BMW 328i (2012/2) 後編


今回試乗するは328i はModern (586万円)にオプションとしてダコタ・レザーシート(28.4万円)、メタリックペイント(8万円)が装着されていたので合計は622.4万円にも達する。ところで、F30のボディーカラーは全7色が用意されているが、そのうちソリッドカラーはアルビン・ホワイトのみだから、残る6色はメタリックカラーとなり、事実上殆どのクルマが8万円プラスとなる。

エンジンの始動は勿論スマートキーとスタートボタン(写真31)によるが、スマートキーの色は各デザインラインの特徴と同じで、試乗車はModernのためにアイボリーにシルバーのアクセントが入ってい た(写真 32)。スマートキーと同様に、メーターの色もデザインライン別になっていて、Modernの場合はメーターパネルがアイボリーとなっている (写真35)。 パーキングブレーキはセンターコンソール後方のレバーという1シリーズと同じコンベンショナルな方式で、5シリーズの電気式に比べると、今時ちょいと 時代遅れとも思える(写真33)。回転計には0rpm位置の更に下にイグニッションOFF時の位置があり、これは1シリーズから採用されたものでアイドリングストップでの停止と 区別するためだ。正面の2つのメーターは1シリーズと共通のようで、各メーターの下1/3が液晶表示となっていて、1シリーズの場合は左の速度計の下は燃料計となっていたが、3シリーズは別に燃料計を持つ為に、この部分は未使用となっている (写真36)。
 


写真 31
ステアリングコラム左にあるスタート/ストップボタン。
その上にあるのはアイドリングストップのオフスイッチ。
 

 


写真 32
インテリジェントキーの色はデザインラインのテーマカラーに準じている。写真はModernでアイボリーにシルバーのハイライトとなっている。
 

 


写真33
パーキングブレーキはオーソドックスなレバー式だが、最新のモデルとしてはちょいと時代遅れにも感じる。
 

 


写真34
ペダル類は例によって地味な樹脂製。BMWはMポーツでもアルミペダルの設定がない。

 


写真35
メーターの文字盤はデザインラインにより異なる。Luxuryはオーソドックスなブラック、Modernhaアイボリー、Sportはブラックにレッドのラインとなる。
 

 


写真36
オンボードコンピュータの表示はカラーTFTを採用しているので、
表示は写真のようにリアルになった。

メーターは1シリーズと共通だが、1シリーズは左の速度計の下が燃料計となるのに対して3シリーズは独立した小径の燃料計がある。

今回は国道の直ぐ傍に試乗車が置いてあったので、ユックリと数m移動して一時停止し、クルマの流れが切れたところで左にステアリングを切りながら本線に入る。ここでハーフスロットルを踏むと、クルマは迅速に加速を始めて、この程度の踏み加減でも安全に流れに乗れる。この瞬間から、最近乗った523iとの決定的なレスポンスと絶対トルクの差を感じる。まずはデフォルトのCOMFORTモードのままで流れに乗って走っていくが、回転計の針は 1,500rpm辺りを指していても充分なトルクを感じ取れる。そのうちに前が開いたので50km/h、1,200rpmからフルスロットルを踏んでみると、チョッとの間 はあるが、その後にシフトダウンされて気持ちよく加速していき、この感覚は並みの自然吸気6気筒モデルと同程度で、例えば全車の左折等で前が空いてしまって、そのままスロットルを深く踏んで前に追いつこう、というような状況では特に不満は無い程度のレスポンスを示した。そこで今度は走行モードをSPORTに切り替えてみる。このスイッチはATセレクターの隣でその形状も使い方も5シリーズと同じであり、3シリーズに先行してFMCされた1シリーズでも同様だから、BMWにちょっと慣れたドライバーならば全く問題なく使いこなせるだろう (写真37)。

SPORTモードでは当然ながら巡航時でのギアの選択が1段低めになるし、そのために回転数も上昇して、穏やかな巡航でも1,800〜2,000rpm程度へと上昇する。この状態からCOMFORTと同様な条件でフルスロットル踏んでみると僅かなタイムラグの後に回転計の針は2,500rpmまで跳ね上がり、そこから一気に回転が上昇していく。4,000rpm回転を過ぎてからも4気筒とは信じられないくらいにスムースに回転は上がっていく。 このフルスロットル時の音は、適度にスポーティーでもあるが、本来のBMWサルーンの持つワクワクする感じは無い。このレスポンスや高回転まで勢いのある特性は 、車両重量が違うとは言え基本的に同じエンジンで、制御のみが異なる523iとはあまりにも違う。BMWが発表する328iの0〜100km/h加速は5.9秒となっており、これは987ボクスターの7速PDK搭載車の5.8秒 と同等だから体感的にも速い訳だ。ということは多くの紳士のドライバーにとっては充分過ぎるどころか無用の長物的な性能であり、相当なマニアにとっても充分に満足できるであろう 、と確信するくらいに高性能だ。

