ホンダ レジェンド (2004/10/27)




 

※この試乗記は2004年 10月現在の内容です。
従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。


試乗車は黒で夜間のため、結構高級感があったが、昼間見たシルバーはチョッと・・・
 
全幅の割にはタイトな室内
内装の質感はせいぜいマークUクラス

今回はスケジュールの関係から夜間の試乗となったため、内外装などは10日程前に別のデーラーで見た展示車の印象にも織り交ぜる点をお断りしておく。

外観は、昼間見たシルバーのモデルはどう見ても500万超えの高級車には見えない。ボディの質感はマークUやティアナクラスで、やたらクロームメッキが多いグリルも安っぽい。ただし、試乗車は黒なことと夜だったため、昼間見たよりもマシだった。

シートに座ってドアを閉めてみる。ドアの閉まりはスムースだが、ドイツ車のようなズシリとくる感じはない。全幅の割には車内はユッタリ感に乏しく、タイトと言うにも無理がある。シートはオプションのレザーもあるが、展示車・試乗車とも標準の布製でシート表皮はスエード調で滑りは無いが、高級感も大したことはなく、これもマークUクラスの質感だ。座り心地は悪くなく、国産車としては良いほうだろう。


昼間見るとチャチいが、夜はブルーのディスプレイが結構オシャレに見える
クラウンがメルセデスっぽいとすれば、これはBMWっぽいか?

センターの高い位置にディスプレーを置き、その真下がエアコンの吹き出しで、これを囲むような木目のトリムや縦方向に長いドアグリップ、位置は多少異なるが正面のダイヤルを回してディスプレーを切り替える方法など、全てがBMWの7・5に始まる手法だ。トヨタがこれをやったら、日本中からパクリだと総スカンを食らうのに、ホンダがやると誰も文句を言わないのが不思議だ。おまけに、標準の木目調トリムは安物モデルガンのグリップのような質感で、本物のウッドより豪華に見えるクラウンあたりとは雲泥の差だ。

エンジンのアイドリング音は、なぜかガラガラというメカ音が目立ち、これも高級車らしくないし、高性能車とも違う。普通500万円級以上のクルマは走り出した瞬間に中級車以下とは違う、オッこれは!という感覚があるが、レジェンドの場合は、これが感じられない。第1に低回転でのエンジンのトルク感が細く感じることで、第2は走行していてクルマ全体から感じるスムース感や、静けさが乏しいことによる。低回転でのトルクが細いと書くと、レジェンドはアクセルペダルの特性がリニアだから、チョっと踏んだだけでガバッと出る他の国産車とは違うのだと、 「ホンダおたく」から反論されそうだ。そこで、今度は信号待ちで先頭になった際にマニアルモードにして、青信号とともにベタ踏みしてみたが、やはり低回転でのトルクは細いし、4000rpmを超える辺りからは、決して軽快でもなく、むしろ不快なエンジン音(ハッキリ言ってノイズの部類)も加わる。このトルク感の細さは、高級車としては致命的だし、スポーティでもないから、高級車でなくドライバーズカーだという言い訳も怪しい。

6000rpmあたりで、ステアリングに備わったパドルスイッチの右側を引くと、トルコン式のATとしては極めて速いレスポンスでシフトアップする。この点では2週間前に乗ったアルファGTAのシーケンシャルシフトに近い速さで、欧州車のレベルに達している。だが、300psと言う割にはゼロクラウンの3ℓやBMW530のほうが体感的な加速は勝るし、何より油断するとアッと言う間にトンでもない速度になってしまう高性能な高級車独特の感覚に乏しい。

ブレーキはフロントにオポーズド(対抗ピストン)タイプをおごった事もあり、フィーリングは悪くない。欧州車と比べれば多少ストロークが大きいが、この点においてはクラウンやセルシオよりも良い評価を下せる。

 

写真ではスポークの陰で見えにくいがオポーズドキャリパーを奢ったフロント
 
リアキャリパーは一般的なピンスライド
タイヤは前後とも235/50R17
 

ニューレジェンドの大きな特徴であるAH−AWDについては、これもまた良い評価は出来なかった。走行中はインパネに常に前後左右のトルク配分がLEDで表示され、それを見ていると普通に走っていてもチョットしたアクセルの操作で、常に配分が変わる。そんなにチョロチョロ配分を変える必要があるのか疑問だ。そんな事はとも角、実際にクルマが2WDには無い安定感をもたらしてくれれば良いのだが、アウディクワトロの抜群の安定感と安心感に比べると何とも情けない、と言うか、比べるレベルに至っていない。

細いステアリングを通しての操舵性は結構クイックに感じられる。ただし、意外に轍に取られ易く、その後に不自然に戻されるような感覚がある。AH−AWDと関係があるのかどうかは判らないが、これも良いフィーリングではなく、むしろゼロクラウンのアスリートのほうかフィーリングが良いし、クイックさだってレジェンドにそれ程劣ることも無い。勿論アクティブステアリングにより次元の違う操舵感を楽しめるBMW5シリーズの足元にも及ばない。
この運動性がイマイチなことは、ライバルより200kgも重い事が原因の一つなのは明らかだ。重量があれば乗心地には有利とも思えるが、低速でもドイツ車のスポーツサス装着モデル程度の細かい振動は常に感じ、これが少し大きい突き上げになると、腰にガツンと感じる。その時の突き上げ感も、剛性の塊のようなドイツ車とは異なる。どうも、ボディ剛性もイマイチのようだ。
ここまでを振り返って見ると、まさにボロクソの評価になってしまったが、全ては500万円超の価格だと思うからこそで、これが350万(消費税込み)程度だったら、ゼロクラウンやフーガの2.5ℓと同程度の価格で3.5ℓが買えるかと思えば何とか勝負になるかもしれない。インスパイアのように3.0ℓで285万というのが本来のホンダの姿だと思うのだが・・・・。

安物ミニバン屋が高級車を作って、自己満足のハイテク駆使したメカを積んで、ブランド欧州車に近い値段を付けても売れる訳が無い。今の所は予定の3ヶ月分にあたる1500台程のバックオーダーを抱えているそうだが、それは一部のホンダおたく(しかも金持ち)と、ホンダとの取引上義理で買うユーザーによるイニシャルオーダーで、この需要が終る半年後には激減し1年後には2桁となり、いつの間にやら忘れ去られるだろう。