ホンダ フィット G type
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一時期とはいえ、長年君臨していた王者カローラに打ち勝ったというフィットがフルモデルチェンジされた。そこで、早速2代目フィットに試乗してみた。試乗車は ベースグレードのG(119.7万円)で、上級版であるタイプL は134.4万円。ただし、試乗車にはLに近い装備のFパッケージが装着されていたために、プライバシーガラス、運転席ハイトアジャスタなどが装備されていた。
 
先代に対して、全長+55mm、全幅 +20mmだから、サイズとしては同等で、しかもデザインも先代からのキープコンセプトのため、余程フィットに精通していない限りは新旧の見分け がつかない。
しかし、ドアを開けた途端に、先代よりも大きく質感を増した内装が出現する。 シートに座ってみると、試乗車にオプション設定(Fパッケージ)されていたラチェット式のハイドアジャスターにより高さを調整できることや、先代に比べて太もものサポートが大幅に改善された座面形状と、ウレタンの材料を奮発したと思える適度な硬さで、フィットのように街のチョイ乗り主体のクルマとして、十分な運転姿勢をとれる。写真でも判るように、フロントシートの形状や質感は、とても120万円のクルマには思えない程に進歩していた。

リアシートのサイズは、このクラスとしては十分な広さを持っている。さらにリアシートは簡単に折りたたんで、ラッゲージルームとの段差のないフラットな空間が作れるから、ちょっとしたバン的な使い方もできるし、何より感心したのはリアシートの座面を跳ね上げて、床から天井までの空間を作り、背の高い鉢植えなどを積載できることで、宣伝文句ではなく実際に使い物になる装備を持っているところが、このクルマに対する本気具合を表している。




ダッシュボード を中心とした内装の質感は、ベースグレードが100万円ちょいのコンパクトカーとしては、決して悪くはない。まあ、良く見ればプラスチック丸出しだったり、叩けばコチコチと硬い樹脂だったりするが、これはライバルも同じだから、文句は言えない。
運転席に座った時の前方視界も決して悪くはないが、左右のライトの上にコブがマーカーとなって、初心者や運転が決して上手くないドライバーでも車幅感覚を取りやすいマーチには一歩を譲るようだ。
 

試乗車のエンジンは4気筒SOHC、1.3LのL13Aで、100ps/6000prm、13.0kgm/4800rpmを発生する。 ボンネットを開けて見ると、極めてコンパクトなエンジンが横置きされていて、この短いフロントにもかかわらず、十分な空間を持っている。流石にエンジンのホンダだけあって、このコンパクトなエンジンは驚きだ。

試乗車はインテリジェントキーの装備はないので、普通にキーを鍵穴に挿して捻ることでエンジンが始動する。

CVTのセレクターを”D”レンジに入れて走り出すと、1.3Lとはいっても街中での使用には十分な動力性能で、普通の流れに乗るには全く不満はない。こんな場面ではマーチの1.3Lでも決して不満はないが、二ュー FITのほうが加速は良い。
今度はセレクターを”S”に入れてみる。このモードではCVTによる減速比がローギアードに設定されるので、巡航時でも回転計の針は3000rpm 程度を示すから、多少のエンジン音の上昇と燃費さえ気にしなければ、1.3Lのコンパクトカーとは思えないほどにキビキビと走る。と、ここで、回転計の存在に気付いた。そう、FITは全モデルに回転計が装着されている。トヨタなら回転計の予算があれば、間違いなく目に見える部分の向上に回 すだろうが、この辺が如何にもホンダらしい。

FITの操舵力はマーチ程には軽くないが 、それでも、か弱い女性でも十分操作できる程度には軽い。何よりホンダらしく、中心付近の不感帯も少なく、結構クイックな反応をする。と、いっても普通のドライバーには危険な程にクイックというわけでもないから、こ のクルマの用途を考えれば良く出来ている。コーナーリングもベーシックなコンパクトカーとしては十分に安定しているし、このクルマが基本的に真面目に作られていることがわかる。 今回はチョイ乗りのために、コーナーリング性能を十分には試せなかったが、このクルマでワインディング路云々というユーザーもいないだろうし、多少でもスポーティな走りを期待するならば、1.5LのRSの検討するのも良いかもしれない。RSについては最後でふれてみる。

