FORD MUSTANG V8 GT 特別編
  [MUSTANG V8 GT vs Skyline Coupe 370GT 後編]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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先ずはドライバーズシートに座った状態から比較すると、MUSTANG GT はスポーティーなクーペとしては意外に着座位置は高めで、しかもボンネットカバー上面はモッコリと盛り上がっているからこれが常にドライバーの視界にあり、ある面安心感があるし車幅の割には取り回しはし易い方だ。

対する SKYLINE COUPE は MUSTANG GT に比べると幾分着座位置が低いのは前編のシート比較写真を見ても判る通りで、それでは同じV36 の SKYLINE SEDAN はといえば COUPE よりもシートの座面は明らかに高い。これは COUPE が SEDAN よりもルーフが低いために頭上空間を確保するとともに、低い着座姿勢でスポーティーな雰囲気を齎すという効果がある。しかし、インパネ自体は SEDAN と共通だから COUPE の前方視界は SEDAN より劣るのは仕方がないが、既述のようにこれが返ってスポーティーに感じるかもしれないし、言い換えれば SEDAN の着座位置はスポーティーイメージのスカイラインとしてはチョイと高めでもある。

なおシートの座り心地は両車とも特別良いわけではないが、決して悪くもない。米国も欧州同様に椅子の文化だから日本に比べれば遥かに得意な筈だが、最近は日本車も色々研究したこともあり、流石に以前のように直ぐに腰が痛くなったり、走行中にズルズルと滑るようなシートは無くなっている。

エンジンの始動は MUSTANG が昔ながらの金属キーをステアリングコラム側面の鍵穴に挿入して撚るタイプで、SKYLINE COUPE はインテリジェントキーと押ボタン式という、最近の日本車では定番の方法となっているが、その位置はステアリングコラムの右であり、最近のトレンドであるステアリング左のセンタークラスターの近くに比べるとマイナーな位置でもある。なお、2008年に発売された FORD FIESTA はMUSTANG に比べれは遥かに低価格な車だが、既にインテリジェントキーと押ボタンスイッチとなっているから、次期 MUSTANG も恐らく押ボタン方式となっているだろう。

次にフロアーコンソールに視線を移すとどちらも特等席にはAT セレクターが居座っていて、そのセレクターはどちらも直線式となっている。ただし、そのレンジは奥から手前に向かってP→R→N→Dまでは同じだが MUSTANG ではDの手前に更にSレンジがあり、この状態でシフトレバー側面のスイッチを押すことでマニュアルシフトが可能となる。

対する SKYLINIE はオーソドックスなティプトロタイプ、すなわちDレンジから右に倒すとマニュアルモードとなり、ここからレバーを前後させることでシフト操作が出来るが、現在世界中のクルマにおいて押してアップと引いてアップという全く逆となる2方式が混在しているのは困ったものだ。なお、マニュアル操作については Type S および SP にはマグネシウム製のパドルシフトという見るからに立派なものが付いてくる。そしてスタンダードとType P にはこのパドルシフトはないから、前述のAT セレクターでの操作のみとなる。

パーキングブレーキは MUSTANG がコンソール後方にあるレバー式というオーソドックスな方法であるのに対して、SKYLINE の場合は AT では足踏み式のプッシュ/プッシュ方式となる。ただし MTの場合は MUSTANG と同様にコンソール上のレーバー方式となる。

メーターについてはクロームメッキされた外側リングと、20q/h 毎に大/小を繰り返す速度計の文字と、その文字が右側の回転計も含めて縦長の独特な書体で、これらが相まって良き時代のアメリカンというか独特なレトロ感を醸し出している MUSTANG と、良く言えばハイテクを駆使して強いコントラストで (下品に) 輝く自光式という日本車的な SKYLINE という、それぞれの出自を表すような特徴を持っている。まあ、どちらを好むのか、いやどっちも好まないのか、とにかくこればかりはユーザーの趣味に任せるしか無いが、個人的には MUSTANG の方がまだマシだと思っている。

いよいよ実際の走りを比べてみることにするが、その前にボンネットフードを開けて両車のエンジンルーム内を比較してみる。最初に MUSTANG の大きく重いフードを開けると試乗記本編でも触れたが、このカバーを固定するにはボディ側にあるロッドを立てカバーの穴に挿入する事が必要がある。エンジンルーム内のV8 5.0L エンジンは意外にもコンパクトというか、スペース的にも多少の余裕がある。そして何よりエンジン搭載位置を見れば、サスタワーとエンジン中心がピッタリ合っている 。そして取り付け方法といい形状といい、何やらアフターマーケットの後付け部品みたいなタワーバーが左右のサスタワーを結んでいる。

