FORD MUSTANG V8 GT COUPE PREMIUM (2015/2) 中編

  

前編ではマスタングの歴史と試乗車のエクステリアを中心に解説したが、引き続き今回はインテリアを中心とする。それで早速インテリアを見るためにドアを開けるが、LHD だから左側のドアを開けるとレザーを多用したブラックのインテリアカラーと白いステッチが目に入る。レザーの仕上げは表面が光っていて見た目に柔らかそうな気配な無いし実際に触ってみても硬めで、英国車のような薄くなめした感じではないし、ドイツ車のように分厚くてシボがハッキリとしている訳でもなく、これが米国流なのだろうか。ある面、日本車のレザーにも似ているが、これはまあ個人の趣向により評価も変ることになる。

シート形状はスポーツシートということだが、写真を見ても左右の張り出しは少なくて、ガッチガチのバケットシートという訳ではない。マスタングに限らずニッサンの Z カーでも同様だが、米国ではマニア相手のクルマは純正/社外品を問わず豊富なオプションがあり、ユーザーはこれらを自分の趣味に沿って選ぶことでカスタマイズすることが盛んなようだ。まあ、日本でもその手のユーザーがいるが米国の比ではなく「やっぱりアチラは本場だわい」と納得するものがある。日本ではカスタマイズが普及しなかったのは長年に渡ってお上が否定的だったことが原因だが、外圧により渋々認めたものの長年クルマは買った状態で乗る事が一般市民では常識化してしまったために、米国のような自由なカスタマイズの市場は大して発展していない。

外圧という面では、例えば今回の試乗車には車両型式が明記されていないが、これは正式な型式認証を受けていないからだ。クルマは原則として国交省の認証を受けないとナンバーを登録できないのだが、輸入車のように販売台数が少ないものは特例として認証試験が簡略化されることで、日本市場の閉鎖性を回避して海外からの批判をかわしているのだが、それでもこれでは平行輸入が成り立たない。そこで並行輸入車の場合はさらに特例があって、型式認証を受けずに、要するに型式無しで車検が交付される。今回のムスタングはフォードの日本法人による正規の輸入品だが、恐らく販売台数が少ないために輸入車の特例を使っても認証を取得するには経費が出ないことから、並行輸入車として登録を実施していると思われる。そして認証試験を行っていないと言うことは排ガス試験も行っていないから、それに付随して計測されるJC-08 燃費なども不明となっている訳だ。

話を戻すと、フロントドアは結構デカくてそのためにリアシートへのアクセスは意外と容易だし、リアスペースも思いの外広く、リアシート形状も一応人間を乗せる形をしている。というのは、ポルシェ 911 のリアシートなどと比べた場合だが、どんなに狭くともリアにスペースがあるのは実用的には非常に有用だ。これはニッサン Z カーやポルシェ ケイマンなどの2シーターと比べれば一目瞭然であり、米国人は特にリアシートを要求する傾向があり、どんなに狭くてもリアシートのある方を選ぶユーザーが多いようだ。狭いリアシートで思い出したが、以前日本ではソアラと言っていたレクサス SC のリアシートなんて、これにどうやって乗るのだろうか、という程の狭さだったが、それでも敢えて2シーターでは無く +2 としていたのも、米国のユーザーの要求ということだろう。

シートの調整は当然ながら電動式だが、その操作スイッチの形状は欧州車とは異なっている。まあ、慣れれば特に問題はないが、始めて乗るとチョっと面食らう (写真32) 。シート表皮はセンターに通気穴の開いたタイプだが、座ってみるとホールドは決して良くない、というよりもチョッと滑りやすい。そして、最近のクルマでは定番となったスカッフプレートは当然ながら "MUSTANG" のロゴが付いているが、欧州車のような高級感はない。まあ、この性能でこの価格を維持するには余計なコストを掛ける余裕は無いだろうからこれでも納得はできるし、性能には全く関係のない部分だから良い事にしよう。

