Porsche 991 Turbo (2016/12) 前編 |
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新しい年、2017年の年明け第一弾の試乗記として今回は本試乗記史上最高価格、遂に車両価格が二千万円を超えたポルシェ 911 ターボを選んでみた。 911 にターボがラインナップされたのは開発コード 930 (1975〜) が最初で、というよりも初代 901 (1964〜) の発売から11年目にして発売された 930 は当初ターボのみが発売されたもので、これらの詳細は下記試乗記を参照願おう。 この930 は当時米国で制定された5マイルバンパー の規定をクリアすべく巨大なバンパーが装着されていて当時は何と不細工な、と感じたものだった。しかもこのターボモデルは強大なトルクを伝えるワイドタイヤを装着するために極端なオーバーフェンダーを装着し、リアには当時としては巨大なウィングが付いているという、今で言うガンダムスタイルの速ければ何でもあり的なもので、優雅さとは程遠いものだった (写真1) 。 さて930 が発売された当時に 911 のライバルはと考えると、ミドルサイズの2シータースポーツとしてはメルセデスベンツ SL (写真3) が思い付くが、これは 911 よりも性格的にはラグジュアリー色が強い事から直接ライバルとなるかどうか疑問もある。それではもっとスポーツテイストの濃いのはというとフェラーリのV6 ミッドシップエンジン車がドンピシャだろう。このクルマは正式にはフェラーリとは言わず単にディーノという名称だった (写真2) 。ディーノには前期モデルに相当する V6 2.0L 185ps/8,000rpm のディーノ 206GT もあるが生産台数からすれば V6 2.4L 195ps/7,600rpm のディーノ 246GT が 911 (901) に近い性能だった。しかし、930 turbo は過給により 3.0L エンジンから 260ps/5,500rpm というディーノより明らかにワンランク上の出力を誇っていて、結局当時 930 Turbo とライバル関係になるクルマは思い当たらなかった。尤も実際にはディーノ 246GT は930 が発売された時点では既に生産は終了していたが。 それでは他にターボチャージャーを搭載した市販モデルは無かったのかといえば、BMW ファンならお馴染みの 2002 Turbo 、通称 ’02 (マルニ) ターボが有名だ。’02ターボの発売は 930よりも早い 1973年で、これは量販車初のターボモデルだった。エンジンは直4 2.0L で 170hp/5,800rpm 240N-m/ 4,000rpm という性能でそれ自体は大したものだが、930 ターボの水平対向6気筒 3.0L 260ps とは格が違うし、リアエンジンでスポーツカー専用ボディの 911 シリーズに比べれば、セダンである 2002 ベースの ’02ターボと比較するのはそもそも間違いだ。そういう意味では今現在でも BMW M3 と Porsche 911 を比較するのも本来間違いなのだが、まあ今回はそれには触れない事にする。 |
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930ターボは当時の人気漫画 ”サーキットの狼” で一躍有名になり、これが火付け役となり1970年代後半にはスーパーカーブームが起きて、当時小・中学生の男の子達はスーパーカーを探すためにカメラ片手に街中をうろつき回ったのだった。1976年当時12歳の小学生は40年経った今では52歳のオッサンになっている筈だから、その年代の読者は懐かしいだろう。当時の 930 ターボの価格はと言えば 1,350万円だったから、貨幣価値を考えれば今なら数千万円以上だろうか。それで性能は当時では驚異的な 0 - 100 q/h が 5.5秒、最高速度は 250q/h というものだった。んっ? 確か新型の 718 ケイマンは MT でも 0 - 100 q/hが 5.1秒、最高速度は 275q/h 、ということは 930ターボに勝っている! しかも価格は619万円だから、40年の技術の進歩が判るというものだ。 ところでこの時代の国産スポーツカーはどのような状況だったかと言えば、真っ先に脳裡に浮かぶのはフェアレディZだ (写真5) 。1976年といえば未だ初代 S30型の時代で、当時を知る読者なら判ると思うが国内のフェアレディーZの主力は 2.0Lモデルであり、エンジンは L20 という直6 2.0L のセドリックなどと同じエンジンに SU 型の可変ベンチュリーキャブレターを2つ付けて標準の 115ps から 130ps にしたものだが、元来 L20 というエンジンは世界で一番ラフな直6エンジンと言われるくらいにバランスが悪く、5,000rpm も回したら分解しそうになる代物だった。