Toyota Crown 2.5 Hybrid RS (2018/8) 後編 その2


  

ここで新旧のハイブリッド車のエンジンを比較してみると、両車共エンジンは4気筒 2.5Lだが、210 の2AR-FSE 178ps 220N-m から A25A-FXS 184ps 221N-m という新型エンジン変更となった。スペック上の性能のアップは僅かだが、それ以上により静かでジェントルになった事でエンジンの存在が更に希薄になって HV というよりも EV のようになった‥‥ような気がする。飽く迄“気がする”程度だが。

実際にエンジンルーム内を見比べるとエンジン自体は最近のクルマらしくカバーで覆われてエンジン本体は見えないが、勿論カバーは少し違う。それ以上に感じるのはエンジンの搭載位置が新型ではより車体後方に移動したように見える。ということは、多少でも BMW のように前後配分が改善されているのだろうか (写真37) 。

今回の試乗コースは流れの速い国道バイパスが無い為にここまでフルスロットルを試して無かったが、終盤になって広くて空いている道で前後にクルマのいない状態だったので、今がチャンスとばかりに停止寸前の速度からフルスロットルを踏んでみた。発進直後にはハイブリッドらしくある程度のトルクを感じながらの加速だが、速度が上がるに連れてチョイと迫力が無くなってくるが、それでも加速自体はマアマアというところで、計算上のP/W レシオの 8.2s/ps という値が示すように、高性能感は無いが一般のクルマとしてはマズマズの加速で、もっと胸のすく加速を求めるなら 3.5ハイブリッド RS Advance (690万円) を選ぶしかない。

写真37
どちらも4気筒 2.5L ながらも S220 は新型 A25A-FXSで184ps / 6,000rpm 221N-m / 3,800rpm 〜 5,400rpm。
S2210では 2AR-FSE 178ps / 6,000rpm , 220N-m / 4,200rpm 〜 4,800rpm 。

エンジンの違い以上に搭載位置が S220 の方が後方である事が判る。

次に操舵系について纏める事にする。操舵力はクラウンだから重い訳が無いが、かといって軽過ぎるという事も無く、まあチョイと軽めだが適度と表現しておこう。レスポンスもこれまたクラウンだからクイックとは言えないが、BMW だって中心付近は意識的にレスポンスを落としている位だから、クラウンの多少緩慢なレスポンスもこのクルマの性格からしたら充分に良いところを狙っている。とはいえ、昔のクラウンやクライスラー300 のように気になるくらいにトロいという訳では無い。
 ⇒ Chrysler 300C Luxury 試乗記 (2013/5)

今回も本気のコーナーリングを出来るような場所も状況も無かったが、途中の地方道のコーナーで試した限りでは思いの外アンダーステアが少なく、クラウンという車名から想像するイメージよりはマトモだった。そして乗り心地はというとこれが結構良いが、以前のクラウンのフワフワを乗り心地が良いと感じるようなドライバーには硬さを感じるかもしれない。しかし最近の国産車に多い欧州車を見習ったようなセッティングからすれば寧ろ柔らか目に感じるくらいだが、それでも路面からのインフォメーションは適度に感じられ、まあこの辺は長年のクラウンのノウハウからギリギリの妥協点を決めたのかとも思う。そして S210 と比較すると、これは明らかに新型 (S220) の方がより欧州車的方向に振っていて、 S210 のオヤジクラウンっぽさが減っているのは良い事だ。これなら欧州とは言わないまでもアジア圏らならば輸出しても売れるのではないか。

ブレーキについては、トヨタのハイブリッドだからフルエレキの所謂ブレーキバイワイヤーで、念の為に付け加えるとこのワイヤーというのは電線の事で、ペダルとブレーキメカには機械的な繋がりが無く、電線で繋がっているという意味だ。これを間違えると日産の高級車のハイブリッドで使用しているメカ的にマスターシリンダーを制御する方式もバイワイヤーと勘違いしてしまうのだ。それで機器は他のトヨタ製ハイブリッドと同様に本当に電線だけで繋がっているとは思え無い程に自然で、多くのドライバーは普通の油圧式ブレーキだと思っているだろう。踏力は勿論軽めで非力な女性でも問題無くフルブレーキが踏める (と思う) 。

