ヒュンダイ クーペ 後編
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シートや内装の質感は悪くないが、シルバーのセンタークラスターやATのセレクターレバーの
ベースプレートなどは安っぽい。ステアリングホイールは標準で革巻きとなる。
センタークラスター下段はマニュアルエアコンの操作スイッチ類。
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シートや内装の質感が良いのとは対照的にメーター類の質感は良くない。速度計は輸入車なので目盛は260km/hまで刻まれている。速度計、回転計とも質感は良くないし、その中央上側にある水温計と燃料計は更に安っぽく見難い。
センタークラスター中段にも3つのメーターがあり、左からエンジントルク計、瞬間燃費計と電圧計なのだが、これも小さく質感が低い上に、センターの比較的低い位置だから、運転中には見辛いし、なによりトルク計なんて何の役にたつのだろうか?BMWにも瞬間燃費計は付いているが、あれは一番見やすい特等席に付いているから意味があるのだ。
こういう意味のないメーターをヤタラ並べるのがスポーティという感覚は、三十数年以上も前の初代フェアレディZ(S30)の頃の日本車のようで、ある面懐かしくもあるし、ハッキリ言って発展途上のスポーツカー感覚だと言える。
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輸入車の強みで260km/hまで目盛られた速度計と6500rpmからレッドゾーンの回転計。そんなに回るのか?そんなに速度が出るのか?なんて堅いことは言わないように!
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中段の3つのメーターは左からエンジントルク計、瞬間燃費計、電圧計で実際には何の役にも立たない。標準はオーディオレスとなる。 |
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いよいよ走りだしてみよう。175ps/6000rpm、25.0kgm/4000rpmの2.7ℓ V6エンジンは走り出した瞬間は、結構トルク感がある。それゃ2.7ℓもの排気量があれば、いくら性能イマイチのエンジンとは言っても、絶対的なトルクは結構あるから、普通の街中での走行では十分なトルクがあるのは当たり前だろう。
多少慣れたところで、フルスロットルを踏んでみると、4速ATのキックダウンの反応は遅く、やっとシフトダウンしたら、今度はエンジンの回転上昇がこれまたトロイ。それでも5500rpm程度までは回り、振動も騒音もなんとか我慢できる範囲だった。世間で評判の悪いニッサンの3.5ℓVQエンジンでもヒュンダイの2.7ℓ V6よりはマシだが、ボルボV70の5気筒エンジンよりは良く回るので、言って見れはボルボ5気筒とニッサンVQの中間くらいと思えば良いだろう。同じ自然吸気6気筒2.7ℓエンジンとしては最近乗ったポルシェボクスターが最上級とすれば、ヒュンダイは何とか使える下限というところか?カタログには「V6DOHC2.7リッターの圧倒的なパフォーマンス」と書いてあるが、何が圧倒的なのか知りたいものだ。走行中にバックミラーを見ると気になるのが、中央に横一線に見えるリアスポイラーだ。常に後方視界の邪魔になり、慣れないと実に不愉快だ。今時、後方視界を犠牲にしてまで、見かけを良くする感覚も、これまた信じられない世界だ。視界といえば、低い着座姿勢と、比較的高いウエストラインに少ないガラス面積から想像出来るように、後方視界は最悪だ。とてもじゃないがバックする気になれないのも昔の日本車のようだ。
ステアリングについては、まず操舵力はかなり重い。それも、ドッシリと重いのではなく、ステアリング系のフリークッションの多さや、極端なフロントヘビーによる車両バランスの悪さからくる重さだろう。特性は当然クイックではないが、直線走行中にステアリングを45度以上切っても全く反応しない程に鈍くはない。45タイヤを履いていることもあり、中心付近でグニャグニャすると言う訳でもないから、普通の人が一般道を流れに乗って走る分には大きな不満は出ないだろう。今度は少しきつめのカーブを探して、ここに進入してみたが、この時の特性はいわゆる”ドアンダー”と言う奴で、ただでさえ重いステアリングを力任せにエイッと切っても、クルマは曲がってくれない。だから、進入前に十分な減速を必要とするわけで、それゃ、カーブの前は減速するのが安全運転の原則とは言え、今時これ程速度を落とさないと曲がらないクルマも珍しい。少なくとも20年は遅れているような気がする。ただし、やたら硬い足回りのお蔭でクルマが大きくロールする事はない。
同じくフロントヘビーでドアンダーのアルファロメオGTAの場合は腕の良いFF乗りなら、テクニックで何とかなるだろうし、それがまたマニアックで楽しいのだろうが、ヒュンダイクーペの場合は、どうにもなりそうもないし、面白くないし、何より無理は危険だ。カタログには「ドライバーの意思をリニアに受け止め、常に走る喜びに変える。・・・」とあるが、はぁ?冗談でしょ、と言いたくなる。
このクルマに比べれば、オデッセイアブソルートを、まるでスポーツカーのようだと表現するのも、あながちハッタリだと非難も出来ない。
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標準で装着されるアルミホイールと215/45ZR17タイヤ。タイヤハウス後方のルーバーはダミーのようだ。
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リヤーも当然ディスクブレーキを装着。ブレーキキャリパーはフロントに比べてかなり小さい。相当なフロントヘビーなのだろう。
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赤いボディに白い文字でヒュンダイのロゴが入るキャリパーが見えるホイールは、いかにも高性能車の雰囲気があるが、そのブレーキ性能は見かけとは大違いだ。 |
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これは本物のポルシェ911Sのキャリパー。ヒュンダイクーペも素人見にはポルシェのような外観と言うところか?
