アルファロメオ 159 2.2JTS (2006/3/18)

 



 

 

 

   
誰が見てもアルファロメオと判るスタイル。盾を模ったグリルの左右に丸目の3灯ライトという基本 は後期型の156の
イメージを引き継いでいる。

1960年代末から70年代にかけて、日本は高度成長による著しい生活レベルの向上と共に、インフレやら土地の高騰などのネガティブな面も表面化して、 更に70年安保を契機としての学園紛争や過激派のテロなど、不安と期待の織り交じった時代だった。そのころのクルマはと言えば、 そまでは自営業者などが経費で買う事が多かったが、1966年に発売されたトヨタカローラに代表される大衆車の台頭で、サラリーマンでも自家用車が持てる時代になりつつあった。そうなると、少し余裕のあるユーザーでクルマ好きなら、より高性能なクルマが欲しくなるというのは当然の成り行きで、この頃の国産スポーツタイプの進化は凄まじい勢いだった。
当時のエンジン形式は、一般的にはOHVが主力で、OHCがやっと普及し始めた頃だった。ましてや、DOHCなどと言うのは、それこそレーシングエンジンの部類で、量産型のストリートカーに標準で搭載されていることは世界的にも稀だった が、当時この希少なDOHCエンジンを量産していたのが、アルファロメオだった。 60年代末に日本でDOHCエンジンと言えばトヨタ2000GTとスカイラインGT-Rで、何れもレース絡みの高価格車だから、庶民は勿論、少しばかりの金持ちでも手のでないせかいだった。そんな1968年に、トヨタが新発売したスペシャルティーカーであるセリカの最上級モデルである1600GTには、 なんと直列4気筒1.6ℓ、DOHCで115psを発生する2T-Gエンジンが搭載されていた。価格は確か86万円程度と記憶している。 そして、その後に1.6ℓDOHCエンジンは各社が参入することとなる。いすゞは高級パーソナルカーの117クーペ用に1.6ℓDOHCエンジンを開発し、 後にベレットにも搭載され、べレットGT-Rと呼ばれた。ミツビシもギャランGTOの最上級モデルのMRに1.6ℓDOHCが搭載された。このように、当時の日本は世界的にも稀な高性能エンジンに溢れるという事態になっていた。 その中でもトヨタの2T-Gエンジンは、セリカの兄弟であるセダンボティのカリーナにも搭載されたカリーナGT、カローラに搭載した初代レビン/トレノで若い人から見れば伝説的なTE-27などと バリエーションを広げて、しかも他社に比べて安価という絶対的な強みを発揮していた。トヨタのスペック第一主義とハイコストパフォーマンス、 高品質は既に当時から確立されつつあった事になる。
これら国産DOHC勢に比べれば、アルファの価格は一般庶民から見たらば非現実的なくらいに高価だった。富裕層のマニアに人気だった1750GTVは255万円もしたから、 これは日本が世界に誇る(と当時は思っていた)トヨタ2000GTの238万円よりも高価だった。それなのに1.8ℓでパワーは113psでは、1 .6ℓ115psのセリカに負けているではないか、なんて当時の日本人マニアの多くは思っていた。
ところが、それから2年後に B_Otaku が初の輸入車のハンドルを握るチャンスが訪れた。同級生のクルマ好きに父親が金融機関の役員という、金持ちのバカ息子がいたのだが、 その友人が親に買ってもらったのがアルファロメオ1750GTVだった。当時のアルファはRHD(右ハンドル)が主流だったから、その面では始めての輸入車といっても大きな違和感はなかった。 ところが、走り出してからの印象は一変した。何しろ、ステアリングはクイックでコーナーリングは弱アンダーで簡単にクリアーできる。 当時のアルファは今と違ってオーソドックスなRWD(FR)だったし、さらに重量配分にも相当拘っていた。これに比べれば、国産スポーティーカーなんていうのは、 ただ硬い足でゴツゴツと不快なくせに、アンダーは強く、大パワー(当時としては)に物を言わせて強引にコジるような運転をするのが常だったから、1750GTVの操舵性には唖然とした。 それにも増して驚いたのがエンジンで、とに角スムースにどこまでも回るから、回転計を見ていないと5500rpmという控えめなレッドゾーンに、あっという間に飛び込んでしまう。 当時の国産車のエンジンなんて、スペックは同等以上でも、実際にはとてもレッドゾーンまで回す気にならないし、実際にも回らなかった。だから今まで、回転計というのは飾りだと思っていたが、 成る程アルファに乗ってみれば、高性能車には必要な事を思い知らされたと共に、スペックでは判らない欧州車と国産車の差を実体験した。
ところが、その性能抜群のアルファには信じられないような欠点もあった。その友人のクルマは、ある日箱根の峠道を攻めていたら、突然のショックと共に クルマが急停車してしまい、何が起こったのか判らないままに外に出てみたら、何とプロペラシャフトが外れて地面をほじくって停まっていた!そんな信頼性の低さとともに、仕上げも最悪だった。 室内のウッドパネルが割れてくるのは当たり前だし、塗装に至っては2年もすれば各部のつなぎ目から錆が進行してくる。クラウンが100万円の時代に250万円もするのに、 走行中にペラシャフトは外れるは、2年でボディはザビだらけになるはで、その抜群の性能とともに、コストパフォーマンスと信頼性の低さに唖然としたものだった。
と思って考えて見れば、この輸入車と国産車の関係は程度の差こそあれ、今でも基本的には代わりがないことに気が付いた。
35年前に、これ程の内容と輸入車としての定番位置を築いていたアルファロメオだが、その後は鳴かず飛ばすの状態が続き一時は経営状態も悪化して、 名門も此れまでかという危機が何度も訪れた。


