AUDI TT 3.2 Coupe quattro (2005/8/27)
※この試乗記は2005年8月現在の内容です。現在この車種は仕様が変更されています。

 




アルファロメオ
156GTA


フェアレディZ


どちらかと言えば控えめなイメージのアウディとしては、別世界のように先進的で個性的なスタイル。写真は試乗した3.2クワトロ。

リアも個性の塊のようだ。よく見れば、国産車にもこれをパクったと思いたくなる車がある。

アウディのイメージといえば、どちらかといえば控えめなインテリジェンスを感じるクルマというのが一般的だろう。最近はシングルフレームグリルという、チョッと派手なグリルがアイデンティティになったことで、以前ほどは地味ではないが、何れにしても突っ張ったイメージは無い。

ところが、今回試乗するTTはアウディのラインナップでは異色の存在だ。TTが国内販売されたのは99年末だった。当初はクーペ1.8Tクワトロのみだったが、その後ロードスターが追加され、2001年には1.8のFFが、2003年には3.2が加わった。

TTは旧A3をベースとするため基本的にエンジン横置きのFFであり、A4以上のようにエンジン縦置きの構成とは根本的に異なり、クワトロといっても通常はFFに近い。

現在のラインナップはベースモデルとしてのFFのクーペ1.8Tが419万円、オープン版のロードスターは429万円で、上級車種のクーペ3.2クワトロが562万円となる。エンジン出力は1.8Tが180ps、3.2が250psを発生する。


ベースモデルのクーペ1.8は419万円。

ロードスター1.8Tは429万円。

ロードスターのダッシュボードは基本的にクーペと変わらない。ただし、クーペと違いリアシートのスペースは折りたたんだソフトトップが占領するから2人乗りとなる。

1.8Tと3.2の外観上の大きな違いは排気管で1.8Tは左1本出し(写真下)で3.2は左右各1本(写真上)となる。

クーペの場合1.8Tと3.2の外観上の大きな違いはタイヤとホールを除けば、リアの排気管の本数(1.8Tが一本、3.2Tが左右各1本)くらいで、門外漢にはチョッと見ただけでは区別が付かない。メルセデスやBMWのように4気筒モデルはドアの取っ手が素材色だったり、ラジエターグリルのメッキが少なかったりということはない。

クーペの場合は、リヤにテールゲートを持つので、クルマの外観の割には実用性も多少はある。

3.2の場合は、リアラッゲージルームの底面のシートをまくると、本来はスペアタイヤが入るスペースにはバッテリーと工具類が納められている。従ってスペアタイヤは持たずに、ポルシェのようにパンク時は修理剤で対応する。何故かといえば3.2のトルクでは、テンパータイヤでは危険なためらしい。

シートは座面がアルカンターラでサイドがレザーという、今や欧州製(最近は日本も)のスポーツグレードには定番となった組み合わせだ。当然ながら、前後・上下が調整できるし、ステアリングも前後・上下に調整できるから好みのポジションに調整できる。
と、言っても、低い着座姿勢と、それにも増して低いルーフは長身(もしくは短足)のドライバーの場合は一番下に下げるしか方法がないが・・・・。

リアのスペースは当然ながら狭く、前席を余程前に出さないと、足を置くことすら出来ない。それでも、バックレストに上半分しかクッションを持たないポルシェカレラよりはマシだが。

ロードスターの場合はリアシートのスペースが折り畳んだソフトトップの格納場所とるので、クーペと異なり二人乗りとなる。TTはロードスターだと、例えトップを上げても、独特のクーペスタイルとはならないから、TTのデザイン的な良さが半減すると思うのだが?
実際、街中でTTロードスターが走っているのを未だ見た事がない。


本来はスペアタイヤのスペースだった、リアラッゲージルームの床下はバッテリーと工具が置かれている。


前後方向に狭くせいぜい子供用。それでも、シート自体はマトモな形をしている。
   
 

アウディTTは車格やバランスからいって、1.8Tがベストバランスと思えるし、事実、発売当初は1.8のみだった。しかし、刺激を求めるユーザーは何処にでもいるから、本来1.8T用のボンネットの中に3.2V6を押し込んだら面白いクルマが出来るだろうなどということは、誰でも想像する訳で、そんな物好きの為にあるのが、今回の試乗車であるTT3.2クワトロという事になる。

