めなので、オイルの負担は多少厳しいかもしれないが、
逆にポルシェはドライサンプで約10ℓ近いオイルが入っていることを考えれば、少なくとも15000km程度は持つような気はする
。まあ、こればかりはオーナーの好きにすれば良いだろう。
オイル交換といえば、BBSネタとしてもメジャーな内容だが、国産車の場合はロングドレイン(合成)オイルに対応しているのは日産GT−Rのみだから、そもそもBMW辺りと比較して議論する事自体に無理がある。合成油というのは、鉱物油前提のパッキン(NBRなどの合成ゴム)だと膨潤(変質して膨らむ )してしまう事から、
一般の国産車への使用は厳禁と思ったほうが良いだろう。
次に消耗品としてはオイル以上に高価でもあるタイヤについて考えれば、サイズ次第で価格は大きく変わるが、今回の試乗車のように30扁平のタイヤなんて履いてたら、4本交換で数十万円コースは間違いない。そして走行距離が約10000kmの試乗車の場合は、フロントは殆ど山が無かったから、そろそろ要交換だった。リアは半分以上残っていたが、これは運転方法で大きく異なるだろう。試乗車のフロントの減り方は、どう見てもアンダー
を出したままで強引に抉って曲がるような運転をされてきたようだ。上手いポルシェ乗りの所有するクルマならこれ程のフロント片減りはないと思うが、その場合は逆にリアがドンドン減るかもしれない。何れにしても1万キロ程度で数十万の費用が掛かるのは間違いない。これが、ボクスター2.7だと、標準はリアでさえ235/50R17と控えめなサイズだから、タイヤの価格はグッと安くなるし、寿命だって2万キロ程度は持つから、カレラSに比べればタイヤの維持費は半分以下
、場合によっては1/4となる。
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写真1
911の特徴はリアエンジンに起因して長いリアオーバーハングであることから、Bピラー以降のルーフラインがなだらかに下っていく優雅さにあると思う。リアの短いケイマンと根本的に異なるところだが、スポーツカーとしての重量バランスを考えれば理想とは程遠い形式でもある。 |
写真2
フロントトランクはボクスター/ケイマンと全く同じ。左右に見えるヘッドライトが写っていいなければ、どちらかの区別を付けることが難しい程似ている。 |
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写真3
フロントのエアインテイクは、両端がエンジン冷却用のラジエター、中央はトルコン用のオイルクーラーが入っている。 |
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写真4
120km/h以上で自動的に起き上がるリアスポイラー。 |
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写真
5
左右各2本の4本出しの排気管がカレラSの証となる。 |
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ポルシェはどのモデルでもカタログに記された価格はベースとなる裸の状態で、これに各自が好みのオプションを追加するのが原則となる。要するに、ポルシェは全て注文生産なのだが、それでは気の短い日本人
(の金持ち)には受けないから、ディーラーが売れ筋と思われる仕様で見込み手配をして、それを即納状態で売る在庫販売も行っている。だから、本来のポルシェは自分だけの仕様をジックリと考えて、長い納車までの期間をジッと我慢するという、精神修行をも提供してくれるのだが、企業経営者が経費で落す場合、3月で仮決算してみたら思いのほか利益が出すぎるので、コリャいかん。そうだ、憧れのポルシェを買おう、何ていう場合には半年や1年待ちなどでは話にならない。そこで、在庫リストの中から自分の欲しい仕様に近そうな現物を探して3月中に登録すれば、諸経費や初年度分の償却は目出度くも利益から差し引けることと相成る。
