BMW X1 xDrive20i (2015/11) 後編


  

最初にドライバーズシートに座った感覚は兄弟分の F45 と共通しているが、車両の全高が60o 高いために頭上空間で座面を調整すると当然ながら視点は高くなる。これにより全幅1,820o というスペックの割には相対的に車幅が狭くなったような錯覚を覚える。とはいえ、基本的には F45 との共通点は大いにある。

エンジンの始動はこれまた F45 と同じ位置に同じ形のスイッチ (写真31) があり、その次の儀式である AT セレクターを D レンジに入れる時も F45 と同様で、最近のBMW では定番となった電子式ではなくメカ式レバーをガチャガチャと直線に引くフィーリングも F45 と変わらない (写真32) 。次にパーキングブレーキを解除するが、これもATセレクターが旧式な割にはパーキングブレーキは最新の電気式という F45 と全く同じ状況だ。ただし既に前編で触れたように、F45 とはコンソール上の配置が全く異なるがスイッチ自体は同じもののようだ (写真33) 。


写真31
エンジンの始動は F45 と同じ位置の同じ形のスイッチを使用する。


写真32
AT セレクター F45 と同様で、最近のBMW では定番となった電子式ではなくメカ式を使用している。


写真33
パーキングブレーキは F45 と全く同じ最新の電気式だが場所は異なる。


写真34
ペダル類はBMWの常で見栄えの悪いウレタンパッドで、ブレーキペダルは丸みを帯びていて妙にオシャレだが似合わない。

例によって公道に出て流れに乗るのに 2/3 スロットルくらいで加速してみた第一印象は「おっ、結構トルク感もあるしレスポンスも良いぞ」という感じで、4気筒 2.0L ターボエンジンは 192ps、280N-m で同じ2.0Lターボのレクサス NX200t の238ps、340ps にスペックで比べるとワンランク下だが、実際の加速感は NX200t よりも明らかに優っている。片側2車線の国道を流れに沿って60q/h 程度で巡航している時の回転数は1,500rpm くらいで、そこから踏み込めば適度なレスポンスだし、少し強く踏めばシフトダウンも起きるのはBMW の他車と同様で、やはりこの辺が伊達ではない。

それでは走行モードを SPORT に切り替えてみる。切り替えスイッチはF45 ではセンタークラスター最下端にあり非常に使い難かったが、F48 では AT セレクターの右横にあるBMW 各車と共通のスイッチに戻ったことで非常に使い易くなった (写真35) 。F48 はCOMFORT モードでも充分なパワー感があったが、SPORT モードに入れた時からスロットルレスポンスはハッキリ判るくらいに向上して、これぞ BMW という感じになる。AT の動きは例によってSPORT モードに入れると一瞬のタイムラグの後に1段シフトダウンが起こる‥‥筈なのだが、今回の試乗車は随分と大人しく調教されていたようだ。それで本来はBMWらしく巡航時も3,000rpm くらいまではシフトアップしない、というような特性の筈が妙に大人しくなってしまったと想像するが、まあこれは過激なオーナーがガンガン走らせればECU (電子制御ユニット) の学習機能が過激モード側の制御を選択するようになるだろう。X1に試乗するユーザーは国産車のオーナーでこれが初BMW試乗とうドライバーも多いようで、極々大人しく、いや悪く言えばおっかなびっくりの試乗となるらしく、学習機能も最も大人しいモードを選択しているのだろう。

試乗車のエンジンは4気筒ということもあり3気筒1.5L の 218i Active Tourer に較べて加速時のスムースさでは明らかに優っていて、これならBMW エンジンとしてまあ合格というところだ。3気筒というのは誰が考えたってバランスを考えれば良いわけが無いのだが、最近の技術はある程度までのスムースや振動の抑制は達成しているとはいえ、やはりBMWとして相応しいとはいえないのが現状だ。

写真35
走行モードの切り替えスイッチはF45 の場合センタークラスター最下端のエアコンユニットの下という判りづらい位置にあったが、F48 では従来のBMWと共通なフロアーコンソール上のATセレクター隣に配置されている。

