ニッサン フェアレディ  (2005/4/29)

 

 


ポルシェ ボクスター


BMW Z4 3.0

 


欧州の有名ブランドのデザインを平気でパクるクルマが多い中、フェアレディは他の何にも似ていない。

太い2本出しの排気管が高性能スポーツカーの雰囲気を出している。

オリンピックも無事終わり、万博を目の前にして世は正に高度成長の真っ只中。しかし、翌年の日米安全保障条約(安保)の延長を前にして、学園紛争も華やかな1969年12月、初代フェアレディZ(S30)が発売された。それ以前のフェアレディと言えばオープンのスパルタンな古典的スポーツカーで最終型のSR311は4気筒2ℓエンジンと当時としては珍しい5速ミッションをラダーフレームの軽量オープン2シーターに積むことで、当時としては圧倒的な動力性能(記憶ではゼロヨン15秒台の中ほど)を誇っていが、しかし、サスの硬さはハンパではないと言われていた。当時免許取立ての B_Otaku も、何時かはSR311に乗るのを夢見ていたものだ。

そんな時代に発表された新型は、名前にZが付いてフェアレディZと呼ばれ、そのスタイルは旧型とは打って変ってロングノーズ、シュートデッキの典型的高性能スポーツクーペと言う感じで、当時としてはフェラーリGTBは勿論、ジャガーEなどの写真でしか見ることの出来ない、憧れのスポーツカールックだった。当時国産車で、この手のスタイルをしているのはトヨタ2000GTのみで、これはクラウンやセドリックが100万円で買える時代に235万円もした。ところが、S30の価格は確か105万だったと記憶している。この価格はクラウン/セドリックと同等だから、当時としては決して庶民の買える代物では無いが、ソコソコの金持ちなら何とかなりそうだったし、少年達にとっても何時かは手に入れるぞと決心するには妥当な価格だった。

当時、テレビで若い女の子に、どんなクルマに乗った彼氏を作りたいと訊ねれば、決まってフェアレディZという答えが返ってきた。若き日の B_Otaku も当然S30に憧れた。それで、デーラーの試乗会に早速行ってみた。(この頃から試乗オタクだったようだ!)
初めて見るZの現物は当時のクルマの常識を超えたカッコ良さだった。いよいよ憧れのZのドアを開けて運転席に座ると、当時の実用車と比べると圧倒的に低い視点と、大きなドアを閉めた時、ドアの内側が大きく湾曲していて、流石はスポーツカーだと感動したのを覚えている。その感動も醒めないうちに早速走り出すと、何だか遅い?と言うか重々しい。このスタイルから背中をグイグイとパックレストに押し付けられる豪快な加速を期待したが、これでは父親の乗っているセドリックとあまり変らないじゃないか、なんて思ったものだ。それもその筈でZの長いボンネットに収まるのは、何の事は無いセドリックに詰まれているL20エンジンそのもの(一応ツインSUキャブで多少はチューンしているが)だから、スポーツカーらしい走りは期待するほうが無理というものだ。こんな訳だから、その実態が判るにつれて、マニアの間でZは見かけだけの軟派クルマの烙印を押されてしまった。ZにはスカイラインGT-Rと同じ、当時としてはべら棒な高性能エンジンであるS20を積んだZ432もあったが、価格もまたべら棒で一般的でない上に、何故か本格的マニアはスカイラインGT-Rの方を購入したようだ。それでも、Zの、あのカッコと雰囲気は、やはり憧れで本気で欲しいと思ったこともあった。もちろん、チョッと前までの憧れだったSR311の事は綺麗さっぱり忘れ去っていたが!

