レクサス LS460 (2006/9/26) 【後編】


BMW 740i

 
LEXUS GS450h

 

 

 

    
    新型LSの外観は、一言で言えば大きなカムリのようであり、また大きなクラウンでもある。
    最近のトヨタ車の典型なのだけれど何やら無国籍な雰囲気がする。レクサスのアイデンティティ
    というものは全く存在しない。

試乗車はベーシックな組み合わせとしてベースグレードのLS460(770万円)に例の10万円也のフロアマットなどと取得税や諸費用を合わせて総額は850万円程のモデルで、さらに後日スポーティーに振ったバージョンS (845万円)にも試乗した。
先ずはベースグレードに試乗してみる。早速運転席に座ってみると、勿論トヨタ丸出しなのだけれど、ISやGSの無理に欧州のプレミアムセダンを真似たが何だかチグハグな内装と比べて、流石はフラッグシップだけあって格が違う。 ただし、先代までのセルシオのような乗った瞬間にワザとらしさはあるが欧州車にはない、これでもかという豪華絢爛さ がなく、案外地味に感じる ので、人によってはセルシオの方が豪華だったのにLSになったら値段は上がるし、内装はチャチになると怒るだろうが、まあ、そういうユーザーにはクラウンマジェスタを薦めることにしよう。

シートの座り心地は国産車としては上等で、これもまたISやGSとは格が違う。ベースグレードはLSでは唯一のファブリックシートが装着されており、言ってみれば本来の売れ筋のLSに比べてセコいシートという事になるから、今後街を走っている大部分のLSはもっと良いシートがついている筈だ。今回の試乗程度の時間では、長時間乗った際のシートによる疲れ具合は判らないが、一般的に評判の悪い国産車の中では 悪くはなさそうだ。まあ、値段も最上なのだから、10分間座ったら腰が痛くなるシートは付けないのは当然でもあるが ・・・。

次にバージョンSはといえば、こちらは標準でレザーシートが装着されている。座面には細かい通気穴が開いているタイプで、それが理由かどうかは判らないがツルツルと滑るような事はなかった。ショールームでは数十万円高いオプションのセミアニリンのレザーシートを装着する‘Iパッケージ’も見たが、確かに革の表面がしなやかだと言われればそう思うが、例え標準レザーを購入しても直に両者を比較しない限りは慣れればどちらもそう変わらないし、セミアニリンシートに座った瞬間に標準レザーとは明らかに違う心地よさや高級感に室内が満ち溢れているとは到底思えな かった。 更に‘Iパッケージ’はピラーと天井の内張りがアルカンターラとなっているのだが、これも標準のスエード調の布が極めて良く出来ていて、チョッと見にはコレマタ区別が付かないくらいだ。 そんな訳で、長い間使った時の耐久性などは判らないが、少なくとも新車で比較した分には明らかな差は見つからなかった。えっ?「オマエ、それは見る目が無いんだよ」と言われそうだが、あれを見た瞬間にセミアニリンだと当てられる人が何人いるのだろうか? それとも、トヨタ流の例のパターンで、マークレビンソンと聞いてオッタマゲて期待一杯で聞いてみたら所詮カーオディオで、しかも日本のカーオーディオメーカーが製造したOEM製品で、本物(室内に設置する)のマークレビンソンとは雲泥の差だったなんていうのと同じだったりするんじゃないかな?
 


トヨタ丸出しなのだけれど、ISやGSの無理に欧州のプレミアムセダンを真似たが何だかチグハグ
な内装と比べて、流石はフラッグシップだけあって格が違う。写真はベースグレード。

想像どおりにエンジンが回っているのかどうかは回転計を見ないと判らない程に静かで振動の無いアイドリングに、これぞトヨタのレクサスと心で叫びながらパーキングブレーキの解除方法を探すと、なんとオートモードにしておけばATセレクターをDにすると、自動的にパーキングブレーキが解除されるのだった。以前に初めてセルシオに乗った時は、走り出した瞬間にお〜ッと叫びたくなるような静かで滑らかなフィーリングにオッタマゲ たものだったが、新型のLSも当然ながらセルシオの伝統その物なのは言うまでもない。 同じレクサスのV8でもGS430とはクルマの出来がマルで違う。ところが、先代セルシオの4.3ℓ、280ps、43.8kg・mに対して、4.6ℓ、385ps、51.0kg・mの新型LSは車重が百数十kg増加したこともあり、 トルク感と加速感に明らかな違いは感じなかった。 先代のセルシオだって国産乗用車としてはトップの動力性能を持っていたから、新型LSに乗っても特に感動はない。
既に公言されているように来年の春までにはハイブリッドのLS600hが発売されるだろう。Sクラスも7シリーズも最上級モデルは6ℓのV12を搭載している。レクサスの場合は伝家の宝刀であるハイブリッドにより6ℓ並みの性能を出そうということで、これはトヨタのアイデンティティとしては実に正解だ。 ただし、GS450hに乗ってみたら期待を見事に裏切る鈍重な操舵性能に、折角のハイブリッドによる動力性能や、先進性などのメリットを考えとしても未完成もいいところだった。 今度のLS600hがどの程度の完成度を示すか興味のある点でもあるが、ゼロヨンしか取り得の無い直線番長でなければ良いのだが・・・・。


