Porsche Macan (2017/5) 後編 その2


  

ここで試乗途中だが公園の駐車場に入れて、休憩と共にボンネットフードを開けて中を眺める事にする。ポルシェと言えば 911 のようにリアのカバーを開けてもエンジンは最後部が見える程度か、ボクスターのように全くエンジンを見ることが出来ないとか、まあそういうイメージがあるが、マカンでは何とフードはフェンダー側まで回り込んでガバッと開くから、エンジンは丸見えとなる。そしてそこに見えるエンジンは同じマカンでもSやターボと違ってトップカバーさえもショボいモノが目に入る。このエンジンはこれら上位2グレードと違い前述のようにアウディ Q5 とはエンジン型式は全く同じで、性能もほぼ同じだから、要するに共通化されている訳だ。もしかしてアウディーのディーラーに Q5 を見に行くと「お客さん、このクルマのエンジンはポルシェと同じでっせ−」とでも言うのだろうか。

トランスミッションについても冒頭で述べたようにマカンはカイエンのトルコン方式と違い PDK を採用している。その甲斐もあってシフトアップ、ダウンとも実いレスポンスが良い。特にスポーツモードで速度が20km/h くらいまで減速して再加速のためにアクセルを強めに踏み込むと、メーター内のシフトインジケーターが4から一瞬3を表示した直後に2となる。PDK のような DCT タイプは偶数・奇数のギアを交互に入れ替えるから、4速から直接2速にシフトダウンは出来ないわけで、この動作は納得が行くし、其々のシフトダウンが実に迅速であることを表している。

実はコレに関して今までチョッと疑問だった事がある。というのは4→2への直接のシフトダウンが出来ない筈の PDK だが、911 や 718 では時として4速からスロットルを踏んでキックダウンさせると、行き成り2速にシフトダウンするような動作を感じる時がある。そこで考えてみるとマカンの PDK は他社の DCT より圧倒的にレスポンスが良いが、それでも 911 等のようにシフトアップ時には殆どエンジン音が途切れない、まるで F1 かルマンカーのような迅速さには敵わない。という事は 911 の2段シフトダウンも当然2段階に動作しているのだが速すぎて判らなかった、という事だったらしい。これって若しかして、動体視力が必要な卓球の選手に 911 を運転させたら、極々一瞬だけ中間のポジションが表示されているのが見える‥‥とか?

という事で、動力性能に対しては決してポルシェブランドとしては充分ではないし、特にノーマルモードでの低速時のレスポンスの悪さなどチョッと我慢ならない部分もあるが、これはスポーツモードの常用で解決できるから、価格を考えればマアマアというところだ 。しかし今回の試乗車には排気管のアイコンが付いたスイッチがあり、これはオプションのスポーツマフラーが装着されているようだ。実はこのオプションは以前試乗した 991 カレラSにも付いていて、特に自然吸気の Ph1 ではスイッチオンにするとまるでヤンキー兄ちゃんの改造車よろしく爆音を発し、アクセルオフではパン、パンというアフターファイアーみたいな音まで出て唖然としたが、今回のマカンはこのスイッチを入れてると確かに殆ど聞こえなかった排気音が多少聞こえている程度でまあこれもポルシェらしくない、というか高い代金払ってオプション装着する意味があんのかよ、という気持ちだ。

さて次にポルシェというからにはもう一つ、曲がる性能も気になるところだ。マカンのステアリングは勿論 SUV としては充分にレスポンスが良く操舵力も適度で特に文句はないだろう。それでも走行モードをスポーツにした方が当然ながらより "シャキッ" とする。それでは車両としてのレスポンスはといえば、車両重量が同じマカンのトツプモデルであるマカンターボ (1,980kg)よりも 150kg も軽い(1,830kg) こともあり、軽快さでは明らかに勝っている。まあ慣性については物理的に軽い方が有利なのは当然だからこれは充分に納得がいく。


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マカンのボンネットカバーは何故かフェンダー側まで回り込んでガバッと開く。