ただし、性能は世界一のポルシェに対してヒュンダイクーペは世界最低の部類だろう。
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コーナーで案外ロールが少ない事でも予想はつくが、硬く固めた足と45扁平のタイヤの組み合わせから想像できるとおりに、乗り心地は悪い。チョッとした路面の凹凸で、常にガツッ、ガツッと体に伝わるが、結構マトモなシートのお蔭で乗るのが嫌に成る程に不快ではないが、これも昔の国産スポーツ車を思い出す。これまたカタログでは「シャープでリニアなハンドリングと優れた乗り心地を両立」したそうだ。
トロイエンジン、硬い乗り心地と盛大なアンダーステアは、まあ愛嬌としても、どうにも成らないのが効かないブレーキだ。最初にブレーキペダルに足を乗せた瞬間に感じる異様なストロークは、チョッとした制動でもペダルがグニューッと床まで沈み込む。これが少し強い制動となれば、本当に床に底突きするんじゃないかと思える程だ。ストロークと共に摩擦係数も如何にも低そうなフィーリングだから、今時珍しい駄目ブレーキだ。この酷さは、特にクルマに興味の無い人でも判るレベルだ。これは早急に何とかしないと問題だろうが、米国では安ければこんなブレーキでも許されるのだろうか?それとも、この手のクルマを買う層は、これで十分なのか?まあ、ブレーキなんて殆ど必要ないような、米国の広大なド田舎しか走らないのかもしれないが。
ただし、ブレーキの見かけは中々良いから困ったものだ。特にフロントは細身のスポークを持った17インチアルミホイール(これも強度が心配)から覗くブレーキキャリパーが赤いボディに白いヒュンダイロゴと、まるでポルシェのようだ。カタログには「高性能を主張するレッドキャリパーを採用」と書いてあるが、赤ければ高性能という感覚が何とも笑える。キャリパーを赤く塗る暇があったらもう少しブレーキ性能をなんとかしろよと言いたくなる。
このスタイルとスペックを価格と比較すれば、そのコストパフォーマンスの良さに一瞬心が動くが、冷静に考えれば、この今時トンでもない性能と未知の信頼性、それに殆ど期待できないリセールバリュー等を考えれば、今現在とても手を出せないし薦められない。それでも6速MTモデルは、乗り潰す気で買うなら止めはしない。このMTモデルは注文生産で納期は3ヶ月以上掛かるとか。既に予約をしている人がいるそうで、成る程、物好はいるものだ。そのうちMTモデルの程度の良い中古が只同然で出たら、ちょっとその気になるかもしれない。
今回のヒュンダイクーペの性能はもうヨレヨレだったが、このクルマは韓国車としては1世代前の設計なので、最新鋭のモデルはもう少しマシだろう。そう言う意味では、年末には日本でも発売される可能性のある新型ソナタとXGの後継車であるTGには興味がある。恐らく、来年の今頃はヒュンダイやその擁護派は、TGがレクサス(セルシオ)を追い越したとか、ソナタはカムリより安くて高性能で米国市場でカムリを追い越すのも時間の問題、てな事を言うような予感がする。しかし、悲しいかな、その頃にはレクサスはフルチェンジのタイミングになり、必死で近付いた筈の韓国車に大きく水をあけるだろう。
あれっ、これって、何処かのパターンと似ていないか?そう、旧型のBMW5シリーズを目標に、やっと近付いたと思ったら、新5シリーズは遥か彼方の世界に行ってしまい、これに追いつくにはまた5年や10年は掛かりそうだという何処かの国のクルマにソックリじゃないか!
注記:この試乗記は2005年
4月現在の内容です。
また、内容は以前公開した旧フォーマットの試乗記を一部改定の上再掲載したものです。
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