Volkswagen up! (2012/10) 前編 | |
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VWの新型車up!は日本の軽自動車より少し大きいサイズの欧州Aセグメント車であり、価格帯は149〜183万円だから、当然ながら簡易試乗記で取り上げる予定ではあったが、今後このクルマが世界に与える影響や、試乗してみての出来の良さなどを考慮して、こちらの試乗記本編で取り扱うことにした。 VWのAセグメント車といえば2001年に発売されたルポ(Rupo)があるが、結局2006年に販売終了となり次期型は開発されなかった。しかし、実際にはブラジル製のフォックス(Fox)がルポの後継車として欧州と中南米で販売されていたが、日本には輸入されていなかった。ルポの日本国内向けは1.4Lという中途半端なモデルで、ルポの主力である1.2LやTDIは輸入されなかった。ただし、1.6LのホットハッチであるGTIは日本でも発売されていて結構興味を持ったのだが、例によって展示車すら滅多にないことと、ルポの安っぽいエクステリアにはどうしても賛同できなかった。 なお、欧州でもAセグメントといえばイタリアのフィアットが思い浮かぶが、実際にドイツ製のAセグメントといえばルポが途絶えた後にはスマートのみだった。 |
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スペックの比較はドイツ国内でAセグメントの売上上位であるフィアット 500、そして国産の軽自動車の代表として先ごろFMCされたワゴンRの中から、move up!3ドアと同価格のスティングレイ RTというターボモデルを、更には国産車(実は欧州製だが)として数少ないAセグメント車である同じくスズキ スプラッシュを引っ張りだしてみた。
なお、最初はVWと同じドイツ製ということでスマート フォーツーを候補に入れたが、これはAセグメントよりも更に小さいことと、2人乗りということから、全く別のカテゴリーの車であるとして比較を見送っている。 結果をみると、up!とワゴンRのアウターサイスはup!が150mm長く、175mm広く、高さは逆に165mm低い。興味深いのはホイールベース(W/B)でワゴンRがup!よりも5mm長いことで、全長の割にワゴンRのW/Bは随分と長い。ところが、up!のカタログでは「長いホイールベースと短いオーバーハングを特徴とするフォルム。‥‥‥」とか書いてあるが、実は日本の軽自動車のほうがW/Bが長くオーバーハングは短いという笑い話になってしまっている。やっぱり、日本の軽自動車技術というのは大したものなのだろう。 フィアット500(マニアは"チンク"というようだ)とup!はアウターサイズが事実上等しく、このサイズは欧州でのAセグメントの標準的なものなのだろうか。エンジンはup!の1Lに対してチンクは1.2Lと大きく価格帯も195万円からとup!よりも高い値付けであり、言ってみればお洒落で付加価値の高いクルマとして販売されている。これは日本だけでは無いようで、欧州でも兄弟車のパンダが実用車で、チンクは付加価値のある小型車という位置づけのようだ。次にスプラッシュはアウターサイズ、重量ともライバルより僅かに大きい。 ミッションは欧州勢がセミオートのいわゆる2ペダルMTを搭載しているのに対してスズキの2車はCVTであることが大きく異る。 次にup!の外観を見てみると当然ながら小さいのだが、前作のルポのような安っぽさ、というか低価格で小さいクルマの惨めさみたいなものが感じられない。まあ、それを言ったらば日本の軽自動車だって以前は惨めさ全開だったが、最近は大の男が乗っても恥ずかしくない車種も増えている。up!が欧州で発売された時には3ドアのみだったから、5ドアというのは欧州でも最近発売された訳で、日本導入が遅れたのも5ドアが準備できなかったからだろう。 要するに日本人は3ドアを好まない訳で、これは単なる考え方というか使い方の問題だろう。確かに2人以上乗ることは無くても、買い物袋をリアに放り込むときなどはリアにドアがあった方が使い易い。この点、欧州の人はどう考えているのだろうか? ただし、up!の場合スタイルとしては3ドアの方がまとまっているし、これが本来の姿なのだろう。 up!のリアの特徴はテールゲードが全てリアウィンドウと一体のガラス製であることだ。一部ではこれをボルボC30やシトロエンC1のパクリだという意見もあるようだが、これらとはガラス部分の面積が圧倒的に違い、up!の場合はウィンドウと同サイズ以上がテールゲートのボディ部分であり、これをガラスで作るのは結構な技術だと思う。まあ、フランス車や北欧車ファンには悪いが、これらとVWでは基本的な技術力が違うのは明白で、そういう意味ではドイツと対抗できるのは日本くらいではなかろうか。 |
