NISSAN LEAF 後編
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今回は何の予備知識も無くキーを持ってクルマに乗り込んだので、シートに座ってさてどうするかと周りを見回すとステアリングコラムの左側のダッシュボード上にそれらしき丸いスイッチを見つけた(写真左下)。EVといっても、HVなどと同じだろうということで、ブレーキペダルに足を載せてスタートボタンを押してみると、正面のメータークラスター内が点灯してチョッとしたイベントというか、各種表示部が順番に点灯してから、定常の表示となった。勿論、エンジンは無いからアイドリングは無いし、スタートボタンを押しても無音だから違和感があるといえばあるが、最近はHVでも同様な場合が 多いからリーフが特別に珍しい訳でもない。

 

次にフロアコンソール上にある何となくシフトレバーのようなスイッチがセレクターであろうと考えその手前の表示のように左→下に動かしてみる。レバー操作には殆ど力が要らないくらいに軽く、従来のクルマを操作するという感覚とは全く異なる。 次にパーキングブレーキを解除するが、これはシフトレバー(のようなもの)の手前にある(P)とかかれたスイッチを押してみると点灯していたスイッチ上のインジケーターが消え、正面のメータークラスター 内の赤いブレーキインジケータも消えたのでパーキングブレーキが解除されたようだ。

  

ここでブレーキペダルから足を放すと、クルマはAT車のクリープと同様にゆっくりと前進する。そこから、軽くアクセルを踏むと音も無く滑らかに速度を上げ、公道の手前で停止してクルマの流れが切れるのを待つ。車の流れが途絶えたのを確認してアクセルを少し開きながら軽いステアリングを左に切ると、歩道との多少の段差を斜めに降りることになり、ここでサスの設定が意外に固そうだ、と感じながら本線を加速する。 最初なので1/2程度のアクセル開度としてみたが、クルマは殆ど無音で速度を上げていく。これは内燃機関のクルマとは全く違うフィーリングだ。EVは既にi−MiVEに試乗していて、あの時もスムースな加速に驚いたが、軽自動車ベースのi−MiVEに比べて普通車であるLeafは、より重量感というか高級感で勝るから、尚更スムース感が強い。

やがて一般道に入るために左折の準備として左にウィンカーを出すと、これはカチカチという極普通のもので、EVだから何やら一捻りあるかという期待は無駄に終わった。速度を10〜15km/h程度まで落として左折に入り、横断歩道を越えてクルマ が殆ど真直ぐになったところで、アクセルペダルを2/3程度踏んでみる。 これがガソリン車ならば10km/hでATが2速に入っていれば加速しても緩慢だし、1速にシフトダウンするにはある程度のタイムラグの後に始めて加速体制に入るが、Leafの場合は踏めば即座に加速体制に入るのが当たり前とはいえ新鮮に感じる。 次に10km/hくらいから一瞬でフルスロットルを踏んで反応を試してみると、多少のゴンっというショックで体がバックレストに押されるが、それも一瞬で、ショック自体も大した事は無く、その後はスムースにフル加速していった。電気モーターの場合、低速側の方がトルクが大きいから、上手く制御しないと強烈なショックになるだろうし、ショックを気にして制御で絞り過ぎればレスポンスが悪くなるという難しさがあるが、リーフの場合は丁度良いところを狙っているようだ。

 

一定速度での巡航中にはモーター音らしきものもは殆ど聞こえなくて、耳に入ってくるのはタイヤの走行音と、風切り音らしき音だけだった。取り分け風切り音が聞こえるのは始めての感覚で、普通はエンジン音でかき消されて聞こえない音が、メカ音が限りなくゼロに近い事から認識できた のろう。 フル加速をしてもモーター自身の音は殆ど感じられなかったが、キーンというインバーターの発信音のような音が多少聞こえた。それでも、決して煩くはないし、フル加速でこれ程に静かなクルマに は今まで乗った事がない、というくらいに異質な感覚だった。
片側1車線の市道を走ると、自分が先頭になっているときの速度調節が慣れないとやり辛いことを実感する。何故かと言えば、ガソリン車(勿論ディーゼルでも)の場合は、クルマによる個体差はあるとしても、巡航時には、このくらいアクセルを踏めば定速巡航が出来るという感覚を体が覚えているのだが、全くのEVであるリーフの場合は、この感覚がつかみ辛くて、気が付くと速度がジワジワ上がってしまうことになる。
 

