VOLVO V50 2.0e POWERSHIFT (2009/4/26)


ボルボといえはステーションワゴン。そのスタイルは誰が見てもボルボと一目で判るアイデンティティ
をシッカリと継承している。ボルボのデザインは実に上手い。

ボルボといわれて思い浮かべる形は、四角いレンガのようなステーションワゴンというのは誰でも共通だと思うし、そのイメージは”安全”ということになっている。そして、人によってはメルセデスやBMWと並ぶ高級プレミアムブランドと思っているかもしれない。そのボルボの乗用車部門はジャガー、ディムラー、アストンマーチン、ランドローバーと共にフォードのプレミアム・オートモーディブ・グループ(PAG)の一員だった。なぜ過去形かと言えばフォードはPAGの各社を売却してしまい、ジャガーとディムラーそしてランドローバーは(27万円カーでお馴染みの)インドのタタ自動車に、アストンマーチンはクウェートの投資会社等に売却された。そして、ボルボはといえば、現在は買い手が付いていない。まあ、この件には後程触れる事にする。

そのボルボのステーションワゴンといえば、現在の主流は850から続くFFのシリーズで、後にV70と名称を変更して現在に至っている。このV70は寸法的にはかなり大きなサイズのクルマだが、このV70より小さいクラスとして1997年に三菱と共同開発したプラットフォームを使ったコンパクトワゴンであるV40がデビューした。このV40 の兄弟には、セダンのS40と三菱ブランドでエクステリアデザインが異なる三菱カリスマがあった。
S40/V40は2004年にフルモデルチェンジされ、この時からワゴンはV50と呼ばれるようになった。そして、今回取り上げるのは、V50のマイナーチェンジで新規追加された4気筒2L版で、ボルボワゴンとしては最も低価格のモデルとなっている。あえてワゴンとしてはと言ったのは、V50と兄弟分の2ドアクーペであるC30があるからで、価格は279万円より。


写真1 940(1991〜)
940/960は850のFFに対して、FRの高級モデル。その後はMCでV90と名称変更したが、850(V70)に対して高価なことから売れ行き不振で、生産中止となった。

 


写真2 850(1991〜)
FFモデルで、最近のボルボの主力モデルとなった。
その後MCを機にV70と名称を変更する

 


写真3 初代V70(1997〜)
1997のマイナーチェンジで850からV70と名称を変更をした。フロントのデザインは850よりも現代的となった。

 

 


写真4 2代目V70(2002〜)
発売当初は先代に対してボルボらしさが薄れたデザインが不評で、中古車市場では新旧で価格が逆転する現象も現れた。 3代目の発売後もクラシックという名で併売されていたが、最近は売り切ったようだ。

 


写真5 現行V70(2007〜)
内容的には大幅に改良されたが、より大きく高価になって、先代よりも1ランクアップした。

 


写真6 先代V40(1997〜)
現行モデルからはV50となったが、初代はセダン(S40)と同様にV40と呼ばれた。ベースは三菱の海外生産車であるカリスマ。

 

さて、V70のポジションとライバルだが、ここは一先ずボルボファン &オーナーの顔を立ててBMW320iツーリングとメルセデスC200ワゴンとの比較をしてみよう。あっ、そこのビーエムオーナーの、あなた。何やら言いたそうですが、まあここは我慢して、後半に期待(?)してくださいな。
 
    ボルボ V50 ボルボ V50 BMW320i メルセデスベンツ C200
       2.0e パワーシフト 2.4iSE ツーリング コンプレッサー ワゴン
 

車両型式

  MB4204S MB5244 VR20 204241

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.520 4.535 4.600

全幅(m)

1,770 1.800 1.770

全高(m)

1,450 1.480 1.450 1.460

ホイールベース(m)

2.640 2.760 2.760

駆動方式

FF FR
 

最小回転半径(m)

  5.3 5.3 5.1

車両重量(kg)

  1,430 1,470 1,540 1,550

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  B4204S B5244 NB46B20B 271

エンジン種類

  I4 DOHC I5 DOHC I4 DOHC I4 DOHC SC

総排気量(cm3)

1,998 2,434 1,995 1,795
 

最高出力(HP/rpm)

145/6,000 170/6,000 156/6,400 184/5,500

最大トルク(kg・m/rpm)

18.9/4,500 23.5/4,400 20.4/3,600 25.5/5,000

トランスミッション

6AT(DCT) 5AT 6AT 5AT
 

 燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

11.6 9.5 11.4 11.2

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット 3リンク

マルチリンク 5リンク マルチリンク

タイヤ寸法

  205/55R16 205/505R17 205/55R16

価格

車両価格(発売時)

299.0万円 399.0万円 465.0万円 460.0万円

備考

       

こうしてスペックを比較してみれば、大きさといい、性能といい、同クラスと言われても否定はできなかったりする。おいおい、それを言うならば、国産の2Lクラスだって似たような物だぞ、と言われそうだが、国産車の場合はステイタスってえ物が無いでしょう。それに比べれば高級ブランドの”ボルボ”ですぞ。
それでお値段はといえばV50 2.0eに比べて320iもC200も1.5倍もするではないか。車輌価格で460万円ではとても手が出ないが、300万円なら何とかなるかもしれない。今時300万円ではちょっとした国産ミニバンだってそれ以上するから、同等以下の予算で高級車の代名詞であるボルボワゴンが買える という事は、飛びつかないほうがオカシイではないか。

