Toyota Crown 2.5 Hybrid RS 試乗記 特別編
  [Crown Hyb2.5 vs MB E200 vs BMW 523i 後編 その2]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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最近の中級クラス以上のクルマには走行モードの切り替えが付いているが、今回の3車も勿論これを装備している。その切り替え方法は3車3様で、クラウンはディスプレイに表示させてタブレットコンピュータのように画面をタップして選択する。ではそのモード切り替えの画面を出すには如何するかというとディスプレイの下にある"MENU" ボタンを押してから画面上の "DRIVE MOOD" というタブをタップするという、デジタル機器独特の階層構造となっているのは好みの分かれるところだ。

Eクラスの場合はコンソール上の左前方にあるスイッチを使うが、ここには "MODE" という表記は無く "DYNAMIC" というチョイと可愛く無い表示をしている。このスイッチを押すか引くかでモード、もといダイナミック特性が変わる。そして5シリーズの場合はやはりコンソール上だがEクラスとは逆に右奥にあるスイッチで、これは奥から "SPORT" "COMFORT" "ECO PRO" と表記されている3つのスイッチを使用するという最も判り易い方法となっている。

それではスポーツモードになった時の表示方法は如何なのかというと、クラウンではメーター内に微かに読める位の小さい文字で "SPORT" と表示されるが、実はメーターの円周状のラインがブルーからレッドに変わる事で一目で判別できる。ただし色の変化を知らないと何だか判らないが‥‥。Eクラスはシフトポジション表示と共に "S"と表示される。そして5シリーズはクラウンと同様に小さな "SPORT" の文字と共にメーター外周がレッドになるが、クラウン以上にこれでもかという位に赤くなる。

 

SPORT モードとなると3車共にスロットルレスポンの向上やシフトアップポイントの高域化は当然だから、ここでフルスロットルを踏んでみる。先ずはクラインだが、発進直後にはハイブリッドらしくある程度のトルクを感じながらの加速だが、速度が上がるに連れてチョイと迫力が無くなってくる。それでも加速自体はマアマアというところで、高性能感は無いが一般のクルマとしてはマズマズの加速だ。

Eクラスの場合も最も大人しい性能の E200 という事もあり普通のドライバーなら充分に満足するレベルで少なくとも苛々することは無いだろうが、加速命のドライバーには不満はあるだろう。では5シリーズはといえばこれも決してパワフルとは言わないが必要十分なトルク感で加速し、しかも極々自然で滑らかに回転数を上げて行き、難なく 6,000rpm 位まで加速して行く伸びの良さも 2.5L 時代を髣髴される。

と、まあどれも大きな差は無いのは P/W レシオが其々8.2、9.1 および 8.9kg/ps という数字でも判るとおりで、これは MINI COOPER の 8.8kg/ps と同等という事になる。えっ? クラウンは他の2車よりも良い数値だろ、って? まあそこはトヨタ馬力という事を考慮すれば、実際の体感上は似たようなものだと言えば判るだろう。

動力性能についてはこの位にして、次に操舵性や旋回性について比較してみる。クラウンの操舵力はクルマの性格からして重い訳が無いが、かといって軽過ぎるという事も無く、まあチョイと軽めだが適度と言って良い。レスポンスもクラウンだからクイックな訳も無いが、このクルマの性格からしたら充分に良いところを狙っている。勿論昔のクラウンのように苛つくくらいにトロいという訳では無い。旋回性能は思いの外アンダーステアが少なく、クラウンという車名から想像するイメージよりはマトモだ。というようにクラウンの場合は昔のイメージと比べると「へえー中々良いじゃん」となるが、これは言ってみれば度々補導されていたような悪ガキが成人したらマトモに働くようになったようなもので、元々真面目な秀才には敵わない、みたいなものか?

E200 の操舵力はデフォルトの Comfort モードでは適度に軽いがレスポンスがイマイチ悪い。それが Sport モードでは多少態とらしいがシャキッとして操舵力も少し重くなり、まあ結構スポーティーな特性となる。旋回特性を調べるために適度にタイトなコーナーに少し速目に侵入してみると多少のアンダーステアは感じるものの充分に余裕でクリア出来た。

523i の操舵力は3車の中では一番重いとはいえ、以前の BMW のように女性 (と軟弱な男性) にはチョイとシンドい何て事は無い。そして前2車と大きく異なるのだ旋回性であり、チョッとしたコーナーでは結構ニュートラルでレスポンスもクイックであり、流石は BMW というところだ。それを裏付けるのがボんネットフードを開けた時のエンジンの搭載位置であり、下の写真を見ればどれも直列4気筒エンジンにも関わらず、523i は他車より明らかに搭載位置が後方になっている。反対に E200 は結構前端に近いくらいにオーバーハングされている。

