MITSUBISHI LANCER EVOLUTION (2008/3) 後編
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1回目の試乗車は、今時珍しいオーソドックスなキーをステアリングコラムのキー穴に差し込んで、捻ることでエンジンを始動した。2回目の試乗車はオプションのキーレスエントリーが装着されていた為に、スターターボタンによる始動だった。アイドリングは多少の振動を伴うが高性能エンジンの演出としては、マニアにとってはむしろ好ましい。 ただし、1回目の試乗車のアイドリング回転数は600rpm くらいで回っていると思うと、行き成り800rpm に上がったり、なにやら妙な制御をしていたが、営業マンに聞いたらば、訳の判らないことを言っていた。2回目の試乗車では、その兆候は無かったので、 偶々最初の試乗車が完璧では無かったのかもしれない。 |
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SST いっても、セレクターは一般のトルコン式AT と同じなのはVWの DSG でも同様で、Pから始まって手前にR-N-Dという配置のセレクターレバーをDに入れる(写真14)。この時シフトノブ根元のシルバーのリングを上に持ち上げる事でロックが解除される。丁度、他社の解除ボタンと同様の役目を担っているが、これは知らないと戸惑うところだ。Dに入れたら、普通にアクセルを踏むとクルマは走り始める。この時のフィーリングは、平地を走る限りは特に不自然ではないが、登り坂からのスタートではチョッとコツがいる。SST モードには@ノーマル、Aスポーツ、Bスーパースポーツの3種類がある。モードの切り替えはセレクターレバー手前のトグルスイッチ(写真14の SST のロゴの右側)を使用し、メーターパネル中央のディスプレイに選択したモードが表示される(写真15)。 最初は SST をノーマル、セレクターは Dとして走ってみたが、この組み合わせはハッキリ言って ”トロイ” の一言に尽きる。SST は 1,500rpm 以下で巡航すべくシフトアップをするし、 1,500rpm から急に加速したくなって、スロットルを踏みつけても反応は遅くて、かなり遅れてからシフトダウンをする。このモードは混んだ市街地なら何とか使えるが、少なくともランエボを買った価値はない。 次に SST をノーマルのままで、シフトをマニュアルモードにする。マニュアルモードへはセレクタレバーをDから右に倒すか、走行中にステアリング背面に取り付けられたパドルスイッチを作動させることで切り替えが出来る。パドルで切り替えた場合、パドルスイッチを長押しすることでDモードにリセットされる。また、パドルで切り替えた場合は当然ながらセレクターレバーでのシフトは出来ないさて、ノーマルモードでのマニュアルシフトは、大きなタイムラグと、Dレンジ同様の緩慢なスロットルレスポンスで、マニュアル操作するメリットは殆どない。特にスロットルのトロさは致命的で、3,000rpm以下ではレスポンスは極めて悪く、その昔 R32 GT-R に初めて乗って、当時は国産最高の 280ps に胸を躍らせたら、3,000rpm 以下ではカローラより遅くて驚いたのを思い出した。そして R32 GT-R と同様に4,000rpm を過ぎると一気に吹け上がり、これぞランエボという走りをするが、そのためには常に高回転を維持する必要がある。 ![]() そこで、今度は SST を”スポーツ”に、セレクターは”D”で試してみる。スポーツに切り替えたことによる特性の変化は劇的で、シフトタイミングも高回転寄りになり、何よりもスロットルレスポンスが劇的に改善される。次はセレクターレバーをDから右に倒してマニュアル操作を行ってみる。まずは、静止からハーフスロットルで 4,000rpm 程度で右側のパドルスイッチを引いていくと、先程のノーマルモードでの不満は一気に解消する。と、ここで、気が付くのはスポーツモードでのアクセルレスポンスがわざとらしく過激な事だ。そういえば BMW525i のスポーツモードもアクセルべダルをチョット踏むと、大げさにガッとトルクが立ち上がったが、ランエボ]の場合は、それ以上に小細工をしている感じがする。しかし、これに乗った経験の浅いユーザーは、すげぇー、流石はランエボだと狂喜するに違いないから、このクルマの購買層を考えれば、この味付けは仕方ないのかもしれない。 Dレンジでのオートマ状態でもスポーツモードだと SST は低めのギアを選択するし、更に先方の信号が赤に変わるのを予測して、少し遠くから緩い減速をしているような時でも、回転数が 2,000rpm 程度になると、ウォンという軽いブリッピングによるシフトダウンを繰り返す。なにもそこまで頑張らなくても良いのではないか、なんて言いたくなる。この状況は BMW M5 のドライブモードでも発生して、ドライバーを感動させたが、ランエボ]は M5 よりも更に大げさだった。なお、2回目の試乗車ではノーマル&Dレンジでも、スポーツモードよりは控えめではあったが、減速時には速度が落ちるの連れて、ブリッピングによるシフトダウンを行っていた。 この時点で、巡航速度に対して、ギア位置が高い割には速度が出ていないことに気が付いた。すなわち、60km/hで巡航中なのにギアは既に4速に入っている。