決して路面状態の良くない市道を走っていて気が付くのは、リーフのステアリングが軽い操舵力は良いとしても、なにやら不正確であり、直進安定性も決して良くは無い とい事実だった。と言っても、直進に気を使うという程では無いが、もう少し安定感があってもバチは当らないと思うが。

不正確なステアリングの割には、コーナーリング能力は結構高くて、これまたガソリン車とは全く違うフィーリングで、一言で言えば限りなくニュートラルで、アンダーステアの欠片もない、という感じだった。リーフの前後重量配分は車検証で確認したら870:650kgでこれは57:43となり、実はFF車としてはフロント荷重が少なめな事が判明した。 まあ、BMWの50:50とは言わないまでも、FF車でフロントが50%代というのは悪くない。しかもEVというのは低い位置にバッテリー等の重量物が配置されるから、ガソリン車よりも低重心に成りやすいし、リーフの場合は重いバッテリーをキャビンの下、すなわち車両の中心付近に置いているためにヨー方向の慣性モーメントが小さいなど、旋回性能に対しては有利になる場合が多く、 前回乗ったi−MiVEも低い重心感を感じる安定したコーナーリングに走る喜びがあることを発見したが、前述のように操舵系の出来が悪いリーフの場合は走る楽しさは無く、ニュートラルなコーナーリング特性は安全マージンと捕らえるしかないようだ。その意味ではリアエンジンのi−MiVEはマニアックな特性だから、本来ボディだってスポーツ丸出しのスタイルの方が合っていると思う。  

リーフのブレーキを停車中に踏んでみると、初期の遊びストロークは殆ど無く踏み始めから行き成り重くなっている。実際に走行中に踏んでみても、やはり遊びは殆どなく、行き成り効き始めるし、踏力も決して軽くは無い。 このフィーリングはポルシェカレラ、それもワンランク大きなキャリパーを装着しているカレラSを思い出すくらいで、少なくとも国産車でこういうフィーリングのクルマは未だ知らない。
そこで調べてみたらばニッサンのEV用ブレーキは電動アシストタイプが使われていた。これはモータが直接ブレーキのマスタ・シリンダを作動させパワーアシストするというもので、センサーからのブレーキ踏力の情報から、モータを回転させてボールねじを動かして直接マスタ・シリンダを押すことでブレーキ圧を発生させるという。 遊びの全く無いブレーキペダルの特性の理由はこの電動パワーアシストだった。この方式はトヨタのようにフルエレキのブレーキバイワイヤーに比べて構造が単純にも関わらず、 回生を使う場合はマスターシリンダーへの圧力をモーターで減少させる方向に動かすことで、フルに回生制動を利用できる点ではトヨタ方式と変わらないという発想の転換が凄い。電動ブレーキアシストについては 5月12日の日記で紹介しているので、詳細はそちらを参照願うことにする。

今度はホイールから覗くブレーキキャリパーをよくよく見れば、鋳物の片押しとはいえ、何と2ピストンではないか。こんな小さな2ピストンは始めて見たし、このクラスの車重で2ピストンと言うのは珍しい。

 

細かいことを言えば、多少の文句もあるが、そんなことよりも一般市民が何とか買える価格帯で普通車クラスのEVを量産したというところに意義がある訳で、今の段階では割高なのは当然だが、それでも欲しいという先進的なユーザーのみが買えば良いので、これ以上何も言う事は無い。
実質300万円という車両価格は、少し先行して発売されたミツビシのi-MiEVと同価格帯であるが、i-MiEVは軽自動車ベース(登録も軽自動車)だから、クラスが違う。それなのに価格が同じというのは、ニッサンが頑張ったというべきが、ミツビシの開発方針が甘かったというべきか。これはミツビシにとっては厳しい結果となっているだろう。リコール隠しの天罰は未だに収まっていないようだ。


注記:この試乗記は2011年5月現在の内容です。