アルファ1750GTV(1968〜)
4気筒1.8ℓ、DOHCエンジンは113psを発生した。トヨタ2000GTが238万円の時代に255万円もした。

 


セリカ1600GT(1970〜)
4気筒1.6ℓ、DOHCエンジンは115psを発生した。
価格は確か86万円程度と記憶している。アルファ1750GTVの1/3で似たようなスペックのクルマが買えるというパターンは、当時既に確立されていた。
 

当時が懐かしいオジサン達に勧められるのが
オール・トヨタスポーツ―トヨタスポーツ800/トヨタ2000GT/レビン&トレノ/セリカ1600GT etc
トヨタスポーツ800、トヨタ2000GT、カローラ30HTレビン、カリーナHT1600SR、パブリカコンバーティブル…トヨタの先鋭名車20台を紹介する。『ノスタルジックヒーロー』に掲載されたものを再編集

セリカ1600GT&カローラレビン[ビデオ]

アルファは財政的な苦難の末にフィアットに買収されて、コンポーネントの共有のため長年に渡って拘り続けたRWDからFWD(FF)化されて発表されたのが欧州では1992年発売の155だった。 この155は翌年に日本でも発売されて、それなりの人気はあったが、何しろ信頼性は低く、おまけに部品代や工賃がベラボウに高かったので、結局維持できなくて手放すマニアが多かった。 こんな具合だからリセースも低く、散々金を掛けて維持して、遂にギブアップして売ろうと思っても二束三文で処分すらできないという悲劇を結構耳に(目に)した。今でも商用BBSで、外車は直ぐに壊れてベラボウな維持費が掛かるなんて信じている連中は、この当時のアルファ等の話を聞きかじっているのだろう。
155のFMC版は156で欧州では1997年、日本での発売は1998年だった。この156は155に対して信頼性の面でも大きく前進し、日本でも徐々にアルファが復権するのに貢献した。 そして日本でも世界でもアルファが本格的に再起するきっかけとなったのが欧州では2000年、日本での発売は2001年の147だった。 この147は2001年のヨーロピアン・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞するなどアルファとしての大ヒットとなった。
この147のボンネットの下に156GTA用の3.2ℓを詰め込んだジャジャ馬が147GTAで、6MTが444万円と156GTAの571万円に比べて、大いなるバーゲンプライスとなっている。 エンジン部品の在庫があるうちには継続販売されるそうだが、買うなら今のうちだ。6MTで444万円は絶対に買い得!ただし、156GTAでも真っ直ぐ走るのに苦労するようなクルマだから、 更に小型のボディに同じエンジンを詰め込んだ147GTAのじゃじゃ馬度合いは半端ではないことを覚悟するほうがよい。しかし、この馬鹿馬鹿しさが如何にもラテン系と思えるユーザーには、理想的なクルマかもしれない。


