ニッサン マーチ 12SR
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ニッサンマーチといえば日本の代表的コンパクトカーで、欧州でもマイクラという名前で結構人気車種でもある。その、マーチの中でも取り分けマニアックな車種が今回の12 SRで、これは オーテックによりチューンされた高回転エンジンを搭載したスペシャルハッチといったところか。
外観はマーチには違いないがエアロパーツと専用のホイール、そして一般のマーチには設定の無いホワイトパールの塗装により、実際に車両を見ると独特の雰囲気があ って一瞬何のクルマか 判断出来なかったりする。



エンジンはマーチ標準のCR12DE、90ps(66kw)/5600rpm、12.3kg・m(121N・m)/4000rpmから110ps(81kw)/6900rpm、13.7kg・m(134N・m)/3600rpmにチューンナップされてい が、エンジン型式は同じくCR12DEとなっている。ボンネットの中は一見普通のマーチと変わらないが、良く見ればカムカバーに”Tuned by AUTECH”のエンブレムがある。なお、現車には同じくオーテックの純正ストラットタワーバーが装着されていた。

内装は基本的にはマーチその物だが、ステアリングホイールがレザーのスポーティな形状になっていたり、ペダルとフートレストがアルミ製だったりと、細かい点ではファミリーコンパクト丸出しのオリジナルマーチと異なり、これが全体の雰囲気を 盛り上げている。さらに多くのマーチが明るいポップな内装色となっているのに対して、12SRはブラックとなり、これも大いに雰囲気を 盛り上げている。

試乗したクルマは後付でアフターマーケットのレカロシートが装着されていたために、シート位置が低く、座った瞬間に日頃親しんだマーチとは全く違うクルマのように感じる。 同じボディでも座面の高さでこれだけ雰囲気が変わるということを認識したところで、正面のメーターパネルに目を移す。
左に速度計、右に回転計という組み合わせはマーチの上級グレード(1.5ℓ)と共通となっているが、12SRの場合は黒字に白文字となっている(他のグレードは白地に黒文字)。
小排気量のチューニングカーということで、アイドリングは約1000rpmと高めで、勿論静かではないが、想像よりも振動は少ない。

拍子抜けするほどに軽い踏力のクラッチを踏んで1速に入れる。そして、発進のために左足を徐々に持ち上げて、そろそろクラッチが繋がるであろう位置まで 来てもクルマは動き 出さない 。更に手前まで足を上げたらようやく動きだした。 要するにクラッチのミートポイントが手前で、いわゆるクラッチが浅いという状況だった。これが、偶々試乗車だけの特性か、12SR全てがこのような特性なのかは判らない。 それでも15分もすれば結構体が慣れるたから、オーナーになれば問題ないかもしれない。動力性能の第一印象はノーマルのマーチ1.2に対しては少し速いという程度だから、 相手がファミリーカーでも2.5ℓ級の場合は全く歯が立たない。言い換えれば、常にフルスロットルを踏んでいても危険運転と思われたり、周りのひんしゅくをかったりする心配も無い。1速でフルスロットルを踏むと、 5,000rpmまではストレス無く回るが、それ以上は回すだけ無駄という感じだ。そこで、5,000rpmで右足をスロットルペダルからサッと放す、と同時に左足のクラッチペダルを素早く蹴飛ばしクラッチを切る・・・・、というタイミングだと、エンジンの回転がスパッと落ちないために、一瞬回転が上昇してしまう。 その為に、クラッチを切るより前にスロットルを弛めることで、初めてタイミングがとれる。要するにスロットルレスポンスは小型ベーシックカーそのものということだ。
5速MTのシフト感は決して悪くないが、絶賛する程ではない。それでも慣れれば結構素早くチェンジ出来るから、このクルマの性格には合っている。この手のMTに乗ろうとするドライバーが大好きなヒールアンドトウをするためのペダル配置も問題ないし、アルミペダルの見かけも中々良い。聞くところによると、このペダルは G T−R(R34)用を流用したとか。 何より嬉しいのは、クラッチのある、3ペダルのMTであることで、国産車のMTも絶滅寸前だから、12SRは今や貴重な存在でもある。

 ライバルと比較してみると、価格的に競合するスイフトスポーツは排気量が1.6ℓだからトルクの違いは圧倒的で、動力性能では12SR に勝ち目は無い。 それでは12SRにメリットはないかといえば、そんな事は無い。トルクでは不利な1.2ℓエンジンを積んだことによるフロントの軽さは、操舵性や旋回性能からみれば絶対的に有利とな っている。 基本的には並みのマーチのステアリング機構を踏襲しているのだから、操舵力は軽いし路面からのインフォメーションも余り伝わらないが、それでも結構クイックでスポーティーな特性をもつ。 そして、街中のチョッときつ目のコーナーを回ってみれば、その素直な旋回性に嬉しくなること請け合いだ。これなら、狭いサーキットでの走行会などでは、12SRよりも遥かにパワーで勝る相手に一泡吹かすことも可能だろう。 乗り心地は、ビシビシと突き上げが来る、言ってみれば時代遅れのガチガチの足だから、人によっては耐えられないだろう。この点ではスイスポと良い勝負で、本来の生まれが低価格 のベーシックカーだから、 安物の足回りで走行安定性を確保しようとすれば、必然的にガチガチとなる。  
 

12SRは専用ホイールに185/55R15タイヤを装着している。このリアホイールから覗くブレーキキャリパーは・・・・・・ない?その代わりに黒く無骨なブレーキドラムが見える。そう、このクルマのリアブレーキはL/T式のドラムという、マーチその物となっている。そしてフロントはマーチに標準である鋳物のフローティングキャリパーを使用している。実際に12SRのブレーキ性能は、普通に走る分には全く問題はない。実はマーチのフロントブレーキというのは結構容量に余裕があり、同じクラスの ヴィッツツと比べるとパッドの面積などはマーチが圧倒的に大きい。これはマーチの場合、最初からより重量のある派生車種、例えばキューブキュービックなどと共用する事を前提に設計されていたからだ。

オーテックによるチューニングコンプリートカーとはいってもベースはマーチだ し、おまけに標準の1.2ℓを少しチューンして2割程度のパワーアップをした程度なので、想像するほどには速くない。そして価格は標準で約178万円で、これにレカロシートやナビを装備した今回の試乗車の場合は殆ど250万円に達してしまう。まあ、これだけ出せば、人気の欧州コンパクトハッチも手中に入るから、マトモな神経では、とても買う気にはなれないのも事実。そこまで手をかけなくても、標準車に最小限のCDプレイヤーなどを付けたとしても、180万円といえば、VWポロGTI(3ドア)と50万円の差しかない。そしてポロGTIは1.8ℓターボ だから、12SRの1.2ℓNAとはマルでパワーが違う。それでも12SRの魅力に取り付かれたのなら、買う価値は十分にある。ただし試乗車 を探すのに一苦労だろうが、頑張れば無いことはない。個人的には、確かに乗って面白かった事は事実だが、残念ながら、この玩具に200万円を投資するほどには、裕福でも、ニッサンファンでもない。

注記:この試乗記は2008年3月現在の内容です。