普通、この手の高性能車だったらば、街中では3速が限度なのだが、ランエボの場合は4速どころか、流れが速くなると5速すら使える。これは、ギア比がローギアードであることを裏付けている。そこで、ギア比を比較してみると下表のようになった。 ボクスターSの 6MT はオーバーオールでランエボ]の SST に比べてハイギヤードなのが判る。ランエボの SST は5速までの低い設定が6速では行き成り高くなるが、これは5速までをクロースレシオとして、6速は高速巡航ギアと割り切っているのが判るから、実際には5速+オーバードライブというところだ。したがってボクスターS(6MT)での街中の巡航が3速を主体とするのに対して、 ランエボ]では4速となったのはうなずける。(表1の太字部分)。 ここで、パドルスイッチの操作性に触れてみると、ランエボのパドルはコラムに固定されていて、ステアリングが中立位置から外れていると操作し辛い。コーナーリング中でのシフト 操作は言語道断との意見も有るし、確かに正論だが、実際に操作してみると、僅かにセンターから外れると操作はやり辛いのは間違いない。 そこで、今度はコンソール上のシフト(セレクト)レバーを使ってみる。 ランエボ]の場合は他の三菱車と異なり、手前に引いてアップ、押してダウンというレーシングスタイルで、個人的にはこのパターンが加速感に合っていて好ましいと思う。 パドルでの切り替えがF1の雰囲気なら、こちらはスーパーGTを始めとするシーケンシャルドッグミッションの雰囲気で、実際のレースシーンでの普及度では圧倒的にこっちの方だ。コーナー手前でブレーキングと共に、レバーを素早く2回押すと、短いブリッピングが2回聞こえて、 ディスプレイの数値は4から3、2と変化して、回転計の針も4,500rpm を指している、なんていう乗り方をしてみれば、気分はスーパーGTドライバー。欲を言えば、シフトレバーをもっと長くした方がステアリングに近いし、何よりレーシングカー的でもある。 |
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20分程走行して、大分慣れてきたので、前後にクルマがいない交差点で赤信号で停車したのをチャンスとばかりに、次の青信号を確認後にフルスロットルでのスタートダッシュにチャレンジした。 結果は右にステアリングを取られたが、その状況はミニクーパーSと同程度で、ドキっとする程ではないが、即座にカウンターを切っても、クルマは一瞬50cm程は横っ飛びしたから、狭い農道などでは田んぼと仲良くなることも考えられる。4WDなのに、なんで?やっぱりランエボはやんちゃなんだと再認識する場面でもある。最後のスーパースポーツモードは10km/h以下でスイッチを3秒間押すと切り替えられるが、このモードは 5,000rpm で巡航するような、サーキット以外では使い物にならない特性のために、今回のよう な公道上では使用しなかった。それにしても、サーキットをオートマモードで走るっていうユーザーがいるのだろうか。ステアリングに集中できるというが、シフト操作(しかも2ペダルで)をすることで、ステアリング操作に支障をきたす程度の能力でサーキットを走るのは、危険ではないのだろうか? ランエボ]の排気音は\以前のモデルに比べれば大いに静かになったが、それでもボーッという少し下品な音がする。まるでアフターマーケット部品を後付したような音で、 個人的には好まないが、走行中に室内から聞く限りでは決して悪い音でもないかな、とも感じた。特に、フルスロットルで4000rpmを過ぎて、本格的に過給が開始されている状況では、このボー音の迫力は、ある面マニアックでもある。 とはいえ、ハイチューンNA(ノンターボ)エンジンのメカメカしい音には敵わないのは、廉価版4気筒エンジンにターボを積んで、無理やり高性能化を図ったのが、見え見えとなる からだ。なーんて、書くと、批判の嵐にあいそうだが、400万円で1,000万円超えのポルシェ 911 並の性能を出そうというのだから、元々無理があるのは当然でもある。走行中にはエンジン音に加えて、タイヤのノイズが常に聞こえたが、これも慣れの問題で、トップクラスの高性能車なんだと言い聞かせれば腹も立たない。 2回目の試乗では十分な時間が取れたので、ワインディング路も試してみた。最初は少し速い程度の速度でコーナーに進入してみたが、S-AWC (Super All Wheel Control) による挙動は、実に容易にコーナーをクリアしていく。 連続するコーナーがあったので、次々に速度を上げていったが、拍子抜けする程簡単にコーナーを通過して行く。BMW のサルーンが極めてニュートラルなコーナーリングによって、自分の腕が上がったと錯覚するのは有名な話だが、ランエボのS-AWCはコーナーリングの能力では BMW を完全に追い越している。しかし、趣味で乗るクルマというのは速ければ良いという訳でもない。 BMW の楽しさに比べると、ランエボのコーナーリングは速いだけで、全く面白くは無い。それに、 BMW が自分で操っている充実感を味わえるのに対して、ランエボは何やらクルマに操られているような気がする。ステアリングは適度に軽く、路面からの振動も伝わるのだが、これも BMW のように路面状況を伝えるというよりも、ただビシビシ振動しているという感じがする。 