B_Otaku のクルマ日記


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2019/9/10 (Tue)  京急事故を検証してみる<3>

今回の事故の発端となった大型トラックは報道によると 13トン車という事で、これは要するに最大積載量が13トンクラス、言い換えると法律上は総重量25トン以下の大型車で、現在許される最大の重量のものだ。そして世の中の大型トラックの大部分を占めるのが全長12m 全幅2.5 全高3.8mと、これも法律で規定されている最大限のサイズとなっている。

このタイプの車両は駆動方式により3軸で駆動後輪1軸の 6X2 (シックスバイツ―) と呼ばれるタイプが多くを占めている。この他に4軸で後輪2軸を駆動輪とする 8X4 (エイトバイフォー) というタイプもあるが、これはタイヤに一サイズ小さい (22.5⇒19.5インチ) サイズを使用する事で荷室の床位置を低くして、相対的に荷室高さを稼げる事が出来るものだが数は少ない。

それでは今回の事故車はというと

写真から明らかに8X4(低床) だった。実はこのタイプは6X2 よりも回転半径が多少大きいという欠点がある。下の図を見ると、6X2 よりも回転半径が 400㎜ 長い事が判る。な~んだ、たったの 40センチかぁ? 何て言うなかれ。この40センチが今回のようにギリギリの場面では大きく効いてくるのだ。

とはいえ、6X2 だとしても4m道路から右左折するのは物理的に無理があるから、実際に同所に迷い込んだが、曲がるのを諦めて延々とバックを決断する大型が殆どらしい。

それにしても悪条件に悪条件が重なった今回の事故だが、どうやら最大の原因は何の表示も無い為に迷い込む可能性のある、大型の運転者の事を全く考えていなかった道路管理にありそうだ。

 





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2019/9/8 (Sun)  京急事故を検証してみる<2>

今回は前回の続きとして快特電車のブレーキについて考察する。先ずは信号関係だが、トラックが立ち往生した踏切では駈けつけた駅員が非常ボタンを押した事と、それ以前に踏切内の障害物を検知する装置が作動していて、発光信号が点滅していたという。

ここで事故を起こした快速特急 (快特) が緊急ブレーキを作動させてから停止するまでの時間や距離について整理してみる。

ブレーキ計算の基本は距離Sm 、速度 V m/s 、減速度 b m/s2 、時間 t sec とすると
  S=V2 / (2b) 、t=V/bの関係となる。

時速 120 ㎞/h =33.3 m/s で減速度は車輪とレール間の μ=1.0 なら 1G=0.98 m/s2 で、停止までの距離は
  S1= 33.32/ ( 2 x 0.98 )=566 m
となり、これに作動迄のタイムラグを考えれば世間で言われている 600m と一致する。

では停止までの時間はというと
  t1 = 33.3 / 0.98 = 34 sec
となる。報道によると前述の発光信号が点滅したのは事故の40~35秒前というが、これは上記の 34sec に対してギリギリの時間であり、もしも35秒だったらそれから人間が目視してブレーキを操作し、ブレーキのエアシリンダが作動る迄の時間を考えると間に合わないという事になり、この時間関係は相当に微妙だ。

さらに発光信号は事故現場から10m 、130m 、340m 手前に設置してあり、340m 手前の信号は 現場より 600m 手前で目視視認できる筈だと言う。ということは、これも最短時間で目視できたとしても 600mでは計算上ギリギリであり、この点でも間に合わなかった可能性は十分にある。

加えて 340m 手前の発光信号の更に手前は緩いカーブとなっていて、果たして600m 手前の地点で完全に確認出来るのか、という疑問もある。Youtube にはこの付近の走行時の前面展望動画が投稿されているが、これを見る限りでは 600m 地点では 260m 先の発光信号はカーブの先に隠れて認識出来ないように見える。

京急が設定した速度と信号の関係は、実際に120㎞/h で現地走行して、600m 手前で確実に発光信号を確認出来る事を実証してたのだろうか?

