TOYOTA SAI vs LEXUS HS250h(2009/12) 後編 ⇒前編

     

 

最近の国産車では常識となったインテリジェントキーを所持してHSとは対称的な位置のスターターボタン(写真11)を押すとエンジンが始動する・・・ことはなくメーターに灯がともるだけ。 正面のメーターは明らかにHSとは異なり、半円形の大きなスピードメータは何やらスズキアルトのようで安っぽい。何時も目に入るメーターをレクサスブランドと の差別化の為に意識的にチャチにするのはどうかと思う (写真13)。 前述のようにSAIのスタータースイッチはダッシュボード右端にあるが、レクサスはステアリングコラムに対して反対側(左)となる。ブレーキペダルに足を乗せながら独特の形状のセレクターレバー (写真14)を右→下と動かすとDレンジとなり、 手を離すとピョンと元の位置に戻るのはプリウスやHSと同じなので、流石に3回目となると違和感が少なくなっている。
さてパーキングブレーキを解除しようと思って、その方法を探してみれば何のことは無い、トヨタ車でお馴染みのプッシュ/プッシュ(踏む毎にON/OFFを繰り返すいけ好かない)方式だった (写真12)。 ブレーキペダルに乗せる足を離すと音も無くユックリと前進するから、ATのクリープと同じ感覚で違和感もないのはプリウスやHSと同様で、この自然なフィーリングはHVに対するトヨタの経験の深さだろう。公道へ出て軽くアクセルと踏むと極自然な加速をする。 少し流れに乗って走ったところで、走行モード別の確認をしてみる。先ずは”エコ”に切り替えて走ってみると、想像通りにレスポンスが悪くてイライラする走りを見せてくれる。そして、今度は”パワー”モードに切り替えるためにスイッチを探したのだが・・・・・無いっ! HSとは違い、SAIにはパワーモードは無かった。まあ、これも差別化だろうか(写真15)。
そこで、エコモードスイッチを再度押してノーマルモードを選択する。全車との間が開いたのでフルスロットルを踏んでみると、一瞬のタイムラグの後にグイーンと加速を始めるのはHSと同様だ。HSの時はパワーモードで停止から フルスロットルを踏むと、トヨタ社には珍しく僅かとはいえトルクステアを感じ、一瞬ステアリングを取られたが、SAIにはパワーモード自体が無いからトルクステアには至らな かった。 SAIの加速をHSのノーマルと比較すると、心なしSAIの方が速く感じる。後ほど車両重量を比較したらば、試乗したSAI Gが1,590kgに対してHSの試乗車HS250hが1,640kgと50kgの差があったから、これが原因かもしれない。  


写真11
スタートスイッチの位置は全く異なる。SAIはダッシュボード右端で、HSはステアリングコラムの左側のセンタークラスタの端にある。スイッチユニットは同一品を使っているようだ。

写真 12
ペダル周りは全く共通のようで、米国で問題の吊り下げ式ペダルも一緒。
パーキングブレーキは踏む度にON/OFFを繰り返すプッシュ/プッシュ式。


写真13
最大の違いはメーターのデザインで、好き好きはあるだろうが、SAIのスピードメーターのみで半円形単眼のメーターは安っぽい。
運転中に常時目に入る部分だけに、これは気になる。


写真14
プリウスから外して付けたようなセレクターも共通だがノブが違う。


写真15
HSにあるPWRモードはSAIには無い。

写真16
前方に張り出したAピラーの割には側方の視界は悪くない。小さな三角窓が意外に役立っている。

ステアリングは中心付近では意外とクイックだが、大きく切ると以外に鈍い。クルマの性格から判るように決して高度なコーナーリング能力ではないが大人しい普通のセダンとしては悪くない。 同じトヨタのヴァンガードやマークXジオなどの低床ミニバンやSUVモドキなどと比べれば遥かに安定した挙動を示すし、安全なコーナーリング速度だって速い。 この安定したコーナーリングは硬めにセッティングされたサスの恩恵でもあるだろう。