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マカンのエンジンは直列4気筒 2.0L ターボの CNC で 237ps/5,000 - 6,800rpm、350N-m/1,500 - 4,500rpmを発生する。


写真30
マカンSはCTM V6 3.0L ターボで 340ps/5,500-6,800rpm 460N-m/1,450-5,000を発生する。


写真31
マカンターボはCTL V6 3.6L ターボで 400ps/6,000rpm 550N-m/1,350-4,500を発生する。


写真32
ステアリングホールのスポーク上のスイッチやマニュアルシフト用パドルスイッチはカイエンと共通となっている。

これに気を良くして常日頃ハンドリングを試しているホームグランドとも言うべき場所に向かう。さてここで走行モードをスポーツにして、更にマニュアルシフトを選択していよいよコーナーリングを試す‥‥のだが、前方に軽自動車を先頭に大型トラックやら何やらが数台繋がっているのが見えたために少し広い直線に左に寄せて停車してタイミングを待つ。やがて前車の塊が見えなくなり、その代わりに後続車がサイドミラーに僅かに確認できたので、ウィンガーを出してユックリ発進する。そのまま 40q/h かそれ以下で200m 程巡航するとやがて最初のコーナーが見えてきたので一瞬加速して侵入速度を合せてから最初のコーナーをクリアする。

この時のマカンは多少アンダーステアが強めで決してニュートラルではないが、それでもカイエンよりは充分に楽しくコーナーを通過出来る。その後も徐々に進入速度を上げていくが、特に危ない兆候を感じることもない。しかし高い車高もあって、ある程度以上の遠心力は気分的にも落ち着かないから、スポーツカーはもとよりサルーンに比べてもコーナーリング速度の上限は低くなりがちだ。とはいえ SUV としては BMW のXシリーズと共に他を圧倒している事は変わりない。まあ、それでも気に入れなければ、そもそも SUV を選ぶこと自体が間違いというものだ。

なお同じポルシェの上級 SUV であるカイエンと比べてどうかといえば、これは2年前に同じコースを走ったカイエンS E-ハイブリッド (2,350kg) なんてマカンよりも 520kg!も重い訳で、そりゃ鈍重なのは当たり前で、これに比べればマカンの軽快さが引き立つというものだ。

今まで一般道を走ってきたが、やはりポルシェと言えば SUV と言えども高速走行を試すべきだろう。ということで早速高速道路へと向かう。最初は首都高に入りそこからいつの間にか高速なっているというお馴染みの情況で、最初の流れは70〜80q/h くらいだったが、勿論こんな速度では安定していて不安は全く無い。やがて高速エリアになったようで合流を機に3車線になったところで速度を 100q/h 前後に上げての巡航を続ける

そのうち起点の料金所に到達したので規定の 20q/h より更に減速してから一気に加速してみる。この時後ろに付いていたライトバンは当方がゲート手前で殆ど停止寸前まで減速したので可成り苛々しているようで、ゲートを抜けて本線に向けての広い路面のところで急ハンドルを切ってこちらの隣に出ようとしているようだが、そんなモノには構わずにフルスロットルを踏むとポルシェブランドとしては多少パワーウ不足とは言え、並の実用車から見れば恐ろしい速度で加速していく訳で、10秒以内に軽く100q/h はクリアする (スペック上の0-100 q/h は6.9秒) 。この時勿論例のライトバンは遥か後方にいるが、相手のドライバーからすればオチョクられたと怒っているかも知れないが、こちらはそんな雑魚はどうでもよくて、マカンの特性を知るのに神経を集中したいのだが。