写真36
メーター類は F45 と全く同じユニットが使われている。

ここでエンジンルームの中を見てみよう。F48 は現時点では4気筒 2.0L の xDrive2.0i のみの設定であり、F45 では逆に4気筒 2.0L の設定は無くて3気筒 1.5L となってしまう。この2車のエンジンルーム内の眺めは何やら良く似ている。一瞬間違って同じエンジンの写真を使ってしまったかと思ったくらいだが、前述のように同じエンジンのモデルは販売されていないからそのような間違いも無い筈だ。そこで、まるで "間違い探し” のように2つの写真を比べてみたら、エクゾーストマニホールドのカバーらしき部品の長さが違うのに気がついた。写真38で黄色↓の位置が F48 の場合丁度シリンダー1つ分だけ左に寄っていて、要するに4気筒と3気筒のシリンダーの違いが判り、共通と思えるトップの樹脂製カバーに対する黄色↓の位置関係を見ても、やはり下に潜っているエンジンの長さが違うことが想像できる。

更にこの写真を見ると、1.5L の場合はシリンダーの短い分だけアルミのゴッツいブラケットが出ているのも見えるから、恐らくボディ側の取り付けを共通化させてさせているのだろう。と、ここでハタと閃いたのだが、3気筒1.5L は 0.5L x 3 であり、4気筒2.0L は 0.5L x 4だから、もしかすると3気筒1.5L にシリンダーを一つ追加したのが4気筒2.0Lとなっていて、内部のバルブやピストン類は共通部品となっているのではないだろうか? そこで両エンジンのボアとストロークを調べるためにカタログを見たが記載されていない。そこでBMW Japan の HPを調べたら‥‥やっぱり載っていない。こうなったら本国のBMWサイトで調べるしか無いと思い bmw.com から英文を選んでTECHNICAL DATA という項目を見たらばボア/ストロークはどちらも 96.4 / 82.0o だったから、まさしく想像通りだった。

それにしても最近の日本向け資料は本国向けと較べて内容が薄くなっているのは日本人がナメられているのかと思い腹が立つが、まあ実際に平均的日本人ユーザーのクルマに対する知識の無さは否定しようがない。あっ、勿論このサイトの読者クラスなら問題ないのだが‥‥。えっ、問題のあるヤツもいるって?

話を戻してエンジンルーム内を更に見回せば F48 と F45 のボディのフレーム類や補強の形状も共通しているのにも気が付いた。ということで、BMWは多くの共通部品を使って SUV とハイトワゴン、1.5L と 2.0L のバリエーションを展開するという実に効率の良い商売をしている事に気が付く。おまけに 2.0L はターボの加給圧を上げてハイパワーモデルまで展開している。


写真37
今回は4気筒2.0L のF48 と3気筒 1.5L の F45 の比較となるが、見たところそっくりで、何やら写真を間違ったのかと思ったくらいだ。


写真38
良く良く見ると、エクゾーストマニホールドのカバーらしき部品の長さが違うのに気が付く。
そして1.5L は1気筒短い分アルミのブラケットを出っ張らせてマウントの共通化を図っている。

動力性能については特別な高性能を求めるユーザーでなければ充分に満足できるだけのモノがあったが、それでは操舵性や旋回性はどうだろうか。先ずは CONFORT モードに戻して例によって適度に流れている国道バイパスを巡航するが、この時のステアリング中心付近のレスポンスは決して悪くない。というか、本来 BMW はセンター付近では多少緩慢に仕立てあげるのがポリシーだったはずだが、このクルマに付いては意外とダイレクトに仕立ててある。

そこで今度は走行モードをSPORT に切り替えると操舵力は少し増して中心付近のレスポンスも上がるから、言ってみればシャキッとセンターが認識できて多少操舵力は増えて重くはなるがそれ以上にドライバーの意のままに操作できるという点では、以前からの BMW 製 RWD セダンをある面上回っているとも言えるが、コーナーリング時は BMW の RWD セダン独特のニュートラル感は感じられない。X1 xDrive 20i の駆動方式は4WD だが、最近の4WD は状況によって前後配分が自動的に変化するから、コーナーリング中にどのくらいの前後トルク配分なのかは判らないが、コーナーリングは自然で安定しているのは電子制御4WDのお陰だろう。これに比べると同じプラットフォームの 218i Granturer は FWD ということもあり X1 xDrive 20i と比べれば別のクルマというくらいに出来が悪く、やはりBMW の FWD はマダマダだが、これをベースに4WD 化すれば随分と改善されるのだった。

