SUZUKI ALTO RS 前編
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初代アルトは1979年に軽乗用車でるフロンテの商用車版として発売された。当時の自動車、特に乗用車は軽自動車といえども効高率の物品税 (軽乗用車で15%) が掛けられていたことから、無税の軽商用車として登録することで15%も価格が下がった訳で、これによりアルトは大ヒ¥ットとなり、当時の軽自動車の定番となることが出来た。

このように初期のアルトは法律上は軽商用車、すなわちライトバンだから当然内容は質素というかチャチというか、まあ趣味性は皆無に近かった。ところが1987年に2代目アルトの後期モデルにインタークーラーターボエンジンを搭載したワークスというスポーツモデルを設定して、これが軽スポーツの代名詞となった訳だが、当時のアルトはハッキリ言って走行安定性は酷いであり、それにターボエンジンを載せたワークスの安定性は推して知るべしというもので、更にユーザーの多くが経験の浅い若い走り屋だから当然ながら事故も多く、世間の見る目は決して良くはなかった。そして現在まで続く軽自動車の64ps 自主規制の発端も、この初代アルト ワークスだった。そのワークスも次第に人気は薄れていき2000年の5代目アルトの MC を機に廃止されたが、その後復活の要望もあり Kei のバリエーションである Kei ワークスで復活したが、これも2009年に Kei の生産終了に先駆けて廃止となった。

ところが、昨年 FMC された新型アルト発売を機に、一足遅れで2015年春にはアルト ワークスの再来ともいえるインタークーラーターボエンジン搭載のホットモデルであるアルト RS の発売が予告され、この度目出度く発売と相成った。初代ワークスの時代とは異なり現在の軽自動車の進化は著しいから、ワークスの再来である RS はクルマ好きにとっては気になる存在だし、格差社会のこの時代では中年に成れば年収が増えるという事も無く、その意味でも軽のスポーツでも十分に楽しめれば、それで十分というのも一つの考え方だ。

以上簡単にアルトワークスから最新のアルト RS に至った過程をお浚いしてみたが、それらを諸元で比較してみると下表のようになる。

表を見て気が付くのは初代ワークス (CL11V) の時代は軽自動車の規格が現在と違って全長は200o 短く、全幅は80o 狭く、そしてエンジンは100cc 少ない550cc だった。それでも現在と同じ64ps を既に出していたが、そのためには7,500rpm まで回す必要があり、しかも排気量の小さい分だけトルクも現行より少ないから、もう目一杯引っぱって走る必要があった。

 

これら歴代のワークスの価格に注目すると、約25年前の CL11 ワークスからそれほど大きく変わっていないことに気が付く。勿論税制や標準装備の違いもあるので一概には言えないが、四半世紀前ということを考えれば意外でもある。まあ、それだけデフレスパイラルの影響が大きかったということかもしれない。いや、クルマはむしろ徐々に値上げされていった方で、パソコンなんて値段は安くなったし性能的には驚く程の進化をしているから、それに比べればクルマという商品は既に進化の度合いが頭打ちになっているということだ。

今回の試乗車は既に3月22日からの日記で写真を公開していて、例によって日記の方が写真のサイズが少し大きくなっているから、それも合わせてご覧頂きたい。

アルト RS のボディカラーは下記の3種類で、一言で言えば白、赤、黒となるが、どれも結構派手でいい年をしたオッサンやジイさんが乗るのはチョイと気恥ずかしいものがある。黒なら良いかと思えばい、赤いストライプやサイドミラーが結構派手に目立っているから、「老後生活だから質素にと思って只の軽自動車ですわぁ」とかいう言い訳が立たない辛さもある。これが Kei ワークスの時にはダークグレーのボディがあったし、派手はストライプも無かったので一見すると普通の軽自動車に見えて、年寄りには有りがたかったのだが‥‥。

