ダイハツ コペン (2005/5/13)

 

 


フロントからの眺めはファニーフェイスで、これが好き嫌いの分かれ目になるだろう。

リアは中々良いデザインで中央の2本出し排気管などは欧州のスポーツカー的だ。

スポーツカーという言葉で連想するのは、一体どんなクルマだろう。ある人は高性能こそスポーツカーの証とフェラーリやランボルギーニなどのスーパースポーツを連想するだろ。また、ある人はスポーツカーとは絶対的な性能ではなく、あくまで乗り手が如何に楽しめるかだから、ライトウウェイトのオープンカーこそスポーツカーだと思うだろ。そして、ライトウェイトスポーツカーと言えばイギリスが本家で、1950年代から60年代にかけてMG、トライアンフ、オースチンなど正にブリティッシュライトウェイト花盛りだった。これらは何故かユーモラスな顔が多く、コペンのファニーフェイスもルーツは50年前の英国と言うことだろうか?
ところで、日本でのオープンスポーツと言えばフェアレディZ試乗記で触れたオープンのフェアレディ1500(SP310)や2000(SR311)が思い浮かぶが、ライトウェイトと言えばホンダS600だろう。1962年にショーで発表された時は360ccの排気量だったが、63年の発売時点ではS500という名称で、要するに500ccだった。当時の国産車のエンジンはOHVが主流で、例えばセドリックのH型エンジンは1.9ℓで88ps/4800rpmなどという時代に、S500はDOHC 531ccで44ps/8000rpmという、当時としてはスポーツカーどころかレーシングカー並の性能だった。それでも市場でのモアパワーの要求は限りなく、その後はS600、S800と拡大の一途をたどっていった。
その頃、まだガキだった B_Otaku は学校帰りに悪ガキ仲間と近所の整備工場の駐車場に置いてあるS600の運転席に勝手に乗り込み、シフトレバーをガチャガチャやって喜んでいた。今なら、良くて追い出されるか、一歩間違えば警察に引き渡されても文句は言えない行動だが、当時は良き時代で、オーナーである整備士のお兄さんは、クルマおたく予備軍である我々に、スカGとベレG※注の違いとか、S600とヨタハチのドッチが良いかなんて能書きを話してくれた。
実は当時、忘れてはならないのが、ダイハツがオープンカーであるコンパーノ・スパイダーを1963年から発売していた事だ。この当時に乗用車(実は商用車であるバン)ベースの4シーターオープンというのは極めてユニークだったが、売れ行きの方はパッとしなかったので、今となっては超レアなアイテムと言える。だから、ダイハツにとってオープンカーというのは、特別な思い入れがあるのかもしれない。

時代は30年ほど経過した1990年、世はバフル経済によるバカ騒ぎで日本中が贅沢に浸りきっている時に、軽自動車のスポーツカーが、それも複数のメーカーから発売された。
ホンダビート(1991)はミッドシップエンジンにオープンボディという構成で、当時は軽のNSXなんて言われてホンダフリークがこぞって購入したが、例によって買うべく人たちの手に行き渡った後はパッタリと止まり、後は在庫処理で細々と販売が続いていて、その後いつの間にか生産中止となっていた。
スズキカプチーノ(1991)はビートと異なり、フロントエンジンのオープンスポーツで、軽のくせに長いボンネットを持つオーソドックスな外観で、今でも程度の良い中古車はかなりの高値で取引されているようだ。ビートの中古価格も結構高いが、カプチーノは更に高い。
これらの2車に比べて、マイナーではあるがマツダオートザムAZ−1(1992)はミッドシップエンジンのクローズドボディで、言って見れば軽のスーパーカー的な成り立ちだったが、殆ど走っているのを見たことは無かった。
当時、ダイハツも軽のオープンである、リーザ・スパイダー(1991)を出していたが、ビートとカプチーノがスポーツカー路線であったのに対して、こちらは女性ドライバーをターゲットとしたスペシャリティカーだった。