と、思ってボルボディーラーを恐る恐る訪問する謙虚なユーザーが眼に浮かぶ。一般にボルボディーラーというのは豪華さではレクサス程ではないにせよ、メルセデスやBMWのディーラーよりも 寧ろ高級そうだし、敷居の高い雰囲気でも上を行っている気がする。さてさて、それではいよいよ、その内容に迫ってみよう。

V50のエクステリアはV70を小さくしたような、如何にもボルボのワゴンという雰囲気を持っている。サイドからの比較(写真8)を見れば判るように、V70を長手方向に縮めたようなイメージで、V50だけを 見ていれば少し小さいV70という感じだ。それにしても、いつも感心するのはボルボのデザインの上手さだ。このスタイルを見ただけで買いたくなるユーザーも居るかも知れない。なお、リアゲートを開けてみると、ラゲッジルームは特に幅が狭い が、それでも奥行きはマアマアあるし、何よりこのクルマはイメージのクルマだから、実際に荷物を積むのが間違っていると思えば、許せるだろう。


写真6
左右両端の長いテールランプなど後ろから見てもボルボワゴンのアイデンティティは充分だ。

 


写真7
奥行きはマアマアだが幅が狭いラッゲージルーム。

 


写真8
ボルボステーションワゴンの定番であるV70(下)と比べると長さ方向に圧縮されてはいるが、イメージはソックリ。
V50単独で見れば誰が見てもボルボワゴンに見えるのが納得できる。

今回の試乗車はベースモデルの”パワーシフト”だからドアを開けて最初に眼に入る光景は結構地味だ。早速シートに座って見ると、座面は結構柔らかいがシッカリしていて中々座り心地はよい。ベースモデルだけあってシート表皮は欧州のベースグレードでお馴染みの粗い織り目のファブリック(ボルボではテキスタイルと呼んでいる、写真11)で、国産車とは一味違うというか、如何にも欧州車とい う感じだ。このシートの位置調整は全て手動だが、座面の上下は水平に上下することとは別に、座面の先端部のみを上下調整するレバーもある。したがって、高さと共に椅子の座面の角度も調整出来る 点は流石に北欧車と関心する(写真1 3)。これが上級の”アクティブ”になると表皮はグレードアップされてステッチ(縫い目)を強調した事により、高級感が増している(写真12)。そして調整はフルパワーシートとなる(写真1 4)。


写真9
本来がCセグメントのプラットフォームだからリアの足元は決して広くはない。

 


写真10
試乗車は内装がブラックということと、ベースグレードでもあるため、インテリアは実に地味だ。

 


写真11
ベースモデルのパワーシフトには”テキスタイル”シートが装着されている。これは欧州車のベースモデルによくあるタイプ。

 


写真12
上級グレードのアクティブにはサイドにT-Tecという素材を使ったシートになる。ベースグレードに対してステッチが高級感を増している。

 


写真13
ベースモデルのシートアジャストはマニュアル式。ただし、上下調整は(青←)で行い、さらにシート前端部のみの上下を(黄←)で行う。

 


写真14
上級グレードのアクティブにはパワーシートが標準装備されている。
 

 

V50のインテリアで特徴的なのは例の薄いボードで浮いているセンタークラスタだが、ベースグレード である“パワーシフト”のパネル類はボーキサイトと呼ばれる地味な黒っぽいシルバー のこともあり、これまた全体に地味に見える。 これが”アクティブ”となればパネルは白っぽい黄色のウッドで、前述したシートのステッチとともに、これが高級でありながらポップな雰囲気を醸しだしている。
ダッシュボードの表面処理は一般的に定番の革目のシボ模様ではなく、細かいボチボチの独特のパターンになっている(写真19)が、これは個人的には好きになれない。確かに、革でもないのに革のようなシボを金型で付けるのはイミテーション丸出しで、それなら全く異なった模様を付ける方が良心的という考えもあるだろうが、V50の場合は完全にモダンアート的でもなく、革目にも未練があるような無いような。まあ、これも趣味の問題だから、これが北欧的モダンだと理解できるセンスと教養に満ち溢れたボルボオーナーなら全く問題ないのだろう。

写真15
試乗したパワーシフトはベースグレードのために実に質素な眺めとなる。

 

写真16
こちらは上級グレードのアクティブの室内。大きな違いはウッドパネルとシートの表皮およびステッチが入ること。
それだけでも、高級感がマルで違うが、価格も40万円アップする。


写真17
V50の特徴である浮き上がっているセンタークラスタ。
写真はアクティブのウッドパネル。

 


写真18
パワーシフトのドライバー側ドア内側。パネルはボーキサイトと呼ばれるシルバーの塗装で、ハッキリ言ってチャチい。これがアクティブだと左の写真と同様のウッドとなる。

 