それでは、早速そのオーバーパワーのファンカーを走らすことにする。
エンジンを掛けると、アイドリング中の振動や騒音などは特になく、このエンジンがそれ程ハイチューンのスポーツエンジンではない事がわかる。新型A4など最近のアウディ各車に共通のATセレクターをDに入れて、これまた最近のアウディ各車に共通な、慣れないと危険な程に軽くてレスポンスの良いスロットルペダルを静かに踏むと、それでもクルマは多少飛び出し気味に発進する。先日乗ったA4 2.0の6割増しの排気量は伊達ではなく、少し右足に力をいれれば、クルマはグイグイと前に進む。車格から言って、このクルマのライバルはと言えば、アルファロメオ156GTAあたりだろう。排気量もパワーも同じだが、官能的という面ではGTAのエンジンの方が上手だ。TTのエンジン音はアウディらしく外観の割には大人しいのに対して、GTAは常にドライパーを刺激する、如何にもイタリアンな音を放つ。実は3.2の場合、VWゴルフGTIと同じ6速DSG(セミオートのシーケンシャルシフト)を装着している。DSGはGTIで、その出来の良さを体験しており、今回も期待通りに3.2ℓのパワーを伝えているようだ。DSGの凄さは、トルコンを持たない機械式のクラッチペダルレスにも拘わらず、通常はATとして使っても違和感がないことだ。TTは更にステアリングからパドルスイッチよるマニアル操作も出来る。この点もライバルGTAと同じだが、GTAの場合はマニアルモードが主体となる。


A4以上と違い横置きされた3.2のエンジン。基本的に旧A3をベースにしているから、そこにV6 
3.2ℓを強引に詰め込んだのが判る。クワトロといっても通常走行時は限りなくFFに近い。バッテリー
は行き場を失い本来スペアタイヤの置かれるスペースに移動されている。


3.2に比べてスッキリと収まっている1.8Tのエンジン。TTはこのエンジンが本来の姿だろう。

最新のパワーステアリングのように速度感応式などというありがたい仕様にはなっていないこともあり、低速での操舵力はかなり重い。それでも、結構クイックだから、重ささえ気にしなければ、一般の走行では結構機敏に走る。
TTの場合はクワトロと言ってもA4などと異なり、通常走行時はフロントに90%程度の駆動力が配分されるから、事実上のFFと言える。GTAのドアンダーに比べれば、TTは遥かにニュートラルに近く、よく出来たFFというフィーリングだ。
外観やスペックから想像する程にはブッ飛んでないなと思い、今度は折角装備されているのだからと、マニアルモードでパドルスイッチを使ってみる事にした。片側2車線のバイパスに出て、自分が先頭で信号に引っかかったので、準備万端、セレクトレバーを右に倒しMTモードにして、メーターパネル中央下のインジケータが1(速)になっているのを確認して待つこと1分。信号が青になったのを確認して、静かに、しかし素早く右足を床に当たるまで踏んだら、車は3.2ℓのトルクと共に背中をグイグイと押し付けながら加速に入った。ところが、発進して5m程で行き成りステアリングを左右に取られた。まるで、積載オーバーの大型が隊列を組んで1日中走るダンプ街道に出来たワダチを、ワイドタイヤのスポーツカーで突っ走った時のワンダリングに似た状況だ。あれっ、と道路を良く見れば、実に綺麗な舗装路だ。そこで、思い出したのがアルファのGTAでフル加速したときで、そうだ、あれと同じだ!考えてみれば、スタート時点ではFF状態で250psを受け止めるのだから、同じパワーでFFのGTAと同じ状況になっても不思議は無い訳だ。ただし、さらに20m程走ったら、ウソのように安定した挙動になった。考えるに、後輪のスリップにより前後のトルク配分が変り、これによって安定したのだろう。
この挙動さえ気にしなければ、V6エンジンは吹け上がりも言いし、ストレス無く6000rpm以上まで回る。ただし、アルファGTAのようにゾクゾクするような音やフィーリングとまでは行かない。さらに、DGSはある面よく出来すぎていて、これまたGTAの乱暴なシフトフィーリングや、シフトダウン時のわざとらしい空ぶかしなどに比べれば、ブッ飛んでいるとは言えドイツ車だから、流石にラテン系のノー天気さには届かないのは仕方ないだろう。