先々代155(1992年〜)
フィアットグループとしてFF化された155は日本でも1993年から輸入が開始された。
 


先代156(1997年〜)
日本では1998年から輸入開始された。写真は初期型で後期はライトやバンパーのデザインが多少異なる。

アルファは先代155の故障の多さもあり中古価格が安い。上の写真は2.5 V6、MT、RHDの初期型で98年登録、走行6.6万kmで118万円。いくら156は信頼性が上がったとは言っても、10年物の中古に手を出すのはチ ヨット勇気がいる。
なお、写真を撮ったのは街の中古車屋ではなく正規デーラー系で、マジな下取り車。100万円ちょいでアルファが買えるのは魅力だでど、ポケットマネーで買ったは良いが修理代に毎月の小遣いを使い果たすどころか、ヘソクリまで使ってしまいそうだ。

 

新型159
155→156→159というスタイルの変遷は時代と共に正常進化しているのが判る。今現在は2.2、LHDのMTのみ。
   

147(2000年〜)
日本では2001年から輸入開始された。
257万円の1.6はオシャレな女性にピッタリだが、何とMTのみの設定!

 


こちらは147でもGTA。1.6〜2.0のボンネットに156GTA用の3.2ℓを詰め込んだジャジャ馬。
エンジン部品の在庫があるうちには継続販売されるが、買うなら今のうちだ。 6MTで444万円は絶対に買い得!ただし、真っ直ぐ走るかどうかは保証の限りではないが。

 

こんな具合に、紆余曲折のアルファロメオだが、現在はGMグループに所属している。だから、今度の新型159の発表前には、アルファと言ってもオペルのアストラやベクトラの兄弟車になるのではないかとの憶測もあったが、 こうして159を見てみれば、心配した程ではなく、チャンとアルファらしさは押さえているので一安心というところか。
159のバリエーションは現在、直4・2.2ℓ、185ps、FF方式の“2.0 JTS”(399万円)とV6・3.2ℓ、260psの4WD方式“3.2 JTS V6 24V Q4”(529万円)の2車種で、トランスミッションはどちらも6MTのみ。 しかも今の所は2.0のLHD(左ハンドル)のみが発売されており、2.0RHDと3.2(LHDのみ)は春以降の発売予定となっている。
しっかし、幾らなんでもLHDのMTのみの設定なんて、一体真面目に売る気があるのだろうか?何て疑いたくなる。以前からアルファの国内向けのマーケッティングは メチャクチャだったが、今回もまたトンチンカンもいいところだ。


細長いテールランプの形状など、147、156からの特徴を受け継いだリアスタイル。

トランクはこのクラスの標準的な奥行きを持つが、サスの張り出しが大きく幅方向が狭い。

フェンダー側面にはDESIGN GIUGIARO”のエンブレムがある。
 


お勧め参考資料

アルファ・ロメオ スポーツカーの系譜―パッション・オート
今もなお世界中から称賛を集めるアルファ・ロメオ。アルフィスタが認める「ベッラ・マッキナ(=美しい車)」を生みだす力と、その「多様性」についてまとめる。

 

今回の試乗車は2.0 JTS(399万円)に17インチタイヤ・ホイール、チベットレザー仕上げインテリアトリム、シートヒーター、ヘッドライトウォッシャーをパッケージしたトゥーリズモというパッケージオプション(28万円)を装着している。
外観は156から正常進化という感じで違和感がない。アルファにはメルセデスのスリーポインテッドスターやBMWのキドニーグリルに勝るとも劣らないアフファの盾型グリルという強烈なアイデンティティを持つ強みがある。
アルファと言えば先代156の4ドアセダンのくせに、リアのドアノブが窓サッシの位置に隠されていて、一見2ドアのようなデザインが思い浮かぶが、159はオーソドックスなノブになってしまった。 聞くところによれば、事故などで閉じ込められた場合、通り掛かりのドライバーがボランティアで乗員を救出しようとする際に、ドアノブが判らずに救出が遅れることがあるため、159ではオーソドックスな形状に戻されたとか。 チョと残念な気もするが。


試乗車の内装はオプションのチベットレザー仕上げインテリアトリムが装着されていた。

リアシートの前後方向スペースは写真のように決して広くはない。FRの3シリーズの方が余裕があるのも変だが、アフファにスペースを要求するのも可笑しな話 だから良しとしよう。

