運転席に座るとサイドサポートの張り出しが少なく、全体的に平らで見かけは決して良くないシートだが、そこはVWの伝統どおりで硬いシッカリした座り心地とサポートも見かけ程には悪くない。そういえば、国産車の場合は如何にもサポートのよさそうな形状のシートが多くなった割りには、実際に座ってみるとズルズルだったりする場合が大きが、up!の場合はその逆というところだ。
次にシート位置を合わせるために、先ずはシート前端下部のレバーを解除して前後を調整し、次に右側面にある大きなレバーで上下を調整する(写真21)。ここまでは、手動式としてはオーソドックスな調整方法だから予備知識が全く無くても常識で操作ができるが、次にバックレストを調整しようと思ったら、さて困った。普通あるべき解除レバーとか調整ダイヤルとか、そういうバックレスト調整らしきものが見当たらない。結論を言えば、up!のバックレストは中央寄りのサイド、すなわち右側シートならば左側面にあったのだ(写真22)。この方法は旧ティーダでも採用していたが、これによりシートをよりドア側に寄せられることで幅方向に余裕が出来るが、慣れないと使いづらい。
そして今度はステアリングの調整をするためにステアリングコラム右側にある解除レバーを外し上下を調整するが、この時に手前に引っ張ってみたらばちゃあんと動くことで、前後の調整もできるのだと知る。Aセグメントというミニマムクラスでさえもステアリングの前後調整機能を付けているのは流石だ(写真21)。こういう細かい点での真面目なクルマづくりが積もり積もって、国産車とは一線を画する雰囲気やフィーリングが達成できるのだろう。逆に言えば、Aセグメントなんてどうせオバちゃんしか乗らないのだからと平気で手を抜くと、ドコかの某パッ○のように危険の一歩手前みたいなクルマが出来上がってしまう。
エンジンの始動はオーソドックスな金属キーをステアリングコラム側面のキーホールに差し込む方式で、日本では軽自動車にまで使用されているインテリジェントキーとプッシュボタンによる方法ではない(写真22)。エンジンが始動すると、そこは3気筒エンジンだから多少の振動は感じるが、決して気になる程でもない。
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up!のミッションはトルコンATでもDCTでもなく、勿論CVTでもなく、シングルクラッチのセミオート方式(通称SAT、VWではASGと呼ぶ)の5速ミッションが搭載されている。これは言ってみればアルファロメオやフィアットなどでお馴染みのもので欧州では小型車の多くに採用されている。パターンは右側がニュートラルで左に倒すというか、中立位置にするとDとなり、その後は左に押す毎にDとMを繰り返すフリップフロップ動作をする。またNから手前へ引くとリバースとなる。マニュアル時には前に押してアップ、手前に引いてダウンとなる。と、言うことはPポジションはない訳で、何故からこれは2ペダルのマニュアルだから停車時にはニュートラルに入れてパーキングを引くのが当たり前となる(写真23)。
up!のASGミッションは重量が30kgであり、トルコンATに比べて大幅に軽量化が出来る。
セレクターを左に一度動かしてDに入れ、ブレーキペダルから足を放しても、車が停まったままでウンともスントも言わない。そこで恐る恐るアクセルを踏んでみたらばカツンという軽いショックと多少のスリップ感とともに前進した。駐車場内の移動は一度動き出してしまえば特に違和感なくアクセルを踏んだ分だけ前進する。一時停止をして流れを確認すると、運良くクルマの切れ目だったために、そのまま発信して左に大きくステアリングを切り、本線に入ったところで加速してみる。この時の第一印象は車重が900sという軽量とはいえ、3気筒 999ccエンジンの加速だから大したことはない、というかマーチやノートと似たようなもので、この点では単なる低価格の実用車なりのものだった。60km/hの巡航では小さくて見辛い回転計の針は1,500rpm辺りを指していて、少し踏んだくらいでは回転は上がらず、いってみればMTでシフトダウンをしないで上位ギアを使っての低回転巡航と同じだ。そして、アクセルペダルをこれでもか、と踏んでやると一呼吸、いや二呼吸おいてシフトダウンを行う。この状況は極めてレスポンスの悪いAT以下であり、これなら最近の出来の良いCVTの方がまだマシか、という状況だった。
今度は信号待ちからDレンジのATモードでフルスロットルを踏んでみる。3気筒1Lエンジンは安っぽい音と共に決して強力とはいえない程度で加速していく。この間スロットルを踏みっぱなしにしておくと、勢いの無い加速でやっと回転が上がったところでカツンっという中程度のショックと共にシフトインジケータの数字は2となった。そこからは1速よりも緩慢になってしまったが加速していくと、やはり中程度のショックとともに3速にシフトアップした。実はシフトアップポイントをハッキリ明記していないのは速度計に対して直径が1/4くらいしかない回転計は、走行中に一瞬で確認するには小さすぎて、ハッキリと読み取れなかった事による(写真26)。この時、実はアフファロメオのセレスピードの経験から、もっと酷いショックを予想していたが、それ程でもなかった。そういえば走り出した直後の緩い加速ではいつの間にか4速くらいまでシフトアップしていたから、この手のセミオートとしては元々ショックが少ないのだろう。
という訳で、DレンジでのAT運転をした場合、本来セミオートミッションのDレンジはおまけ程度であるという認識なら、へ〜っ、意外とショックが少ないじゃないか、なんて思うくらいだが、このクルマを国産CVT車などと比べるとシフトレスポンスはメッチャ悪いし変速ショックはあるし、全く使えないクルマ、という評価になってしまう。要するに、このクルマはアルファやフィアットなどと同じで普通の日本人が手を出すべきではないコテコテの欧州仕様であり、同じVWでも最近は違和感が殆ど無くなったDSG搭載のゴルフやポロの路線とは全く違うという認識が必要だ。
