マツダ デミオ SPORT & 13C
※検索エンジン経由でノーフレームの場合はここをクリックしてください。



マツダのBセグメントコンパクトであり、屋台骨を支える量販車種でもあるデミオがフルモデルチェンジされた。 ラインナップは1.3ℓがベースグレードの13C(120万円)、CVTとミラーサイクルエンジンを搭載した13C-V(131万円)、アルミホイール、エアロパーツ、回転計等のスポーティ装備を装着した13S(136万円)、 1.5ℓがべースグレードの15C(136万円)、上級のスポーツ仕様SPORT(158万円)という多種にわたり、更に1.3ℓモデルには4WDもラインナップされている。 今回は最上級のスポーティモデルであるSPORTと売れ筋の13Cを比較試乗する。

外観は既に世間での評価どおりに日本車離れをしている。フロントのマツダマークの代わりにブルーのライオンでも付けれは、世間の大多数の人々はフランス車と思うだろう。それ程に雰囲気が日本車的でない。これは、もう日本のメーカーが日本で欧州車を作っているようなもので、事実、先代も欧州で販売される台数の割合が多いのは周知の事実だろう。
SPORTと13Cでは概観上でラジエターグリル、フロントバンパーなどが異なる。内装はSPORTがスポーティーブラック(座面がブルー掛かっている)のみ、他のグレードはモダンブラックとホームホワイト(シート座面とドアの内張りの一部がホワイト)から選択できる。なお、ホワイト は一見汚れやすそうだが、防水加工されていて掃除は簡単だそうだ。

全長3.885m、全幅1.695mというサイズからも想像できるように、室内は広くはない。特にリアシートの前後方向は足元の余裕は 最小限と思ったほうがいい。 この車の用途は街乗りや1時間以内の通勤など、比較的短距離の移動と割り切れば不満はでないし、一家に一台のファミリーカーとして、盆暮れの休暇には家族4人で実家までの長時間ドライブをする場合には、このデミオより適した車はいくらでもある。リアシートに座って気がつくのが、フロントからリアにかけて上方に向かって大きくウェッジシェイプを描くウエストラインの結果として、窓の上下方向が小さく感じることだ。
そう思って、再び外にでてエクステリアを眺めてみれば、確かに後方に向かうウェッジラインは相当に極端だった。



ニューデミオの内装について巷では安っぽいという批判を聞くが、デミオは欧州式の呼び方で言えば”Bセグメント”だから、 本来高級感なんていうものを求めるのが筋誓いというのもだ。ダッシュボートがプラスチッキーだって?当たり前でしょう。
そして、13CとSPORTを比べれば当然ながら、13Cのほうが更にチャチい。何よりも唖然とするのはメーターで13Cに回転計がないのは納得できるとしても、SPORTと共通のデザインで回転計部分にメクラ蓋がしてあるのは、これでもかのコストダウン丸出しで、いくら何でもやり過ぎじゃないか。

シートは非常に柔らかく、座ると結構沈み込む。走行中も、加速 をすればバックレストに沈み込むし、コーナーを曲がれば外側方向に体が移動する。いや、滑るのではなく、シートが変形するのだ。それも強大な加速やコーナーリング速度を誇るハイパフォーマンスカーならイザ知らず、 1.3ℓ 91psでもこれだから、いかにデミオのシートが柔らかいかが判る。それでは、これが耐えられないかといえば、そうでもない。結論については長距離を走ってみないと判らないが、デミオで長距離を走るのかという疑問もあるし、このシートについては世間の評価を待つことにしよう。

デミオのエンジンはいづれも4気筒DOHCで13Cが91ps/6000prm、12.6kgm/3500rpmを、SPORTは113ps/6000prm、14.3kgm/3000rpmを発生する。
最初にSPORTに乗り込み、前述した柔らかいシートに座り、セレクターをDに入れる。SPORTのミッションはCVTで、7速マニュアルモードも備える。SPORTなんていう車名にしては、1.5ℓで113psというのは寂しいが、それでも車両重量が1000kgしかないから、低速から結構キビキビと走る。マツダとしては初のCVTも特に違和感はない。ただし、あくまでBセグメントのコンパクトカーとしてはという注釈つきだが・・・・。