写真31
ブラックのインテリアカラーとレザーシートに白いステッチなど、一見すれば結構高級そうだが、レザーの質はちょっと好みが分かれそうだ。

シート形状は大人しい形状をしている。リアシートは一応人が乗れるスペースと形を確保している。


写真32
スカッフプレートは欧州車に比べて質素だから華は無い。


写真33
シートセンターは通気孔付き。表皮のレザーはツルツルで光っていて、これまたイマイチ高級感に欠けるのは価格故か。

大きなフロントドアのインナートリムはハッキリ言ってプラスチッキーというやつだが、それでもアームレスト付近の肘が当たる部分にはレザー (人工皮革か?) 張りのソフトパッドとなってはいる。しかしそれ以外の部分が安っぽいのは単にコストダウンのみではなく、プラスチックの成形や表面処理 (塗装) 技術がイマイチなのが原因ではなだろうか。すなわち、シボ模様が如何にもインチキっぽくて、日欧のようにレザーと見紛う出来の良さ等とは縁遠いものだ (写真36) 。さらに表面が妙にテカっていて、もう少し何とかならないモノだろうか、と思ってしまう。まあ、この辺がアメリカンであり、日本人のようなキメ細やかなセンスが無いのは仕方がないところだ。また、アームレストの上面は弾性樹脂を使用した成形品であり (写真35)、欲を言えばここにもレザー張りのソフトパッドでも使って白いステッチなどで強調すれば、結構良くなると思うのだが‥‥。

写真34
広〜いドアを覆うインナートリムはハッキリ言ってプラスチッキーだ。それでもアームレスト付近の肘が当たる部分にはレザー張りのパッドが使われている 。


写真35
アームレスト自体はレザー張りではなく弾性樹脂を使用した成形品となる。


写真36
それ以外の樹脂部分はシボの模様や表面処理の下手さで、高級感を大いに削いでいる。

次にインパネに目を移して、先ずは左端のライトスイッチはドイツ車とほぼ共通な丸型の回転式で、これはもしかすると日本以外のメーカーでは標準化され始めたのだろうか (写真38) 。このスイッチのオフ位置の左には何やら後から貼り付けたような " ACC PULL" というシールが見えるのは、前編でも触れたがラジエターグリルに組込まれたフォグランプの光軸が僅かにヘッドランプより上にあるため、恐らく日本の法律に引っかかってしまい、光量を落としてアクセサリーランプという事で一件落着したと推定する。そして、前編では "もしかして、電線一本つなぐと復活とか?" と書いたが、その後の情報では単に中のバルブ (電球) が違うだけで、ここに本来のハロゲンバルブを入れれば見事にフォグランプとして復活するそうだ。というよりも、アクセサリーランプ用の低照度バルブなんて普通のところでは手に入らないから、もしも切れたらばカーショップ等で普通に売っているハロゲン球を入れる事になって、結局フォグランプとして復活するという笑い話になってしまう。

インパネ全景はメーターを含めた上部に水平に走るシルバーのトリムがスポーティーさを表しているが、このトリムは多少つや消し処理をされていて、まあ特に高級感は無いが安っぽくもない。その上部、すなわちインパネ天部は弾性樹脂を使用していて押すと柔らかいが、見た目などはドア側アームレストと同程度だ (写真39) 。このクルマが発売されたのは2005年だからインパネの設計も10年前の基準であり、今見れば時代遅れの感があるのは仕方のない事でもある。

写真37
インパネを一見するとメータークラスターを含む水平のトリムラインのシルバーが目に付く。

全体の雰囲気は10年前の発売という設計時点の古さを感じさせる。


写真38
ドイツ車のような回転式のライトスイッチ。左上には "ACC PULL" というシールが貼ってある。


写真39
シルバートリムとその上のインパネ天部の弾性樹脂によるパッドなどは高級感は無いが安っぽくもない。

センタークラスターの最上部には主としてオーディオに関するディスプレイがあるが、細いグリーンの文字が妙に繊細で、5.0L V8を積むマッチョなアメ車には似つかわしくない気もする。その下にはオーディオ用のコントロールパネルがあるが、結構なスペースを使って各種操作スイッチを並べてあり、最近のダイヤル操作とディスプレイ表示を使って深い階層まで降りて行かないと操作できないハイテクタイプと比べれば、直接ボタンをひとつ押すだけだから明らかに使い勝手が良い。

その下のエアコン操作パネルも人間を模した画が付いていて解りやすいが、これってボルボの方式に似ている。と、思ったらボルボも以前はフォードグループであった事もあり、まあシコタマ痛い目にあったのを思い出した。


写真40
センタークラスターにナビのディスプレイは無いが、このクルマには寧ろそれが似合っている。


写真40
センタークラスターの夜間照明はグリーンを基調としている。


写真42
オーディオの操作スイッチ類は数が多いが最近のIT化による階層構造よりも圧倒的に使いやすい。


写真43
エアコンの制御パネルも見やすいが、人間の形など何やらボルボっぽい。

マスタングのエンジン始動方法はステアリングコラム右側面のキーホールに金属製のキーを差し込んで撚るという、良く言えばレトロな方式だ。しかも、このクラスなら当然キー溝が内側にあって複製が難しい、一昔前の高級車の代名詞でもあった内溝キーかと思いきや、何と安物丸出しの外溝キーだった (写真44) 。