ドアを開けると、そこに見える景色はアフファにしては多少地味に感じる。これは試乗車の内装がブラックだったこともり、これがベージュやタンなら大分イメージが違うだろう。アルファらしさを求めるなら明るい色を選びたい。 シートに座ってドアを閉めると、ズンッという音、あれっ?まるでドイツ車のような剛性感溢れる音と感覚に驚くことになる。ダイヤル式のバックレストを調整をしながら、35年前に始めて1750GTVの運転席に座った事を思い出した。 当時の国産車のバックレスト調整といえば、やたらと荒いノッチで丁度良い位置に合わせられないし、何より一杯に起してもまだ寝すぎているという、シートの基本がまるで無茶苦茶な時代だったから、 無段階に調整出来るアフファのダイヤル式には、いたく感動したものだった。
そう言えば、以前のアルファはステアリングやシフトノブがやたらに遠い位置にあり、イタリアの手長猿という悪口に例えられるように、手が長く足が短いドライバーに合わせてあったが、勿論最近のアフファは十分な調整範囲があるから、ベストポジションをとることに問題は無い。  


アルファのダッシュボードは国産車は勿論、ドイツ車と比べても一味違う。
エアコン噴出し口やオーディオ、エアコン本体などが丸をモチーフに統一されている。

試乗車はLHDのMTという、一体誰が買うんだという組み合わせで、しかも今現在は、これしか売っていない!近いうちに2.2にはRHDが追加されるようだが、 相変わらずMTのみ。噂ではセミオートのセレスピードが年末でATは更に1年後だから、売れ筋モデルが出るのは2年後ということか? 幾ら何でも売る気があるのかと疑いなくなる。
159のキーは最近流行の電子式で、スロットに差込みクラッチを踏んでスタートボタンを押すとエンジンは始動する。 ここでもアルファというブランドからスポーティで荒々しいアイドリングを想像すると裏切られる。
実は今やGM系となったアルファのエンジンは当然ならが基本はオペルなどと同じ。しかし、159のデビュー前に心配されたオペルそのもののエンジンではないのは救いだ。 ボンネットを開けると、そこに見えるのは従来のアフファのイメージに合ったデザインのエンジンが見えるのでホッとする。実はこのエンジン、赤く塗装されてクロームに輝くアフファのロゴの付いたカムカバーや、 GTAを彷彿とさせるインレットマニフォールドなど、むしろ2ℓの156よりもアフファ的なくらいだ。実はエンジンブロックから下はオペル辺りと変らないようだし、156GTAのイメージに似ているとは言え良くみれば安っぽいが、オペルそのものでは無い事で良しとしよう。


基本的には同じGMグループのオペルと同じエンジンだが、見かけはご覧のとおり、
立派にアルファの雰囲気を醸し出している。この面では156の2.0を完全に超えている。

赤地にクロームでアフファのロゴが浮き出しているカムカバーは如何にもアルファ的だし、インレットマニフォールドもGTAをのようだ。
 
こちらは本物の156GTA。こうして見ると、159とは金の掛け方が違うのが判る。
 

走り出すためにクラッチを踏むと、その踏力は非常に軽いがストロークは長い。1速にシフトしてクラッチを繋ぐと、繋がり方はスムースで気難しい事はないが、 軽さと長いストロークは感覚としては決してスポーティではない。試乗車は走行距離1000km程度だったが、アフファで回さなけば試乗にならないから、 目一杯回してくだいとうデーラーマン氏の有りがたい言葉に気を良くして、早速レッドゾーン手前までブン回してみる。すると、高回転まで無類にスムースな事に気付く。 4気筒としてのスムースさはBMWのバルブトロニックエンジンにも勝るくらいで、とに角良く回る。その時の音は高回転域ではアルファらしい音がするが、音質自体は先代程のイタリアンな音ではないし、 音量自体も小さめだ。言ってみればBMW3シリーズを回した時の雰囲気と似ている。BMWならこれで良いが、GTAなどを知るアルファファンからみれば、少し物足りない気もするけれど、決して悪くは無い。 実はこの傾向はエンジンだけではなく、すべてが何やらBMW的なことに気が付く。
輸入車は勿論、国産車でも今時珍しいMTを搭載する169の6MTのシフトフィーリングはといえば、適度にカチッとしてストロークも程ほどだけど、決してスムースではない。例えばホンダの2シータ、 ビートやS2000のような短いストロークでカチカチと決まる程ではないが、BMW130iよりは正確でストロークも短い。例えれば、ポルシェボクスターの5MTのフィーリングに似ている。
MTと言うとオジサン達が拘るのはヒールアンドトウ(H&T)がやり易いかとう点だろう。ペダル配置はLHDだけあってペダル間隔は十分にある。 が、しかし、スロットルペダルが吊り下げ式で短く、H&Tをやろうとしてもヒールの部分にはペダルは無い。またブレーキペダルとの距離も離れているので、所謂トウ・トウというか、 足の前半分を使って左右の力を調整することも非常にやり辛い。しかも、ブレーキは踏力がヤタラに軽く、つま先でチョット触る程度で減速するから、 スロットルを煽ろうすればブレーキペダルに影響されることもあり、H&Tは極めてやり辛いというより、事実上は不可能と言い切ってもいいだろう。どうしてもやり たいのなら、 μの低いスポーツパッドとスポーツ用ペダルキットを探して付けることは必須だ。