更に付け加えると、実はこのクルマである程度の速度を保って旋回してみるとメリットとデメリットを感じることが判った。メリットとしては高い着座位置による視界の良さから、コーナーの先の見通しが良いことで、高さに対して相対的に車幅が狭く感じることも有利に働く。そしてデメリットはといえば、旋回速度を上げていってロールを感じ始めると、高い着座位置はよりロールを感じやすいことと、何となく転倒の兆し (実際にそう簡単に転倒はしないだろうが) を感じてしまいそれ以上速度を上げることを躊躇してしまうことだ。まあこのクルマでコーナーを攻める‥‥なんて事が間違いなのだし、そういう用途には別の車種を選ぶべきなのだが、BMW ということでどうしてもそういう要求をしてしまうところがある。

乗り心地は結構硬いが決して不快ではなかったし、試乗車は未だ走行距離が数百q だったからダンパーの当りも取れていないだろ。これは少なくとも5,000q 程走れば大いに改善されるとは思うし、今の状態でもBMW らしい雰囲気はある。なお、標準装備のタイヤは 218ï Activ Turer に比べればワンサイズ大きい (写真39) こともフィーリングの違いの原因にはなっていると思うが、それを全てタイヤサイズが原因とするのも無理がある。

ブレーキについては外観上ではX1 xDrive 20i と 218i Granturer は同じユニットを使っているように見える (写真40) 。そしてブレーキキャリパーの大きさを見ると BMW にしては前後のキャリパーの大きさが明らかに違い、すなわちリアキャリパーが妙に小さく見えるのは BMW とはいえ従来の RWD とは違い前後配分がフロントベービーなのだろう。実際にエンジンの搭載状況を見ても3シリーズは縦置きエンジンがキャビン側に大きく食い込むくらい後方に配置されているが、FWD である F48 、 F45 共により前方に横置きされている。とは言え、他の FWD 車のようにフロントアクスルより前、すなわちフロントオーバーハングにぶら下がっているようなレイアウトからすれば前後配分は遥かに良さそうではある。


写真39
どちらも中間グレードの xLine だが標準装着のタイヤはF48 が 225/50R18、F45 は 205/55R17 と一サイズ違う。


写真40
ブレーキのホイールユニットは両車共同じに見える。BMWにしてはフロントキャリパーが大きくリアが小さいのベースが FWD のために前後配分がフロントヘビーのためだろう。

兄弟車である 218ï Gran Tourer の試乗結果ではエンジンについてはパワーは無いし3気筒では所詮BMWらしいスムースさも無く、コーナーリング性能はといえば元々特性の良くない FWD で、更にBMW としては経験不足なことから BMW らしさは全く無いと酷評したが、今回のX1 xDrive 20i では1.5L から 2.0L、シリンダーが3気筒から4気筒という条件の違いによりパワーもエンジンのスムースさも、まあ BMWとしては恥ずかしくない程度ではあった。そしてコーナーリング性能はといえば FWD と較べて4WDであることから、充分に納得の出来るものだった。

こうなると次の興味は 218ï Gran Tourer と同じ 3気筒 15L エンジンを積み、駆動方式も FWD である X1 sDrive18i は、果たして 218ï Gran Tourer より改善されているのか、それとも似たようなものであり、価格差を考えても X1 xDrive20i を買うべきなのか‥‥と言ってみたが改めて xDrive20i と X1 sDrive18i の価格差を見れば何と90万円も違い、これは安い軽自動車1台分だ。となるとsDrive18i は "それなり" なのなのかもしれない。という訳で何やら発売前から予想が付いてしまうが、いやいや、その予想を良い意味で裏切られることを期待しよう。何故なら立派なBMWのSUV が300万円代で買えるということは、国産でもちょっとしたクルマは400万円代となった今日此の頃、期待も大きいのだから。