SKYLINE COUPE のボンネットフードは開ければダンパーで保持されるからロッドをセットするなどの手間はないが、これはこのクラスなら当然であり、特に驚くことではない。V6 3.7L のエンジンのサイズはMUSTANG のV8 5.0L に比べて少し小さいくらいで、そのスペックの割には決して小さくないようにも感じるが、言い換えれば MUSTANG のV8 がコンパクトだということだ。

ところで、エンジンルーム内というのはサスタワーなどボティーの構造材が丸見えになる部分であり、この部分を詳細に比較すれば車両全体の作りやポリシーが解るというものだ。そこで先ずは MUSTANG のサスタワー付近を見ると補強のブレートがスポット溶接されている訳だが、2枚のプレートの重なった部分には特に処理はしていないの比べれば、SKYLINE はプレートの重なった部分にはシール材を使って浸水対策をしているなど、手が込んでいる。元来、このような処理は欧州のプレミアムブランドがやっていたのを国産車も追従 (パクった) 訳だが、アメ車である MUSTANG は未だそういうきめ細かい設計は行っていないのだろう。

とはいえ、MUSTANG を実際に走らせてみれば特に剛性不足を感じるような走りは感じられなかったから、これはこれで日欧とは違う進化を遂げたと思うことも必要かもしれない。逆に言えば、巨大なV8 エンジンを搭載している割には車両重量は1,680kgであり、これは同じくV8 エンジン搭載の
E セグメント クーペであるBMW 650i の1,930kg よりも250kg も軽量なことになり、BMWの高剛性ボディは重量増加というハンディもあるということだ。

それではいよいよ走行感の比較を始める。先ずは MUSTANG GT から。

エンジンを始動するとV8 エンジンのアイドリングは、室内では結構静かだが外に出て聞くとアメリカン V8 独特のマッチョというか迫力があり、この手の好きなマニアには垂涎ものだが、クルマに上品さを求めるユーザーからすれば多少顰蹙モノかもしれない。対する SKYLINE COUPE は普通のV6 的な音であり特に特徴も無いが特別な魅力があるわけではなく、目立つことを嫌う典型的な日本人には良いかもしれないが、それにしてはクーペボディーというのが目立ち過ぎだから、この手のユーザーはスカイラインでもセダンを選ぶだろう。

最初に走り出した感想は MUSTANG では兎に角最大トルクが 529 N・m というとてつもないスペックの∨8エンジンの強大なトルク感であり、流れに乗った 60q/h の巡航時では回転計の針は1,000 rpm + αくらいを指していて、そこから適度に踏み込むとシフトダウン無してスムースに加速を始める。では SKYLINE COUPE はといえば、V6 3.7L の発生する最大 363 N・m というトルクだって世間一般の常識から言えば充分過ぎる程で、小型ミニバンのユーザーなどからすればそんな 333ps なんていう大出力エンジンなんて一体何に使うんだというくらいだが、今回の比較相手の426ps というのは幾ら何でも相手が悪すぎた。

それではフル加速の性能はといえば、MUSTANG GT の 0〜100q/h 加速は4秒台前半ということで、これはポルシェ カレラSや BMW M5 などのトップパフォーマンスカーの世界であり、少なくとも500万円前半でこの性能のクルマは他に見当たらない。ただし、これ程の性能となると、それを発揮できる場面は日本の公道では見当たらないが、まあ高性能いうのは余裕と満足感のためと思えば良い。とはいえ、左翼ババアのように高性能は悪と思っている輩もいる訳で、まあそういうのは無視しておけば良いのだが、こういう連中を利用して高性能車を規制しようとしているシロアリ役人もまたいる訳だ。えっ、その目的は、って? 勿論自分たちに利権を増やすためだ。それで高級官僚は外郭団体でも作って天下るとか、下っ端の小役人は‥‥ハテ。いや子役人だって民間に比べれば遥かに割の良い年金で老後は悠々自適の生活であり、その為にも民間企業 OB の厚生年金はいつの間にか危険な株式に投資して只でさえ足りない原資を更に減らしているが、公務員共済はシッカリと安全確実な国債で運用とか、いい加減にせえよ〜、という状況だったが、ここに来て政府は公務員共済の資金も株式投資で運用することにしたようで、まあジャンジャンと減らしてもらおうじゃないか。