試乗車のタイヤは175/65R14の標準タイヤが装着されていた。 このサイズは最近大径化している国産車としては、何やら情けないほどに小さいが、実際にはこれがメリットなって、乗り心地は結構良い。ライバルのマーチも悪くはないが、この点でも開発時点が数年も新しいFITに分があるのは言うまでもない。言い換えれば、数年前にコンパクトカーとしてココまで乗り心地を煮詰めたマーチも立派ともいえる。
最近の国産車のブレーキは欧州車顔負けに、軽い踏力でガツッと効くクルマが多くなった。それに比べるとFITのブレーキは多少効きが悪く感じる。それでも、普通に走る分には全く問題はないし、スポンジーだったり、ブカブカだったりという低剛性 感は感じられないから、用途を考えれば十分かもしれない。

新型FITに試乗したみたら、なんと、特に悪いところがないが、傑出しているところも無い、という結果になった。裏を返せばトヨタ顔負けの80点主義ともいえるが、同じ80点でも、トヨタよりは走りに振っている点はホンダらしい。ホンダの現状は、売れまくったステップワゴンも今やそれ程ではなく、若者の憧れであったオデッセイも飽きられたのか、内容の悪さがバレたのか、とにかく売るものが無くなっている状況だから、このFITに失敗したらば国内では後が無いところまで追い込まれている。だから、ホンダが新型FITに掛けた本気度は相当なもので、いわば火事場のクソ力というヤツだ。実際に新型FITは、随所に本気感が満ち溢れている。このFITの出来を見る限りは、とりあえずホンダの国内事業も何とか生き延びるだろうと思える。

今から40年ほど前までは、男性用アクセサリーの筆頭として、ブランド物のシガーライターが人気だった。ダンヒルやデュポンのシルバーやゴールドの、重い金属の塊みたいなライターで、ショポっと点けたら、バシっと蓋をしめる。この高級感が人気だったのだが、ある日、100円の使い捨てライターが出現したら、あらよ・あらよと普及して、 今では社長も院長も、理事長も局長も、フリーターもホームレスも、皆〜んな使い捨てライターで火を点けるのが当たり前になってしまった。
クルマだって、近所の買い物に行くには社会の階層に関係なく100万円のコンパクトカーに乗るのが当たり前になる時代が来るかもしれない。そのクルマ界の100円ライターに一番近いのがフィットであり、マーチ、ヴィッツであるわけだ。

そんな家族共有の街乗りクルマだとしても、クルマ好きのオトウサンにしてみれば、”オバンぐるま”まる出しグレードよりも、多少でもスポーティなヤツが欲しい と考えるのは当然だ。そういう用途にはフィットの1.5Lモデルである、RSが気にかかる。しかも、RSには5MTモデルが設定されている。RSというグレード名にMT 、しかもホンダと聞けば、元走り屋のお父さんの血が騒ぐのも無理はない。しかし、古女房は勿論のこと、子供たちでさえMTに難色を示す、というよりも、MTを運転 することができない。娘ならとも角も、息子でさえマトモにMTをコロがせないという事実は、フィットRS(5MT)の選択は有り得ないということだ。しかし、メーカーだって考えている。RS のATはCVTにMTモードをもっていて、ステアリングコラムのパドルスイッチでMT的に使える。う〜ん、3ペダルのMTとまではいかなくても、シーケンシャル式のセミMT(風)ならば、F1やルマンカーみたいで、中々面白そうだ。 と、いう事で、次回はぜひとも1.5LのRSに乗ってみたいのだが、マイナーグレードのために、果たして試乗車があるだろうか。と、今から言い訳をしているのは、オトウサンたちの熱い期待が伝わってくるからでもある。

注記:この試乗記は2007年10月現在の内容です。