トヨタ iQ
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発売前なのにカーオブザイヤーを受賞したり、今までに無い全く新しいコンセプトとともに賛否両論があったり、
いや、あれは○○のパクリだとか、何れにしても最近の新型車の中では大きな話題をさらっているトヨタの iQ。
発表後に突然起こったリーマンブラザースの破綻に端を発してのGM、クライスラーの危機から、あっという間に100年に一度の世界同時不況でクルマの売り上げは激減するという、全く経験した事のない事態に発展しつつあるこの時期に、
新しいコンセプトのクルマが、それもて世界一の自動車製造業となったトヨタから発売されたというタイミングは、単なる偶然にしては出来過ぎている。
という訳で、話題のiQに試乗してみた。
全長2,985×全幅1,680×全高1,500という極端に短いiQの外観は、普通のコンパクトカーのBピラーから後ろをソックリ切り取ったようなスタイルをしている。
と、いっても、この手の外観はスマートやスズキツインなどで
前例があるから、iQが特別ユニークでもないのだが、天下のトヨタが手がけた事に意義があるのだろう。
寸法を見れば判るように全長と全幅が2:1という関係は正面から見ると幅広で、全高1,500と決して低くないにも拘らず、実際の印象は意外に低く
、ペッタンこに見える。
iQのバリエーションはベースグレードの100X(140万円)と本革巻きステアリングホイールとオートエアコンを装備した100G(150万円)、そしてアルミホイールとレザー&ファブリックのコンビシートを装備した100G”レザーパッケージ”(160万円)の3グレードとなる。今回試乗したのは中間グレードの100Gにディーラーオプションのナビが装備されていたから、車両価格は180万円程度に達している筈だ。それにしても、各グレードの価格差が10万で、何れも1万円代の端数がない価格設定は、どう考えても悩んだ挙句のギリギリの価格設定とは言えず、まるでボッタクリと批判されている高級欧州セダンの価格体系のようだ。
この極端に短いiQは被追突時の後席乗員の安全性の問題が指摘されているが、確かにバックレストの後方にクラッシャブルゾーンは無い。その為にリアウィンドシールドカーテンエアーバックという長ったらしい名前の装備があるようだが、
効果の程はどんなものだろう。勿論リアのラッゲージルームは全く存在しない。
iQの特徴として助手席のダッシュボード先端を運転席より50mm前進させたことで、フロントシート位置も前進させてリアパッセンジャーの足元スペースを確保するという発想により3+1という構成を可能としたことだ。実際に助手席に
座ってみるとシートを前進させて膝が伸ばせない状況でも、ダッシュボードの上部が削られていることで膝が当たることはないから、その状態で後席にも何とか足元のスペースが確保できた。確かに前後に17
5cm級のパッセンジャーが乗ることは出来るが、その場合は前後席とも短距離の走行時に限定されるだろう。そして、後席の右側はといえば、余程小柄のドライバーが運転席を目一杯前にセットしない限りは、足元スペースは殆どないから、ここは荷物スペースとの割り切りが必要だ。
シート表皮は写真左がレザーパッケージでレザーといっても人工皮革を使用している(と、カタログの欄外に生命保険の契約書のごとく小さく見づらい字で表記してあった)。それ以外のグレード
に使用されるファブリックシートの座面表皮は、写真右のように何やら変テコな模様がついている。これを先進的と感じるユーザーは・・・・・・・はて、いるのだろうか。
シートに座って見ると座面は適度な硬さがありシート長も充分で、これは国産車としては結構良いシートが付いていると感心する。シートの調整は意外にも普通で、座面右端面にあるレバーを世の中の常識の
どおりに操作すれば良いのだが、唯一まごつくのは前後調整もサイドのレバーを使用することで、これはリアシートへのアクセスの為に簡単にシートを前進されられるように、との目的もあるようだ。この前後調整は助手席の場合など特に有用だが、リアから降りるために助手席のシートを前に
出すのは簡単で良いのだが、その後に助手席を本来の位置にするためには、毎回手動で調整する必要がある。
インリアの質感は正にプラスチッキーという表現がピッタリで、表面の模様も革目のシボではなく細かい木肌のような部分と、砂肌模様とを組み合わせている。ただし、プラムと命名された濃いチョコレート色の内装(プラスチック)色が安っぽい質感を幾分和らげているようだ。
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iQは助手席を運転席より前進させるためにダッシュボードのデザインが左右で全く異なる
と共に、センターの操作部分が特徴的な逆三角形のパネルにエアコン関係のみが配置されていて、オーディオに関してはステアリングホイールの左スポークに組み込まれたスイッチとメーターパネル左端の四角いディスプレイを使用する。従って助手席からのオーディオ操作は出来ないが、実際にそういう場面はまず無いから問題ないと割り切ったのだろう。
iQは当然ながらインテリジェントキーを所持していれば全てのキーは解除されるから、ブレーキペダルに足を載せてスターターボタンを押せば、エンジンは瞬時に始動
する。と、同時に車体全体に3気筒エンジンの不快な振動が伝わる。軽自動車では3気筒なんて当たり前だが、660ccに比べて排気量が大きめ(1000cc)のiQは、
明らかに軽よりも振動が大きい。
