BMW M Roadstar (2008/6/7) 後編


M3(E46)より130kgも軽い1430kgの車重に対して、3,245ccにより343psを発揮するエンジンを搭載しているから、想像どおりに加速は爆発的となる。特に1速ではアッという間に回転計の針が飛び上が り、5,000rpm過ぎてからのバルブ音を主とするエンジンサウンドは正にBMWの真骨頂だ。反面、余りにも上品過ぎるという物足りなさもある。この点で もボクスター&ケイマン(特にS)の爆裂音ともいえる排気音と補記類のメカ音から発する音の洪水と、どちらを好むかというの も、これまたオーナーの好み次第となる。
ところで、Mロードスターの強烈な加速は感動的だが、どうも伸びがないと感たので、ギア比を調べてみたのが下の表だ。
 
  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    M3(E92) Mロードスター ボクスター カレラ M3(E92) Mロードスター ボクスター カレラ
    6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT
  1 4.055 4.350 3.308 3.909 15.60 15.73 12.82 13.46
  2 2.396 2.496 1.950 2.315 9.22 9.02 7.56 7.97
  3 1.582 1.665 1.407 1.607 6.08 6.02 5.45 5.53
  4 1.192 1.230 1.133 1.281 4.58 4.45 4.39 4.41
  5 1.000 1.000 0.972 1.081 3.85 3.62 3.77 3.72
  6 0.872 0.850 0.822 0.883 3.35 3.07 3.19 3.04
  R 3.678 3.926 3.000 3.594 14.15 14.19 11.63 12.38
  FINAL 3.846 3.615 3.875 3.444   *ギア比×ファイナル  
                 
  2 速度比較              
     

回転数(rpm)

  最大出力回転数(rpm)
      3000 rpm   8300 7900 6500 6800
    M3(E92) Mロードスター ボクスター カレラ M3(E92) Mロードスター ボクスター カレラ
    6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT 6MT
  1 24.3 23.8 29.5 28.1 67.2 62.7 63.8 63.8
  2 41.1 41.5 50.0 47.5 113.7 109.2 108.3 107.7
  3 62.2 62.2 69.2 68.4 172.2 163.7 150.0 155.1
  4 82.6 84.1 86.0 85.8 228.5 221.6 186.3 194.6
  5 98.5 103.5 100.2 101.7 272.4 272.6 217.2 230.6
  6 112.9 121.8 118.5 124.5 312.4 320.7 256.8 282.3
  タイヤ半径 0.335 0.331 0.334 0.335 0.335 0.331 0.334 0.335

見てのとおりで、ポルシェに比べてM3も含めて、Mは何れもローギアードな設定となっている。勿論、最大出力まで回せば、1〜2速でのMロードスターの到達速度はポルシェ勢 と同等(M3はそれ以上)だが、その時の回転数が大いに異なる。実際に街中で8000rpm近くまで引っ張る事は、心理的にも躊躇してしまい非現実的だが、6000rpm程度ならば、条件がよければ回せないことはない。要するに、ポルシェの特性の方が実際のストリートでの多くの場面では現実的な設定なのが判る。 まあ、この実用性こそがポルシェの魅力でもあるのだが。そういえば、少し前に乗った同じBMWの135iクーペもローギアードな設定で、イマイチ伸びが無いように感じたが、これはBMWのスポーツモデル全般に言えることのようだ。

この高回転型エンジンの性能を引き出すべく搭載された6MTについては、残念ながらあまり良い点は付けられなかった。シフト操作をしてみれば、スムースさに欠け 動作に引っかかりがあるし、剛性感もなくゴムっぽいフィーリングで素早いシフトが出来ないなど、魅力満点のMエンジンに対しては全くの役不足といえる。 特に2速から3速に入れる際にはニュートラル位置で確実に右に移動してから奥に押し込むようにしないと、引っ掛かってしまう。 更に悪い事に、シフトレバーの位置がステアリングから遠く、しかも後ろ寄りにあるし、レバー自体の短さがよりステアリングからの距離を遠く感じさせている。 個人的には、このシフトフィーリングだけでMロードスターを買う事に躊躇してしまうくらいにフィーリングは悪い。と書くと、どうせ買う金は無いんだろ!という突っ込みが聞こえてくるが・・・・・。これに比べれば135iクーペの6MTはフィーリングも非常に良かったから、Mロードスター の旧世代のミッションに比べて、大いに改良されたかもしれない新M3は楽しみだ。それでも、この旧式な特性は、長いノーズの古典的なスポーツカーらしいとして 、むしろ好ましいと判断するユーザーも居るかもしれない。
電制スロットルが主流となった最近では珍しいメカ式の6連スロットルは、小細工をしないからレスポンスは抜群に良い。その代わりに、クラッチをミートする時に回転を合わせるのは、全てドライバーの右足次第となるから、スムースな走りには年季が必要だし、 例のフィーリングも動作もイマイチのミッションも追い討ちとなり、このクルマのオーナーになってある程度の経験を積まないと、人馬一体には ほど遠い運転となってしまう。 それが面白いんじゃないか、というユーザーには結構楽しめるのでないか。
 