走行中の騒音はプリウスなどより静かだがHSよりは多少煩いようだ。HSとの50kgの重量差には当然ながら遮音材の差もあるだろうから、SAIが多少煩いのは仕方ないが、決して気にはならない。 乗り心地は結構硬めで、良く言えばスポーティーだし欧州車的とも言えるから、所謂ベンツ・ビーエムはもとより、どちらかといえば更に硬めのVWなどのオーナーならば全く違和感は無さそうだ。ディーラーによればレクサスHSより軟らかいとの事だが、実際にはそれ程 には感じられなかった。
 

写真17
直列4気筒、DOHC 2.4L 150ps/6,000rpmの最高出力と19.1kg-m/4,400rpmの最大トルクを発生するガソリンエンジン。そして143ps 27.5kg-mのモーターを搭載しているボンネット内は 基本的に同一。
エンジン手前に見えるほんのり黄金色に焼けた排気管が丸出しで、右に見えるオレンジの高圧部とともに ウッカリ触ると火傷や感電の危険がありそうで恐ろしいのも一緒!
最大の相違点はエンジンのカバーの色とエンブレム。
 

ブレーキはバイワイヤだから遊びは少ないしストロークも短く、踏力も小さいくて良く効く。チョッと足を乗せるとヒューンという地下鉄のような回生ブレーキのインバーターの音が聞こえるのはHSと同様で、これは同一のシステムだから当然ではある 。

試乗の途中、信号待ちで先頭から2番目で停車していた時、前方の信号が青になっても前車は発進する気配がない。しょうがねぇなあ、と少し様子を見たが前車のドライバーは下を向いたまんま。仕方なくホーンボタンを軽く一押しすると、ファッという音がした。多くの国産車はこんな時にビッ!という下品な音がするが、SAIはレクサス各車や欧州車のような音がする。実はこのファーッという音がするのは渦巻きホーンというタイプで、その名のとおりに渦巻き 形に広がった先端から音が出るタイプだ (写真20)。これに対してビーッというチンケなホーンは平型ホーンと呼ばれているもので丸い平らな、見るからに安そうな形をしている(写真21)。どうして国産車が平型ホーン主流となったのかは判らないが、想像する と一つはコストの問題だろう。そしてもう一つ考えられるのは車内でホーンを鳴らした時、ドライバーに聞こえる音は車両の遮音材を通した音の為に、高音部がカットされている から、渦巻きホーンの場合は外ではファーッという甲高い強烈な音を発するが、車内で聞く音はプーッという情けない音に聞こえる。対して、平型ホーンは嫌らしい高音部がカットされて、車内で聞く音は結構良い音だったりする。すなわち、低レベルのユーザーの場合は下手に渦巻きホーンなんて使ったら、クレームになる危険さえあるから、 コストも考えて国産車では一部の高級車のみで使用されているのではないか。まあ、単なる想像だが、結構良い所を付いているような気がする・・・・。
 


写真18
SAIの
標準はSが205/65R16タイヤ、Gが215/40R18タイヤ (写真)となる。
HSの
標準は215/55R17タイヤ(写真)を装着する。バージョンSのみ225/45R18タイヤとなる。
ブレーキキャリパーはSAIとHSでは同一のようだ。
 


写真
19
リアタイヤもそれぞれフロントと同寸法となる。フロント同様にリアも
ブレーキキャリパー はSAIとHSでは同一。


写真20
アフターマーケットで人気の定番渦巻きホーンといえば
ボッシュのラリーストラーダ。


写真21
平型ホーンの代表例。

ライバルの仕様比較の対象としては、まずレクサスHS250hに異論はないだろう。次に同じトヨタの専用HVとして車格は落ちるがプリウスを、そしてプリウスの中級グレードの予算でV6のFRセダンが買えるということからマークX 250G。最後にHSと同価格帯でプレミアムブランドの定番であるBMW320i ハイラインというメンバーで比較してみる。

    @ A B C D
      TOYOTA LEXUS TOYOTA TOYOTA BMW
       SAI G HS250h
Version I
 PRIUS 1.8G T
Selection
 MarkX 250G
リラックスセレクション
320i HighLine
Package
 