正面のメーターは速度計、回転計共に伝統のゼロ点が真下にあるタイプ。 フルスケール260km/hは2.2ℓでそんなに出るのか何て無粋な事は言わない。この辺はラテン的なハッタリと笑って許そう。

LHDの為にペダルの幅方向には余裕があるが、吊り下げ式のアクセルはブレーキと離れているし、ヤタラに踏力が軽いブレーキ と共にH&Tは事実上不可能だ。

オーディオやエアコンまでもが、丸を基調にデザインされている。キーの右にある3連メーターは最近には珍しい。ただし、シルバーパネルの質感は決して上等ではない。

シフトノブのパターン表示もオシャレだ。しかし、今時左のMTのみの設定ではユーザーは限定されてしまう。

次にステアリングはといえば、第1印象が156に比べて遥かに素直になったことだ。156はフロントアクスルより更に前方にオーバーハングして搭載されたエンジンを見ても判るように、 ハンドリングはドアンダーという奴で、とに角曲がらなかった。これが、3.2ℓを積むGTAに至ってはボディに不相応な大トルクとも合わせて、これをFFで駆動するから、とんでもない特性だったことに比べれば、 159は普通の良く出来たFF車という感じで、VWゴルフも真っ青と言ってもオーバーではない。ステアリングも適度にクイックで、初心者からマニアまで、特に不満はでないだろう。
今回の試乗では極力ワインディングロードの多い道を選んでみた。こういう場面での159は、156ならば外に膨らんでヤバイことになるような速度で進入しても難なくクリアしてしまう。 しかも6MTだからダイレクトにトルクをコントロールできるので、正にマニアックなドライブが可能・・・・の筈なのだが、実は問題がある。既に述べたようにH&Tは事実上出来ない。 それならば、せめてシフトダウンの時に回転を合わせるダブルクラッチくらいは使いたいと思って、ギアをニュートラルに入れて素早くクラッチを繋ぎ、右足で一瞬スロットルを煽ると、 アルファ独特のエンジン音と共にウォンとばかりに回転計の針が一瞬跳ね上がって、次に素早く下のギアにシフトする・・・・ 筈が、あれっ?ストットルを煽っても、エンジンのレスポンスが悪く、回転計の針は全く振れないし、当然ながらエンジンのブリッピング音も聞こえない。実はこのエンジン、低負荷時のレスポンスが極めて悪いようだ。 ATならこれでも誤魔化しが効くが、マニアックなMTでこれは無いよ、と文句も言いたくなる。実は、この特性はスタート時にも表れていた。アイドリングのままで、クラッチを繋いでスタートをしようと思ったら、 低速トルクが不足なのか、エンストしそうになったので、800rpm辺りに上げて繋ごうと思って、僅かにスロットルを踏んだが回転計に変化はない。あれっ、と言ってもう少し踏むと急に反応して1500rpm程度になってしまう。 このスロットル特性は何とかしないと、折角のMTが台無しだ。
既にH&Tに関して触れたようにブレーキは良く効くが踏力は極めて軽いので街乗りには非常に適しているが、スポーツドライブにはチョと軽すぎる。 良く効く点ではBMW以上と言っても良いくらいだ。これがAT車だったら、外で働いた経験がない、か弱い足のセレブの奥様にも踏めるから人気になるだろうが、そんな奥様が6MTを使いこなすとは思えないし、 それより免許がAT限定の可能性が大きい。
そして、乗り心地はといえば、当然のように可也良い。メーカーによるとBMW3シリーズよりも更にボディ剛性で勝るというが、成る程、これは本当だろうと思えるほどに硬いけれども不快ではない乗り心地を持っている 。
さて、クルマとしての進化が著しい159ではあったが、何か寂しいものを感じたのも事実だった。156の、あのラテン丸出しのノーテンキさが一種独特の魅力と思える人には、今度の進化はチョッと寂しい。 とは言っても、出来の良い新型が出ると旧型を懐かしむ傾向はマニアックなクルマ程有りえる事態には違いない。ポルシェ911が空冷の993から水冷の996になった際も同じような意見が多かったが、 今や997となった水冷ポルシェは絶賛されている。それでも、156が好きならば、今のうちに継続生産されているGTAの売れ残りを買っておくことを勧めよう。  