そんな時代から十年以上経過した2003年に、ダイハツからコペンが発売された。独特の愛嬌あるスタイルと、メルセデスSLバリの電動メタルトップというユニークな軽スポーツは、その後2年経った今でもバックオーダーを抱える程の安定した人気で、ダイハツのオープンカー、というより国産の軽オープンカーとしても異例の売れ行きとなった。今回は2周年記念モデルに乗る機会があった。実はB_Otaku のクルマ試乗記としては記念すべき軽カー第1号となる。

※注 ベレG:いすゞベレットGTの通称名。当時はスカG(プリンス(後にニッサン)スカイラインGT)と共に日本を代表するGTカーで当時の若者の憧れだった。
ヨタハチ:トヨタスポーツ800の通称名。パブリカをベースにエンジンを100cc拡大し空力に有利な軽量ボディにより、ひ力な水平対向2気筒空冷エンジンでもホンダS800と対等な勝負をした。今のトヨタからは考えられないくらいの理想論的なクルマで、ベースのパブリカと共に当時のトヨタの設計志向が今とは全く異なっていたことの証である。


左はトライアンフTR(1952)。当時のライトウェイトスポーツは
ファニーなフロントフェイスを持つものが多い。
コペンのユーモラスな顔つきもルーツはこの辺にあるのだろう。
右はホンダS600。日本車のエンジンが未だ0HVの時代に
DOHC4気筒というのはスポーツカーどころかレーシングカー
並だった。

世はバブルの末期だった1991年に発売されたホンダビート。ミッドシップエンジンレイアウトとハイチューンのNAエンジンという如何にもホンダらしい軽スポーツだが、想定されるユーザーが買った後は泣かず飛ばずで、いつの間にか忘れ去られた。

スズキカプチーノもホンダビートと同時期の1991年に発売された。フロントエンジン、リアドライブでロノングノーズのオーソドックスなオープンスポーツを軽自動車枠で実現した。中古車人気は非常に高い。

今回試乗したのは発売2周年を記念した2ndアニバーサリーエディションという限定モデルで、車両価格が183.855万円(消費税含む)と標準モデル(162.855万円)に対してに税抜き価格では20万円のアップとなる。追加される装備はレカロシート(シートヒーター付)、MOMO製ステアリング、ディスチャージヘッドランプである。

ミッションは5MTと4ATの設定がある(価格はどちらも同じ)が試乗車は4ATだった。

外観、特にフロントから見たときのユーモラスな顔つきは人によって感じ方が異なるだろうし、これが好きか嫌いかが評価の分かれ道になるだろう。実はB_Otaku も、このファニーフェイスは決して絶賛できないが、1950年代の英国製ライトウェートスポーツのようだと言えば、納得するものもある。賛否両論のフロントに比べてリアは中々良い。中央2本出しの排気管はボクスターのようだし、楕円でまとめたランプ類とリアのボディ形状がマッチして独特の雰囲気をかもし出している。


中々スポーティなフロントインテリアの眺め。このクルマは記念モデルのためドア内張りも赤を配して、全体的に黒/赤のツートーンで独特の派手さが演出されている。

乗り込んでみるとレカロシートの硬い座面と、サイドサポートのお蔭でピシッとした姿勢が保たれる。赤と黒の内装はコペンのようなファンカーには合っていて違和感は無い。ドアを閉めた時の音も重量感があるとは言わないまでも軽としては十分マトモだし、室内幅も我慢が出来ないほど狭くは無い。元々スポーツカーと言うのはワザワザ狭くしてタイト感を演出している場合が多いから、コペンの狭さも気にならない。(コペンの場合は演出ではなく、元々狭いのだけど)
着座位置はスポーツカーらしく実用車に比べて低いが、運転中は地を這うような低さは感じられない。
シート位置を決めてステアリングを調整しようとしたら、上下にチルトはするが前後の調整はなくシートに合わせるとステアリングは遠く、ステアリングに合わせればペダルは近付きすぎるという、国産車御馴染みの状況だが、軽自動車にステアリングの前後伸縮機構を望むのは酷とも言える。結局、ペダルが少し近いのを我慢するのと、シートを立てて少しでもステアリングに近づけることで、何とかなりそうな位置を探して妥協した。
ところが、ある人の指摘により後日カタログを良く見ればテレスコピック&チルトステアリングと書いてあるではないか!一生懸命に引っ張っても、ステアリングはビクともしなかったから付いてないと思ったのだが、もしかするとストッパーまできていたのか?そういえばコペンの4倍近い価格のマジェスタでさえ調整範囲が狭かったから、軽にしては立派ということか。それともB_Otaku の体型が設計時の想定外なのか?