800万円上のクルマニしては高級感がないし、何より日本語表示といってもカタカナだらけなのが情け無い。同じ日本語表記でもセンチュリーは格調高いのに・・・。


GSはミラーの調整などのスイッチを蓋付きのボックスに入れたため非常に使い難く非難のアラシだったが、LSでは世間の常識どおりのマトモな位置になった。


後席重視のバージョンUのリアセンターアームレストの蓋を開けたところ。

 


バージョンUはフロントセンターコンソール後方がリアリートから操作出来るようになっている

 

新型LSのミッションは世界初の8速ATを装着している。ATの段数は4速から5速になった時には随分と良くなったのが実感できたが、最近流行の6速ATは5速との体感的な違いはあまり感じない場合が多い。 そういう意味では8速ATなんて意味があるのか疑問だったが、さて、乗ってみれば想像どおりに何が良いのか判らない。確かにスムースで何処で変速したのか判らないが、先代セルシオの6ATで何の不満もなかったから、8ATなんて要らないから値段を下げてくれ 、なんて言いたくなる。普通に走行していてキックダウンのつもりで強くスロットルを踏んでみてもジェントルな設定で、自慢の8ATは中々シフトダウンしてくれない。8速もあるんだら、即座にシフトダウンしても良さそうなものだが。今度はATのセレクトレバーでSモードにしてみると、上手くキックダウンが出来た。そこでフル加速を試 してみれば、新型の4.6ℓ V8エンジンは適度なV8のビートと共に何のストレスもなく軽く吹け上がり、6500rpm程度でシフトアップした が、決してワクワクもドキドキもしなかった。それに、4000rpmを過ぎてから一段とパンチが効いてくる・・・・何てこともない。このトップエンドのスムースさは先代セルシオを凌いでいるようだ からエンジンも確実に進歩しているのだろうが、だから如何した、旧型で十分じゃないかと言いたくなってしまう。世間では俗にトヨタ馬力なんて言われているように、このLSも385psというトテツもないハイパワーは本当なのだろうかと疑いたくなってしまう。 車両重量1,940kgに385psだから馬力当たりの重量は5.04kg/psで、これは06ボクスターSの1,410kg・280psと全く同じ条件だが、実際に体感する動力性能は大分異なる。


ATのセレクターは上からP-R-N-DでDから右に引いてS、上で+、下で-のMTモードとなるのは欧州のティプトロニックと同様。配置やゲートの形状はGSと殆ど同じ。


ISやGSの子供だまし的なハイテク感とは違い、先進性の中にも趣味の良さがある。 制限速度云々は別にして、380psのクルマに180km/hフルスケールはいただけない。ハッタリで良いからオプションで300km/hくらいにならないのか。。

操舵性については、先ずはベースグレードから説明しよう。ステアリングの第1印象はと言えば、とにかく軽いということで、良く言えば楽チンだがスポーティと言う言葉とは縁遠いのは先代セルシオと同じだし、それでいて決してヨレヨレでないのは次元が高いというか、流石にトヨタの最高級車だが、これもまた先代セルシオと大きく変わらないような気がする。 ただし、マジェスタのステアリングは更に軽いから、LSの軽さはマジェスタからの買い換えユーザーも考慮に入れた中で、最大限に欧州車的な妥協点なのではないか。試乗コースの途中に丁度良いコーナーがあって、ここを普通のドライバーなら十分に速いと思われる60km/h程度で進入してみたが、極々自然に安定してクリアしたから、LSのコーナーリング性能は決して悪くないのだが、何度も言うが面白くない。そして、ステアリング自体も決してトロクはないがクイックでもない。それより何より、スピード感の無さはどんなクルマよりも特出している。 良く出来た欧州車を表現するのに、スピード感がなくて、ふと気が付くと恐ろしい速度になっているという話しを聞くだろうが、LSのスピード感の無さは度を越えていて、これで危険はないのだろうかと考えてしまう。要するに欧州車の場合は安全な場面ではスピード感はないが、条件が悪い場合、例えば狭くて人通りが多い場合などは、チャンと危険を感じて速度を落としたくなる。 ところがLSは如何なる場面でも速度感覚が無く、外界はバーチャル世界のようで、まるでゲームでもやっているような感覚で運転することになる。

