Audi A6 2.8 FSI quattro (2011/10) 後編


シートに座ると、流石にEセグメントだけあってサイズも十分だし座り心地も良い。これはアウディに限らず5シリーズもEクラスも、その下のDセグメント(3シリーズなど)に比べると、シートの出来が大分違う。 やはり、高い分だけ元もかかっているようだ。エンジンの始動は最近では定番のスタートボタン(写真21)による方式で、エンジンが掛かったら今度はコンソール上のATセレクターでDを選ぶ (写真22、23)。 新型A6のミッションはアウディではSトロニックと呼ぶDCTタイプで、コンソール上のセレクターレバーは5シリーズやEクラスが電子式となったの対して、コンベンショナルな機械式でP→R→N→D/Sという順に手前にメカメカしく動かす。その割にはパーキングブレーキは電気式で、スイッチを引いてON、押してOFFという動作をする (写真22)。

早速走り出すと、駐車場の移動だけでもエンジンはスムースだし乗り心地の良さも直感でき、これは若しかして、と期待する。公道に出て軽く加速すると、低速からレスポンスは良いし回転は滑らかで、自然吸気の良い面が出ている。最初はそれ程期待していなかった動力性能は、意外にもこの大きなボディでも充分な加速が得られ、その加速感は同価格帯のBMW523iよりも間違いなく勝っていて、 3Lの528iに近かった。 A6 2.8FSIは車両重量が1,790kgに対して204ps、523iは1,770kgに204psだからパワーウェイトレシオは事実上同一だが、なぜかA6の方が加速感があるのは最大トルクが28.6kg・mと523iの25.5kg・mよりも12%程勝るのが原因だろう。考えてみればA6が2.8Lであるのに対して523iは2.5Lだから、排気量から考えればこの結果は当然でもある。 アウディのスロットルペダルは昔から軽めで、特にメルセデスのこれでもかと力を込めて踏まないと加速しないのとは対照的だが、今度のA6もやはりスロットルペダルは軽く、慣れないと踏みすぎてしまうこともあるかもしれない。まあ、オーナーになって毎日乗れば慣れるから問題ないとは思うが。

A6のミッションは前述のように7速DCTタイプで、5シリーズの8ATよりは1速少ないが、流石にこのクラスの多段変速機だと7速と8速の違いはすぐにはわからない程度だ。また発進時も極自然で、トルコン式ATと殆ど区別がつかないくらいの完成度になっているし、試乗中に妙な動作、例えば突然ショックと共にシフトダウンしたり、とういことも無かった。 一般道で40〜50km/hの遅い流れに従って巡航している時に回転計に目をやると指針は1,200rpm位を指していた。従って、このまま1,200rpmから加速するのは無理なので、少し踏んでみると多少の遅れとともにシフトダウンされた。最近の高燃費ブームを考えれば、ノーマル走行では極力回転数を落として巡航するようなシフトスケジュールになっているのは当然ではある。 そこで、今度はスポーツ(S)モードを試してみる事にする。
 


写真 21
コンソール上のATセレクターの左にあるスタート/ストップボタン。
 

 


写真 22
ミッションは7速Sトロニック(DCTタイプ)が搭載されている。モード切替は手前に引く毎にSとDを繰り返す。(P)というスイッチはパーキングブレーキで引いてON,押してOFF。
 

 

写真 2 3
コンソールにはATセレクターを中心に、左にスタートスイッチ、右にパーキングブレーキ、手前にはMMI(マルチメディアインターフェイス) という配置になっている。
なお、写真左側のパネルはファイングレイン アッシュ ナチュラルブラウン、右側がアルミ調でどちらもオプションとなる。

 

写真 24
両サイドのメーター(水温計、燃料計)は小さくまとめて中央のディスプレイスペースを稼いでいるメータークラスター。
そのディスプレイは液晶式で、文字情報と共にナイトビジョンなどでは画像の表示も行う。

 

アウディ/VW系はATセレクターのSモードの位置が独特で、他社がDから横へスライドしてSとなるものが多いのに対して、Dから一つ手前にSレンジがある。今度のA6はDから手前に引くのは同じだが、S位置をキープするのでなく、言ってみればスイッチとなっていて手を離すとDに戻るが設定はSとなり、解除にはもう一度レバーを引くという、一回ごとに切り替わるスイッチとなった。それで1,200rpmの巡航状態から早速Sモードに入れて見ると、即座にシフトダウンされて同じ巡航速度でも回転計の針は1,600rpm位まで上がる。更にSモードでは明らかにアクセルレスポンスが向上し、加速感も更に強力になる。元々ノーマルモードでも充分な加速感だったのがSモードで更に向上し、シフトスケジュールの高回転化とともにSモードでのメリットは充分過ぎるほどに感じる。Sモードで加速してシフトアップされる時の回転計の針の動きは、素早く一瞬で下がるのが見られたが、これはそれ程までにエンジンのレスポンスが良いのか、それともメーターの針を電子的に素早く動かしているのかは定かではない。この時、ふと気が付いたのは回転計を含めてメーター類の見易さと質感の高さで、こういう機器類の質の高さもアウディの長所ではある。  