2.0の標準は前後とも共通な7J16ホイールと215/55R16タイヤを装着する。ただし、 試乗車はオプションの7.5J17ホイールと225/50R17タイヤが装着されていた。

リアのタイヤ・ホイールサイズもフロントと同じ。
3.2の場合は8J18ホイールと235/45R18タイヤとなる
 

159はクルマとしてみれば大いに進化した。しかし、未だ出たばかりで今後色々改良の余地もある。何より、日本の実情を考慮してマトモなマーケッティングを行えば、所謂ベンツ・ビーエム市場に食い込むだけの実力は十分に持っている。BMW3シリーズを買っては見たが、隣近所に 有るわ有るわ、町にもスーパーの駐車場にも3シリーズだらけ。 確かに先代E46も現行E90も実に良く出来たクルマであることは疑う余地も無い。とは言っても、こうウジャウジャいてはちょっと考えてしまう。メルセデスCクラスも興味はあるが、いくらコンパクトとは言っても、そこは“ベンツ”!近所の手前、世間体を考えると躊躇してしまう。それでは同じドイツの御三家と言われるアウディはどうかと言えば、如何も華がない。目立ち過ぎるのは恥ずかしいからメルセデスはパスとしても、 アウディのように目だたな過ぎでは、これまた高い買い物をしたメリットが無い。
小金持ちというか、プチセレブの奥様にとってBMWというのは実に良いポジションに居る。ブランド女子大学の付属高校(中学は公立だったので、付属中学出身者とはあまり付き合いがない)のクラスメートに会うにも、3シリーズならバカにされることもないが、アウディだと「何それ」か「随分値引きが多かったんでしょうね」なんて陰口を叩かれるかもしれない。ボルボV70は本物の医者に引け目を感じてメルセデスを買えない動物病院に嫁にいった友人を思い出す。そう言えば、故障の多さから嫌気がさして最近アウディA6の旧型売れ残りを安く買ったようだ。
こんな時に、アルファロメオならOKではないか?ファッショナブルなイタリアンイメージはプチセレブにピッタリだし、街でも滅多に見かけない。しかも新型が発売されて、随分乗りやすくなったようだ。 そこで期待に胸を膨らましてアルファデーラーに行ったらば、今のところ左ハンドルしかないとのこと。もう少し待つか、いや左だって練習すれば何とかなるだろうし、何より外車らしいから、この際左にしてしまおうか。と、その瞬間、マニアルしか設定がない事を知らされる。なんと、オートマ限定免許では乗れないのだ!取り合えず、ペダルが2つのセレスピードは今年の末以降でないと発売されないらしい。それに、真っ当なATは更にその一年後とか?
今時、LHDのMTなんていうのを喜ぶのは一部のポルシェオタクくらいなもんだろう。そのポルシェの看板でもあるカレラだって今では80%以上がATだから、159のMTのみの設定が如何に間が抜けているかが良く判る。近日中には2.0のRHDと3.2が追加される。3.2は260psを発生するのでGTAも真っ青だが、今度は4WDとなるし、2.0の出来を見ても恐らく今度の3.2は安定して高性能なクルマになることは間違いない。 これまた当分はLTDの6MTのみだが、529万円という価格からして、左MTが全く問題無いユーザー層もいるだろうから、2.0よりは売りやすいかもしれない。そして、これまた近いうちに噂の2ドアクーペであるブレラも発売になる筈だ。このスタイルを自分の物に出来るのなら、多少の不便は我慢できるとうユーザーも多いのではないか?
まあ、何れにしても、159のシリーズは今後改良とラインナップ次第では、結構な市場を形成できる可能性が十分ある。ただし、輸入元とイタリーの本社が国内デーラー要望を受け入れて、売れ筋のラインナップをしなければ、やはり元の木阿弥で、単なるマイナー車で終ってしまう。さて、3年後には如何なっているのか?実に楽しみだ。