Renault Twingo GT
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ルノーといえば個性の強いフランス車としてはイマイチ地味 な存在で、同じフランスのシトロエンやプジョーのように熱烈なファンがいる訳でもない。 そんな訳だから販売台数も少ないしディーラーも少ない。そして当然ながら試乗車だって最小限となる。そんなルノーのラインナップにルノースポール(RS)というスポーツグレードがある。 サブBセグメントのトゥインゴとBセグメントのルーテシアに設定されているグレードで、どちらも中々にホットでマニアックなモデルということで、ホットなコンパクトカーを探している身としては是非とも試してみたいクルマだ。 とはいえ、前述のように試乗車を探すのは至難の業だが何とか行ける範囲で一台、それもRSではなくトゥインゴGTというモデルだが、とに角貴重な試乗車 を見つけたので早速試乗してみた。

トゥインゴGTはベースモデルと同じ1.2ℓだがターボ過給により100ps/5,500rpmの最高出力と14.8kg・m/3,000rpmの最大トルクを発生するエンジンを1040kgという軽量ボディに搭載しているためにパワーウェイトレシオは10.4kg/psという値になる。
エクステリアは極地味でベーモデルと大きく変わらないから、いい歳の大人が乗るのは恥ずかしいスイフトスポーツなどとは違い、オジサン が乗っても恥ずかしくない。

グレーの内装も地味だが、同じくグレーのシートには赤い縁取りがアクセントと成っていて、これが辛うじてホットモデルを暗示している。メーターはセンターに配置されドライバー正面には回転計のみが設置されているのがフランス車らしく個性的な部分だ。シートは如何にも欧州車的な固い座面だが、座面の長さが短いことから太ももが座面から外れてしまい、ペダルを踏む足の安定性が得られないのが気になる。全く電子化されていない、コンベンショナル(物も言いようだ)なキーをステアリングコラム側面に差し込み捻るという、数年前なら当たり前の方法でエンジンを始動する。

リアスペースは驚くほどに広い。その理由はリアシートが大きく前後にスライドできることで、一杯に後方に下げれば前後に身長175cm級の男性が乗っても全く支障が無い。しかもリアへのアクセスはフロントシートのバックレストを前に倒すとシート自体が軽くスムースに前進するので楽々と乗り込める。 小さくでも実用性は抜群だ。
 


全幅1,655mmと、今時のクルマとしては狭いから、室内幅も当然狭い。それも数値以上に狭く感じて、感覚的には最新の軽自動車、例えばワゴンRとあまり変わらないとさえ感じる。ドライバーとパッセンジャーの 間隔も狭いから、シフトレバー操作時にパッセンジャーとぶつかることだってある。
しかし、この今時珍しい狭さは、取り回しの良さにより抜群の機動力を発揮する。軽自動車程ではないものの、それに近い 使い良さがあり、何時もの道が広くなったような錯覚さえ起こす。

静かではないアイドリングを聞きながら適度に重いクラッチを踏んで、これまた重めで動きの渋いシフトレバーを1速入れる。踏力は多少重くてもクラッチの動き自体はスムースだからクラッチミートは容易で扱いやすい。アクセルベダルは軽いが踏めば踏んだだけのパワーが出るタイプだから、これも極自然なフィーリングだ。何より感心するのはエンジンのスムースな吹け上がりで、特に1速では回転計の針は容易にレッドゾーンに飛び込みそうになる。 1速からのフル加速で感心するのはトルクステアが殆ど感じられない事で、この面では意外に洗練されているので調子が抜ける。実は絶対パワーは大したことが無いから当然なのだ し、あっという間にレッドゾーンに飛び込む吹け上がりの良さに感動した割には速度計の針は大して上がらない。 ベタ踏みしているドライバーはワクワクしているのに、傍でみれば大したことは無い。これはもしや、と思いギア比を調べてみたが、その結果は後半にて。



シフトレバーの操作力は多少重めで粘っこさがあるが、引っかかりは無くスムースだから、多少力を込めて一気に操作すれば結構素早いシフトが出来る。輸入車のコンパクトハッチ、しかも3ペダルとなればペダル配置が心配だが、多少右に寄っていることを除けば決して 操作し辛いこともなく、 左足の置き場も充分に確保できるから、この面ではプジョー207GT(先ごろ販売が終了したが)を完全に上回っている。ただし、ブレーキとアクセルの べダル間隔はもう少し狭くても良いような気がする。

最初の信号待ちで左折の為にウィンカーを出した つもりが、何故かインジケーターは左右とも点滅しているので、間違ってハザードを出したのかと思ったが、どうもそうでは無いらしい。 要するにインジケータは右でも左でも皆〜んな一緒。どれが出ているかはドライバーの責任で対処するという事のようだ。
まあ、そんな事が気になるようでは、このクルマに乗る資格はないと思ったほうが良いが。

