Porsche 991 Carrera S 特別編 [TOYOTA 86(SUBARU BRZ) vs PORSCHE 911(991) 前編] 特別編へようこそ。何時ものように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。 最近発売された話題のスポーツカー、2+2クーペで後輪駆動・・・・となれば、トヨタ 86/スバル BRZ(以下代表して86と記す)が脳裏に浮かぶが、もう1台、これぞ高性能スポーツカーの代名詞であり、先ごろ十数年ぶりの大幅な改良となった2+2クーペが新型ポルシェ911、開発コードでいえば991だ。しかし、この2台は、先にあげた共通点以外には全く次元が異なるクルマであり、価格だって最上級モデルでも300万円前半の86に対して、試乗した911は上位モデルのカレラSで、しかもオプションがテンコ盛りだったために、車両価格は1,700万円に達するという訳で、その価格は86の5〜6倍という冗談みたいな差があるが、今回はこの2車と比較してみようという訳だ。 国産のコストパフォーマンスの高い車種と、主としてドイツの高級ブランドでスペックだけ見たらば国産車と変わらないのに値段は倍もする・・・・・・それぁ、ボッタクリだろ、とか、中身が全然違うじゃあないか、とか。まあ、色々な議論のネタであり、この手の言い争いは各種の掲示板などで何年にも渡り飽きずに何度も繰り返されてきた。当サイトでも今まで特別編として数アイテムの比較をやっていて、例えば「BMW 328ivs Subaru Legacy B4 2.5GT」や「BMW 1 Series vs Mazda Axela Sport」などだが、これらはスペックから見ると結構近いし、場合によっては国産車の方がパワーがあったりする場合さえある。そして価格的にも2倍程度であり、これだけの価値があるのかどうかで喧々諤々という訳だ。ところが、今回の比較はちょいと訳が異なる。前述のように価格は数倍であり、排気量は1.9倍、パワーも2倍だが、車両重量は200kg程度しか違わない。これでは、動力性能として比較するのが 全くナンセンスだが、クルマというのはパワーではない。非力でも返って楽しいという場合は大いにある訳で、これは乗ってみないと判らない。そうはいっても、スペックを無視する訳にはいかないので、先ずは一覧表に纏めてみる。 加速性能からすると0〜100km/hでは86の6.8秒という値からしても、並みの乗用車よりは速いが、スポーツカーとしては決して速くは無い。これが、ケイマンの5.8秒になると結構速いな、という気持ちになり、カレラのように5秒を切ると流石に強烈な加速を実感できる。パワーは金で買えるのがイヤラシイところだが、これは現実だ。とはいえ、GT-Rのように動力性能だけをとればダントツの買い得というクルマもあるが、動力性能が全てではないのは言うまでもない。 それでは早速エクステリアを比べてみる。なお、比較写真は主として991がカレラS、86がGTを使用している。第一印象は86に比べて991の方が幅が広く低く見えることだが、スペック上では991の全幅は1,810mmに対して86は1,775mmと35mm広いが、全高はむしろ86の方が僅かに(10〜20mm)低いくらいであり、86が背が高く見えるのはデザイン上の理由だろう。写真で見比べると、確かに991の低いボンネットが外観上の特徴となっているのに対して、86のボンネット位置はやはり高い。86は水平対向エンジンにより低いボンネットを実現しているというのが売りだが、991のようにフロントにエンジンが無いのでいくらでも低く出来るとう訳ではない。また、ホイールサイズが86の17インチに対して991の場合は19インチであり、この迫力が見た目を大きく左右しているのもまた事実だ。この面ではフロントにエンジンがない991は圧倒的に有利なのだが、フロントエンジンでもコルベットのように十分に低いボンネットを実現しているクルマもある訳で、86は折角の水平対向エンジンを搭載しているのだから、もう少し何とかならないものだろうか。とはいえ、86だけ見ている分はサルーンに比べれば十分に低いのではあるが・・・・。 86のリアはハイデッキのダックテールであるのに対して、991はなだらかなカーブで下端に繋がっているなど大きく異なる。 991はリアにエンジンがあるためにラッゲージルーム(トランク)はフロントであり、当然面積も狭い。それでも深さが結構あることから、二人の旅行なら数日分程度のスーツケースを積むことが出来る。FRである86は普通にリアトランクを持つから、このクラスの常識的なスペースは確保している。 前後からみれば、今まで説明してきたことがより判り易い。991のリアトレッドの広さとキャビンが幅方向に絞ってあるのが判ると思う。排気管は寧ろ86の方が太くてメッキが輝いているなど、偉そうだったりする。まあ、ハッタリには違いないが、これが結構効いている。