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up!のフロントビューで一番気になったのは、ラジエターグリルレスのために何処からエアを入れるのかということだったが、バンパー部分をよく見ると黒い縁取りの部分がメッシュとなっていて、主として車体の左側に開口部があり、その裏にラジエターが見えた(写真9)。次にリアに回って例のガラスボディのテールゲートを開けてみると、そこにあるラゲージスペースは決して広くはないが、Aセグメントのハッチバックという事を考えれば充分な広さはある(写真10)。 up!のリアサイドウィンドウは世の中の常識とは異なり上下に開閉しない。ではどうやって開けるかといえば前側をヒンジとして後側を5cm程外に出すだけで、そういえば40年以上前の国産2ドアセダンには、こういうタイプのリアウィンドウが多かった(写真11)。しかもup!の場合は5ドアモデルでもこの方式となっている。何やら如何にも割りきってコストダウンをしたという感はあるが、メリットとしては窓の上下機構がない分だけドアを薄くすることができ、結果的に室内幅が広がることになる。確かにUP!のリアパッセンジャールームの幅は、車体全幅が1,650mmしかないとは思えないほどに広い。さて、今度は同じリアでもドアの蝶番を見ると何とゴッツい金具で出来ていて、Aセグメントどころか国産の中型サルーンよりもシッカリしていた(写真12)。エアコンの発達した現在では、ほとんど全閉することはないリアサイドウィンドウはケチっても、剛性や耐久性に大いに関連するドアの蝶番には目一杯金を掛けるという思想は流石だ。日本のメーカーだったら間違いなくパワーウィンドウを装着して、その分はドアの蝶番をケチるだろう。 |
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エンジンルームを開けてみると、そこには小さなエンジンが横置きされていて狭いスペースに小さなエンジンが入っている雰囲気は日本の軽自動車に似ている。エンジンルームのフードの裏側には薄い鉄板を複雑にプレスした補強が入っていて、なるほど軽量な中にも高い剛性を確保し用としていることが判る(写真14)。そしてオープン用のロック解除レバーには手で触る部分に樹脂製のカバーが付いている。国産車のように只のプレスで指を怪我しないまでも、グリスで真っ黒になるのとは対照的だ。まあ、国産車の場合はフードを開けてボンネット内を点検するユーザーなんていないだろうが‥‥。 今度はストラットタワーをよく見ると、薄い鋼板を複雑に組み合わせて全周溶接で接合されているのが判る。これもまた軽量で高剛性を達成している理由だろうか(写真15)。 |
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写真13 |
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ドアを開けて目に入るのはmove up!の場合にはグレーの地味なシート表皮とドアトリム(写真16-1)だが、これがhigh up!のベージュ/レッドのコンビ(写真16-2)となると一変してイタリア車のような派手な内装になる。ただし、これは ボディーカラーがレッドの場合のみに設定があり、その他のボディーカラーではmove up!とあまり変わらない地味な内装となる。なお、シートの形状自体はmove up!とhigh up!は同じでシート表皮のみが異なるようだ。 |
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写真16-1 |
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写真16-2 |
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ドアのインナートリムもインテリアカラーに準じているが、フルトリムではなく部分的にドアの鉄板に塗装という最近では珍しい手法を用いているが、それが安っぽく見えないところが上手い。しかし、トリムされた部分もよく見ればプラスチックの成形品であり、叩けば硬い材質でソフトパッドの部分は一切無い。 |
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インパネはピカピカに塗装されたパネルが高級感を感じさせている。特にベースグレードのmove up!でも国産車のピアノブラックのように見えて、安物感が無いのは実に上手い手法だ。これがhigh up!となっても大きな変わりはないが、ボディーカラーがレッドの場合はシートなどにレッドを使っているのと同様にトリムもレッドとなり、これがまたイタ車的に見える原因となっている。 センタークラスターにはオーディオとエアコンのコントローラーがあり、これも事実上グレードと関係なく同じようなユニットが付いているが、high up!のパネルにはクロームメッキの縁取りがある。 また、オプションのナビは何とポータブルタイプをダッシュボード上面に取り付けるだけで、純正ナビといっても市販品にボディーと同色の塗装とup!マークのボタンを追加しただけのようだ。エアコンは全グレードでマニュアルタイプが装着されていて、フルオートタイプの設定はない。 |
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写真19-1 |
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写真19-2 high up!のインパネも基本的にはmove up!と同じだが、例によってボディーカラーがレッドの場合は、幅広のインテリアトリムもレッドになる。 |
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こうして室内を見回すと、high up!のレッドのみが一際派手な装いだが、その他のボディ色ではグレードに関わらずVWらしく地味で、何れもAセグメントとては質感は良い。しかし、よく見れば全ての内装は硬質樹脂製であり、やはりAセグメントのコンパクトカーだということを思い知らされる。 室内の次はいよいよ走ってみることにする。 この続きは後編にて。 |