次に気は乗らないがECO PROモードに切り替えてみると、当然ながらレスポンスは緩慢であり、巡航中のエンジン回転数も1,200rpmくらいを指している。ここからのキックダウンによる加速は、それこそ苛々するが、他の車種でのエコモードと比べれば未だマシな方で、詳細は後述するが、ユーザーのタイプによっては、このモードの常用も否定できない 。

ここで328iのギア比を、1および5シリーズの各モデルと比較してみる。
 
      ギア    

 オーバーオール(ギア比×ファイナル) 

    BMW
116i/120i
BMW
328i
BMW
523i/528i
BMW
535i
BMW
116i/120i
BMW
328i
BMW
523i/528i
BMW
535i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1 4.714 4.714 4.714 4.714

14.50

14.87

15.96

14.50

  2 3.143 3.143 3.143 3.143

9.67

9.91

10.64

9.67

  3 2.106 2.106 2.106 2.106

6.48

6.64

7.13

6.48

  4 1.667 1.667 1.667 1.667

5.13

5.26

5.64

5.13

  5 1.285 1.285 1.285 1.285

3.95

4.05

4.35

3.95

  6 1.000 1.000 1.000 1.000

3.08

3.15

3.39

3.08

  7 0.839 0.839 0.839 0.839

2.58

2.10

2.84

2.58

  8 0.667 0.667 0.667 0.667

2.05

2.26

2.26

2.05

  R 3.295 3.295 3.295 3.295

10.14

10.39

11.15

10.14

  FINAL 3.077 3.154 3.385 3.077      
             
      回転数と速度(km/h)   最高出力(rpm)速度(km/h)
      1,300 rpm   6,450 5,000 5000 5,800
    BMW
116i/120i
BMW
328i
BMW
523i/528i
BMW
535i
BMW
116i/120i
BMW
328i
BMW
523i/528i
BMW
535i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1 10.7 10.9 10.4 11.4

52.9

41.8

40.1

51.1

  2 16.0 16.3 15.6 17.2

79.4

62.7

60.1

76.6

  3 23.9 24.3 23.3 25.6

118.5

93.6

89.8

114.3

  4 30.2 30.7 29.5 32.4

149.7

118.2

113.4

144.4

  5 39.1 39.9 38.2 42.0

194.2

153.3

147.1

187.3

  6 50.3 49.2 49.2 53.9

249.5

197.0

189.0

240.7

  7 59.9 61.2 58.6 64.3

297.4

234.8

225.3

286.9

  8 75.4 73.7 73.7 80.9

374.1

295.4

283.4

360.8

  タイヤ半径 0.316 0.330 0.340 0.339 0.316 0.330 0.340 0.339

先ず気が付くのは、今回の328iを含めて比較した全モデルで8速ATのギア比は完全に同一であることだ。したがって夫々のモデルへの対応はファイナルギアとタイヤ径による減速比の違いのみである。そして1,300rpmでの速度を見れば判るように、最もパワー&トルクのある6気筒ターボの535iを除いて、他の1、3、5シリーズの4気筒ターボモデルは、殆ど回転数と速度の関係が同じになっている。このため、どの車種に乗っても同じ感覚が得られる筈だ。
 


写真37
走行モード切替(BMWではドライビング・パフォーマンス・コントロールと呼ぶ)のスイッチは、1シリーズ(F20)と全く同じに見える。

 

 


写真38
ボンネットが認識できることから取り回しは良い。
 

 


写真39
5シリーズから引き継いだ電子式のフロアセレクターは1シリーズとも同じものが使われている。
 

操舵力は適度に軽いが軽すぎることもなく、中々良いところを突いている。COMFORTモードでも中立位置から結構クイックで以前のBMWの特徴であった中心付近の僅かな不感帯は殆ど感じられない。これがSPORTモードとなるとクイックさは更に増して、手首をちょいと動かすだけでクルマはピクっと反応し、これはちょいとやり過ぎじゃあないのか?なんて思うほどだ。328iのクイック過ぎるステアリングレスポンスは丁度初期のE60(先代5シリーズ)を思い出す。 乗り心地については、試乗車は未だ走行距離が1,000km程度の新車であり、BMWの場合はダンパーの当たりが充分ではないので異様に固く感じる場合が多いが、それにしても路面の細かい振動を拾っていた。それに加えて良好な舗装路面でも常にザーッというタイヤからのロードのノイズが聞こえるから、何やら特殊な高性能タイヤを履いたカリカリチューニングカーのような錯覚すら覚える。

