Porsche 991 Phase2 (2016/5) 前編 |
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ポルシェ 911 といえばスポーツカーの代名詞であり、フェラーリやランボルギーニなどのいわゆるスーパカークラスを別とすれば、世間一般のストリートカーとしては最高峰であり、マニアからすれば一度は所有してみたい代表車種だろう。えっ? 既にもう持っているって? その 911 の歴史は 1964年に発売された初代911 、開発コードでは901 から始まった。ところで何故に901 の 911 とか判りづらい体系かといえば、ポルシェは初代の開発コードを 901 としたが何とプジョーが2桁目に ”0” の付く3桁数字を全て商標登録していたために真ん中の ”0" を"1" に代えて 911 としたと言われている。 初代911 は日本では1965年 (昭和40年) に発売されたが、当時の日本はといえば前年には新幹線が開通し、東京オリンピックが開催されたなど経済も上り調子の時期だった。とはいえ 初代ポルシェ911 (901) の日本での販売価格は1968年の資料によると385〜510万円で、因みにフェアレディ2000 は91万円、あの伝説のトヨタ 2000GT でも238万円だったから、それらに比べれば恐ろしく高価だった事になる。なお 510万円のモデルは高性能版で 911S と命名されていたから、何とこの伝統は今でも守っている事になる (ただし一時期途絶えたが) 。 901は発売時のモデルを0シリーズと呼び、その後はA 、B、C‥‥と毎年進化して、最後はL(1977年) シリーズまで続いた。これに伴いエンジンも初期の2.0L 130ps および 160ps (911S) から毎年パワーアップされて、1969年のCシリーズでは排気量が 2.2L に拡大され、911S では180ps となった。また1971年のEシリーズでは排気量は 2.4L に拡大されて、911Sのパワーも190ps までアップした。更に1973年のGシリーズでは排気量が殆ど限界の2.7Lまで拡大されたが、パワーでは911Sで175ps と寧ろ低くなっていた (勿論排気量大きい分だけトルクでは優っていた) 。 結局 901 は13年続いていた事になり、結構なロングセラーだった事になる。そして901の次、2代目 911 は1975年に発売された 930 で、要するに901の末期にはそれと平行して一部のモデルが 930 となっていたことになる。実は 930 は最初はターボのみで自然吸気モデルが 930 となったのは1978年、すなわち901 Lシリーズとの入れ替えで登場した事になる。この NA モデルのエンジンは911SC (従来の911S相当) で 3.0L 180ps だった (この時点ではSの付かない素の911は無かった) 。 この 930 は当時米国で制定された5マイルバンパー (時速5マイル(8km/h)での衝突でもボディにダメージを与えず、バンパーも復元する) の規定をクリアすべく巨大で不細工なバンパーが大きな特徴となっている。 |
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3代目 911 は1989年より販売された 964 で、外観上では 930と大きな違いは無さそうだが、実は部品の80%が新規となるなど、大掛かりなフルチェンジだった。発売時のエンジンは 3.6L 250hp で、その後1991年にはターボモデルが発売されたが、新型エンジンが間に合わず930時代の3.3L 320hp でスタートしている。結局 964 NA ベースの 3.6L ターボ (360hp)が発売されたのは1993年だった。 そして4代目は 1993年発売の 993 で、実はこれが最後の空冷エンジンのモデルとなった。この 993 はリアサスペンションにマルチリンクを採用したためにリアフェエンダーの幅が拡大され、このためにNA モデルでも5ナンバーサイズからはみ出した。ということは、何と 964 まではNA モデルの場合サイズ的には 5ナンバー枠だったのだ。しかも 964 まではリアサスがセミトレーリングアームであり、小さなボディーサイズとトリッキーなサスはドライバーにとっては人馬一体のフィーリングを味わえ、本格的なマニアにとってはこの上ない魅力であり、そのため ”ポルシェを着る” と表現されたものだった。 |
