新型インプレッサ(GH)についてはこの簡易試乗記では速報版として15S(約150万円〜)を、アウディA3試乗記の特別付録としてS-GT(AT)を取り上げてきたが、今回は現行発売モデルでは最もマニアックと思われるS-GTの5MTを取り上げることにする。
試乗車にはオプションのスポーツパッケージを装着していたため(車両総額254.1万円)に、タイヤは17インチ、フロントとサイドがエアロパーツになり、排気口もマフラーカッターにより一見太く
(中を覗けば普通の太さ)見えるし、室内ではスポーツシートを装着していた。したがって
外観は他のモデルと比較すると一見してスポーティに見える。これだけの装備がついて価格差は7.4万円だから、ターボモデルであるS-GT、それも5MTを買うような車好きならば、このスポーツパッケージは必須となる。インプレッサの場合は、先代のWRXでもオプションのウィングが未装着なクルマは、まず有り得なかった。それでは、なぜにこれらを標準にしないのかといえば、やはり地味なベース車を欲しがる需要があるからだろう。それは何かといえば、羽根なしのWRXに何故か後ろ3面スモーク、今時時代遅れのアンテナを立てて左
車線の遅い流れに乗って走っている。右車線から追い越しざまに中をみると、空色の服を着た体格の良い、しかし顔は貧相な男が二人。ヤバッ!と急減速。そう、スポーツオプションのないインプの需要といえば、まさにこれしか無い。
試乗車のシートは前述のようにスポーツシートが装着されている。スバルのシートといえば極最近までは駄目な代表のように言われて
いて、事実、フニャフニャのウレタンは10分も走れば体全体は沈んで腰は痛くなり、滑りやすい表皮のおかげで走行中に体全体が前にズリこけてきたものだった。これが、新型のGHになってからは、既に試乗したモデルでも大いに
改良されていたが、今回のスポーツシートは更に出来が良く、国産車のシートとしては十分上位にランク出来る程までに進歩していた。座面は適度に硬く、背中のサポートも不満がない。と、言ってもガチガチの体育会系シートではないのは、このクルマの性格を現しているようだ。

シート以外の内装は基本的に他のモデルと共通だから、スバルとしては昔に比べれば格段の進歩と言っても、他社(特にT社)のオーナーがみたら唖然とするような硬質プラスチックの内装は全く変わらない。
S-GTと他のモデルとの最大の違いはメーターで、中央に大きな回転計があるのが、前回のATの試乗時にはクルマのキャラクターに似合わないと感じたが、今回のMTの場合には、この配置は決して悪くない。ただし、赤い
目盛りは見易くないしディスプレイは走行距離のみで、しかも目一杯安っぽい(100円ショップのグッズ的)液晶表示だ。
S-GT
のエンジンは250ps/6000rpmの最高出力と34.0kgm/2400rpmの最大トルクを発生させる。
車重1360kgに250psだから、カタログマニアの大好きな出力あたりの重量は5.44kg/psという立派な数値を示している。
同じエンジンのATに試乗したときは感じなかったが、今回はアイドリング時に振動があり、ある面ではスポーティな味付けを感じる。
クラッチの踏力は実に小さい。この軽いクラッチを踏んで1速に入れてユックリ
と発進してみると、繋がり始めてから完全に繋がるまでのストロークも長めで、軽い操作力とともに初心者にも扱いやすい。反面、半端なテクニックでは発進すらできないようなクルマを喜ぶ生粋のマニアには物足りないかもしれない。ペダル配置は適正で、特に左に寄っていたり、ペダル間隔が極端に狭いなどという不具合はない。
AT版の試乗では2ℓターボエンジンの特性が低速でイマイチのレスポンスだったが、気にしなければ問題にならない程度と思った。しかし、今回はMTだから、それなりの運転をしたくなる。
そういう目で見ると低速でのレスポンスの悪さは結構気になる。アクセルペダルの踏み込みに応えてくれるためには、4000rpm以上に回転を上げることが必要になる。そこからトップエンドの7500rpmまで一気に、しかも滑らかに回ってレッドゾーンに飛び込む勢い・・・・・・を期待すると、これまた裏切られる。
元気の良いのは6000rpmまでで、それ以上は頭打ちとなる。確かに最高出力の発生回転数は6000rpmだから、こんな物かもしれない。それにしても、回転計のレッドゾーンが最高出力点より1500rpmも高いのは、ちょっとばかり誇大表示じゃないのかな。試乗車が走行1400km程度であったことは考慮が必要ではあるが、
それにしてもちょっと物足りない。
ただし、低回転でのトルクの低さは、人によってはメリハリがあって寧ろ好ましいと感じるかもしれない。この辺がターボモデルの評価の難しさになる。しかし、最近のVWなどの出来
の良い欧州製ターボに比較すると、何やら時代の流れに置いていかれそうなのも事実だ。
フル加速時の音は中々マニアックで、ボクサーエンジン独特のバタバタという排気音と、ヒューンというタービン音、その他各種のメカ音が音の洪水となってドライバーに降りかかるから、好き物には堪えられない。
しかし、これもまた、普通のユーザーからすれば、何て煩いクルマなんだということになる。
MTということになると、一番気になるのはシフトフィーリングということになるが、結論を言えばS-GTの5速MTは決して褒められない。何より操作感がスポンジーというか、いかにもリンク系の剛性が不足している感じがする。悪く言えば軽トラのMTのマシなヤツというフィーリングで、これではシフトをする楽しみに水を注してしまう。操作自体の渋さは5000km程度の走行で当たりが付けば少しは改善されるかもしれないが、リンク系の低剛性はどうにもならない。