今回の試乗はコペンというクルマの特徴を考え、全てフルオープンで実施した。試乗日は5月中旬の薄曇りで、問題の花粉も一段落した時期だから、まさにオープン走行には一年で一番適している時期で、コペンにとっては実際以上に好評価を得る可能性があるが、まあ、硬いことを言わない行こう!


3連メーターもセンスが良い。フルスケール10000rpmの回転計と140km/hまでの速度計が軽自動車であることを物語っている。

4速ATは最近の欧州車のようにDレンジから左に倒してマニアルモードとなる。軽のATとしては言う事なしで、伊達に高価な訳ではない。
 

フロアにあるATのセレクタをDに入れていよいよ走り出すと低速トルクは十分で、通常のクルマの流れに乗るには、それ程右足に力を入れなくても大丈夫だ。64psと11.2kgmを発生する660ccのDOHCターボエンジンは、2000rpmで最大トルクの90%を発生するので、ATであることも手伝って実に乗りやすい。4速ATはショックも無く、普通のドライバーが普通に走っても違和感は無い。普通車と違うのは流れに乗って巡航している時でも回転計は2000〜3000rpmと少し高めを指していることだが、元々ピストンやコンロッドなどの部品の寸法が小さく、重量による慣性が小さいのだから、高回転でもエンジンへの機械的負荷は大した事は無く、大きな問題はないだろう。エンジン音は決して静かではないが、オープン走行の場合は隣に大型トラックなどがいれば、そちらの騒音のほうが余程大きいから、気になることは無い。
今度は信号待ちからの発信時にフルスロットルを踏んでみると、4000rpmあたりからは勇ましい音がするが不快というほどでもなく、7000rpmくらいまで回ってシフトアップした。高回転時の振動もまあ我慢できるし、むしろMR−2のような不快感と騒音を撒いている気恥ずかしさが無い点で優れている。2車線の幹線道路の一般的な状況なら、十分に流れをリードできる程度の加速はするのには感心さえした。軽自動車とは言え少なくともターボモデルなら、幹線道路でも交通の流れを邪魔するほど遅くは無いのが理解できた。朝のクルマ通勤で前にいるヤタラ遅い軽がクルマの性能が原因かと思っていたが、どうもそれだけでは無い様だ。

コペンのATには欧州車のティプトロニクスのようなマニアルモードが付いている。Dレンジからセレクトレバーを右に倒すとマニアルモードになり、押して+、引いて−となる。BMW等に載っているZF製やポルシェのティプトロと比べては酷だが、コペンのマニアルモードはレスポンスも操作感も、どうもイマイチというか単なるオマケで、自分でギヤ位置を選びたいならMTを買うべきだろう。という訳で、マニアルモードで攻めてみようなどという目論見は早々に諦めた。


フロント165/50R15と軽自動車としては大径なホイールが標準装備される。ブレーキはベンチレートディスクが奢られている。

リアのタイヤはフロントと同一。ブレーキはドラムとなる。見かけから言えばリアにもディスクを使って欲しかったが、軽のリヤブレーキの負荷から言えばドラムで十分で、性能上は全く問題ない。

今回の試乗はオープンで、しかも大部分をサイドウインドまで降ろしたフルオープンで走ってみた。結果は思いの外、風の巻き込みが少なく、一般道での70km/h程度までの走行なら十分に使える事が判明した。後半にサイドウインドを上げてみたが、劇的な変化を感じなかったのは、フルオープン時でも巻き込みが少ないからだ。