車両型式

  AZK10 ANF10 ZVW30 GRX130 VA20

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.605 4.700 4.460 4.730 4.540

全幅(m)

1.770 1.785 1.745 1,795 1.800

全高(m)

1.495 1.505 1.490 1,435 1.440

ホイールベース(m)

2.700 2.850 2.760

駆動方式

FF FR
 

最小回転半径(m)

  5.6 5.4 5.2 5.3

車両重量(kg)

  1,590 1,640 1,390 1,520 1,470

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  2AZ-FXE 2ZR-FXE 4GRFSE N46B20B

エンジン種類

   I4 DOHC I4 DOHC V6 DOHC I4 DOHC

総排気量(cm3)

2,362 1,797 2,499 1,995
 

最高出力(ps/rpm)

150/6,000 99/5,200 203/6,400 156/6,400

最大トルク(kg・m/rpm)

19.1/4,400 14.5/4,000 24.8/4,800 20.4/3,600

トランスミッション

  CVT CVT 6AT 6AT
 

モーター型式

  2JM 3JM - -
 

モーター最高出力(ps)

143 82 - -
 

モーター最大トルク(kg・m)

27.5 21.1 - -
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

23.0 35.5 7.5 12.0

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット ゙ブルウィシュボーン ストラット

ダブルウィシュボーン トーションビーム マルチリンク 5リンク

タイヤ寸法

  215/45R18 215/55R17 215/45R17 215/60R16 205/55R16

ブレーキ方式

前/後

Vディスク/ディスク Vディスク/ディスク

価格

車両価格(発売時)

380.0万円 453.0万円 327.0万円 269.0万円 477.0万円

備考

レザーシートは
+22.6万円
  1.8L:205万円    

本文でも述べたようにSAIとHSはプラットフォームもボディのフレームも共通で、一部の外板を代える事でイメージを変えているが、仕様を見るとエンジンやモーターも完全に同一であることが判る。それでも車両重量ではSAIが50kgも軽いのはHSが遮音材等の量が多いとか、所謂高級仕様だからだろうか?どうしてもHVが欲しくて、しかもプリウスでは車格として不満だという場合にはSAIかHSから選ぶことになるが、実質約50万円の差を どう考えるかで選択は自ずと決まってしまう。まあ、この辺は個人の考え方と趣味趣向の問題だが、個人的にはチャチなメーターや安っぽいセンタークラスター、そしてエアコンの設定の度にディスプレイとコントローラを使用するという煩雑さを考えると、50万円を払ってもHSに分があると思う。しかも、豪華なショールームや綺麗な受付のお姉さんで気分も爽快、女房殿はイケメンセールスにウットリという御もてなし料まで入っているのだから。
プリウスの場合はSAI/HSと比べれば、確かに室内も狭いしチャチだが、HVとしての性能や完成度では寧ろ上回っている。燃費は5割近く良いし、実際に乗った時の加速ではプリウスはSAI/HSと比べてハッキリと体感できるほどに勝っていた。しかも価格は安い。ということで、これもユーザーの予算と考え方次第でもある。

マークXについては、今更言うまでもなく、この価格でこの内容のクルマが買えるのは世界広しと言えども、日本だけだろう。 しかし、価格のメリットを別とすれば、如何にもトヨタ的な趣味性の無さなどが気になる。そんなユーザーにとって、BMW320iHLは今更言うまでもない定番車種で、新興住宅地を歩いていれば下手な国産車よりも遭遇する機会は多いし、ちょっと高級で古い分譲地(ローンもそろそろ終わっていそうだ)を歩いていれば必ずガレージに居るのが発見できる程だから、正に中流家庭の代名詞。逆に言えば妬みからくる誹謗中傷のターゲットとしても定番なのは言うまでもない。

今現在ではSAIもHSも、注文しても当分は納車されそうも無いほどにバックオーダーを抱えているようだ。HVが本当にメリットがあるか否かは賛否両論あるだろうが、HV専用車 の選択肢が広がった事は好ましいということで、今回は素直に認めることにしよう。