そして、コーナーリング中のステアリング操作は、クルマに自分はコーナーを曲がりたいのだという意思を伝えているとうか、コーナーリング状態である旨の指令をだしているという感じだった。大げさに言えば、これはハンドリングを楽しむのではなくて、コーナーリングロボットを操作しているという感じがする。まあ、この辺は個人の趣味の問題 だから、この特性も人によっては感動と絶賛のアラシとなることもあるだろう。 乗り心地については、当然ながら硬めではあるが、橋桁のつなぎ目なども1回のショックでスパッと止まるし、充分な剛性感のあるボディとともに、決して不快ではない。ただし、このクルマをファミリーセダンと騙して購入した場合の後席の山の神や生意気娘の反応は厳しいものになるとは思う。今回の試乗車は標準のサスだが、 ビルシュタイン製ダンパーやアイバッハ製のスプリングが付く、オプションのハイパフォーマンスパッケージ(21 万円高)を装着すれば、しなやかな乗り味になるそうだから、この面を強調して21 万円の予算アップを獲得するのも手かもしれない。 いや、そんな事を言ったら、21 万円出さないと不快な乗り心地だとバレて、薮蛇になるかもしれないが・・・・・。 ブレーキはランエボの代名詞であるブレンボの対向ピストンで、街中の使用では充分すぎるというか、勿体無いくらいだ。しかし、ブレンボでもこのタイプの分割式では、本当のヘビーユースでは問題も出る。そんな訳で、比較的改造範囲の狭いグループNでも、 ブレーキの交換は許されていて、同じブレンボでもレーシング専用のモノブロック削り出しを使用しているサーキットユーザーは多いようだ。 エボ]の目玉であるSSTについては、結構良く出来てはいると思うが、ランエボをそれらしく乗るのなら、やはりMTが正解だろう。でも、SSTはマトモにMTを扱えない素人用・・・・なんて事は口が裂けても言えません。それに、本当はMTに乗りたいのだけれど偶には奥方も運転するので、”AT”が必須という事情だってあるだろうから、一からげにMTを扱えないドライバー用なんて言ったらば罰が当たる。ただしエボ]からは、MTが5速となった。まあ、これだけのトルクがあれば、下手に多段化しない方が良いというのも頷けるし、レーシング用の場合はシーケンシャルドッグミッションに乗せ代えるのが普通だから、如何でも良いのかもしれないが・・・・・・・。 |
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ランサーエボリューション]の値段は競技用ベース車のRSを除くと、仕様によって350〜420万円。しかもオーディオはスピーカーさえ付いていないので実質価格は更にアップ し、こうなると定番輸入車さえもターゲットになってしまう。ディーラー(勿論2回目の)によると、エボ]になってからは、今まで来社したことが殆ど無かったVWユーザー などが結構来るそうだ。比較対照は GOLF GTI ということか。いや、エボ]のグレードによっては、R32 とだって競合するかもしれないし、 BMW の 130i や新発売の 135i クーペさえも ターゲットになる。 言ってみれば、エボ]は高価になり過ぎた。メーカーとしてはエボTからのユーザーも今や30代後半から40代が中心だから、嗜好も収入も変わっているはずで、 より高級路線に走るという戦略を立てたのは理解できる。しかし、それにしては、使えないノーマルモードや小細工したスポーツモードなど、どうもチグハグな面が多い。ノーマルモードのレスポンスを もう少し向上させて、逆にスポーツモードをハイレスポンスのままで、もっと自然な特性にするべきだと思う。まあ、あの特性こそがランエボらしいというのも判るが、少なくとも、エボ]になって検討してみようかという、VWや BMW ユーザーを、ガッチリ受け止めるには、 ランエボ]の内容はガキっぽ過ぎる。 そしてディーラーの体制にも問題がある。総支払額が 500万円に迫るクルマを売るならば、それなりの販売体制が必要ということだ。これは何も三菱だけの問題ではなく、800万円の GT-R を売るニッサンディーラーにも言えることではあるが、ベンツ・ビーエムに代表される輸入車に対抗する車種を展開する場合、一番の弱点は販売網にあると思う。この点で一番強いのはナンダカンダ言ってもレクサスだ。 あの、ショールームや販売網は競合する輸入車ディーラーも脅威を感じているようだ。付け加えれば、これら高級志向のディーラーは、相当に敷居が高いから、ヤンキー兄ちゃんが試乗に現れる事はないが、ランエボやインプSTI、それに GT-R でさえ、おかしな輩が試乗に来て、 無謀運転のあげくに畑に転落して見事に全損!という事実を2件ばかり聞いている。そんな事情だから、ディーラーが試乗に神経質になるのも理解できないではないのだが・・・・・。 さて結論だが、今回のランエボ]は決して悪い車ではないし、性能を考えれば大いに買い得は間違いないのだが、新しいユーザー層を狙うにはイマイチな面もあるし、旧来のユーザー層に対しては大きく重く、そして高価になりすぎた。まあ、販売台数の限られたエボの売り上げから言えば、如何でも良いのかもしれないが、このようなフラッグシップモデルがあってこそ、 ベーシックなファミリーモデルの人気が上がることも考えてもらいたいものだ。と、思って考えてみたらば、何と今回からはファミリーモデルの名前はギャランフォルテスだった。なんで変えちゃったの? |