ここで読者のために人柱になって、ぶっちゃけ最悪でも犯罪にならずに "反則" で済む上限くらいの速度で巡航してみると、まず安定性はそれ程良くない事に気が付く。ステアリングもドッシリとは言えないし、一般道ではカイエンより遥かに軽快だった挙動はここでは裏目に出て、ステアリング操作には気を使う傾向がある。したかって回りがガラガラでも少し急な車線変更なんてする気には全くならない。尤も一般道での軽快さではマカン以上のボクスターは高速では逆にしっかりと安定しているから、言ってみればマカンの足回りを含む高速でのチューニングはイマイチという事だ。マカンが発売されたのは3年前だから流動実績は充分な筈だが、ポルシェとしてはこのクラスの SUV は初めてであり、しかも試乗したベースグレードはフォルクスワーゲンとの協業の度合いも多いようだから、まあこんなものだろうか? そしてこれは先入観もあるかも知れないが、最近のフォルクスワーゲンの悪い部分をしっかりと受け継いでいるようにさえ感じる。正直言ってアウディと共通化が多いと聞いた時に嫌な予感はしたのだが、やっぱりねぇ。


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高速走行時の安定性はポルシェの名に恥じない‥‥という程ではなく、イマイチだ。


写真34
カイエンとエンジンが共通でその他の部品も共有の多いアウディ Q5。

マカンの標準タイヤはベースグレードでは Fr:235/60R18 、Rr:255/55R18 で、これがマカンSでは Fr:235/60R18 、Rr:255/55R18 であり‥‥あれっ、ベースグレードと同じだ。しかし、これがマカンターボでは Fr:235/55R19 、Rr:255/50R19 と1サイズアップしている 。

そしてホイールから覗くブレーキは、フロントはベースグレードでも4ポットアルミオポーズドキャリパー (多分ブレンボのOEM ) というポルシェらしいもので、これがマカンSとマカンターボでは同じくアルミオポーズドキャリパーだが、6ポットという巨大なモノが付いている。なおキャリパーの塗装色がSはシルバー、ターボは赤となって差別化しているが、ユニット自体は外観上では全く同じものだし、多分中身も同じだろう。それではリアキャリパーはというと、これが何とポルシェ初の鋳物製片押しシングルピストンキャリパーで、3グレードの違いはフロントと同じで塗装の色が違う事くらいだ。これを見ると、やっぱりマカンはポルシェのラインナップでは特別 (ショボい) なのだろう。

さて肝心のブレーキの効き具合はといえば、勿論適度な踏力でこの大きなクルマを確実に減速させるが、ポルシェと言えば宇宙一のブレーキと言われるくらいに強力なブレーキが特徴な筈だ。ところがマカンの場合は流石に宇宙一どころか地球でも一番には成れそうもない。具体的に言えば踏み始めが不正確でポルシェらしく少ない遊びから行き成り重くなって「ここでパッドがローターに当たったんだな」という感じに乏しく、マルで国産の片押しキャリパー装着車、要するに普通の国産車みたいだ。と書いては見たが、そうか、マカンのリアブレーキは普通の国産車と同レベルだった。


写真35
マカンとマカンSは Fr:235/60R18, Rr:255/55R18で共通の標準タイヤ。ターボはFr:235/55R19 、Rr:255/50R19。


写真36
何れもフロントはアルミオポーズドキャリパーだがマカンは4ポット、Sとターボは6ポット。リアは何れも鋳物の片押しシングルピストン。

というように色々突っ込みどころもあるマカンのベースグレードだが、価格的にはポルシェとしては大バーゲンなのだからコレは仕方ないだろう‥‥なんて思うのはポルシェファンか百歩譲っても輸入車ファンくらいで、多くはブランドだけの割高なクルマと思うだろうし、輸入車に敵意を持っている下流の方々に於かれましては鬼の首を捕ったように大喜びをされると想像いたします。なんてったって 911 やボクスターを貶すのは勇気がいる、というか虚しいだけで馬鹿丸出しになってしまうが、このマカンならばポルシェとしは珍しく突っ込み処満点だ。ただし少なくとも最上位のマカンターボについては一千万円超えという問題はあるが、性能やフィーリングなどポルシェ車としての良さは充分に感じられたのだが、このベースグレードはポルシェとしては一番苦手な分野らしく、あまり良い結果では無かった。そう言えば、初代カイエンもボトムグレードの評判は良くなかったのを思い出した。

それでは、このカイエンが同価格帯の SUV と比べて果たしとどうなのだろう、という事が気にかかる。そこで当然ながら特別編としてBMW X4 28i と比較することにした。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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