そして SKYLINE COUPE の加速性能だが、もう敢えて言わなくても判るように、たしか 0〜100q/h 加速は5秒台だったと思うが、これは世間一般からすれば充分な高性能だし、これでさえ日本の公道では充分すぎる程だが、MUSTANG GT のように高速道路での 100 q/h 巡航が1,600rpm などという余裕は無い。MUSTANG GT では強大なトルク故に駆動系の減速比は相当なハイギアードであろうことは容易に想像できる。

そこで両車のギア比を比較してみると、MUSTANG GT は5.0L NA という大トルクのエンジンを搭載していることもあり、そのギア比はミッション自体が結構なハイギアードで、最近では少なめの 6速にも関わらず上の2速 (5,6速) はオーバードライブレシオの巡航ギアだから、実質上は4AT という感じだ。更にファイナルギアも高いことからオーバーオールでは大いにハイギアードで、100q/h 巡航は 1,600rpm という驚異的な低さだ。なお、前述の 60q/h 巡航時にアイドリングに毛が生えたような回転数 (1,000rpm+α) という状態でのミッションの位置は表から 6速となり、要するに街中の60q/h 走行で既にオーバードライブの6速走行をしていた事になる。

ところでMUSTANG も V6 の場合はどうかといえばミッションにギア比は全く同じでファイナルが多少低くなることで、V8 よりもトルクが小さい事を補っている。とはいえ、V6 だって3.7L NA エンジンにより最大 378 N・m という充分過ぎる程のトルクを発生するのだが、何しろGT の V8 5.0L NA による最大 529 N・m というのと比べるとトルクが少ないような気になってしまう。

SKYLINE COUPE は AT の場合は MUSTANG の6AT よりも一段多い 7AT だからより細かい設定にに出来ることもあり、1速はより低く各ギアのステップも細かいが、それ以上に結構ワイドなギア比ともなっているのは市街地での加速性能と高速道路での巡航を両立させるためだろうか。因みに SKYLINE COUPE の場合7速での 100 q/h 巡航時の計算上の回転数は2,000rpmとなり、これでも充分に低い回転するだから高速巡航でも全くストレスはないし、普通のドライバーが普通に巡航していて、偶に遅い前走車を一気に抜きたい場合でも充分な加速性能は確保できるが、何度も言っているように MUSTANG GT の性能がベラボウなだけだ。

走る (動力性能) については MUSTANG GT の圧勝だったが、それでは曲がるについてはどうだろうか。ということで最初に MUSTANG GT だが、アメ車と聞いただけで操舵性能なんて全く期待しないというのが多くのクルマ好きの感覚だろう。しかも 2年前に試乗したクラススラー 300C は旧タイプとはいえメルセデスベンツ Eクラスのプラットフォームを流用しているということで大いなる期待をしたのだが、結果は今時珍しいくらいにステアリングレスポンスが悪いし、コーナーリングは盛大なアンダーステアという一昔前のクラウン ロイヤル的な性能に、やっぱり所詮はアメ車だなぁ、と感じたものだった。そんな経験もあり MUSTANG GT にも全く期待はしていなかったが、結果は思いの他良くて、中立付近の不感帯も少ないしレスポンスも丁度良いくらいだ。この具合はクラウン アスリートやレクサスGS と比べると結構特性が似ているという感じだった。

次にSKYLINE COUPE だが、ラインナップ中でもスポーツ仕様かつ豪華仕様のトップモデルである Type SP で話を進めると、操舵力は適度な重さで遊びは殆ど無く、贔屓目に言えば極めてクイックで、ステアリングホイールを少し動かしただけでも左右にピクピクと反応する。しかし、最初に僅かな力を入れてもステアリングはビクとも動かず、大分力が入った状態でステアリングが動き(回り)始めてクルマは大げさに反応するという、妙にスポーティーに振ってはあるが所詮は元が乗用車だから無理が出ているような感じだった。とはいえ、クイックという面では MUSTANG GT よりも確実に勝ってはいる。

実は上記のような SKYLINE COUPE の妙にわざとらしい操舵特性は Type SP の場合であり、それよりも設定の大人しいコンフォート志向の Type P では、その特性は実に素直であり、旋回特性も弱アンダーで下手なBMW 顔負けというくらいに良い結果だった。まあ、この辺が車選びの難しいところで、 Type SP の19インチホイールに対して18インチの Type P の方がシャーシーにマッチしている状況は欧州車でもよくあることで、やはりタイヤ & ホイールは分相応が一番良い訳だが、そうは言ってもメーカーからすればライバルが大径ホイールと太いタイヤでかっこ良く見せているのに、こちらが見かけの悪い小径ホイールでは商売として不利になるというのもまた現実だ。