  
写真17
直6、3245ccから343ps/7,900rpmの最高出力と365N・m/4,900rpmの最大トルクを発生する、先代E46
のM3と同じ326S4型エンジン。
 

走行中に感じるボディの剛性感は、ベースのZ4(2.5や3.0)のようにオープン独特の捩れるような感じは無いが、オープン走行中にルームミラーを見ると、程度の差こそあれど、やはり像が振れているのが判る。この面でもボクスターに比べて・・・・・・おっと、この話は止めておこう。

オープン走行時の風の巻き込みは両サイドのウィンドウを上げていれば、不快な風の巻き込みは無い。以前試乗したZ4の場合はもう少し風を巻き込んだが、試乗車の場合は左右シートのヘッドレスト間に取り外し式のディフューザーが付いていたから、これが効いていたのだろう。ロードスターボティのオープン走行では、このディフューザーは必須といわれているが、今回はそれを実証する結果となったようだ。

Z4ロードスターのステアリングはBMWらしくズッシリと重めで、それでいて動き自体は極めてスムースだし、直進時にステアリング中心から僅かな不感帯を設けていて、それでいて充分にクイックというBMWではお馴染みの特性だ。勿論、Mモデルだから、足やステアリング系にも金が掛かっているだろうことは想像できる し、並みのZ4とはレベルが違うから、実際にその辺のワインディングを走ったくらいでは、限界の遥か手前しか体験できないというくらいに レベルは高かった。
と、まあ一言で片付けるのも芸が無いので、もう少し詳細なフィーリングを説明してみよう。Z4の古典的ロングノースプロポーションを見てのとおり、ドライバーはサルーンでいえばリアシートに近い位置に座っている。したがって、フロントが向きを変えた場合に自分自身は、それ程回転方向の変化を感じないのだが、遥か前方の鼻先は大きく頭を振ることになる。ところが、リアが動く場合は直ぐ後ろにあるリアアクスルの挙動は極めて敏感に感じとれる。と、まあ文章にすると何やら胡散臭いが、これは自身で乗って体験するのが一番早い。では、以前もZ4に乗っているのに、これ程までに感じなかったのは何故かと考えてみれば、そこはMモデルだけあって実際のコーナーリング速度やステアリングのレスポンスはベースのZ4より大きく上回っているからなのだろう。

乗り心地は相当に硬く、ポルシェカレラやボクスターのPASM無しよりも更に硬いくらいだ。と、言ってもポンポンと跳ねるほどではないし、ダンパーだって金が掛かっているよう だから、充分に我慢は出来る。これに比べてZ4 3.0のスポーツサス付きはもっと硬さを感じたのは、恐らくRFT(ランフラットタイヤ)を履いていた のが原因ではないだろうか。最近のBMWは全てRFTとなったが、Mモデルのみは通常のチューブレスが装着されてい 。まあBMWのポリシーとはいえ、選択の余地なくRFTを”押し売り”されるのはどんな物だろうか?

Mロードスターのホイールの隙間から覗くブレーキは、極普通の鋳鉄製シングルピストンのフローティングキャリパーで、今更言うまでもなく、これまたBMWのポリシーのようだし、そのポリシーも新型の135iクーペでは遂にBMWロゴの入ったアルミ対向ピストン(それもフロントは何と6ポット!)となったから 、近い将来は徐々オポーズド化されていくかもしれない。効き味はといえば、これもお馴染みのチョッとペダルに足を乗せただけで、ガンッと効く、カックンブレーキとも表現できそうな特性だった。確かに3や5シリーズならは、実に安全な特性ではあるが、これはマニア垂涎の高性能車であるMモデルなのだから、もう少し重くて、踏み込むに従って真綿を締め上げるように効いてくるようなブレーキのほうが、 クルマの性格に合っていると思うのだが。そして、スロットルよりも軽いくらいのブレーキ踏力の結果として、当然ながらヒール&トウは極めてやり辛い。
 


写真18
リアには255/40R18タイヤが標準装着されている。


写真19
そしてフロントは225/45ZR18タイヤが標準装着されている。
 

 


写真20
リアキャリパーは鋳鉄製のオーソドックスなピン
スライドタイプ。

 


写真21
フロントも同様の鋳鉄ピンスライドで、343psの高性能
スポーツとしては見た目だけでシラケる。
ローターは穴開だが、やけに穴が大きく、強度が心配だ。
 

 

Mロードスターのライバルは何かと考えてみれば、本文中でも度々比較したポルシェボクスターS、それにメルセデスのロードスターということでSLKを選んで見た。SLKの場合は350では 役不足とばかりにAMGを選んだが、5.5ℓの大排気量では直接の比較にはならないかもしれない。流石にこのクラスになると夫々に個性があり 、ドンピシャのライバルはいないようだ。