このS30は対米用に2.4ℓのL24を積んでいて、抜群のコストパフォーマンスと共に北米で大ヒットしたのは周知の事実である。その後、国内でのパワー不足の不満に対して対米輸出用の2.4ℓを240Zとして国内導入したが、当時の日本の税制では2ℓ超え(いわゆる3ナンバー)は自動車税が恐ろしく高かっために殆ど売れなかった。

若かりし頃、一度はそれほどまでに憧れたフェアレディZは、その後30年の月日が経ち、一時期のニッサンの危機で、もう2度と新車で買えないクルマになるかと思いきや、なんと、2002年に新型が発表され、見事に復活したのは皆さんご存知のとおりだ。

さて先日、新型ボクスターにいたく感動し、次期マイカーは2シーターも有りかなんて考えていた矢先に、思い出したのが、そう、青春の思い出フェアレディZの事だ。世間では何だ、カンダ言われているが、これは一つ自分で確かめて見るしか無いと思い、発売から大分時間が経っていて新鮮味は無いが、早速試乗してみた。


左からSR311フェアレディ2000、S30初代フェアrディZ(2ℓ)と対米輸出用でその後日本でも発売された240ZG。GというのはGノーズと呼ばれるエアロパーツを先端に付けたもので、大柄なZを更に大きく下品にした、ある意味アメリカンな内容だった。当時近所の胡散臭いので有名な不動産屋のオヤジが乗っていたが、要するに発売当初は若者の憧れだったS30も、モデル末期にはハッタリクルマに成り下がってしまった。

試乗車はバージョンTというグレードでミッションは5AT、価格は357万円(消費税含む)で、さらにオプションのナビゲーションシステム(26.8万円)が装備されていたので、合計は約384万円となる。バージョンTはベースグレード(6MT:315万円、5AT:325.5万円)に対して本皮パワーシート、BOSEサウンドシステムを装備する豪華バージョンだから、それらを必要としなければベースグレードで十分だろう。

ドアを開けると、黒の内装に多少黒っぽいオレンジのシートは決して高級な雰囲気ではない。シートに腰を降ろすと、座面には細かい通気穴が開いているが、全体的に皮の質感が良くないし、実際滑るので、出来が良いとは言えない。これはフーガにも言えるが、どうも日産の本皮は、質感のランクとしてはボルボあたりと良い勝負で、言ってみれば2流品だ。

Zはハッチバッククーペだから、シートの後ろには結構広い空間があるので、チョッとした手荷物やスーパーの買い物袋などを置くのに不便は無く、この点ではボクスターより実用的だ。


リアハッチを空けると多少のスペースがあるが、剛性アップのためのフレームがあり、大した荷物は積めない。

バージョンTは本皮シートが装着されるが、皮はあまり良い質感ではない。

シートに座って、ベルトをしようと探すと、バックレストの位置よりかなり後方にあるBピラーに取り付けられたシートベルトは引き出すのに苦労する。シートを十分に下げるような体型のドライバーなら問題ないが、そのためには身長190cmクラスの必要があるだろう。別な視点から見れば、北米を主なマーケットとするからには、190cmクラスなんて当たり前に対応する必要があるから、数のでない国内では多少目をつぶれと言うことだろう。これはパーキングブレーキレバーが助手席側にあることでも判る。もしBMWあたりが右ハンドル車のパーキングレバーを助手席側に付けたら非難轟々だろうが、Zは何故許されるのか不可解だ?


初代S30のイメージを再現したコクピット。特にダッシュボード中央の3連メーターが当時を思い出す。試乗車はオプションのナビを装着していたのでメーターの下はディスプレイが装着されるのが時代の進化を感じさせる。
 

正面のメーターは中央に大径の回転計があるのはスポーツカーとしての演出だろうが、その右にある速度計は径が小さいだけではなく、奥まって深い位置にある文字盤に円形の枠が視界を邪魔して実に見難い。もっとも救いはダッシュボード中央の3連メーターで、左から電圧計、油圧計と並ぶ右端のドライブコンピュータが通常ではデジタル速度計となり、これを使えば速度を認識するのには問題ない。このメーターの位置はステアリングホイールの左上10時位置にあるから、慣れれば視認性は良いのだが、慣れないとそこに目が行く習性がないので、つい見難い速度計の方を見てしまうが、自らオーナーになれば自然と目がいくだろう。こういう点では新型のポルシェ(ボクスター、911とも)のように回転計の下部にデジタル速度計を組み込む方法が一番良い。

ダッシュボード中央上部の3連メーターは初代S30からの伝統だったが、先代(Z32)では既に省かれてしまっていたのが今回見事に復活した。やはりZは3連メーターと喜ぶファンも多いだろうが、何処かのメーカーなら出来の悪いパクリ3連メーターを自分が本家でフェアレディが真似したなんて言うんじゃないかな?


