スズキ ワゴンR FX

日本で一番売れているクルマがワゴンRというのは最近では誰でも知っている事だが、それにしても月に2万台近い売れ行きというのは凄いものだ。そのワゴンRがFMCを受けて4代目となった。初代ワゴンRは1993年の発売だから、もう15年も前になる。クルマ好きにとってのワゴンRのイメージといえば、安い割には室内が広いのが取り得で、走りはヨレヨレのフラフラ。しかも、踏んでも煩いだけで加速は超遅い・・・・まあ、そんな認識だろうか。正直言って B_Otaku も決して良いイメージは持っていなかったが、2年前に乗ったニッサンブランドのモコ(スズキMRワゴンのOEM)が、安定性という面では意外に良かったこともあり、それなら日本一売れているワゴンRってドンナものだろうと気にもなったので、今回は意を決して(という程ではないが)試乗してみた。

ニューワゴンRはベーシックなワゴンRと高級&スポーティ 版の同スティングレーに大別され、更にワゴンRはベースモデルのFA(FF、4AT:91万円)、基本装備充実で売れ筋のFX(FF、4AT:105万円)、そして上級装備 のFXリミテッド(FF、4AT:91万円)。以上が自然吸気エンジンで、さらにターボモデルのFTリミテッド(FF、CVT:135万円)があり、これらを基本に4WDやABS装着など、数多くのバリエーションを持っている。 何とターボモデルを除いてABSはオプションというのは今時疑問だが、この辺りはスズキのポリシーが安かろう悪かろうから抜け出ていないことを感じてしまう。

試乗車のドア を開けて唖然としたのは、全てのシートにビニールカバーが掛かっていたことだ。今まで数多くの ディーラ試乗車に乗ったが、展示車ならとも角、試乗車のシートの、それもドライバーズシートにまでビニールが掛かっているのは初めてだった。まあ、軽自動車というのは、それだけ 付加価値がないしディーラーマージンも少ないのだろう。 それにも増して、軽自動車ユーザーというのは商談にあたって殆ど試乗しないとか。クルマなんて乗ってナンボなのに、一度も乗らないで買っちゃうらしい。

室内の広さは特に後席の前後方向の余裕に圧倒されるが、 上の写真の状態ではリアのラッゲージルームのスペースはミニマムとなる。こんな場合は、リアシートを15cm程前に出せば多少は救われるし、この場合でもリアシートの前後スペースは下手な普通車よりも余裕がある。堅実生活派(と、いうことにしておこう)が喜ぶように表現すれば、400万円近い(グレードによっては500万円超)BMW1シリーズの後席よりも余裕がある。 いや、マジに!

エンジンは K6A型だから前回乗ったモコと同じ。直列3気筒DOHC 658cc  54ps/6500rpm という最高出力は同じだが、今回は最大トルクが6.4kg・m/3500rpm
で、これはモコに対して0.2kg・m大きいトルクを500rpm低い回転数で発生しているから、事実上の性能アップといえる。
ボンネットを開けて見た眺めが同じエンジンを搭載するスズキの他モデルとは全く似ていないのは、エンジンの上部を覆う形で配置されている樹脂製カバーの違いからのようだ。


 

インパネやドア内張りの質感は、一時代前の軽自動車から比べたら格段の進歩で、リッターカーと比べても決して引けをとらない。 運転席正面の大きな速度計はトヨタ顔負けの自発光式という以前の軽では有り得ないようなスペックだった。前述のようにシートにはビニールカバーが掛かっていたので、本当のシートの座り心地は判らないが、カバーを捲ってみた表皮は、下手な高級 (風)モケットなんかより余程実用的な粗い織りのファブリックで、なんとなく欧州車チックだ。今回はビニール越し なので当然ながらツルツル滑ってシートとしての評価はできなかった。ところで、ワゴンRの上級シリーズで各モデル が20万円程高い価格設定のスティングレーのシートはといえば、 下の写真のように更に1ランク上のものが付いている。




ワゴンRのATセレクターはインパネシフトとなり、前席左右のシート間の移動は楽になったし、元々幅の狭い軽自動車でセンターコンソールが無い事は幅方向を広く使えるメリットもあるなど、伊達にこのクラスのベストセラーを続けているわけではないようだ。P→R→N→D→2というパターンはアルトの3速に比べてLポジションが無い点がコストダウンとも取れるが、ワゴンRの場合は4速となり、制御の質も向上したことにより、事実上はDに入れっぱなしでも全く不便か無い。 いや、このクルマの平均的ユーザーはDに入れっぱなしで走るだろうから、”2”だって不要かもしれないが。

試乗したグレードでは普通にキーを捻って始動するが、高級モデルにはインテリジェントキーとスターターボタンとなる。Nポジションではアイドリング中の振動はそれ程でもないが、Dに入れて信号待ちなどでの停止中はボディとステアリングに振動が伝わる。まあ、不快とまでは言わないがヤッパリ安物という割り切り は必要 だ。
走り始めると、日本車独特の非線形なスロットル特性のお陰もあり、普通にスタートする分にはそれ程非力には感じない。空車重量810kgと以前乗って非力さが気になったニッサン モコ(MRワゴンのOEM)と同等だが、モコ程には非力さは感じなかった。今度はフルスロットルを踏んでみると、加速は緩慢だがニッサン ピノ(アルトのOEM)のようにクルマが分解するんじゃないかと思うよう な凄まじい振動で もない。とはいっても普通車に比べて振動も大きいし音も盛大だが・・・・・。