そこで今度はマニュアルモードに切り替えて本来の姿てあるセミオートとして使ってみることにする。DからMへの変更はセレクターレバーを左に一度押せばMとなり、その後一回毎にDとMを繰り返すフリップフロップとなっている。Mモードの確認はメータークラスター内のディスプレイに表示によるのは他車と同様だ。しかしMモードでのシフトパターンは押してアップのタイプだから、BMWオーナーがUp!をセカンドカーに使った場合は、Mモードを使う度に混乱するかもしれない。そしてup!には残念ながら、ステアリング上のパドルスイッチの設定はない。
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先ずは国道上で60km/h程度で巡航中にMに入れると、Dで巡航中だったのと同じであろう5速2,000rpmとなる。ここでレバーを引いてシフトダウンしてみると、ある程度のタイムラグの後に4速にシフトダウンされ、回転計の針は2,400rpmを指している。そこでさらにもう一度レバーを引くと3,300rpmとなった。マニュアルシフトでもレスポンスが遅いと感じるのは、セミオートやDCTはトルコンATに比べて迅速という認識があるからで、実際には並の国産トルコンATやCVTのマニュアルモードと大して変わらないが、心情的には間髪を入れずにスパッと反応して欲しいというところだ。そうはいっても慣れれば気になる程でもないし、遅い分だけ逆に繋がりはスムースで、この点ではアルファロメオのセレスピードよりも優っている。とはいえ、フルスロットル時にはそのままだとある程度のショックがあるので、レバーを動かす瞬間にスロットルを一瞬緩めると上手くいく。要するマニュアルミッションのクラッチの無いやつと思えば良い。up!のミッションはシフトダウンのショックも少ないが、回転合わせはモア〜という感じで、ここは本来鋭いブリッピングでも効かせてもらいたところだが、燃費を考えれば仕方がないのかもしれない。
燃費ということでふと思ったのは、エコやスポーツなどの走行モードがあるのではないか、ということだったが、残念ながらその手の仕掛けは無いようだ。なお試乗したのはhigh up!であったために標準でオートクルーズが装着されていた(写真25)。
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up!の操舵力は適度で中心付近の不感帯も少ないが決して敏感ではなく、普通の技量のファミリードライバーや女房子供などの家族が運転しても全く問題ない。もっとも最近はウィークデーは電車通勤をしている亭主よりも買い物や暇潰しで毎日運転している女房の方が運転が上手いなんていうことも多いようだが‥‥。そして乗り心地は固めだが安定性はすこぶる良い。今回は途中から地方道に入って、ある程度のワインディングと言えそうな道を走ってみた。ミッションはMモードにして、先ずは手始めに少し見通しの良いコーナーを50km/h程度でトライしてみたが、アンダーステアは極々少ないし安定性も良いので、これはイケるとばかりに、その先のブラインドコーナーに向かう。幸い前走車もいないので少し速度を上げて、このコーナーとしてはちょっと速めかな、という速度でそのまま突入してみたが、なんと危なげもなくステアリングの切り増しもなく綺麗にクリアしてしまった。これはハッキリ言ってポロGTIよりも上ではないか、なんて思いたくなるくらいだ。こういう状況ではup!の1,650oという幅の狭さが大いなるメリットとなり、場合によっては車幅が200o近くも広いポルシュ カレラ4Sよりも思い切ってコーナーに突入で出来たりする。
VWといえば小さくて見かけは普通のクルマなのに乗ってみると高級車も顔負けの安定感で他社とは次元が誓う‥‥という事を想像するが、確かにゴルフなどはその傾向があるが、例えば先代のポロなんて、乗ってみると何やら出来の良い国産車の方が余程良いんじゃあないか、と思う程度だったりする。そしてUp!はといえば、VWとしては一度失敗して事実上途絶えていたAセグメントだから、今度は完璧を期してリベンジをするだろうから充分に期待ができるという希望もあるが、逆にVWといえどもAセグメントは経験不足で、やっぱりイマイチなんじゃあないか、という事も考えてしまう。そして結果はといえば、コーナリングもポロ以上で、これは良いクルマだとホッとすると同時に、雑誌などで絶賛されているのも強ち提灯記事とも言えないということだ。
ブレーキはちょっと重めでポルシェや以前のメルセデスのようで正統派のドイツ車的だが、最近のBMWなどに慣れていると効かないと感じるかもしれない。しかし、このクルマは輸入車好きといっても普通にBMW 3シリーズに乗っている程度のクルマ好きではとても理解できない部類だから、ブレーキの踏力が大きい違和感以前に、このメチャトロいDレンジで音を上げるだろう。これがイタ車オーナーだったらば、例えばアルファロメオの旧156オーナーなどからみれば「おーっ!流石はドイツ車だ。ブレーキが確実でよく効く」ということになるだろう。
up!には全グレードに低速で前車に迫った時に自動的に減速する追突防止用のシティエマージェンシーブレーキが全グレードに標準装備されている。そこで、早速試して見るために前方に信号待ちのために停車しているクルマに向かって、わざと減速をしないでそのまま突き進んでいく‥‥‥というのは流石に危険なので、残念ながら体験はできなかった。
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