ステアリングは軽くてクイックだが多少の癖があり決して正確ではないが、シビアでない分だけアラヨッと気合で回すような操舵をすれば結構楽しくコーナーを攻められる。コーナーリング特性は基本的にFF臭いアンダーで、ゴルフGTIのように良く出来た自然な特性を求めると失望するが、能天気なホットハッチと居直れば充分に楽しい。 ただし、幅狭ボディによる相対的な重心の高さは無茶なコーナーリングでは不安を覚えるかもしれないが、これはポロGTIなどのBセグ以下のホットハッチでは多かれ少なかれ避ける事が出来ないから、それを承知で付き合うことが必要となる。
乗り心地は当然硬めで路面の細かいザラツキは常に音と振動でドライバーに伝えるてくる。ただし、硬いといっても大きな突き上げには意外と強く、ダンパーが しっかりと効いている感じがする。

ブレーキは最近の欧州車らしく軽い踏力でガツンと効くタイプでストロークも短めだ。トゥインゴGTはリアがドラムブレーキの為に下手な4輪ディクスク車よりも剛性に勝るのは容易に想像が付く。この手のクルマのドライバーが好むヒールアンドトウ(H&T)については、 アクセルとブレーキの両ベダルが多少離れぎみなので決してやり易くは無いのと、軽いブレーキ踏力から慣れを必要とするが、決して出来ないことは無い。そしてブリッピング時のエンジンの吹け上がりもマアマアだし、少し粘っこいフィーリングだが力を入れて素早く動かせば結構速いシフトが可能な5速ミッションと共に、マニアックな運転には充分に 対応できる。
欧州車でRHD(右ハンドル)といえば、ブレーキのマスターシリンダー(M/C)が左にあるのではないかと疑うが、さてトゥインゴの場合はといえば、ボンネットを開けてブレーキ液のリザーバータンクを探すと案の定左にあった。 しかし、よくよく見るとリザーバーの下はABSアクチュェータのみでM/Cらしきものはない。そこでブレーキ配管を追ってみたら何とM/Cとブースターは右にあった。 う〜ん、ご立派。いや、もしかするとトゥインゴって英国等のRHD圏で売れていたりして?

ここで、先ほど約束したギア比の検証を行ってみる。
  ギア比較              
    ギア   オーバーオール*
    RENAULT
Towingo GT
Nissan
March
12SR
Alfaromeo
Mito
Suzuki
Kei Works
RENAULT
Towingo GT
Nissan
March
12SR
Alfaromeo
Mito
Suzuki
Kei Works
    5MT 5MT 6MT 5MT 5MT 5MT 6MT 5MT
  1 3.727 3.727 3.818 3.818 15.71 15.15 15.94 17.96
  2 2.048 2.047 2.158 2.588 8.63 8.32 9.01 12.18
  3 1.393 1.392 1.475 1.761 5.87 5.66 6.16 8.29
  4 1.029 1.029 1.067 1.161 4.34 4.18 4.46 5.46
  5 0.795 0.820 0.875 0.870 3.35 3.33 3.65 4.09
  6 - - 0.744 - - - 3.11 -
  R 3.545 3.545 3.545 3.583 14.94 14.41 14.80 16.86
  FINAL 4.214 4.066 4.176 4.705   *ギア比×ファイナル  
                 
  速度比較              
    レッドゾーン(rpm)の速度(km/h) 最高出力時(rpm)の速度(km/h)
    6200 7200 6500 8000 5500 6900 5500 6500
    RENAULT
Towingo GT
Nissan
March
12SR
Alfaromeo
Mito
Suzuki
Kei Works
RENAULT
Towingo GT
Nissan
March
12SR
Alfaromeo
Mito
Suzuki
Kei Works
    5MT 5MT 6MT 5MT 5MT 5MT 6MT 5MT
  1 43.5 52.3 48.0 48.7 38.6 50.1 40.6 39.5
  2 79.1 95.3 85.0 71.8 70.2 91.3 71.9 58.3
  3 116.3 140.1 124.3 105.5 103.2 134.2 105.2 85.7
  4 157.5 189.5 171.9 160.0 139.7 181.6 145.4 130.0
  5 203.8 237.8 209.6 213.6 180.8 227.9 177.3 146.8
  6 - - 246.5 - - - 208.5 -
  タイヤ半径 0.292 0.292 0.313 0.290 0.292 0.292 0.313 0.290