ステアリングは当然軽いが、現行マーチ程には軽くない。またレスポンスも良いとは言えないが実用車としてはトロくもないし、効き過ぎもないから、このクルマの用途 なら問題ないだろう。数年前の軽といえば安定性なんて望むべくもなく、ちょっと急ハンドルなんて切ったらば、クルマはフラッとなって冷や汗ものだったが、モコが新しくなった時に試乗したら、実に安定した走りになっていて驚いた ものだった。この新型ワゴンRも従来の軽の感覚からいったらば、安定性 は驚く程に改良されている。試乗コースの途中で4車線の一級国道バイパスを走ってみたが、80km/hの流れでも充分に安定していたし、この時のエンジン音も決して不快な程うるさくはなかった。
乗り心地についても、硬めではあるが軽ということを考えれば文句をいう程には悪くない。ただし、今回は荒れた道を走っていないので、ある限度を超えた入力がドカンと来た時にどうなるのかは判らなかった。
 

試乗車のタイヤは145/80R13という今時珍しくハイトが高く、勿論ホイールは鉄っちんに樹脂製のアルミホイール風デザインのカバーが付く。 こんなタイヤでも操舵性がグニャグニャにならないし、乗り心地の面ではむしろ良い方向に貢献しているようだ。
ピノ(アルト)のブレーキは遊びが多く、所詮は軽自動車という思いをしたが、ワゴンRの場合は遊びも比較的少なく、剛性感もマアマアで効きも悪くはない。要するに軽自動車離れをしてい て、この部分でもワゴンRの地道な進化が伺える。

  

今まで乗ったスズキの軽自動車はタイヤハウス内の防錆処理が殆ど無く、鉄板の上に薄い塗装を吹っ掛けただけだったから、直ぐに錆びてくるので有名だったが、今度のワゴンRは幾分改良されたようだ(上左写真)。しかし、右の写真を見ると判るようにボディの塗装面を良く見れば盛大なゆず肌で、スズキの塗装は悪いという悪評は確かに当たっている。

決して広くない一般的な市町村道では、軽規格の幅の狭さは圧倒的な強みとなるのは何度も主張してきたが、実際に走って見ると確かに走り易い。更には背の高めのワゴンRは見晴らしも良いから、初心者でも狭い道を何 事もなく走れる。ブラインドコーナーなんて車幅のマージンがあるから、大柄な高級スポーツカーが安全のために減速を余儀なくされるのを傍で見ながら、スイスイと走れる。やはり、日本の一般道は狭すぎるから、軽くらいが丁度良いのか、なんて思ってしまう。

成るほど、このワゴンRに乗っていれば取り合えず街中の移動には充分だから、BMW116iなんかに300万円も出さないでも充分だし、あんなクルマに見栄で乗っている連中なんて実にムカつく・・・・・と、思うのも無理はないかもしれない。遅いといわれる116iより更に遅いが、別にマイペースで走れば良いんだし(後ろの車は堪らないが)、もしも事故にあったら・・・・・なんて言ったって、そんな事は一生に一度あるか無いかだし、軽が本当に衝突安全性が悪いなんていう証拠もないんだし。う〜ん、判る判る。

さて、今回ワゴンRに乗ってみて確かに十数年前の軽自動車に比べれば劇的に進歩したのは事実で、これではリッタカーの立場がないじゃないか、何て思ったが、いやチョット待てよ。車両価格からすれば今回の試乗車でも百万円の大台を超えているし、スティングレーのターボモデルなどは1.5ℓ級顔負けの百数十万円、いやそれ以上もするんだから、これで悪かったら詐欺じゃないか。そうなると幅の狭さからくる 取り回しの良さを別とすれば、軽のメリットの多くは安い維持費ということになり、それは単に税制上の仕組みによるものだから、ある日突然その仕組みが変わったら一夜にして軽自動車のメリットが消失するという、ある面で危うい存在でもある。さあて、皆さん。特に欧州車オーナーの皆さんは、このワゴンRを如何思いますか?セカンドカーに一台買ってみようとか 思いませんか。冗談じゃねぇ、こんなの恥ずかしくて乗れるか!とう人もいて当然。えっ?社長、なんですって?ワゴンRなら去年経費が余ったんで話の種に買ってみて、チョット乗ったら飽きちゃったんで、今じゃあ事務のネエチャンが事務用品 を買いに行ったりの雑用に使っている?でも悪くないって言っていたけど、社長んとこのワゴンRってターボのついた一番良い奴でしょう?乗り出しは、えっ、200万円だったんですか?それじゃあ、良いわけだよね。
注記:この試乗記は2008年10月現在の内容です。