それで今回の試乗車は派手な真っ赤っ赤のピュアレッドであり、まあ試乗車だとしても、やっぱりこれを運転するのは恥ずかしいものがある。

元来アルトは実用車であり、前述のようにその出自は軽ライトバンだったくらいだからエクステリアは実用一点張りで、ハッキリ言って安っぽいというか、貧乏ったらしいというか、まあカッコの良いものではなかった。これは6代目 (先々代) まで続いていて、特にこの6代目 (HA24) は当時新たに創設された制度による駐車監視員が使っていて、駐車違反車両を探すのに駐車禁止場所に駐車していて、クルマと人間ともども底辺層丸出しの惨めた姿を晒していたこともありアルトのイメージは最悪となったが、次の7代目 (HA25) では打って変わって流行りのハイトワゴンに近い形状となって、大分イメージも改善された。改善されたといえば、クルマとしての性能も同様で、HA24 は PINO という名称でニッサンにも OEM 供給されたが、当時このピノに初めて乗ったニッサンの営業マンはあまりの出来の悪さに驚いて、自分のお客には絶対に勧めないと心に誓ったという話を聞いたことがある。それが 7代目ではエクステリアのみならず走りも大幅に改善されて、これなら家族に勧める事もできる、と言っていたのは他ならぬ某スズキディーラーの店長だった。

最近の軽自動車は殆どがハイトワゴン系となり、全幅よりも全高の方が高いという見るからに不安定そうなクルマが多くなったが、今回のアルトはオーソドックスな軽乗用車的スタイルとなり、しかも先々代以前のような惨めさが無いのは、最近のスズキのデザイン能力の高さを表している。

ドアを開けるためにドアハンドルに手をかけようとして感じるのは、車幅制限の厳しい軽らしく殆ど出っ張りの無い形状をしていることだ。それに加えて軽自動車のドアのキーホールは何故かハンドル一体ではなくボディーに直についてる別体型で、下手をするとボディにキーでガリッとやってしまいそうだが、インテリジェントキーを使う昨今では直接キーを挿すことは殆ど無いから別に気にする事もなさそうだ。

ドアを開けると、目に入る室内の雰囲気はシート表皮に細い赤いストライプが入っていることでシート座面のブラックが赤みがかって見える事が安っぽさを感じさせず、結構印象を良くしている。なお、シート表皮はファブリックでシート形状自体は RS というグレード名から想像すのとは違って普通の大人しい形状となっている。そういえば、前身にあたる Kei ワークスはレカロシートが標準装備されていた覚えがある。今の時点でのアルト RS のグレード構成はワングレードだが、近い将来はレカロシート標準装着モデルなども出るのだろうか。

この標準装着のレカロシートだが、所謂 OEM 品はチューニングショップ等で売っているアフターマーケット用とは性能に差があることは事実とはいえ、標準装着ならば多少高い程度の値段でレカロシートが付くわけで、これは価格的には大いに買い得となる。というよりも、市販品が高過ぎるのだが‥‥。

 

ドアのインナートリムは軽の中でも低価格なアルトだけあって、ソフトパッドや弾性樹脂の類は一切使っていないが、シボの模様などは先日試乗した500万円超のマスタング末期モデルよりも良いくらいだが、これはもう日米の樹脂成形技術の違いだろう。しかも RS ということでドアノブにクロームメッキが施されていて、これがワンポイントとなって一見すると豪華とは言わないまでも十分に許容範囲だ。

インパネについても低価格の軽自動車ということで、トップパネルにすら弾性樹脂は使われずに全てが硬い樹脂が使われている。それでも RS はエアアウトレットにオレンジの縁取りがあり、これだけでも大いに雰囲気を盛り上げている。エアコンは一応オートタイプが標準だが、表示用の液晶パネルはコントラストが低くて見辛く、まあその辺は低価格車との割り切りが必要だ。

なおナビやオーディオに関しては、標準ではブランクパネルとなっているセンタークラスター上部にある 2DIN スペースにディーラーオプションまたは市販品の CD ラジオや一体型ナビを付けることになるのは、最近の国産低価格車の標準的な手法だ。

軽自動車は全幅の狭さから前席左右シートの隙間がほとんど取れないために、普通車のようなコンソールボックスを配置することが難しいが、それでも必要最小限の幅で狭いながらもフロアーコンソールらしきものはある。そこにはパーキングブレーキレバーとその前後には縦方向に2つ並んだカップホルダーが前後に2組あって、勿論後端のものはリアパッセンジャー用だ。なお、普通車ではコンソール後端にエアアウトレットを組み込んでリアパッセンジャーのための冷房効率を上げるのだが、流石にそれは付いていない、というよりもスペース的に付けることは難しそうだ。まあ、室内の容積自体が少ないからリアパッセンジャースペースにはフロントからの冷風が滞留で回る程度でも何とか実用になりそうだ。

ということで、事実上の最低価格帯のクルマのバリエーションとして、価格を考えれば十分に納得の出来るモノだった。それでは肝心の走りはと言えば‥‥

その話は後編にて。

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