走るについては有り余るパワーは解ったが、それでは曲がるの方はどうだろうか? まあ、ハッキリ言ってアメ車がパワーが有るのは昔からの事だが、これが操舵性能となると印象は良くない。何しろフラフラで曲がらないというイメージが強いし、米国のフリーウェーなんて真っ直ぐな道が延々と続くわけで、寧ろステアリングホールを少し動かして反応するくらいのレスポンスだと返って疲れるだろう。それでも最近はずいぶん良くなっているという印象もあるが、それも "以前よりは" という注釈付きであって、例えば2年ほど前に試乗したクライスラー 300 は一昔前のクラウンのように緩慢なステアリングだった。
それでマスタング GT はといえば、結論を先に言えばクライスラー 300 と比べれば全く異なり、中立付近の不感帯も少ないし、レスポンスも丁度良いくらいだ。とは言え、BMW 5シリーズみたいなのを期待するのはチョイと無理だが、例えば最近改善著しいクラウン アスリートや、一応欧州車を目標にしているレクサスGS と比べると良い勝負というか、結構特性が似ているというか、要するに米国人の好むスポーティーというところだろうか。
それでは旋回特性自体はといえば、今回は特にワインディング路を必死で走るようなことはしていないが、何時も BMW の試乗に使う地方道でのコーナーを常識的な範囲で少し速目に通過する程度ならばアンダーステアも極々弱く、特別なハンドリングマニアでも無ければこれで十分という感じで、実はこれもクラウン アスリート的だった。考えてみればBMW 5シリーズでさえ軽快な操舵性という面では4気筒の523ï が一番であり、基本的に同じボディーにV8エンジンを積んだ M5 やアルピナ B5 はどうしても軽快さで 523ï に一歩を譲るのも事実であり、その面では 5.0L V8 を積むマスタング GT も決して悪くない、というかアメ車という目で見れば驚異的な旋回性能、ということにもなる。あれっ? ちょっと褒め過ぎかな。まあこれは、言ってみれば偏差値70の生徒が90点をとると「ダメだなぁ、もっと頑張らないと」と言うが、偏差値50の生徒が70点をとったらば「おおっ、今回は頑張ったじゃないか」と言いたくなる教師の心境だ
マスタングの旋回性能をあまり期待していなかったのは、一つにはリアサスが今時珍しいリジットだと言うこともある。逆にリジット故のアメ車らしさも期待していたが、何も知らずに乗れば全く気が付くことはないくらいで、これは写真69 のように十分な長さのトレーリングアームで固定したアクスルは長いコイルスプリングとシッカリしたダンパー、そしてスタビライザーで固めるなど、下手な独立懸架よりも凝っているくらいだから、こういうのは効いているだろう。
マスタング GT は乗り心地についても欧州車的というか、アメ車らしくないというか、結構硬めだが決して乗り心地が悪いことはない。ただし、スポーティーに締め上げられたダンパーは大きな段差など大入力に対しては一瞬だが強い突き上げがあるが、普通の道路では充分にフラットな乗り心地となる。走行中のボディの剛性感はBMWとは言わないまでも充分で、特に軟な印象は無い。マスタングの場合、2ドアクーペだから開口部が少なく、さらにリアクォターウィンドも小さいなど、かなり有利なボディ形状であることも影響しているだろう。マスタング GTの 1,680 kg という車両重量は 5.0L V8 エンジン搭載車としては充分に軽量な部類だが、それでも剛性不足を感じないのは、これまた立派なものだ。
さて、最後の止まるについては、アルミホイールの隙間から覗くキャリバーは、フロントの場合アメ車的な無骨でゴッツイものでは無く、日本車のようなデザインでしかも 2ピストンを採用している。そして、シリンダーハウジングの色から日記ではこれはアルミ製ではないかと書いたが、海外のサイトで調べたらば "Twin-piston aluminum calipers‥‥" という既述があった。そしてリアについては実際に現物を見た時に妙にローター径が小さくて、そのために大径ホイールとの隙間が大きくてスカスカな印象があったが、それにしてもこのリアブレーキってもしかしてP付きではないかという疑問もあった。
ここで補足しておくとリアブレーキにはパーキング機能が必要となるが、ディスクブレーキの場合、キャリパーに機械的に動作するパーキング機構を付けたものを通称 "P付き" と呼び、キャリパーとは別にパーキング専用のドラムブレーキを持つものを "ドラムイン" と呼んでいる。そして最近のクルマは殆どがドラムイン方式となっている。ディスクブレーキというのはドラムブレーキのように自己倍力作用が無いために、ブレーキ力自体は寧ろ大きな力を必要とし、要するに効きという面ではドラムブレーキが勝るのだ。
このようにP付きのパーキングブレーキは停止時の保持力では不利となるために、普通はCセグメントくらいまでが限度であり、マスタングのような1.7トン近い車重のクルマに使っているのは稀である。しかし、P付きはメリットとして走行時にパーキングレバーを引くことでリアのみにシビアな制動力を与えられることで、要するにドリフトマシンとしては実に具合が良い。まあ、このデカいクルマをドリフト競技車に仕立てるかは別としても、RWD という駆動方式と共に、ある面貴重な存在だ。
最後になったが、走行中のブレーキの効きは踏力も適度で、さりとてちょっと踏んだだけで効きすぎるカックンブレーキということもなく、普通に走る分には何の問題もない。
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