先ず気が付くのはトゥインゴGTとマーチ12SRのギア比は事実上同じということで、実は12SRはMT化にあたってトゥインゴGT用のミッションを流用したのだった。それなのに12SRの方がレッドゾーンまで引っ張ったときの速度が高いのはファイナルが多少ハイギアードな事と、NAの12SRの方が レッドゾーンの回転数が高い事による。
それにしてもトゥインゴGTは一速でレッドゾーンまで引っ張っても43.5km/hというのは、スズキkeiワークスの48.7km/hよりも低いわけで、これは活発に加速するし 、直ぐにレッドゾーンに飛び込みそうになる割には速度は大したことがない、というフィーリングにピッタリ一致する。 そして、こういう設計テクニックが、スペックの似たようなマーチ12SRが面白さではトゥインゴGTに全く歯が立たない理由の一つかもしれない 国産車でこの手のクルマといえば軽自動車のホットモデルが思い浮かぶが、唯一生き残っていたKeiワークス(上の表で比較した)も販売中止となった今では、新車で買るホットは軽は無くなってしまった。 軽自動車よりは少し大きいがトゥインゴは現代の幅広化した小型車の中では充分に幅狭なクルマだから、車幅の狭いワインディング路では充分なメリットが受けられ、その幅の広さからブラインドコーナーで減速を余儀なくされている911なんかを尻目に、お先に失礼とぶっ千切れる快感に浸れる事になる。ハッハッハっ、ざまあ見ろ成金めっ!と、下品な一言も叫びたくなる。 国産コンパクトカーユーザーからみれば240万円という価格がネックとなるだろうから、同列で比較する訳にはいかない。例えばマーチ12SRが179.3万円と60万円安く、エンジンは1.2ℓ自然吸気のまま多少のチューンナップにより110psと数字上ではトゥインゴGTに勝っているが、実際に乗ってみると吹け上がりも加速も圧倒的にトゥインゴが勝っていた。

下表で判るようにトゥインゴGTと10万円違いのトゥインゴルノースポール(RS)は自然吸気1.6ℓエンジンを搭載し、トレッドもより広くリアにもディスクブレーキを装着しているなど、GTより走りに振ったモデルだからこれこそ本命になりそうだ。 1.2ℓターボのGTでもこれだけ楽しめたのだから、RSならドンナに楽しいかと考えると期待は相当できる。RSはルーテシアにもラインナップされ ていて、こちらは少し大きなサイズで価格的にも少し高い。トゥインゴ程にはヤンチャではないかもしれないが、これも中々興味が持てる。
そして他社ではフィアット500のチューニングバージョンであるアバルト500が思い浮かぶ。スペック的にもトゥインゴRSに近いが価格は少し高めだ。また、表にはないが同じアバルトでフィアット500のベース車であるグラン デプントのアバルト版があり、価格はベースモデルが270万円でブレーキなどを強化した上級モデルが335万円となる。ドイツ勢ではポロGTIが思い浮かぶがポロはフルモデルチェンジされたばかりで、未だGTIは発売されていない。そこで、旧型のスペックを参考に表示しておく が、 ポロの場合は販売台数が多い事から、メンテ等での心配が無いのが最大のメリットだ。ポロに比べて販売台数が一桁以上少ないルノーだが、その少ないルノーよりも更にマイナーなアバルトとなると、東日本ではディーラーが事実上一店舗など、余程の好き者でないと手は出せなさそうだ。
 
    RENAULT RENAULT RENAULT ABARTH Volkswagen
      Towingo GT Towingo RS Lutecia RS 500 1.4 16V
TURBO
POLO GTI(旧)
3Door
 

車両型式

  ND4FT NK4M RF4C 313241 9NBJX

寸法重量乗車定員

全長(m)

3.600 3.610 4.020 3.655 3.915

全幅(m)

1.655 1.690 1.770 1.625 1.655

全高(m)

1.470 1.460 1.485 1.515 1.465

ホイールベース(m)

2.365 2.585 2.300 2,470

駆動方式

FF
 

最小回転半径(m)

  - - - - 4.9

車両重量(kg)

  1,040 1,120 1,240 1,110 1,180

乗車定員(

  4 4

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  D4F K4M F4 312A1 BJX

エンジン種類

  I4 SOHC
TURBO
I4 DOHC I4 DOHC I4 DOHC
TURBO

総排気量(cm3)

1,148 1,598 1,998 1,368 1,780
 

最高出力(ps/rpm)

100/5,500 133/6,750 203/7,100 135/6,000 150/5800

最大トルク(kg・m/rpm)

14.8/3,000 16.3/4,400 21.9/5,400 18.4/4,500 22.4/4,500

トランスミッション

5MT 6MT 5MT
 

 燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

- - - - -
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

10.4 8.4 6.1 8.2 7.9

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット - - ストラット

ツイストビーム - - トーションビーム トレーリングアーム

タイヤ寸法

前/後 185/55R15 195/40R17 215/45R17 195/45R16 205/45R16

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/ドラム Vディスク/ディスク Vディスク/ディスク

価格

車両価格

240.0万円 250.0万円 299.0万円 295.0万円 237.0万円

備考

        5door:
258万円

トゥインゴGTは仕様でみれば国産同クラス に比べて価格は1.5倍近いと思ったらとてもではないが買えないが、このフィーリングは国産車では比べるものがない。ただし、最近発売されたトゥインゴ ルノースポール(RS)ならば、たったの10万円の違いでよりスペックが上で楽しめそうなところが、思案のしどころでもあるが ・・・・。これは是非ともRSに乗ってみたいものだ。そして、GTはRSとはキャラクター違いでラインナップされているのか、それともGTは単なる売れ残りの在庫処分で、実はRSに切り替わるのか?さて。

注記:この試乗記は2009年11月現在の内容です。