あなたが今までに現代のポルシェに乗った経験が全く無いなら勿論のこと、既にボクスターorケイマン(以後987)に試乗した経験があったとしても、これからカレラSのハンドルを握るとなと、かなりの緊張感につつまれているだろう事は容易に想像できる。
フェラーリやランボルギーニに代表されるイタリアンスーパーカー程の派手さや迫力は無いにしても、普通のサルーンに比べれば、低く平べったいボディを眺めながらドアのノブを引くと、サイドウィンドウのガラスが15mm程度下がって、車体側の枠に食い込んでいたガラスが外れてからドアが開く。足をフロアに入れながらシートに座ろうとすると、そのシートポジションの低さに気が付く。
カレラ系の標準シートは座面が細かい通気穴の開いたレザーとサイドが人工皮革のコンビシートで、
前後と上下は手動で背もたれの調整のみが電動というもの(写真8)。この形や調整方法は987(ボクスター&ケイマン)の標準シートと全く同じで、相違点は座面がアルカンターラになることくらいだ。成る程、上級のカレラ系には座面に本革を、廉価版の987には人工皮革(裏皮)を使っているのかと納得させられそうだが、聞くところによるとアルカンターラというのは、本物のレザーよりも高価だという話もある
し、カレラより高価なGT2&GT3はシートや内装にアルカンターラを多用しているが、まあこの際、堅いことは言わない事にしよう。
座面がレザーというと、滑りやすいんじゃないか?という疑問が湧くだろうが、カレラSのシートにそのような心配は無用だ。とはいっても987のアルカンターラの方がグリップが良いのは当然で、
前述したように997(911系)でもレーシングモデルのGT3となると、標準シートがアルカンターラのバケットシートとなるから、カレラ系はグランドツアラー的なポジションにあることを意味している。と、前半で結論を述べてしまったが、これから話が進むにつれて、
ボクスター/ケイマン系はピュアスポーツでカレラ系はグランドツーリングという住み分けがハッキリと理解できるだろう。
そのシートの座り心地は、硬い座面とピッチリした左右のサポートという出来の良いシートの典型だが、国産のハイパフォーマンスカーのように、体格の良いドライバーだと足も上体も
身動きが出来ないほどに、まるでギブスのようにピッタリと固定されてしまう、という程ではいが、それでも左右のサポートは充分だ。言ってみれば、スピードショップで売っているレカロの大人しいタイプのシートそのものだと思えば理解し易い。それもその筈で、レカロ社は元々ポルシェ社のシート部門が独立したものだし、現行ポルシェのシートはレカロ社製をOEM採用している。
注文生産が原則のポルシェだから、内装もベースモデルから幾らでも高級に仕立てられる訳で、よく見る仕様ではレザーインテリアというオプションで内装を本革張りにすることが出来る。しかも、各セクションごとにオプションが設定されているから、オーナーの趣味で気に入った部分だけをレザーにするのも可能となる。勿論、問答無用で全てレザーを貼ってしまうとうのも薦められる。
それでは標準の樹脂による内装はチャチかといえば、そんな事はない。指で押してみれば当然ながら柔らかく、パッドの役目をしているし、金型で表面に付けられたレザー風のシボの出来も良い。実際にレザーインテリアのクルマと見比べてみても、レザーの縫い目(ステッチ)がある点を除いて、ボケ〜ッと比較したら判らない程度に樹脂パネルだって出来が良い。そういえばカレラオーナーが、ポルシェの内装なんてカローラなみだ、なんて嘆いて見せたりしているが、あれは誇張しているのと、ある面謙遜していたり、ポリシーの違うジャガーやアストンマーチンと比べてみたり。そして心理の底には質実剛健、見かけより実用性を重視したポルシェというブラン
ドを選んだ自分自身の満足感を表していると思えば良い。だから、こういうオーナーの言葉を信じて、ポルシェの内装が本当にカローラ並だと勘違いすると、大いなる恥を書く事になる。
911系がボクスター/ケイマンと大きく違うのは、リアに2人分のシートを持っている(写真6)ことだが、実はこのシートに大人2人が座るのはチョッと厳しいかもしれない。それでも緊急時には一人くらいなら乗れないこともないし、小学生以下の子供ならば2人乗って長距離を移動する事も可能だから、そういう家庭では充分にファストカーというか、一家に一台のファミリーカーとする事だって可能だ。