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もう一つ気が付くのは、991が先代の998に比べて、更に大径ホールを採用したことで、必然的にウエストラインが高くなってしまったが、それでもタイヤ外径からいってギリギリに低く保とういう思想は見て取れる。それに対して86はサルーン的なウエストラインの高さを感じてしまうのは気のせいだろか? さて、いよいよドアを開けるのだが、両車ともサッシレスドアであるが、ドアが閉まった状態ではサイドウィンドウのガラスは完全にボディ(ルーフ)側に食い込んでいる。そこで、ドアノブを引くとウィンドウが下がり、ドアを開けることができる。そのウィンドウの下がり方は両車で少し異なり、991はノブを引くとパワーウィンドウのモーターでウィーッと下がるために、あるタイミングを必要とする。これに対して86では恐らくメカニカルにウィンドウを下げるのだろうか、一瞬でしかも必要最小限だけ下がる。従って、86のドアを開閉する際には、余程その気になって見ないとウィンドーが下がった事に気が付かない。BMWのクーペも同様にウィンドウを下げるが、これも一瞬で下がる点では86に近い。 このサイドウィンドウを下げる理由について、ウィンドウを下げて隙間を空けることで室内の内圧を逃がしてドアの開閉を確実にする、という表記を何度か見かけたが、まあその効果が無いとは言わないが、それならサッシドアでも採用する筈だが、そういう例は見たことが無い。しかも、今回の86のようにドアが開く最小限しかウィンドウを下げない状態ではエア抜きの隙間が空かないから、その効果は期待で出そうに無い。この方法はサッシレスドアでガラスの上部を固定するためのモノだ。 写真の991にはオプションのサンルーフがついていたが、86にはオプションでもサンルーフは無い。しかし、こういう趣味性の強いクルマの場合はサンルーフのオプションは欲しいところだ。いや、サンルーフなんてケチな事を言わずに、タルガトップ、さらにはカブリオレなんていうのも良いのではないか。 いよいよドライバーズシートの比較となるが、どちらも乗用車に比べて低い着座位置とサイドサポートのしっかりしたスポーツシートが装着されているいる。
シートの表皮は911の標準はサイドが人口皮革(レザレット)でセンターが本革となるが、写真左上のクルマはオプションのレザーシートが装着されている。 86の場合はグレードによって表皮は異なるが、上級モデル(86GT Limited、BRZではSにオプション)ではサイトが本革で座面がアルカンターラという組み合わせが選べる。 しかも、86ではレッドインテリアを選ぶとセンターが赤となる(写真中央上)が、一般的にはブラック(写真右上)を選ぶだろう。なお、BRZにはレッドインテリアは設定がない。 ところで86のレザーシートだが、アルカンターラに文句はないとして、サイドの本革の材質についてはやっぱりイマイチだし、写真右下で判るように展示車は多くのギャラリーが弄り回したとはいえ、既にサイド後方がへたっているのが判るだろう。 いくら直営の展示上で見学者の数が半端でないとはいえ、86のレザーシート付を自分で買ったとして、それ程経たない期間でこんなになってしまうのでは、と思うと考え物だ。 シートの調整は911の場合はバックレスト(リクライニング)と上下が電動で前後は手動というのが標準だが、写真(左下)のクルマはオプションのメモリー付パワーシートが装着されていた。 これに対して、86では全て手動であり、電動はオプションにも設定が無い。 ところで、現在のポルシェのシートは全てレカロ社からのOEM供給であり、そのレカロ社は元を正せばポルシェ社のシート部門が独立したものだという。しかし一時期は両社の関係は決して良くなかったとも伝えられているが、現在は良好なのだろう。そのレカロ社は、3つ(あれっ4つだったか?)の会社に分割されていて、マニア諸氏が高い代金を払ってショップから買うのはアフターマーケット専門の会社で、ポルシェに納めているOEM専用の会社とは別のようだ。残るのは航空機やバスなどの大量輸送機関用で、そういえば狭くて悪評のANAのシートはレカロ製らしいし、大型の観光バスでレカロを装着しているクルマもあるようだ。アフターマーケットというのは小口販売だから決して大きな商売でなく、完成車向けのいわゆるOEMメーカーからすれば、数という面ではあまり嬉しく無い市場だが、価格が高いので利益率は非常に良いころもあり、普通は社内でも別のアフター専用部署が担当している。 86をトヨタではスポーツカーといっていることには特に異論は無いが、しかし、これが本格的なスポーツカーなのかといえば疑問もある。CセグセグメントのFR用のプラットフォームを新たに起こしたということで、今のところ他車との共有が無い事から、当然バリエーションにサルーンも無いので、スポーツカー用といいたいのだろうが、特別に走りに特化したプラットフォームとは言えず、ボディだって2ドアセダン的なクーペだといえなくも無い。トヨタは86がスポーツカーであることの証として、ボディおよび着座位置の低さをアピールしているが、86は本当に低いのだろうか。確かに1,285mmという全高は数値上ではカレラSよりも10mmも低い。そして、トヨタの発表によると86の着座位置は地表から400mmだという。そこで、試しにボクスター(987)の地上からの着座位置(高さ)を実測してみたらば、なんと概ね270〜280mmくらいだった。そうなると86の着座位置はボクスターよりも優に100mm以上も高いことになる。確かに、86の運転席に座った感じではシートを目一杯下げても、何となく高いような気がして、ポルシェ(991も987も)の地面スレスレに座っているような感覚に乏しいのは以前から感じてはいた。そこで、もう一度両車の高さ関係を写真で比べると、86のボディ下端が確かに100mm程高いように見える。 それでも、上の写真ではドアの下端位置は両車変わらないようなので、その位置からシート座面までを比べてみると下の写真のようになり、確かに86は少し高い。