各部がユニークなiQではあるが、ATセレクターは一般的なジグザクゲートがフロア上から生えている。ポジションをDに入れてパーキングブレーキを解除し、ブレーキペダルの足を離すとクルマは微妙に進む程度でクリープは極めて弱い。アクセルべダルを少し踏んで走り出した瞬間から、チョッ
とひ弱に感じられるが、表通りの流れに乗ろうとしてフルスロットルを踏んでも、加速は極めて緩慢で中々速度は上がらない。
都心の幹線道路は車線が複数あり、交差点の右左折や直進等に備えたり、左に駐車(停車?)中の車を避けるなどで、頻繁に車線変更が必要となる。こんな時には減速するよりも加速して自分が前に入ったほうが安全に車線変更できる場合もある。しかし、こんな状況でのiQはフルスロッルを踏んでも回転数は直ぐには変わらず、しかもやっとエンジン回転数が上昇したと思ったら、音がやかましいだけで速度は
ぜんぜん上がらない。その加速感は90万円級の廉価版軽自動車と良い勝負という程で、幾らエコといってもパワー不足が酷すぎる。
iQの1KR-FEエンジンは直列3気筒DOHC 996ccから68ps/6,000rpmの最高出力と9.2kg・m/4,800rpmの最大トルクを発生するが、軽のターボ車であるKeiワークスの64ps/6,000rpm、10.8kg・m/3,500rpmと比べると何とトルクでは10%以上も劣っている。そしてKeiワークスの車重は780kgだから、iQの890kgより110kgも軽い事になる。更にこのエンジンはパッソ/ブーンと同じなのだが、チューニングが異なりiQ
用はパッソに比べて71ps→68ps、9.6→9.2kg・mへとデチューンされている。パッソ1.0XVの車両重量はiQと同等の900kgだから、iQの動力性能が高性能な軽は勿論、パッソにも劣るのは当然なのだった。
そういえばATセレクターにはSモードがあったのを思い出しセレクターをDから右へ
倒してSに入れて見ると、多少エンジンの回転数は上昇するが加速自体は殆ど変わらない。強いて違いを探せばエンジン音が煩くなる程度だった。
動力性能は散々だったiQだが、操舵性能に対しては良い評価を与えられる。ホイールべースがヴィッツ(2,460mm)よりも460mmも短いiQ(2,000mm)はステアリングに対する反応が自然で、クイックではあるがリニアなので実に運転しやすい。クイックなステアリングというと初心者
(と何年運転してもトロいドライバー)には危険ではないか、という意見もあるが、極端にクイックならとも角、ステアリング系の剛性不足からくる中心付近の不感帯がないiQの場合は、少し慣れれば意のままに操れて寧ろ安全と考えるが、これ
には当然異論もあるだろう。今回の試乗コースは都心だっ
たことから、当然ながら山岳路のワインディングとはいかないが、それでもちょっとしたコーナーを曲がる限りでは充分に自然で素直な特性だったから、このクルマの用途を考えれば充分だろう。
そして、何より驚いたのはホイールベースの短さからくる回転半径の小ささだった。試乗中に予定のコースを間違えてUターンをする場面があったが、一般的な小型車の感覚では信じられないくらいにクルッと回ってしまった。
あっ、あそこって、まさかUターン禁止じゃなかったよな?
iQのタイヤは全グレード共に175/65R15という特殊なサイズで、ホイールは下の2グレードがスチールホイールにキャップ(写真右)、最上級グレードの”レザーパッケージ”がアルミホイールを装着している。乗り心地自体は硬めだが決して不快ではないし、剛性不足丸出しのボヨン・ビヨンというボディの共振も感じられないから、iQもボディは結構真面目に作ってあるのかもしれない。
そして、ブレーキもまた軽い踏力で良く効くし、踏んだらペダルが
グニューっと奥に入っていくような事もなく、実用車のブレーキとしては
充分なものだ。
既に何度か述べたように、iQのようなリアにドラムブレーキを装着したクルマは、意外にブレーキ系の剛性感があるし、普通の用途なら4輪ディスク装着車よりも効きが良かったりして寧ろ好ましいのだが、最大の問題点はカッコが悪い事。特にアルミホイールの場合は無骨なドラムが
まる見えで、雰囲気丸潰れというのがつらい。
今回iQに乗ってみて感じたのは、基本的には真面目なコンセプトで設計されているし、各部に苦労の跡もあるが、やはり未だ実験段階のクルマではないかと思うことだ。何より低すぎる動力性能は160万円も出して廉価版の軽自動車並だし、リアシートの安全性だって疑問が残るなど、今後改良の余地が大いに残っている。動力性能の向上という面では本来の車格に合ったエンジン(少なくとも1.3ℓ級)を載せれば解決するし、実際ボンネットに中を見れば現行より大きなエンジンを載せるだけの余裕は
充分あるし、噂では海外用には1.3とか1.5とかを搭載するとも言われている。ところが、そうなると現行車種では最小のCO2排出量というお墨付きが無くなってしまう。実際にバッソ
と同じエンジンをデチューンしたり、これでもかと踏んでもシフトダウン(実際にはVCVTの減速比が変化)しない特性は、恐らく排出ガスの低減を考えてのことと思う。まあ、そんなところにも無理があるのだろうし、こういうクルマこそ、ハイブリッドなどの新技術を搭載すべきなのだろうが。
という訳で、このiQに150万円の価値があるかといえば疑問だし、それだけ出せば総合点でもっと良い評価のクルマは幾らでもあるが、それでもこのクルマの何かに惚れこんだのなら悪い買い物ではないかもしれない。あとは、ユーザーが現車に触れたり試乗したりして決めれば良いだろう。
それにしても、このクルマ、新時代の幕開けになるのか、単なる一発芸のゲテモノで終わるのか?それは時が回答してくれるだろう。
注記:この試乗記は2008年12月現在の内容です。
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