写真19
電子キーだが始動はスロットに差し込んで右に捻る。
ダッシュボードの表面模様は革シボではない。

 


写真20
ダッシュボード右端のライトスイッチ付近。給油マークを押すと給油口の蓋がパコッと開くのは国産車的。

 


写真21
DCTとは入ってもセレクターはトルコンATとは変わらない。 マニュアルモードはLHD用と共通のようで左にある。

 


写真22
特徴的な宙に浮いたようなセンタークラスターを正面から見れば、コレマタ中々のデザインだ。

 

それではエンジンを掛けることにする。まずは電子キーをスロットに差込み、あとは従来どおりに右に捻るとエンジンは始動する(勿論ATセレクターをPに入れて、ブレーキに足を載せるが)。決して静かとは言えないアイドリングを尻目に、セレクターをDに入れる。このクルマのミッションは今流行のDCT(デュアルクラッチ ・トランスミッション)タイプでゲトラグ製の6速を搭載しているという。 パーキングをOFFにしてブレーキから足を離すと、DCTにしてはクリープは大きいがトルコンATに比べれはやはり少ない。
今回のディーラーも一級国道の片側2車線の道路に行き成り出なければならないから、本線に入った瞬間にフル加速を必要とするパターンだ。この時に気が付くのは2ℓエンジンとしては想像以上にトロイ加速で、感覚的には遅い代表のBMW116iと良い勝負で、国産車ならば1.5ℓ級の加速しかない。加速感が緩慢な理由の一つにトルコン式のようにスリップによる見かけ上のシフトダウン的な効果が全くないために、より非力さが目立ってしまうのも原因と思う。 そのDCTはといえば、巡航状態からアクセルを強く踏んでも直ぐには反応せずにワンクッション置いてからシフトダウンが起きる。DCTと言う割には動作は緩慢で並のトルコンATと変わらない。しかもトルコンスリップがない分だけエンジンの非力さが目立ってしまう。 もしかして、モードスイッチがあって、これを”スポーツ”か何かにすると、行き成りハイレスポンスになるかと思ったが、そんな機構はないようだ。
乗り心地は今時珍しいくらいに硬くて常に路面からの細かい突き上げがある。またタイヤからの走行ノイズも盛大だしステアリングには常に路面の振動が伝ってくる。この振動はBMWのように路面状況を伝えるインフォメーションの役割というよりも、ただ煩わしいだけで事実振動の割には路面状況は良く判らなかった。 この硬さはそれが唯一の欠点であったVWパサートと同等もしくはそれ以上だ。まあ、これをスポーティと言うならばそれも良いだろう。 ステアリングは妙にクイックで直進中に少しステアリングを切ると、ある時点で急に反応するのは数年前に乗った旧V70を思い出す。 ベースとなっているマツダアクセラはもっと素直な操舵性を持っていたのだが、なぜこんな特性にするのだろうか。旧V70にしてもそうだが、何やらボルボの味付けと言うのは 納得がいかない?おいおい、高級車ボルボを買えないからって、悔し紛れに中傷するんじゃあないぞ、なんて言われそうだ。
ところが、やけに硬い足回りもコーナーリングと言う面ではメリットとなったようで、オーバーゲインのステアリングも結構慣れれば約に立つから、ボルボのイメージの割にはマトモなコーナーリング性能だし、駆け抜ける喜びとは言わないまでも意外にも楽しいコーナーリングの一面を見せたのは嬉しい誤算だったが、トロイ動力性能はネックとなるから、やはりマニアが喜んで買うクルマではない。 そういえば、カタログにも”駆け抜ける楽しさを体験できる・・・・”と書いてあったが、幾らなんでもキャッチコピーまでライバル(とユーザーは思っている)をパクるのは、気が引けないのかねぇ。

ブレーキは停車状態でペダルを踏むと、ムニューっと奥まで入って行くという、今時珍しいというか、大衆車丸だしだから、これはプレミアムブランドとは縁遠いフィーリングだ。ただし、パッドのμは相当高そうだから普段の街乗りならば爪先でチョンと触るだけで充分な制動力が得られ、低剛性でストロークが長いというボロは殆ど 判らないが、パニックブレーキや高速での制動には不安がある。


写真25
4気筒2ℓの新エンジンは145ps/6,000rpm 18.9kg-m/4,500rpm を発生する。このエンジンは欧州
向けとしては既に使用されていたものだ。


写真27
フロントの標準は6.5J×16ホイールと205/55R16タイヤが装着されている。

 


写真28
リアホイール&タイヤはフロントと全く同じサイズとなる。

 

V70は新型になって随分とまともなクルマになったから、V50にも多少の期待はしていたが、結果は思わしくなかった。それでもちょっとしたミニバンでも400万円に手が届くような昨今、300万円でブランド輸入車が買えると思えば飛びつくユーザーもいるだろう。その証拠に既に在庫は切れていて予約受付中、しかも値引きはゼロだとか。  

と、いうところで、これから先の結論編は、少なくともボルボオーナーおよびボルボファンには
お勧めいたしません。ボルボなんて大嫌いだ、という読者ならば楽しんでいただけるかと。


上記を了解して先に進みます