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次の5代目は1997年より発売の 996 で、ご承知のようにこれこそ 911 の歴史で初めて水冷エンジンを搭載したモデルとなり、内容的にも全く新しい世代の 911 となったものだが、それ故に古くからのファンにとってみれば独特の乗りにくさや癖が無くなり、こんなのはポルシェじゃあない!という事になったのは当然だった。しかもボディの前半分は廉価モデルのボクスターと共有するという暴挙までやっちまったから、真正面から見れば911だかボクスターだか判らないという、もう911オーナーからすればトンデも無いこと事をやらかしたのだった。 ポルシェも流石にこれはマズいと思ったようで、996 の後期モデル (Ph2) ではフロント形状を一部変更して、特に問題のヘッドライト形状はボクスターと異なるものになった。エンジンは Ph1 の3.4L に対して3.6L に拡大されている。なお現行モデルのような 911 に対して排気量をアップした高性能版が 911S というラインナップは 996 では未だ実施されていなかったために、自然吸気モデルの排気量は一種類だった。 この996 は単にパーツ類全てを一新したのみならず、実は製造方法も画期的に改善されていた。それまでの空冷時代のポルシェの生産方法というのは前時代的で極めて効率の悪いものだった。それでこれらを一新するためにトヨタの支援により最新の式カンバン方式を採用することとなり、これに先立ってトヨタの専門家がポルシェの生産ラインを見学した際に、あまりの非効率さに驚くなんてぇものじゃなかったという。例えばボディーの溶接は旧式なアーク溶接でしかも職人が目見当で溶接ピッチを決めていたから、作業者によってピッチが違ったり、同一作業者でもその日の気分!で多少違ったりという具合だったと言われている。 こんな非効率な作業方法から最新のカンバン方式になったのだが、最初に本格的にこれを採用したのは、実はポルシェからボクスターの生産を受注したフィンランドのバルメ (ヴァルメとも表現される) 社だった。このバルメという企業はフィンランド軍の正式小銃を作っているから軍事おたくの読者なら直ぐにピンとくるだろう。この最新ラインでのコストダウンは劇的だったようで、多少性能的には絞ってあるとはいえ、ボクスターは従来の911の半分の価格で販売しても十分に採算がとれたという。更にバルメのライン程には徹底していないとはいえ、ポルシェの工場での 996 の生産も大幅なコスト削減が出来た事で、それを多少は性能的にも勝るとはいえボクスターの倍の値段というか、以前の非効率生産の 993 以前のモデルと同じような価格で売ったのだから、それはもう儲かって当然だった。 その初代ボクスターが1996年に発売された時の国内価格は AT (以降全て同様) で 655万円であり、1998年には670万円と多少値上げされたが、2000年には何と610万円に値下げされた。これは一節によるとポルシェファンのお陰で業績もアップしたことから、その感謝の意味も込めてより買いやすい価格にしたということで、元々ボクスターは個人オーナー向けに買い易い価格としていたが、この方針は更に徹底された事になる。お陰で本当にポルシェの良さを知っている一般ユーザーでもチョイと頑張ればポルシェが買える、という情況になり、当然ながらこの手のクルマとしては多いに売れたのは当然だった。 しかし低価格で供給されたボクスターは、本当のポルシェファンというかクルマ好き以外にも単なる見栄っ張りの成金で、さりとて911までは手が届かないという連中にも格好のターゲットとなったようで、実際に見栄のためにボクスターを買って、「僕のポルシェ」なんて言っていた話も耳にした。しかし本当のクルマ好きのボクスターオーナーからすればポルシェというのは 911であり、ボクスターはあくまでボクスターという感覚があったから、自らのボクスターをポルシェとは絶対に言わない習性がある。それで見栄で買ったオーナーはといえば、皆に良い趣味しているとかおだてられて、そのうちに運転自体が上手いような錯覚を起こして調子に乗った運転をしていたら、ある時突然に思いもよらない挙動で自爆と相成り、僕のポルシェは全損してしまい、見栄で買ったので自動車保険には自損は掛けていなかったために悲しくも次は買えないし、全損したクルマのローンだけは残ってしまった、という話が結構ありそうだ。 実は 996 発売以前のポルシェの経営状況は極めて悪く、まあそれだから新型モデルをトヨタの支援で大幅な生産コスト削減をする事になったのだろうが、結果は見事に成功し、あっという間に世界でも有数の優良企業になってしまった。 そして6代目の 997 は言ってみれば 996 の改良版であり、シャーシーなどの基本的な部分は変わらないからビッグマイナーの更にビッグなヤツ (何だそりゃ) という感じだ。この997が発売されたのは2004年であり、モデルイヤーで言えば2005年という事になる。997ではエンジンが 3.6L のカレラに加えて3.8L のカレラS もラインナップされたが、何れのエンジンも 996 からの改良版を使用していた。 |
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実はこの 997 は Ph2 (2008年) でエンジンが新型の直噴式に変更となっている。ここで996に始まる水冷エンジンの変遷をまとめると 996 カレラ 997 カレラ 997 カレラS 最初に水冷化された996 Ph1 では 3.4L 300ps だったエンジンは、997 Ph2 では3.6L 345ps まで進化している。そして 997 の次は 998 かと思ったら 991 だったから増々解り辛くなったが、既にここまでで結構長くなってしまった。 ということで 991 については中編に続く。 |