乗り心地は素晴らしく良い。しかも、可変サスの中間であるノーマルのポジションで実に快適な乗り心地を提供してくれる。スポーツに切り替えると多少硬くなるが、それでも十分に乗り心地は良いし、BMW7シリーズと比べればこれでもマダマダ柔らかい。更にコンフォー トと呼ばれる最も乗り心地を重視するポジションで試したら、当然ながら更に乗り心地は柔らかくなった。 ただし、コンフォートを選んでも少し前のクラウンロイヤルのようにフニャフニャにはならないが、この柔らかさならばクラウンオヤジからもクレームは出ないだろうし、これでも硬いと言われたらば「レクサスはグローバル基準のクルマですから、欧州車と同様に硬い乗り心地になっております」と言う説明で納得するレベルだ。 先代セルシオの可変サスはスポーツにすると結構硬くなり、まるで欧州車のようで、ノーマルにすれば今度はフニャフニャのクラウンロイヤル的になったから、この面では新型LSの進歩は十分にある。ベースグレードは装着タイヤが235/50R18だから乗り心地では有利には違いない。

次にバージョンSは如何かといえば、乗った瞬間に違いを感じる程ではないが、操舵性は幾分シッカリしている感じがする。ベースグレードだって安定性自体は決して悪くは無かったから、バージョンSの必要があるのか何て考えたくなる。 245/45R19というサイズのタイヤを装着する割には、こちらも結構乗り心地は良い。試乗に同乗したセールス氏に案内されて、つなぎ目が大きく凸になった橋を渡って見たが、実に上手く吸収した。実は新型LSには大きな衝撃を感じるとGPSにより位置をメモリして、 次に同じ場所に着たらここはガツンッとくるぞという情報を先に知った上でダンパーの制御を行うそうだ。何だかちょっと反則技っぽいが、流石は日本のハイテク技術と感心する。
他にも標準とオプションを合わせればハイテク装備のオンパレードとなるが、この方面については興味のあるかたは解説本でも買って読んでもらう事にしよう。
 


LS460の新型V8 4.6ℓエンジン。385ps/6400rpm、 500N-m/4100rpmを発生する。
ボンネットを開けると、内部は完全にカバーで覆われている。

レクサスのブレーキシステムは最廉価版のIS250を除いて、全てがフル電子制御のブレーキバイワイヤ方式を採用している。今まで、IS350、GS350/430と殆ど同じブレーキシステムを持つ3車種に試乗しているが、3車種ともフィーリングが異なっ ていた。今回のLSは、その中でも最も良かったGS350のフィーリングと同じだった。発売から1年が経過してバラつきも少なくなったのか、それともLSは製造時の検査基準がより厳しかったりするのだろうか。ブレーキペダルを踏み込むと短い遊びを経てガンっとベダルが壁に当たったかのように動かなくなり、その後は殆どストロークせずに踏み込む力(踏力)のみでブレーキ力をコントロールする。 これが良いか悪いかは個人の好みにもよるが、高級乗用車の特性としては安心にて制動できるから良いのではないか。最近の国産車のブレーキは何れもストロークが短く、剛性感がある特性になっている。LSの踏力に対する減速度の出方も適正で、カックンを感じるほど軽くは無いが、 小柄な女性でも十分に減速出来る程度には軽いから、全く文句の付けようがないくらいだ。試しに強めの制動を試みたが、車両の挙動も安定して、これなら緊急時の急制動にも安心だ。まあ、800万円の国産車なのだから、良くて当たり前でもあるが。
以上がベースグレードのブレーキについての感想だが、さらに大径のブレーキローターを装着するバージョンSは如何かと言えば、ベースグレードに比べて感動するほどブレーキ性能が良いという訳ではない。 まあ、これもベースグレードのブレーキの出来が良いから、それより多少良くても大きな意義が無いという訳だ。

もうお判りだろうが、バージョンSというのはスポーティな外観をもった上級バージョンで、決してスポーツ走行をするためのモノではない。確かに、コーナーを攻めるのにLSを買うユーザーはいないだろう。 大型サルーンの中では例外的にハンドリングがスポーティなBMW7シリーズだって、スポーツ走行を楽しむには幾ら何でも大きすぎる。実はLSに試乗して驚いたのは、7シリーズに比べて格段にすれ違いが楽だったことだ。 寸法上でも全幅が狭いLSは流石に国産車だけあって、多少は狭い日本の道路のことも考えているのだろうか。
  