    BMW BMW PORSCH Mercedes Benz
      Z4 M Roadstar Z4 3.0si Boxster S SLK55 AMG

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.120 4.100 4.330 4.105

全幅(m)

1.780 1.780 1.800 1.810

全高(m)

1.300 1.285 1.295 1.290

ホイールベース(m)

2.495 2.495 2.415 2.430

最小回転半径(m)

5.3 4.9 5.2 4.9

車両重量(kg)

  1,430 1,430 1,390 1,550

乗車定員(

  2 2 2 2

エンジン・トランスミッション

エンジン種類

  I6 DOHC I6 DOHC F6 DOHC V8 SOHC

総排気量(cm3)

  3,245 2,996 3,387 5,438

最高出力(ps/rpm)

343/7,900 265/6,600 295/6,250 360/5,750

最大トルク(N・m/rpm)

365/4,900 315/2,750 340/4,400-6,000 510/4,000

トランスミッション

  6MT 6AT 6MT 7AT

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット ストラット ストラット 3リンク

セントラルアーム セントラルアーム ストラット マルチリンク

タイヤ寸法

225/45ZR18 225/45R17 235/40ZR18 245/40R18

255/40ZR18 225/45R17 265/40ZR19 245/40R18

価格

車両価格(\)

8,430,000 5,980,000 7,090,000 10,400,000

北米価格($)

52,400 42,025 55,700 63,200

BMWのカタログデーターによるとMロードスターの0〜100km/hは5.0秒で、これはノーマルカレラ(MT)のカタログデーターと全く同じで、ボクスターS (MT)の5.4秒よりも速い。 しかも新型のM3の4.8秒(クーペ)ともほぼ同等だから、Mロードスターの843万円は大いなるお買い得かもしれない。それでは135iクーペの加速性能はとカタログを調べてみたら・・・・・・無い。加速性能はカタログ値として保証されていないのだ。この辺が、幾ら1シリーズの最上級モデルでMモデルに近い動力性能とはいっても、所詮は量産車であるとの扱いであり、Mとは違うという事なのだろう。 あっ、これは別に135iをバカにしている訳ではなくて、Mモデルが如何に特別な存在かという事の証明でもあるので誤解しないでくださいね。

ところで、Mロードスターの米国価格は$52,100で、日本では1003万円のM3クーペは$56,500と、その差$4,400?M3の価格についてはアンチ BM派やら国産絶対主義者などに各種掲示板で散々批判されているが、これじゃあアンチBMでなくても一言いたくなってしまう気持ちもわかる。ただし、何度も言うように、実際には値引きを含んだ価格で検討すべきなので、一概にボッタクリとも言えないのがクルマ選びの難しさでもある。

古典的なロングノーズ&ショートデッキのZ4ロードスターの長いボンネットに旧M3用のハイチューン、6連スロットルの直6 3.2ℓエンジンを積んだMロードスターは、正に古典的なスポーツカーであり、この手が好きなドライバーには垂涎ものだが、一般的にはボクスターSに軍配が上がるだろう。世間では B_otaku はビーエムマンセイ(嫌な表現だねぇ)だと誹謗されているようで、まあ別に否定する気はないが、常連の読者諸氏ならご存知のように、B_otaku はBMW以上にポルシェが好きだし、実際にのめり込んでもいる。だから、Mロードスターとボクスター(S)となれば、どうしてもボクスターの肩を持つ傾向があるのだが、それを差し引いても、Mロードスターはマイナーなクルマには違いない。しかし、他人様が何を言おうが、Mロードスターに嵌ったユーザーには理想のクルマでもある。ただし、そんなユーザーは中古となってしまうが 、旧型であるZ3のMロードスターなんて探してみるのも一案かもしれない。Z3の足回りは3代前のE30と同じで、リアはセミトレーリングアームという旧世代の足に、基本的には同じM 社の6気筒3.2ℓを積んでいる。最高出力は325psと現行モデルと比べても多少低い程度だから、そのじゃじゃ馬ぶりは想像できる。な〜んて、旧型薦めてどうする気だ、と自分で反省。でも、200万円代の玩具としては、チョッと気にかかるのも事実。LHDの5MTのみだが、取って置きのマシンでのサーキット走行に備えて、常日頃から日常の足でもLHDのMTで体を慣らしておきたい、なんていうセレブなエンスーだったら、ポケットマネーで 中古のZ3 Mロードスターでも買ってみたら面白いんじゃあないかなぁ?

Mモデルといえば、やはり定番はM3で、今回のMロードスターがマイナー車種であったのに対して、こちらはポルシェ911と並ぶマニアの憧れ、定番モデル間違いなし。早くM3の試乗記をやらんかい!という怒りの声も聞こえてくる今日この頃。上手く試乗車を確保出来れば良いのだが。