今度のA6にはスタートストップ システムと呼ばれる、要するにアイドリングストップ機能がついている。実は信号待ちで停車していて、ふと気が付くと回転計の針がゼロを指していたことで、そうか、アイドリングストップが付いていたのか、と気が付いたのだった。 信号が青になったので、極普通にブレーキからアクセルに踏みかえると、クルマは何も無かったかのように発進した。そこで今度は信号で停止後、再発進の際にブレーキからアクセルへとペダルの踏み代えを極力素早く行ってみたら、足がアクセルを踏んだ瞬間にはエンジンがスタートせず、一瞬遅れてエンジンが掛かるような状況だった。 そして、再始動も極短時間だが、セルモーターの音がクークーと聞こえてから始動するのがハッキリと感じられた。 まあ、ヴィッツの時のようにアクセルを踏み込んだ状態で始動したことで、突然飛び出すようなことは無かったが、Eセグメントの高級車としては更なる改良が必要だろう。
 

写真29
V6 2.8L自然吸気で204ps/6,500rpm 28.6kg・m/5,000rpmを発生する2.8FSIのエンジン。
スムースでよく回るから、ガンガンと引っ張るようなスポーティーなドライバーでも不満はないだろう。

10年ほど前に始めて乗ったA6は2代前のC5系だったが、この時感じたのはクワトロシステムのもたらす4WDの安定性が、メルセデスともBMWとも全く異なる世界を築いていたことだった。そして、先代C6系にFMCされた時に、更に洗練されたクワトロシステムを期待して試乗したのだが、結果は何と如何考えても退歩としか言いようがなくて、がっかりしたも のだった。 そして今回の新型は・・・・嬉しいことに先代で後退した分を取り戻したようで、独特の安定性が見事に復活していた。ただし、今回は高速道路の走行などは行っていないので、高速での抜群の安定性があるのかどうかは確かめる事は出できなかった。

新A6のステアリングは低速では極々軽く、交差点の右折のような徐行状態では片手でクルクルと回ってしまう。勿論、速度が上がれば適度の重さを保つが、基本的には 操舵力は軽い傾向がある。操舵特性は中心付近からシッカリと反応するし、それでいて過敏という事はないから、特に運転スキルが高いドライバーでなくとも充分安全に運転できる。 今回はいわゆるチョイ乗りの部類だから、本格的にコーナーリングを試すような場面は無かったが、先代C6系を始めて試乗した時にちょっとしたコーナーで思ったよりもクルマの軌跡は外に向いていて驚いて切り増ししたのを思い出したが、今回の新型はそんなことも無かった。 ただし、今回の試乗車は20インチホイールの扁平タイヤという操舵性から見れば随分有利な組み合わせであることの考慮が必要で、標準の18インチならば、結果は少し違ったかもしれない。

試乗車のタイヤは標準の245/45R18に代えてオプションの255/35R20が装着されていたために、走り出す前は乗り心地への影響を心配したが、実際に走ってみると35扁平タイヤを履いているとは思えないほどに乗り心地は良かったから、これが標準タイヤだったらば、さぞかし良いだろう。 なお、試乗車の場合は太いタイヤに対して、サスペンションは標準だったから、これが意外と乗り心地が良かった原因かもしれない。

A6のブレーキはBMWに比べれば、あれほどには軽くて喰いつく事は無く、欧州車としては多少マイルド気味だ。勿論、効きは充分で全く文句は無い。アウディは先々代のC5系では日系メーカーのパッドを使っていた位だから、BMW等とは考えが違うのだろう。ところで、今回のA6が欧州系のロースチールか日系のノンアスかは定かではない。


写真30
オーソドックスな片押しのキャリパーを使用するブレーキ。
 

 


写真31
前方視界も良好だが、メルセデスEクラス程小回りは効かない。
 

 


写真31
2.8FSIの標準タイヤは245/45R18、ホイールは8J×18となる。  

 


写真31
試乗車には255/35R20タイヤに8.5J×20という大径ホイールが装着されていた。
 

 

Eセグメントでも3L以下の自然吸気エンジンが搭載されているベースグレードは、Eクラスでは既に4気筒1.8Lターボとなり、5シリーズも新3シリーズの後を追って近い将来には4気筒ターボ化されるだろう。そうなるとA6 2.8FSIも6気筒自然吸気という絶滅危惧種エンジンも、そう長 くは無いのかもしれない。 スムースで充分なトルクがあれば、別にシリンダーが4つでも6つでも関係無い・・・・と、言いたいが、確かに寂しいものはある。

さて今回のA6だが、クルマとしては先代よりも確実に良くなって、内容的にはライバルとも充分に戦えるだけのモノを持っている。しかし、しかしですよ。世の中、モノが良ければ売れるという訳で はない。

そこで、特別編として何故アウディは売れないかについて考えてみる。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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