まあ、子供が中学生になった時はどうするかという問題もあるが・・・・。
実は911系のリアスペースのメリットは、むしろ手荷物置き場として、極めて重宝なことにある。ボクスター/ケイマンに乗ってみると判るのは、フロントに2人が乗車すると室内にはカバン一つ置くスペースすらないことで、これに対する911系のリアスペースは実に便利この上ない。米国ではリアシートがないと売れ行きは大幅にダウンするそうで、そういえば初代フェアレディZ(S30)の対米輸出も+2を出したことで、飛躍的に伸びたという歴史もあったのを思い出した。
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写真6(上)
リアシートは子供用が精々で、本来の目的は手荷物を置き場と割りきりが必要。そう思えば、アタッシュケースを車内に置けないボクスター/ケイマンよりも使い勝手では大きく上回る。
写真7(右)
標準のフロントシート形状はボクスター/ケイマンと殆ど同じ。コテコテのスポーツシートではないが、サポートは非常に良い。 |
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写真8
座面には細かい通気孔が開いたレザーが、サイドにはレザレットという人工皮革が使われた標準シート。 |
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写真9
カレラSの場合はドアの内張りは標準でレザーが貼られているのは取手と小物入れの蓋のみで、パネル自体は樹脂製となる。 |
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シートに座った感動の後は重いドアを引くと、
ズシンという剛性感抜群の音と共にドアが閉まる。この感覚はサッシレスとは思えない程の重量感で、これまたポルシェというクルマが尋常ではないことの証拠でもある。ただし、このドアを閉めたときの剛性感というのは、ボクスターでも充分に感じられるのも、これまた事実だったりする。
そして、シートベルトを締めて正面を見ると、白地のパネルに黒い文字の5つのメーターが目に入る。987のオーナーなら、見慣れた3連メーターの左右に各1個のメーターが追加されていることで、
メーター全体がやけに幅広に感じると思う。おおっ、これこそカレラだ、と感動するかもしれない。たった2個の、それも小径のメーターが追加されただけで、高級感と精密感がグッと上がるのは、ポルシェのデザイン能力と商品戦略が抜群に上手い証でもある(写真11)。
さらに、カレラSに乗っている時は気が付かなかったが、その後にボクスターに乗ったときに、メーターの文字が何やらカジュアルに感じたが、そういえば998のメーターの文字はガッチリとした書体なのに比べて、987系はポップなイタリック(斜体)文字を使っているのだった。
ポルシェのメーターはベーシックなモデルが黒いパネルに白い文字、高性能版の”S”は白いパネルに黒い文字となっている。これはカレラとカレラSは勿論、ケイマンとケイマンS
、そしてボクスターとボクスターSでも同じだから、試乗車のカレラSは白に黒文字のメーターとなっている。しかし、それは昼間の場合で、夜間に照明を
点けると、どちらも黒字に白い文字が光る。
それではSのメーターで薄暗い夕暮れはどうかといえば、ライトを点灯しても文字の輪郭が僅かに光る程度で、文字が浮き出したりはしないから、イマイチ見づらい。ベースモデルの場合は夕暮れに点灯すると、元々白い文字が照明で浮き上がるから、
こんな状況での見易さはベースモデルに軍配が上がる。では、白いメーターのメリットはといえば、これを見るたびに高性能版のSに乗っているという自己満足だったりする。まあ、メーターの色なんていうのは個人好みの問題だし、注文生産が原則のポルシェだから、オーナーが望めば白や黒
以外でも、例えば赤や黄色もアリとなる。
それにしても、カレラSより高価なGT3のメーターは白では無く、黒なのだが・・・・・コレ如何に?