ここからは、細かく室内各部を比べてみることにするが、実は991の写真は試乗記でも触れたようにオプションが200万円以上も装着されていて、インテリアについてもコレデモカ、とばかりに高級装備が装着されているために、比較といっても無意味な面もあるけれど、半分は冗談と思っていただこう。何しろ、ここは特別編であり、元々が非常識な比較なのだから。 まずは、インパネ全体を見たときに感じるのは86のセンタークラスターが幅広いということだ。実際にシートに座ってみても86は幅方向にタイトとなっているのがハッキリと感じ取れる。それに対して991は結構余裕があるが、車幅自体は991が35mm広いとは言え、991の場合はリアトレッドが広く、ボディも後半分が異様に幅j広く、それ対してBピラーより前が意外と狭まっている。そこで、考えられるのはフロントにエンジンを持たない991はセンターコンソールの幅も狭く、その分が乗員に割り振られていることで、86のようにFR車ではセンターコンソール下には幅の広いミッションがあるために、乗員は左右に離れた形になるという違いがある。言ってしまえば、本格的なスポーツカーやレーシングカーはエンジンが後にあるのが正解だ。 では実際にインパネを比較してみると・・・・・・いやぁ、ハッキリ言って質感の差は、もう冗談としか言えない状況で、それを助長しているのが991にオプション装着された、これでもか!のレザーインテリアだが、標準でも大いなる差が付くのは間違いない。これは86にとっては不運だが、そうはいっても、86の安っぽさはちょっと酷すぎないだろうか。いくら、走りを重視とはいっても、もう少し質感をアップすれば、3シリーズとは言わないものの、1シリーズやA3などの高級輸入車オーナーや予備軍の気をそそることも出来るかもしれないのだが・・・・。 エアコンについては、991は当然ながら2ゾーンのフルオートエアコンだが、86でもGT(とBRZ S)ならば2ゾーンのオートエアコンが付くから、まあ、表示やスイッチの質感云々は置いておくとしてスペック上の機能は同様ではある。そして、オーディオについては86はオーディオレスで2DIN分のスペースがあるために、ここにCDプレーヤーかナビを付けることになり、ナビの場合はオーディオ一体型となる。そして991はといえば、998の後期からナビが標準装備となったが、事実上はアフターマーケットの市販品(クラリオン製)と同じでオーディオ一体型だった。そして、今回の新型はというと、やっぱり同じでオーディオ一体型が付いている。それにしても、カレラでも1千万円を軽くオーバーし、カレラSならば1,500万円もするクルマで、オーディオ一体のナビというのはどうも納得できないものがある。欧州ではどうしているのだろうか?
ところが、今思い出してみると、確か昨年秋の東京モーターショーの展示車はオーディオユニットが別体だったような記憶があるので過去の日記(12月6日)を見てみたら、何と欧州仕様と同じであり、その時のコメントには。 『オーディオについては、997後期モデルからナビ一体型が標準装備となったが、これ程の高価格車でナビ一体というのはどうしたものか?と思っていたらば、今回はオーディオ部が別になって、BMWなどのサルーンと同じになった。こうなると、やはりナビ一体型を採用していたパナメーラやカイエンもMCを機に変更されるのだろうか?』 なあんて書いていたじゃないか。ということは、あの日記は見事に騙されて、無駄な期待をしてしまったことになる。勿論、あの日記を見た読者も、その気になった訳で、結果的にはガセネタを食らわしてしまったことに、お詫びしなければならない。えっ、もっと本気で謝れ、って? そいいうアンタは991なんかをカマっていないで、中古の20セルシオの出物でも探したらいいんじゃあないかい。
今度はドアにインナートリムを拡大してパワーウィンドや電動ミーラーの調整スイッチ付近を比較してみる。写真左下の991は例によってレザー貼りにステッチなど如何にも高級仕様だが、ここで981(ボクスター)も比較に加えてみると、写真中下のように991でレザーだった部分が樹脂製となっていて、これなら結構庶民的に見える。そして写真右下の86はといえば、上級仕様とはいえこの部分には赤いステッチなどを配して中々頑張っているだが、スイッチ類の質感はといえば、ポルシェに比べて決定的に安っぽい。それで、妙に赤いステッチが浮いていて、何やらセンスの悪さを感じてしまう。 と、まあ、ここまでは大体想像していたとおりの結果になったが、価格を考えれば当然ともいえる訳で、クルマは走ってナンボだから今に見ておれ、何ていう気持ちで後編につづく。 |