なお、今回のSKYLINE COUPE はV6 3.7L エンジン搭載で車両重量は1,670s であり、これは何と比較相手である V8 5.0L の MUSTANG GTとほぼ同一ということで、やっぱり MUSTANG は圧倒的な軽量設計となっていた。

考えてみれば、クルマに限らず現在の軽量設計技術はコンピューターシミュレーションによる解析技術に依存しているわけで、その解析は元をただせば航空宇宙分野から発展したもので、その航空宇宙技術というのは米国が世界のトップを走っている訳だから、MUSTANG の軽量設計は驚くに値しないことで、その気になれば米国も未だ未だ捨てたものではないということだ。

このように曲がるについては SKYLINE COUPE に分があったが、それでは最後に止まるについて比較してみる。とはいえ最近のクルマのブレーキは一般的な使用にあっては全く問題ないくらいに軽い踏力で良く効くのが普通であり、この性能で大いなる差が付くなんていうことはあまりないのだが、まあそれでも兎に角、両車の比較はしてみる必要がある。

p>そこで先ずはホイールのスポークの隙間から覗くブレーキメカを見ると、MUSTANG GT ではフロントに片押しとはいえシリンダーハウジングにはアルミを使用した2ピストンキャリパーを奢っている。リアは本来小型軽量車用であるパーキングメカを組み込んだ P付と呼ばれるキャリパーを採用しているために、リアにパーキングドラムを持たないことでリアのハブ周りがスッキリしているが、見方によってはホイール内がスカスカでかっこ悪いという意見も出るだろう。

SKYLINE COUPE のブレーキはグレードによって大きく異なり、スターンダードグレードとType P には前後ともシングルピストンの鋳物製片押しキャリパーという極々普通のものが付いている。

これがType S および SP となると前後にアルミ対向ピストン、いわゆるオポーズドキャリパーを採用していて、フロントは4ピストン、リアは2ピストンとなっている。キャリパーの表面仕上げはシルバーの塗装が施されていて更には ”NISSAN” のロゴも付いている。なお、このロゴは米国向けの場合には ”INFINITY” となる。

ところで肝心の効きはどうなんだ、と言われそうだが、MUSTANG COUPE については軽い踏力で多少食い付くように効く、言ってみれば欧州車風であり、これはホイールが直ぐに黒く汚れることから欧州系のロースチールタイプのパッドを使用しているのだろう。なお、MUSTANG のリアブレーキは前述のようにキャリパー自体にパーキングメカを持つ P 付きタイプであることから、ブレーキパッドもパーキング特性まで考慮した特種な材質を使用している筈で、ダストが嫌だと言って安易に社外品と交換するのは差し控えたようが良い。

SKYLINE COUPE のブレーキも当然ながら良く効くし問題はないが、国産車だけあってパッドはダストの出にくいノンアスタイプを使用しているから喰い付き感には乏しく、欧州タイプのブレーキフィーリングを好むとチョイと違う。そして、Type SとSP では流石にオポーズドキャリパーを装着しているだけ合って、遊びや剛性感が高く‥‥と言いたいが、実は大して違いが判らない。サーキットでスポーツ走行でもすれば違いがでるかもしれないが、一般公道での使用ではその性能差は判らないが、まあ見た目の良さでメリットあり、というところだ。

以上、両車の走りについて比較してきたが、今回の2車はどちらも末期モデルであり、MUSTANG は既に昨年末に限定モデルとして新型が発売されいるし、本格的な販売も近日開始されるだろう。次期モデルはリアサスが独立懸架になるなど近代化も図られているようで、良き時代の面影は少し後退するかもしれないが性能的に見れば明らかに進化しているだろう。またSKYLINE COUPE についても既にセダンは新型に移行しているわけで、COUPE が一新されるのもそう遠くはないであろう。

特にマスタングの新型は大いに期待だ出来るし、新型のダウンサイジングエンジン以外にV8モデルが生き残るようだから、米車らしらを求めるユーザーにも勧められそうだ。ということで、新型 MUSTANG V8 GT が出るまでもう少し。これは試乗する価値は充分にありそうだから、欧州車一筋の読者も騙されたと思って試乗してみることを勧めて、この今回の特別編の〆とする。