なおホイールから覗くブレーキユニットの新旧を比較すると、どちらも普通の片押しピストンだが、キャリパー自体は別物となっている。今回からリアのパーキングブレーキが電動式となった事もあり、その付近のレイアウトも変更されたのだろうか、リアの取り付け方向も変更されている。


写真38
220 RS のタイヤは225/45R18、210 アスリートは 215/55R17 と幅、径ともサイズアップしている。


写真39
ブレーキは鋳物製片押しシングルピストンキャリパーだが、ユニットは違うようだ。リアブレーキは取り付けが前付けに変更されている。

さて結論としては今回の新型は歴代クラウンの中でも最もマトモなクルマとなっていたし、それでいてクラウンらしさもある程度残っているから、出来栄えはかなり良いと評価して良い。今回のクラウンの売れ筋は今回試乗した 2.5 ハイブリッド RS であり、RSが一番人気という事はユーザーにはヨレヨレのジジイ (&ババア) が少ないのだろう。しかも TRD とかモデリスタ等のコンプリートモデルもある程度売れているらしいが、何もあの手のクルマを買うのにクラウンを選ぶ事も無かろうに、とか思ってしまうが、金を出す本人の自由だから、他人が「あんなの買って、バッカじゃねぇ」なんて事は思っていても言うべきではない (あれっ、言わないけど、書いてしまった)。

トヨタはレクサス国内展開を始めた10年前には本気で欧州車オーナーが乗り換えると思っていたふしがあり、更に若いクラウンオーナーもレクサスに向かわせる事でレクサスの国内販売を充分に確保すると読んでいたのだろう。これに乗せられて騒いでいたのが文化人というかクルマ音痴の自称知的階層で、海外ではレクサスが最も評価の高い高級車なのに、それを知らないブランド趣味の日本人は輸入車を買うとか言っていたが‥‥。ああいう輩は今は何のクルマ乗っているのだろか? その後本当の違いが判って、シレっとしてメルセデスに乗ってるとか? いや待てよ、今では仕事も無くスーパーカブしか買えない‥‥ってこたぁねぇだろうが‥‥。

話をクラウンに戻して、今回の試乗車である 2.5 ハイブリッド RS の価格は 542万円で、これにオプションのセーフティーパッケージ (12.1万円)、レザーパッケージ (28.5万円) を加えると583万円となり、これではもうひと頑張りで BMW 523i (635万円) が買えるし、3シリーズだったらば 320i M Sport (583万円) が買えてしまう。確かに新型クラウンは従来の国産車丸出しでは無く、欧州車と比べてもそれ程惨めにならない程度に進化したが、価格も欧州車並みとなってしまったところが何とも痛い。まあそうは言っても立場上国産車に乗らざるを得ないオーナーもいるだろう。欧州車がこれだけ増えたと言っても開業医が 404万円のメルセデス CLA を買ったらば無知な患者がなんだぁかんだと陰口を叩くだろうが、600万円近いクラウンを買っても当然と思われるという実状がクラウンの役割を物語っている。

更には公務員 (高級官僚) も“外車”はご法度で、そう言えばセクハラ問題で辞任した財務省の元事務次官(通称おっぱい次官)の自宅映像にはプライベートカーとして“白いクラウン”(多分アスリート) が映っていたのを思い出した。
 ⇒ 日記特別編 高級官僚の送迎車 (2018/4/22)

うーん、やっぱりクラウンは重要だ。恐らくモデルチェンジを繰り返しながら延々と生き延びるだろう。

さて、クラウンともなると、ここは一つ久々に特別編でのライバル比較と行きたいところた。そうなれば候補としては価格的に大分近付いてきてしまったBMW 5シリーズかメルセデス・ベンツEクラスというのが定番だが、さてどちらを選ぶべきか? いやこうなったら両方とも比較相手として三つ巴でやってみようと言う事と相成った。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。


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