AT セレクターはフロアーコンソール上にあるオーソドックスなものだがゲートはなく直線式で、しかもD の手前は S であり、そこから横に倒してマニュアル操作は出来ない。それじゃあ、マニュアルでは使えないのかといえばそんな訳も無く、ステアリングホイールを見ればマニュアル用のパドルスイッチが‥‥無い! 実はATセレクターのグリップ部分の側面のスイッチでアップダウンを行うのだが、これに付いては走行時に再度説明する。 なお、ステアリングホイールのスポーク上には各種スイッチが並ぶが、このデザインも当然アメリカンだ。

そして足元のペダルを見ると、立派なアルミスポーツペダルが付いている (写真48) 。更にペダル配置はといえばブレーキペダルと左端のフートレストとの間がヤケに開いているが、これは恐らくMTモデルの場合にはこの位置にクラッチペダルが付くことで、アクセルとブレーキは共通な配置にしているのだろう。今やAT時代で日本においてはMT車は絶滅危惧種的存在だから、AT の本家である米国は更にMTが少ないのかと思えばそんなことは無く、BMWなども殆どのモデルにMT が用意されている。というよりも米国のBMWは基本価格はMT 車で表示されていてAT はオプション扱いとなっているくらいだ。


写真44
エンジン始動は金属キーを差し込んで撚るレトロな方式。キーは高級車の代名詞の内溝ではなく普通の外溝方式だ。


写真45
AT セレクターのパターンはDの手前が S であり、欧州式のディプトロタイプとは異なる。

写真46
フロアーコンソール上のAT セレクターは直線式で欧州車とは趣を異にする。


写真47
ステアリングスポークもやっぱりアメリカンの雰囲気がある。


写真48
ブレーキペダルとフートレストの間にはクラッチペダルに調度良いスペースが空いている。

メーターはクロームメッキされた外側リングが目立つ事と、速度計の文字が20q/h 毎に大/小を繰り返し、その文字は右側の回転計も含めて縦長の書体で、これらが相まって良き時代のアメリカンというか独特なレトロ感を醸し出している (写真49) 。また2つのメーターの中間にはディスプレイがあり、これは最新の設計のクルマと変らないくらいに各種表示が可能で、例えば写真51 のようシリンダヘッド温度計などもアナログっぽく表示するし、各種設定の画面にもなる。

クルマというのは昼間の姿と夜の姿が大きく変る場合がある。というと、何やら卑猥なことを想像する読者もいるだろうが、残念ながらその手の話ではなくてメーターやセンタークラスターの夜間照明の話だ。普通はディーラーでの試乗は昼間のうちに行うから、これが夜間になるとどういう照明になるか判らない場合が多く、特にそんなことを気にせずに購入に至ったとして、納車されてから始めての夜間走行で照明を付けた瞬間にそのセンスの良さに驚いた、何ていう話も結構ある。特にBMW の夜間照明は十数年前のE46 時代でもオレンジ色の照明とエアコン関係の一部の赤と青がパネルに反射して、トライバーは実に都会的な美しさに浸れて感動したものだった。何故なら当時の国産車の夜間照明ときたら、何やら下品なネオン街を想像する代物だったからだ。

そんな事を踏まえてマスタングの夜間照明はといえば、センタークラスターは既に掲げたようにグリーンだが、メーターは何故か紫というかピンクというが、悪く言うと高速道路のインター付近にあるお城のような形をした怪しいホテルのネオンの色、という感じだ (写真50) 。あれっ、やっぱり卑猥な話になってしまった。

写真49
クロームメッキのリングや文字の形状など古き良き時代のアメリカンを表現したメーターが雰囲気を盛り上げる。


写真50
メーターの夜間照明はちょっと怪しいピンク系。


写真51
メーター中央のディスプレイは多機能で切り替えにより各種表示が可能。写真はシリンダー温度表示の状態。

このようにマスタングのインテリアは基本的にはレトロなアメリカンで統一されているのは、やはりリビングレジェンドの思想だろう。

ということでインテリアをひと通り紹介したのでいよいよ走り出すことにするが、この先は後編にて。

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