コペンをスポーツカーと考えれば当然気になる操舵性だが、一言で言うと軽い操舵力と結構クイックな特性で、FFとして最も素直な部類に入るだろう。この軽さは本当に車重が軽い事からくる軽快さで、BMW7シリーズが2トン級のボディを金に糸目をつけない高度なメカとハイテクを使って実現した軽快感が所詮人工的な物(勿論、これはこれで大したものだし、この特性は大好きだが)だと感じてしまう。クルマに大分慣れたので、御馴染みの旧道を使ってコーナーリングを試してみると、これがまた面白い!低速時に感じたのと同様に、結構ニュートラルでFFとしてのトルクステアも感じないし(トルクが無いのもあるが)実に素直な特性だ。速度自体は大した事はないのだが、体感速度が速い事による満足感がある。最大のメリットは車幅が狭いことによる安心感から、余裕でコーナーに進入できる事で、いくら性能が良いといっても車幅が1800mmのボクスターで側溝を除けば実質片側2.7m程度の6m道路のコーナーを攻めるのは、対向車やもしもの歩行者などを考えれば十分なマージンを必要とするが、1475mmのコペンではこの点実に気が楽だし安全に楽しめる。

乗り心地は結構硬いが、これも不快という程ではない。路面の荒れた舗装では、オープンボディからくる剛性の低さから、サスの動きとともにクルマ全体がブルンブルンと震える感じがするが、これが良いほうに作用して、突き上げ感を緩和している。軽量な軽のオープンという事から、元々剛性なんか期待していないから、ブルブルしても気にならないばかりか、これもオープンらしさと嬉しくなるのもコペンの人徳?だろう。

ブレーキは国産車の平均的水準はクリアしていて、元々軽くて大したスピードも出さないコペンには十分だ。1年程前にチョい乗りした某新型軽自動車はヤタラとストロークが長く、少し強い制動時にはペダルはかなり奥まで入っていったから、軽のブレーキなんてそんな物と思っていた認識からすればコペンは十分に立派だ。


電動メタルトップを上げるところ。まず、トランクが空いて屋根を出す準備をする。

次にメタルトップが上がってきて、最後にまたトランクが閉じて完了。
 
メタルトップを上げたときの室内。安物のソフトトップとは違い、流石に居住性は良さそうだが、閉塞感はかなりある。やはり、コペンはオープン走行が基本だろう。


メタルトップを上げたときの側面からの眺め。
カプチーノやビートのように低くはないが、それがフロントのユーモラスな顔とマッチして、独特の個性を見せている。

試乗が終ってデーラーに戻ってからメタルトップを上げてもらった。この価格で、しかも軽自動車であることを考えればメルセデスSL並みの電動メタルトップというのは実に大したものだ。ところが、クローズド状態で運転席に座ってみれば閉塞感に驚き、先ほどまでの開放感と好印象が一気にあせてしまう。やはりコペンは一年中オープンで乗るべきで、メタルトップは急な雨と駐車する時の盗難防止策と割り切るべきだ。

オープンで走行するとBMW Z4などで感じる周りの視線を、今回の試乗中は気のせいか感じなかった。それにボクスターのように周りのクルマが傍に寄らずに、自分の周りがガラガラということもなかった。そりゃまあ、間違ってぶつけて全損でもさせて、中古マンション一件分請求が来たり、うっかりトラブって後日にシャコタン、フルスモークの中古ストレッチベンツに乗った”部下”が交渉に来たりという心配は一切無さそうだから、周りのクルマも何の意識もせずに普通に対応するし、コペン自身も周りの雰囲気に溶け込んでしまう。
幹線道路でも精々70km/h程度で十分楽しめるから、年度末でノルマ達成を焦る下っ端警官や安全運動中の検挙率を上げて本部のキャリア組に良い顔したい成り上がり署長の命令でも無い限りネズミ捕りに掛かることも無いだろう。

軽自動車に総額200万円近くを、それも実用性に乏しい玩具と思えば何とも無駄な買い物だ。しかし、たった200万円で、こんなに面白い玩具が買えるとも言える。何しろ、ボクスターのベースグレードの1/3で買えるのだから、つい衝動買いをする人もいるだろう。コペンほど、個人の感性で評価が変るクルマも珍しいが、こういうクルマが発売後2年たっても、未だ地道に売れていることを考えれば、日本人のクルマ感も大分おとなになって来たと喜ぶべきだろう。