ダッシュボート中央上部の3連メーター。初代S30からの伝統だ。左から、電圧計、油圧計、ドライブコンピュータ。

中央が大径の回転計で、右の速度計は小さいし位置も悪く見辛いが、中央3連メータの右(写真の上部左)にあるドライブコンピュータを速度計として使えば問題がない。

助手席側にあるパーキングブレーキレバー。今時輸入車だって右ハンドルなら右にあるのに、国産車でこれは無いだろう!

マークX 2.5でさえ6速化されているATは、未だに5速。トロイダルCVTの開発をしくじったツケか。

走り出す前にサイドミラーを合わせ、次にルームミラーに目を移すと、リアウインドウは上下に高さは低く、後方視界はその高さ方向にヤタラ狭い(普通のクルマの1/3程度)隙間から覗くような感じになる。このクルマでバックはしたくない。

それではいよいよ走り出すことにしよう。ブレーキを踏んで、遠くにあるパーキングレバーを解除して、スロットルをゆっくりと踏んだのだけど、V6、3.5ℓのVQエンジンはグイッと飛び出しそうになる。駐車場から国道に出て、静かに右足を踏み込めば、V6というよりも、まるでV8のようなゴーッという音とV型独特の共鳴音が混じったビートたっぷり、まさしくアメリカンな音がする。先日乗ったフーガ350XVは、これ程ではなかったから、排気の取り回しやチューニングが違うのだろう。フーガの車重1680kg(350XV VIP)に対して1450kgと230kgも軽いZは、当然のように低速からトルクが有り余っているから、一般道ではどんな場面でも十分過ぎるほどパワフルだ。
いよいよフルスロットルを踏んでみると、4000rpm当たりから、アメリカンサウンドは更に音量を増し、同時にダッシュボートやステアリングを盛大な振動が伝わる。このまま5000rpm強まで回ったところで、5ATはシフトアップした。この振動と音を、どう感じるかが、このクルマの好き嫌いを決定する大きな理由になるだろう。このラフさが、ある面魅力的でもあり、この手が好きな人にはたまらないかもしれない。

ニッサンのATは未だ5速と、ライバルが6速の時代に入った事を考えると寂しい限りで、やはりトロイダルCVTの失敗が痛かった。
Zの5ATはキックダウンはトロいし、前述のようにフルスロットル時にレッドゾーンまで引っ張ってスムースにシフトアップするという最近のATでは当然要求される能力が備わっていない、一言で言えば時代遅れの代物だ。セレクトレバーをD位置から左へ倒すとマニアルモードになる。欧州車ではDから倒すとスポーツモードとなり、そこから前後に動かして、初めてマニアルになるタイプが一般的だがZは違う。マニアルでフルスロットルを踏み6000rpmまで回したら、音と振動は更に増大するが、取り合えず回ることは回るから、ここでレバーを+に入れると、あれっ?シフトアップしない。と思ったら、結構なタイムラグの後にガツンというショックと共にシフトアップは起った。はっきり言って、Zのマニアルモードは使い物にならない。そういう使い方をするなら6MTを選ぶべきだ。

 
V6、3ℓのQ35DEエンジンは280ps、37kgmを発生する。エンジンの中心(シルバーの部分のの中心部)は車軸より後方にある、フロントミッドシップレイアウトをとる。その割には操舵性能は?

走り出しで即座に感じる程に乗心地は硬い。試乗車は走行10000km超だから、ダンパーの当たりが付いていない訳はなく、要するに硬いセッティングなのだろう。それも、硬い中にもしなやかさがある良く出来た欧州車とは違う。単なる硬さなら、ニューボクスター(987)も似たような物だし、BMW Z4の3リッターだって同様に硬いが、その硬さがZの場合はケツが青いというか、発展途上的というか。Zの硬さを更に未成熟にするとヒュンダイクーペになると言ったら判ってもらえるだろうか?