結局旋回性能については
 523i >> E200 > クラウンHyb
という感じだ。

 

さて、このクラスのクルマともなれば乗り心地も重要だが、クラウンは以前のフワフワでは無いモノの比較的乗り心地は良い。Eクラスはやはりクラウンよりは硬めだが、それでも別に気になる事もないだろう。その昔 (30年位前か) 、ベンツは国産車とは段違いに良いという話を聞いた町工場の叩き上げ社長がディーラーを呼びつけて試乗用のEクラスを持ってこさせたが、乗った感想は「何だ、この乗り心地が悪くてエンジンは煩いクルマは。これでクラウンの倍もする何て詐欺だ」と言って営業マン追い返したそうだが、その社長が今でも生きていたならば、クラウンの乗り心地が悪くなったと怒ることだろう。

それで5シリーズはといえば、10数年前に全ての車種でランフラットタイヤを採用した頃は独特の硬さが気になったが、その後タイヤも改良されたようで、今では殆ど判らない位になっているし、Eクラスと比べてもそれ程乗り心地が悪いという事も無い。とはいえ乗り心地については旋回性と逆に
 クラウンHyb > E200 > 523i
というところで、まあこれは想定通りだった。

ブレーキ性能に関してはどれも適度に軽く大きな優劣は無かった。まあこれは最近の傾向で、どのクルマも同じ様な性能になってきている。確かに動力性能は低グレード車が多少劣っていても問題は無いが、ブレーキ性能に差を付けるのは問題があるからこれは当然だ。とはいえ20年前だったら、メルセデスのブレーキは遊びもストロークも少なくて踏力は重いという独特の特性だったし、BMW は軽くて喰い付くようなこれまた独特のものであり、国産車はといえば車種によってはストロークは長いしそれでいて決して軽くも無いという欧州車に比べて効きという面ではイマイチだったが、鳴きが殆ど無いのとホイールが汚れないというメリットはあった。このホイール汚れについては今でも欧州車では完全にクリアされてはいない。

なおブレーキキャリパーは今回の3車が特に上級スポーツグレードでは無い事から、どれも鋳物の片押しタイプを使用していた。これがクラウンの場合は 3.5ハイブリッド、Eクラスではアバンギャルドスポーツでそれぞれフロントにアルミ製対向4ピストンキャリパーが装着される。

 

歴代クラウンは先進的な改革と失敗による歴史と言っても過言では無かった。例えば 4代目 (S60/70 1971-) で丸みを帯びた斬新で革新的なスタイルを採用したが、これがユーザーからは大不評で、5代目 (S80/90/100 1974- ) では直線基調で重厚感を強調した、言ってみれば親父クラウンに逆戻りした。しかし9代目 (S140 1991- ) で機は熟したと判断したのだろうか曲線基調のデザインとしたが、これがまた大変な不評となり 1993年のマイナーチェンジで「これってフルチャンジじゃないの」と言われる位に大幅なフェイスリフト (何て言える生易しいモノではないが) を実施した。

その後は12代目 (S180 2003- ) に通称ゼロクラウンと呼ばれるモデルでプラットフォームやエンジンなどの主要コンポーネントを全て一新して、所謂親父クラウン的なフワフワ、ヨレヨレから世界の常識に従ったシッカリした走りを求めたクルマに変身した。ところが、これも多くの親父ユーザーからは評判が悪く、13代目 (S200 2008- ) では折角の欧州テイストの走りが後退してしまった。

そのような歴史を踏まえて、今回の15代目 (S220 2018- ) はギリギリのところで従来のオヤジユーザーと若手のユーザーの両方を満足すべき妥協点で成り立っているような気もする。最も自由にベンツ・ビーエムと戦えるクルマを作らせたところで、結果はレクサス GS を見ての通りで、残念ながらそこまでの技術は無いのもまた事実という辛い現実もあるが、まあ兎に角今回の比較では現状を上手くクリアしたモデルとなっていた。

そして価格はというと、2.5ハイブリッドは516〜580万円で、これは5シリーズのベースグレードである 635万円より数十万円安いだけという現実もある。勿論装備や内装は違うとはいえ、これなら普通考えればチョイと頑張って 523i を買うだろう。ただしクラウンも 2.0T ならばベースグレードは 460万円だから 523i との差額は200万円となり、これなら検討の余地は有るかもしれない。だがしかし、1クラス下のDセグメントではあるが、C180 ならば 449万円、318i は453万円という現実を考えると、クラウンを買う必要の無い立場だったら選択の余地はな無さそうだ。

しかし不幸にも立場上ベンツ・ビーエムを買うのはチョッと、という場合はまあ何とか我慢できる程度の内容は持っているということで、それ程悲惨になる事は無いから、くれぐれも自分の立場を悲観して早まった事はしないように‥‥って、そんな馬鹿な!