標準グレードに装着されている235/50R18タイヤ。


こちらはスポーツグレードでもあるバージョンSに装備される245/45R19タイヤ。


リアブレーキもアルミ対向キャリパーを装着している点がGSと異なる。ローター外形はΦ315mmでバージョンSのみΦ335mmとなる。


フロントブレーキはアルミ対向4ピストンキャリパーと外形Φ334mmのローター。ただしバージョンSは外形Φ357mmのローターとなる。

元々グローバルレベルで見ても、静粛性や造りの良さで定評があった旧LS(国内ではセルシオ)の後継モデルだから殆ど進化が無くても、それだけである程度のレベルは確保している事にはなる。新型LSは正常進化だと言えば聞こえは良いが、大きく進歩した訳ではないのに価格だけが上がったのは、ユーザーにとっては面白くない。メルセデスSクラスやBMW7シリーズど同等とまでは言わないが、結構迫っているクルマをベースグレードなら600万円以下で買えたことに意義があった先代セルシオに対して、レクサスブラン ドになったら一気に200万円近くの値上げになってしまった。レクサスへの移籍の結果として、先代セルシオのオーナーが新型LSを見て地団駄踏んで悔しがるよう な出来であって欲しかったが、これなら直ぐに買い換えなくても当分はセルシオに乗っていようなんて思うに違いない。

と、色々苦言を言ってしまったが、値段やクラスの違いを考慮しても、LSがISやGSとは格が違うことは間違いない。昨年のレクサス開業の時には、同時に発売したのはソアラのエンブレム違いのSC を除外すれば、残るはGSだけ。そのGSはアリストのモデルチェンジ版だから、こんなものでプレミアムブランドで御座いますなんて言ったって世間様からは物笑いになるだけだった。しかし、あの時点でLSがあったら、いやLSが発売されるまで開店を延ばしていたら、今ほどに世間からバカにされたり、立派なショールームに閑古鳥が鳴いたりはしなかったのではないか。聞くところによれば、レクサスの国内展開にあたって集められた人材は自動車以外の高級品の専門分野から、その道のエリートをヘッドハンティングしてきたそうだ。しか しクルマと言うのは泥臭くてエリートとは無縁な、現場を知ってナンボの世界だから、彼らが頭のなかで考えるようには事は進まなかったし、クルマの道にドップリ使った人間から見れば、一年前のレクサスの方針は聞いただけで吹き出してしまうほどに滑稽だったから、今の状況は当然の結果だといえる。

期待の星であるLSは今注文しても納車は来年との現状から、レクサス人気も完全に回復したと誤解されそうだが、今のLS需要はセルシオからの定期的な買い換えユーザーがLSの発売を待っていただけのことで、一年もすれば本来の台数に落ち着くことは間違いない。そして今、遅ればせながらLSの発売でレクサスの他車種の人気も盛り返そうとしているが、半年先まで予約があるというLS人気の割にはショールームは相変わらず閑古鳥が鳴いている。今後はハイパフォーマンスのV8搭載のIS(500?)などの追加発売が噂されているが、一度落ち目になった状況からの脱出は、そう簡単にはいかないだろう。しかし、結果が良かろうが悪かろうが、それなりに世間に話題を提供することは間違いない。

元来、セルシオの個人ユーザーは2割程度で残りは法人登録だった。それでも自分の財布から600万円をだして買ってくれた2割の個人ユーザーは、今後どうなるのだろうか?800万円と言えば、車格はLSより落ちるとは言っても本物のプレミアムブランドが視野に入る価格だ。 LSのクルマとしての出来は、欧州車とは別のコンセプトと思えば決して悪くは無いが、この価格設定はどんな物だろうか。先代セルシオを駆け込み購入した個人ユーザーが悦に入っている姿が目に浮かぶ。
更に気になる事がある。セルシオに乗って客先を訪問した時には「あっ、社長、良いクルマ乗ってるねぇ」と言われたって、「いやぁ、トヨタ車ですよ。本当はベンツなんかに乗りたいけど、とても予算は無いし。せめて納入価格を世間相場まで上げてくれれば買えるんですけどねぇ」なんていいうことでマルく収まる。 ところがレクサスと言うのはプレミアムブランドなのだから、「あっ、社長!これって、ベンツなんかと同じなんだって?儲かってるんだねぇ。これじゃ、納入価格の見直しがいるねぇ。一律5%値下げでも頼むかな。」なんて事になってしまう。 それに、LSは最高級車だから格としてはベンツのSと同じと思えば、ご自慢のBMW320iに乗る客先の調達課長が黙ってはいないだろう。さあて、社長のセルシオも来年は2度目の車検だし、何を買ったら良いのやら? そうだ、メルセデスEクラスワゴンなんて如何でしょうか?「いやあ、ベンツって言ってもライトバンですよ。やっぱり商売にはライトバンが一番。私も課長さんのように大企業のエリートならセダンに乗れるんでしょうけどねぇ。 ところで課長さんのビーエム、調子はどうですか?やっぱり、サルーンは良いですよね。」なんて具合になれば良いけど。