1.5ℓのSPORTの後に13Cに乗ると、正直言って遅い。しかし、これこそ実用コンパクトカーと思えば、特に悲惨でもないし、ライバルでもあるマーチの1.2ℓに比べれば、いくぶんトルク感に勝るような気がするが、まあ、大きな差は感じない。
SPORTはCVTにマニュアルモードを装備しているが、ステアリングのスポーク上のスイッチは裏側から手前に引いて”UP”、正面から押して”DOWN”となり、これは左右とも同じ。この手のスイッチは右手がUP、左手がDOWNというパターンが増えており、出来ればこれに統一してもらいたいものだ。今回はマニュアルモードを本気で試す時間はなかったが、本当に走りを楽しみたいのならば、折角設定されている5MTを選ぶのが正解だろう。
13Cのミッションはオーソドックスなトルコン式の4ATで、特に良さもないが不満もない。経済的なコンパクトカーとしては、これでも十分か。13Cには5MTも設定されているが、回転計も付いていないベースグレードでのMTというのは、何やら業務用的な色合いが濃い。

デミオのステアリングはマーチのように軽すぎることもないが重くもない。 少し前のFF車に独特の強いセンタリングも感じられないし、ステアリングホイール外周を5cmも動かせば、ちゃあんとクルマは反応するから、これまた世間 の常識では実用コンパクトしては十分に合格範囲だ。それでも、SPORTのほうが多少キビキビしているし、なにより安定性で勝る。SPORTでブラインドコーナーを、世の中の常識では多少 速めで回ってみれば、綺麗に弱アンダーでクリアしてくれる。これなら、MTを選ぶことで偶のドライブでのワインティング路での憂さ晴らし をしたい、お父さんにも十分に勧められる。
乗り心地は13Cのほうが柔らかく、SPORTは多少硬めの設定ではあるが、決して硬すぎることはない。スイフトスポーツのようにガチガチで路面の凸凹を常に拾うのに比べては、デミオはSPORTという名ではあっても、目的が全く違うクルマだ。13Cとマーチ1.2ℓを比べれば、どちらもBセグコンパクトしては良い出来で、最新のデミオに対して設計時点で数年は古いマーチの基本設計の正しさも立派なものだ。マーチも国産車としては欧州でソコソコ売れている車種だから、やはり手抜きはしていないし、デミオの場合は国産車というよりも、日本製の欧州車といいたくなる。
 



デミオのブレーキは全車種リアがドラムブレーキでリアディスクの設定はない。FF車の場合はフロントの重量が重く、しかもホイールベースが短く、車両の重心も高めとなっている。制動時のクルマはフロントに重量(荷重)が移動するが、この時はホイールベースが短いほど、重心高が高いほど、そして減速度が大きいほど荷重移動も大きくなる。このためにFFコンパクトカーでの急制動( 0.8G程度)時はフロントが80%程度の制動力配分となる。すなわち、リアはたったの20%。2名乗車のSPORTは約1100kgだから、急制動時にはフロントのディスクブレーキが880kgを受け持つのに対して、リアのドラムブレーキは220kgの制動力を発揮すれば良いことになる。従ってリアにディスクを奢ったところで、果たしてどれ程のメリットがあるのか?ということになる。
ところで、デミオのブレーキフィーリングだが、クルマの性格からして十分の剛性感と、適度に短いストロークで特に不満はない。ただし、急制動時のクルマの挙動はSPORTが危なげもなく真っ直ぐに停止したのに対して、13Cは多少左にステアリングを取られたが、並みのドライバーなら十分に補正は可能な程度だった。では、並以下のドライバーは?ド下手なオバちゃんドライバーが、並みのドライバーのように運転できるくらいに、クルマがカバーしてくれることを望むには、残念ながらメルセデスCクラス級は必要となる。「わたくし、国産車は怖くて運転できないんですの」という、プチセレブのマダムの言葉は、あながち見栄ばかりではないようだ。

フランス車のような、エクステリアデザイン。チーブだが、実用的には何の問題もないインテリア。多くを望まないが、しっかりした走行性能等、新型デミオは実にバランスのとれたコンパクトカーだ。特に欧州車のユーザーならば、実に納得できるし、オーソドックスなクルマと思うだろう。しかし、純日本人的なオバちゃんからみれば、マーチに比べて低めの運転姿勢は、前方視界がイマイチに思えるし、重くは無いがシットリとしたステアリングはマーチのように超軽いステアリングに比べれば重くて操作し辛いとも感じるだろう。まあ、この辺は各自の好みもあるが、最近のマツダ車の進歩というのは本当に恐れ入る。マニアとしては、このデミオにマツダスポーツ版が設定されるのが待ち遠しいところだろう。基本設計のしっかりしたデミオなら、ホットバージョンにも期待が出来る。ミニクーパーSやポロGTIに勝るとも劣らずに、値段は激安。頼みまっせ、マツダさん。


注記:この試乗記は2007年7月現在の内容です。