定常走行中に常に気になる音は、エンジンでは無くタイヤの走行音だ。常にザーッという音が聞こえている。それに比べて、一般道の定常走行時のエンジンは1500rpm程度で走っているので、十分に静かだ。この点では流石に大トルクのエンジンのメリットが出ている。

ラフだが豪快な大トルクエンジンと未成熟な硬い乗り心地と言えば、操舵性だってラフでアバウト、重くてアンダーが強いというのがキャラクターに合っているが、果して、Zの操舵性は全く予想どうりだ。かなりな操舵力を必要とするほどに重く、反応もトロイから、その外観から感じるスポーツカー的なクイックさは、全く感じられない。
この特性から、コーナーに進入するには十分に減速するのが無難だが、それではスポーツカーらしくない。今回は比較的長い時間の試乗が出来たので、この特性に慣れてきたところで、徐々に進入速度を上げて行き、今度はコーナーの入り口までブレーキを残して進入して、そのままコーナーを2/3くらいまできたら徐々に右足を踏み込んで、最後は豪快なトルクに物を言わせると、結構な速度でコーナーを脱出できた。そんな事を繰る返すうちに、だんだんタイミングを掴んでくると結構速く走れるから、オーナーになれば尚の事、それなりの楽しみ方が出来るだろう。

ブレーキについては、嬉しいことに実に良い。踏力は軽く、いかにもミューが高いと感じるフィーリングは出来の良い欧州車のようで、お世辞抜きにBMWのZ4と張り合える。更に良いのは軽く踏んだ時もジワーッと食いつき、少し緩めると、その分はチャンと減速度を減らせるという実にリニアな特性で、これは今までに乗った国産車では最高の評価を下せる。試乗車より上のグレードにはブレンボー製の対向ピストンキャリパーが装着されるが、普通に使う分にはベースグレードで十分だろう。

※実はこの時点では判らなかったのだが、後程このフィーリングの良いパッドのメーカーは何処かと知らべたら、フロントパッドは何と独テーベス社のT4146という材質で、要するにBMW3を始めZ4も使っている世界的に有名なパッドだったから、BMW Z4と張り合えるのは当たり前だった。
但し、この材質の問題は、減りが早い(寿命が短い)ことと、ローター攻撃性がありパッド交換時にはディスクローターまで交換が必要になるので、結構メンテに金が掛かること。もう一つの欠点は、鳴きやすいことだ。
なお、リアパッドは国産のA社製が付いている。キャリパーは前後とも国産だ。

 
ベースグレードとバージョンTはフロントが225/50R17で、ブレーキキャリパも一般的なピンスライドタイプだ。上級のバージョンSにはフェラーリやポルシェで御馴染みのブレンボーの対向ピストンキャリパーが装着される。

リアは235/50R17と前後でサイズが異なる。
 

豪快な加速とラフなエンジン。スポーツカーというには、お世辞にもクイックと言えない操舵性。実に大味でラフだが、これは北米向けのスポーツカールックなパーソナルカーだと思えば、このコンセプトに忠実なのだと理解できる。
ネットのクルマ関連BBSで、Zは只の乗用車を流用したスポーツカーもどきのインチキなクルマだと言っている連中が居るが、元々、初代S30に遡ると、悪く言えばラフなセドリック用L型エンジンや、その他乗用車のコンポーネンを流用して、カッコ良いスポーツカールックとそこそこの性能を驚異的な低価格で実現したから北米で大ヒットした訳で、現行のZは本来のコンセプトを忠実に現代に再現した訳だ。

ベースグレードのMTで消費税別なら300万円ジャストと言うのは、コストパフォーマンス抜群だし、総額300万円代の中ごろで、この内容のクルマが買えるのは驚異と言える。その面では、サルーンで言えばマークXみたいなもので、細かく見れば、色々文句も言いたくなるが、そこを我慢出来る人や元々気にしない人には大いなる満足を提供できるだろうから十分に薦められる。

それじゃぁ、自分で買いたいかと聞かれれば、うーん、良さは認めるけど、ちょっとね〜。
まあ、自分の趣味では無いと言うことで・・・・。