今回の試乗コースには本格的なワインディング路は無いが、途中の地方道には何箇所かの中速コーナーとちょっときつ目で先が見えないブラインドコーナーもあるので、できる限りでのコーナーリングを試してみた。予め走行モードはSPORTにしておくが、ミッションの設定についてはマニュアルモードではなく、Dレンジのままとしてみた。先ずは中速コーナーに60km/h程度で侵入するが全くの余裕でクリアしてしまう。そういえば、このコースは116iでも走って極めて良い結果がでたが、今回の328iも116iと比べても、それ以上にレベルが高いし、1シリーズよりもサイズが大きいにも拘らず、軽快さではむしろ勝っているくらいだった。前述のように、SPORTモードでのステアリングは極めてクイックだから、コーナーに突入して微妙にステアリングを修正すると、その度にクルマはクイッと頭の向きを変えようとする。言い換えれば、上手く操舵しないとコーナーを多角形で回るようなラインになってしまう。

エンジンは大幅に変更になったが、ブレーキについては全くのキープコンセプトで、軽い踏力で喰い付くように効く、お馴染みのBMWスタイルで、特に今更言うことは無いが、試乗後にホイールを覗いてブレーキ(写真40)を確認したらば、今回のキャリパーは形状から見て必要な部分は補強して、逆に強度に関係ない部分は目一杯削ってあるような形状だった。E90時代だけみても、前期と後期でキャリパー形状は変わっているから、定期的に試行錯誤を繰り返してきたのだろう(写真41)。「何言ってんだよ、今時の強度解析なんてCAEで一発だろう。10年以上も試行錯誤なんて、あるわけねえだろう。」なんて、言いたい理科系の読者もおいでかもしれないが、ブレーキキャリパーというのは、下手に強度的に最適形状にしたら共振点がずれて、これがドンピシャで足回り全体を振動させてブレーキノイズとなる、なんていう厄介な問題があるのだ、って聞いたことがある。物を擦れば音がするのは当たり前。そこで、人間の耳に聞こえない周波数で共振させれば、一見ノイズのないブレーキとなるが、強度を上げると振動数が変わって、可聴範囲の振動を出してしまうこともある・・・・そうだ。しかも、取り付け面の微妙な状態で、振動条件が変わるので、酷いノイズだといってディーラーにクレームを出して一緒に立ち会って確認したら、あ〜ら不思議、ノイズは全く出なかった、なんていうことの繰り返しとなったりする。
 


写真40
例によって極当たり前の鋳物製片押しタイプのキャリパーを装着している。
 

 


写真41
機能的には同じキャリパーだが、形状は定期的に変更されているのが判る。
 

 

4気筒2Lターボに変更となった523iを試乗したときには、アンダーパワーとレスポンスの悪さで、随分と評価を落としたのだが、基本的に同じエンジンで制御プログラムのみの違いで、これ程までに機敏でパワーに満ち溢れたエンジンになるというのも、何やら騙されているような気がしてしまう。こうなると、いくら5シリーズより軽いとは言え523iと同じエンジンの320iでは一抹の不安もあるが、逆 に期待も出来る。実は320iに載る予定であり、既に523iに載っているのと同じエンジンを搭載したZ4 sDrive 2.0iというモデルに 極最近試乗したのだが、驚くなかれ、充分のパワー&トルクと迅速なレスポンスで、えっ?これが本当に同じエンジンか??という結果だったから、その面では320iにも期待は出来る。しかし、そうなると523iは何なのだ?

今回は充分な時間をとれなかった為に、何時ものワインディングを走ってみることもなく、また詳細なインプレッションも出来なかったが、320iは 何とか機会をつくって本気で 試乗したいと思っている。という訳で、新3シリーズ(F30)を本気で評価するのは、もう少し待っていただこう。

さあて、新型328iはハイチューンのターボエンジンで充分過ぎる程の性能を持つスポーツセダンだったが、価格は何と600万円也!これでは、普通の庶民には手が出ない。「どうせ海外ではもっと安いんだろう?そんなものより、国産車にはもっと安くて性能もそれ以上のクルマがあるだろうに」といってる、ア ナ タ。そこで次のような企画と立ててみた。しかし、これは特別編だから、BMW=ボッタクリという信念を持っている タイプの読者には縁が無い、という矛盾もあるのだが、まあ良いか。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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