しかも 930ターボの時代は日本では昭和五十年規制という馬鹿げた排ガス規制のために軒並みパワーダウンという冬の時代だったから見かけの割に兎に角加速が悪く、非力な2ドアスポーツカーという笑えないモノだった。なおフェアレディZの発売時 (1969年) の価格はベースグレードが84万円、上級のZ-L が105万円であり、内容からすれば破格のバーゲン価格だった。とは言っても庶民には手の届かない憧れのクルマだったから、今定年退職を機に現行フェアレディZを新車で買う、という話は‥‥あんまり聞かないかな。 それではフェアレディーZ 以外の当時の国産スポーツカーはというと‥‥ちょっと思い出せないくらいの寂しい時代だったので、前出の ”サーキットの狼” に出てくるライバル車で探したら、マツダ初のロータリー車であった、コスモスポーツがあった (写真6) 。実際にはコスモの販売は1972年で終了していたので、930 ターボとはすれ違いなのだが、まあ同一時代には間違い無い。コスモスポーツは2ローターロータリーエンジンにより128ps (後期型) を発生し、パワー自体は驚くほどではないが車両重量が1トンを切るくらいに軽量 (前期型では940s!) だった事から十分な動力性能を発揮していた。このコスモスポーツの発売された 1967年の価格は 148万円で、これはクラウンやセドリック等の高級サルーンが100万円で買えた時代だから相当に高価で、勿論一般庶民には手の届かないものだった。因みに同時代のポルシェ 911 は確か500万円くらいだった記憶があるし、それから 8年後とはいえ 930 ターボの 1,350万円というのは飛んでもなく高価だった事になる。 |
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話を 911 ターボに戻して、3代目 911 は 1989年より販売された 964 で、その後 1991年にはターボモデルが発売されたが、新型エンジンが間に合わず 930時代の 3.3L 320hp でスタートしている。結局 新型の 3.6L ターボ (360hp)が発売されたのは 1993年だった (写真7) 。そして4代目 911 は 1993年発売の 993 でこれが最後の空冷エンジンのモデルとなった (写真8) 。993 のターボは 1995年に発売されエンジンは 3.6L 420ps 57.1kgm までアップした。 5代目は1997年より発売の 996 で、911 の歴史で初めて水冷エンジンを搭載したモデルとなり、内容的にも全く新しい世代の 911 となったものだが、前期型はボクスターとフロントマスクが共通だった (写真9) 。996 ターボは水冷化ということから NA に対して3年遅れの 2000年に発売され、後期モデルとしてフロントマスクが変更された (写真11) 。エンジンは 3.6L 420ps 57.1kgm で勿論水冷化されている。なお 996 ターボのバリエーションとしては 450ps 63.2 kgm という更に高性能化されたターボS、更には極少量とは言え 462ps 63.2kgm (後に483ps 65.3kgm) で RWD の GT2 も生産された。 そして6代目 911 は 996 の正常進化版である 997 で、ヘッドライトは伝統の丸型に戻された (写真10) 。997 のターボは 2005年の発売でエンジンは3.6L 480ps 620N-m、更に 997 のMC (Ph2) では3.8L 530ps 700N-m と更にパワーアップされた (写真12) 。 |
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ここで今までの内容 (930〜997) を元にエンジンの変遷をまとめると 930 (2代目911) Turbo 964 (3代目911) Turbo 993 (4代目911) Turbo (量産車初の4WD Turbo) 996 (5代目911) Turbo 997 (6代目911) Turbo こうしてみると 911ターボは 35年の間に260psから530psにまでパワーアップしていたから、ほぼ倍のパワーになった事になる。 今回は第一楽章 (前編) ということで 911ターボの歴史についてまとめたが、ちょっと飛ばし過ぎだろう、って? いや第一楽章はアレグロということで速いテンポだったけれど、第二楽章 (中編) はアンダンテでゆっくりと991 ターボの試乗車の内外装などを見ることにする。 と教養のあるところを見せてしまっかなあ? ということで 991 ターボについては中編に続く。 |