ブッ飛んだ外観に比べて、内装はそれ程突飛ではない。メーターも配置は異なるが、御馴染みの
アウディのスタイルだ。

TTクワトロの特性の一端と、突然現れたと思ったら、今度は落ち着いてしまうという、じゃじゃ馬になったり、大人しくなったりの特性は、オーナーになって熟知すれば面白い走り方をするのだろうが、門外漢にはなんとも危なっかしい。ここまで、コーナーの進入速度もそれ程頑張るような道もなかったので、そろそろ試して見ようかと思ったが、フル加速で痛い目に会った事から、FFで突っ込んだら、途中で行き成り4WDの特性に変化されたら、慣れないクルマでは結構ヤバイと思い、この案は踏みとどまることにした。と、言っても、普通のおじさんが少し頑張る程度なら特に危険はなく、速いFF程度の感覚で回れるから心配は要らないが。

TTの最大の欠点は、その独特なフォルムからくる低い着座姿勢と、丸いボディ形状から想像できるとおりに、車幅の感覚が極めて掴みにくいことだ。1765mmという最近としては標準的な全幅が、実際には遥かに大きなクルマを運転しているような錯覚に陥る。特に左端の位置が掴み辛い。左がガードレールも無く、そのまま畑、などという場合には、どうしても左を空けてしまう。慣れれば問題ないかもしれないが、オーナーになって慣れてくると、実際には結構左に余裕があるのが判り、逆に今度は寄せ過ぎて縁石にホイールを擦って、オシャレなアルミホイールを台無しにする例が多いとか。

 
配置は異なるが、雰囲気とメーターの形状・色・質感などは他のアウディ各車と共通だ。

ATのセレクターはP、R、N、D、Dから左でマニアルモードと一般的だが、SモードがDの手前にあるという、これまた最近のアウディに共通するものだ。

乗り心地は標準で40タイヤを装着することでも判るように、最近の欧州車の標準から見れば硬めだが、これまた、最近のアウディに共通した点だし当然不快感はないから、こんなヘンテコなクルマを買おうというユーザーには気にならないだろう。

ブレーキも、これまた最近のアウディのセオリーどうりにストロークが長めだが、これも慣れれば問題にはならないだろう。ただし、ライバルGTAがブレンボーのキャリパーを装着していて、成る程の高剛性フィーリングなのに比べると、この点ではハッキリ劣ると断言できる。

  3.2に標準の7スポーク、7.5J18ホイールと225/40R18タイヤ。1.8Tの場合は6本アームの7.5J17ホイールと225/45R17タイヤ。
 

シートは4つあるとはいっても実際には二人乗りで、天井は低く、大きさの割りに見切りも悪いので、市街地では使いにくい事この上ない。値段だって廉価版の1.8Tで400万を超えているし、乗り心地も悪いし、低速でのステアリングは重い。こう書いたら良いこと無しの如何しようもないクルマに思えるだろうが、それではTTの良さはと聞かれれば、ズバリ、そのスタイルだろう。こんなスタイルは他に何処を探したってないから、これに惚れたらアバタもエクボで、もう一途に突き進むしかない。
でも、それなら1.8Tで十分目的は達成されるから、今回試乗した3.2は益々、買う理由が見つからないかといえば、これまた、一部の物好きには止められない良さがある。まず、如何見ても1.8ℓがお似合いなシャーシーに強引に詰め込んだ3.2ℓエンジンによる、何とも危ういジャジャ馬のような特性に、一人自分だけでウットリするという、世間の常識から見たら何やら危なげかところが、魅力といえば魅力だろうか。
しかし、ライバルGTAと比べれば、TTは同じワルでも最後の一線を踏み越えることはない。いよいよ危険が迫れば電子制御が介入する。まあ、ガキで言えば補導されても、親が呼ばれて厳重注意で無事帰宅という程度の悪だ。これに対してGTAはと言えば、これぞ本マモンの悪だから、最後までドライバーの責任で、無理をすれば、それなりの痛い目に合う。捕まれば少年院送りは確実なショウモない奴だが、なんだか不思議な魅力があったりする。

いずれにしても、10人の内の9人以上は、これらのクルマを選ぶ事はしない。TT3.2の562万円という価格は、今話題のレクサスならはGS350を買っても未だお釣りがくる。あなたが、もしも、残る一人に該当するならば、TTかGTAのどちらを選ぶかは好みの問題だ。ただし、B_Otaku 個人としては、迷うことなくGTAを選ぶだろう。