メーター以外の997(911)系と987(ボクスター&ケイマン)系の内装の大きな違いというのは、ポルシェを良く知らないドライバーには一目で理解するのは難しいかもしれない。と、いえるほ
どに両車のインテリアデザインは近似しているから、997ユーザーにとっては何とも複雑な気持ちだろう。
グローブボックス(写真14)と、その上部に組み込まれたカップフォルダー(写真13)などは、全く同じ部品のようだ。
そしてオーディオ&エアコン
も全く同じ。違うといえば987系の場合、標準のエアコンがマニュアル式となることだが、実このマニュアルエアコンは全く同じパネルを使用しており、調整が0〜10の目盛りか、温度表示かの違いだったりする。
それでも良く見ると、エアコンのエアーアウトレットの形状が異なり、更にはアウトレット周りの縁取りが半艶消しのクロームで、結構な高級感に満ちていて(写真12)、987の丸くて縁取りの少ないエアアウトレットがチャチに感じたりする。
一見似ているインテリアだが、こういうところでさり気ない区別をして998オーナーの満足感を誘うというポルシェの上手さには頭が下がる。
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写真10
雑誌などでもお馴染みの911系のダッシュボード。ポルシェに縁の薄いドライバーにはボクスター/ケイマンとの区別が付き難い程に似ている。
一見地味で高級感に乏しいが、良く見れば結構金が掛かっている。これで気に入らなければオプションのレザーセレクションを選べは、
”これでもか”のレザー貼りとなる。
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写真11
カレラ系の最大の特徴である5連メーター。相変わらず細かい目盛りにも関らず見易く、精密感は抜群。
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写真12
ボクスター/ケイマンに比べて明らかに金の掛かったエアアウトレット。ただし、それ以外に大きな差はないのも事実。 |
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写真13
グローブボックス上端にはドリンクホルダーが組み込まれている。このドリンクホルダーも右の写真のグローブボックスもボクスター/ケイマンと同一部品が使われている。 |
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写真14
グローブボックスの中は充分なスペースがあるから、車検証や取説とともにCDケースなどが保管できる。上部左はペンホルダー、右が2枚分のCDケースだが、普通はこれを外してETCのユニットを装着する。 |
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写真25
標準のオーディオ&エアコンなどはボクスター/ケイマンと全く同一。それどころかGT2もGT3も皆同じ。 |
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写真26
夜間照明は白を基調として、あらゆる文字が点灯する。
昼間見ると大したことは無いパネルだが、夜間の表示を見れば、ちゃあんと金が掛かっているのが判る。 |
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試乗車はRHDなので、キー穴はダッシュボードの右端にあるから右手で挿入して、右に捻るという当たり前の動作で始動する。この時のセルモーターの音はグォングォンという遅い周期で回るが、決してバッテリーの容量不足の音ではなく、力強く回るのが他車とは大きく異なる。ポルシェが皆遅いセルかというと、そんな事は無く、ボクスターもケイマンもクークークーと速く勢い良く回るから、少なくともセルモーターに関しは全く異なるようだ。
特に長くも短くも無いクランキングの後にエンジンが始動するが、初めてのドラバーは独特なアイドリングに驚くだろう。カレラ系のボディ剛性というのは極めて高く、金庫の中で運転していると喩えられるが、その超高剛性のボディが6気筒としては限界に近い3.8Lという排気量のエンジンが発生する振動で、クルマ全体がブルブルと震えて、ドライバーの体もボディと一緒に振動するという何とも独特の雰囲気に、あなたは、このクルマが只者ではない事を感じるだろう。
さて、初めてのポルシェ体験、しかもカレラSの運転席に座って金庫のようなボディが水平対向6気筒としては限界の排気量による振動でブルブルと振えて、後ろの方からはバルブ音や補機類の発する、これまた
高級ミシンのようなメカメカしい音が聞こえてくる。あなたは、これから始まる体験にワクワクしながらスタンバイしているところで、
後編に続く。
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