加えて、これらが正しいとしても、減速度はあくまで計算上の事であり、実際の制輪子 (クルマのブレーキパッドに相当する摩擦材) のμは条件によって結構変化するから、想定の減速度が出ていない事も考えられる。

それにしても今回の事故は、確率的には極めて低いものが運悪く重なってしまった事故であり、どれか一つでも条件が違ったらば、事故には至っていなかった可能性もある。

この話題はもう少し続けようと思う。

 




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2019/9/7 (Sat)  京急事故を検証してみる<1>

このところ大きく報道されている京浜急行 快速特急と大型トラックの踏切事故だが、その詳細な状況が徐々に報道されてきた。とは言え未だ疑問も多く、テレビのワイドショーでも「専門家」というコメンターターがああでも無い、こうでも無いと勝手な事を言っている。その中でも極めつけは踏切上の非常停止ボタンを押したのに何故止まれなかったのか、というものだ。

中はこのボタンを押せば列車は自動的に非常停止する筈だ、何て知ったような事を言っていたりして、これがネットにも文章で残っているが、ハテどうすうのだろう。結論を言えば、京急の非常停止は緊急用の発光信号を見て運転士が手動で緊急ブレーキを作動させる方式であり、専門家の先生の指摘は間違い!

それで事故となった電車は快速特急(快特)というマニアには人気の高いもので、ゴチャゴチャして踏切も多い市街地を 120㎞/hで走り抜けるのだ。以前の快特はJRや他の私鉄で言う特急列車のような2ドアで全席クロスシートの2100形車両を使用して、しかも普通運賃で乗れたという超お得電車だったが、最近は余程の閑散時以外は今回の事故車両と同じ3ドアロングシートの1000型を使用している。

それでは 120km/h で走行中の電車が緊急ブレーキを掛けたとして停止するまでの距離はどの程度だろうか? これまたワイドショーなどでは回生ブレーキが如何したとか言っている「先生」もいたが、自動車でも電車でも減速するのはブレーキでは無く路面とタイヤもしくは線路と車輪であり、この両者により発生する摩擦係数で止まるのだ。従ってブレーキ力を幾ら強めても車輪がロックしたらそれ以上の制動力は出ない事になる。

それで電車の場合鉄で出来たレール上をこれまた鉄製の車輪で走る訳で、鉄と鉄との摩擦係数はゴム製タイヤとアスファルトの自動車に比べて1桁少ないという急減速時には致命的な欠陥がある。その摩擦係数、通称μ (ミュー) は自動車では 0.7~1.0以上も発生する。ただしそれは乾燥路面であり、雨で濡れれば 0.5、雪道なら 0.3以下、そして凍結路面では 0.1となってしまう。

これに対して電車では鉄と鉄の摩擦だから常識的にはμは 0.1くらいと思えば良いだろう。ただし、これも一部の「先生」が 0.3くらいと言っていたりするので、信頼出来そうな論文からデーターを引いてきた。それが下の図で、120㎞/h なら概ね 0.1くらいと考えて良さそうだ。更にこの図を見ると 200㎞/h を超えるとμは大きく下がってしまうのだったが、新幹線の場合通常時の原則は全て電気 (回生) ブレーキを使用していて、摩擦ブレーキは使っていない。

なお上表でμを粘着係数と表記しているが、実は摩擦には粘着摩擦と研削摩擦があり、研削摩擦というのは読んで字のごとく削る事で発生する摩擦で、例としてはヤスリでこすると平らな鉄に比べた遥かに力が必要だが、これが研削摩擦だ。研削摩擦はより強力な摩擦力を得られるがブレーキ用としては直ぐに減ってしまうので極力使用しない。とはいえどんなブレーキでも多少は研削摩擦を使用している。ここで気が付く読者は中々の欧州車通だ!そう、BMW等が喰いつくように良く効くがパッドの減りは早いしホイールが汚れるのは、国産車に比べて研削摩擦の割合が多いからだった。

おっと、何やらこういう話になるとついつい調子に乗ってしまって、今回は制動計算まで行く予定だったが、これらは次回に回す事にする。

 



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