BMW M3 Coupe (2008/7/12) 前編 ⇒後編


一見すると320i クーペと区別が付かないが、見る人が見れば何となく迫力が違う。

BMW M3といえばポルシェ911と並びマニアの憧れのクルマである事に異論はないであろう。BMW3シリーズが現行のE90(セダン)となり、日本国内で発売されたのが2005年4月。その後のバリエーション展開でクーペ(E92)が発売されたのが2006年9月で、このクーペをベースにしたM3の国内発売がセダン(E90)の発売から2年半が経過した2007年9月だった。マニアの定番M3の試乗記は多くの方から リクエスをいただいていたのに試乗車を確保できない事もあり、実現が遅れていたが今回やっとの事で実施と相成った。
初代M3は1985年にドイツ本国で発表された3シリーズ(E30)をベースとするチューニングカーで、当時のグループAのレギュレーションに適合すべき開発され、その後のツーリングカーレースで無敵を誇ったのは今更いうまでもないだろう。この硬派の塊みたいなM3も、モデルチェンジの度に大きく重くなってしまい、今ではレース用のホモロゲーションカーという 初代の思想とはかけ離れた、3シリーズの最高級&最高性能モデル的な意味づけとなってしまったようだ。
下表に歴代M3のスペックを比較してあるが、見てのとおりで、新型E92には初代E30の面影はない。

歴代M3の比較

初代(E30)
1989〜
2代目(E36)
1993〜
3代目(E46)
2001〜
現行(E92)
2007〜

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.345 4.435 4.492 4.620

全幅(m)

1.680 1.710 1.780 1.805

全高(m)

1.365 1.335 1.372 1.425

ホイールベース(m)

  2.560 2.710 2.731 2.760

最小回転半径(m)

5.9

車両重量(kg)

  1,280 1,500 1,495 1,630

乗車定員(

5 5 5 4

エンジン・トランスミッション

エンジン種類

  4 DOHC 6 DOHC 6 DOHC V8 DOHC

総排気量(cm3)

  2,302 2,990 3,245 3,999

最高出力(ps/rpm)

  195/6,750 286/7,000 343/7,900 420/8,300

最大トルク(kg・m/rpm)

23.4/4,750 32.7/3,600 37.2/4,900 40.8/3,900

トランスミッション

  5MT 5MT 6MT 6MT

駆動方式

  RWD(FR) RWD(FR) RWD(FR) RWD(FR)

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット ストラット ストラット ストラット
  セミ・トレーリングアーム セントラル・アーム セントラル・アーム 5リンク

タイヤ寸法

205/55VR15 225/45ZR17 225/45R18 245/40ZR18
  225/55VR15 245/40ZR17 255/40R18 265/40ZR18

価格

   
 

車両価格(発売当時、*消費税別)

7,480,000* 7,330,000* 7,860,000* 10,300,000

備考

    後期は3.2L,321ps    


写真1
左から初代M3(E30)、2代目M3(E36)、3代目M3(E46)。今回の新型(E92)は4代目となる。

その新型M3の実車を見た瞬間に、『流石はM3!320iとは全く違うオーラが漂っている』と思うかといえば、どうもそうでも無さそうだ。確かに良く見ればフロントフェンダーサイド後方のお馴染みのエアアウトレット (写真7)や標準とは微妙に張り出しの違うブリスターフェンダー(全幅で35mm広い)。そして、リアに回ってみれば、これまた”M”の証でもある左右各2本出しの排気管と、マニアが見れば間違いなくM3なのだが、普通の人から見れば只の3シリーズクーペと何処が違うと言われそうなのが辛い。 実は一般人が見たときの最大の識別方法は、リアのトランクリッド後端の エンブレムなのだが、巷では320に を貼るのが流行っているようで、これだと更に識別が付き難い。

このように普通の人から見れば320iクーペと区別が付かないし、ベースの3シリーズセダンは今や首都圏郊外の住宅地に行けば、それこそマークXよりも多いくらいの数が走り回っているから、世間の見る目という点ではポルシェカレラは当然ながら、ボクスター&ケイマンにも全く敵わない。事実、試乗中の周りのクルマの反応は全く無しという状況だった。
 


写真2
リアから見た320i クーペとの違いは定番の4本出し排気管。

 


写真3
3シリーズクーペの1780mmに対して1815mmと35mm広い全幅は、ブリスターフェンダーの張り出し分となっている。

 


写真4
トランクの広さは、M3のベースがセダンの派生車種であることを物語っている。

 


写真5
排気管以外の識別は”M3”のエンブレムくらいか。

 

  
写真6
V8エンジンの中心はストラットタワーの中心と一致している。


写真7
サイドから見た時のM3の最大の特徴であるフロントフェンダー後部のエアアウトレット。試乗車のように黒いボディだと識別し辛いが、白なら良く判る。

 


写真8
トランク後端には控えめなリアスポイラーが付いている。

 

試乗車の内装は派手な赤を基調としていたが、それが中々似合っていた。こういうところは、同じドイツといっても、コチコチのゲルマン感覚丸出しのポルシェやメルセデスに対して、多少のラテン系を感じるBMWとの大きな違いだったりする 。ドアを開けるとエントランスレール(他社で言うサイドスカットルプレート等)に のロゴが見える(写真9)。実は320iでもM-spには同じようなロゴが付いているのだが、こちらは となる。
リアシートも前後方向の狭さは隠せないが、大人2人が乗るにも充分なスペースがあり(写真10)、ポルシェカレラの事実上は荷物置き場という狭さとは大いに異なるし、この実用性こそがM3の魅力でもある。
フロントシートの形状は320iクーペ M-spと大きくは変わらないが、座ってみたらば320iの多少柔らかめな座面とは全く異なり、ポルシェカレラの標準レザーシート並みの硬さに驚く。それどころか、背中は左右方向にガッチリとサポートされ、3シリーズのM-spが余程大柄でないと背中が多少緩めとなるのに比べると全く異なっていた。この左右サポート 感はカレラの標準シート以上で、殆どGT-2並と言ってよい。まあ、これが良いか悪いかは、好みと体系の問題でもあろうが。
ところが後程調べてみたら、試乗車には後述するM Driveパッケージというオプションが装着されていて、その中には電動のサイド&ランバーサポートという項目もあった。という事は、電動でシートのサイドサポートを調整する機能が付いていたようだった。何と、それを知っていれば評価も変わったかもしれないが、この件は今後の課題としておこう。
シートに座って、ドアを閉めるとウィーンというモータ音と共にシートベルトが前に出てくるのは320iクーペと同じで、これは実に便利な機能だ。詳細は320iクーペ試乗記を参照願いたい。
 


写真9
オールレザーのスポーツシートが標準装備された室内。
試乗車はフォックス・レッドという派手な内装だった。

 

 


写真10
リアスペースは3シリーズクーペと共通だから、前後スペースは狭いが、大人2人が充分に座れる立派な4シーターでもある。

 


写真11
シートと共に内装の一部もフォックス・レッドのレザーを使用している。

 


写真12
試乗車のレザーはBMWとしては、シボの浅いなめし革を使用していたが、これはオプションのエクステンド・ノヴィロ・レザーを装着していた為のようだ。

 

シートを調整しようとして座面側面のスイッチに手を添えようとした時、ドアとシートの隙間が少なくて、手を入れ辛い事に気が付く (写真15)。320iクーペでは特に感じなかったので、M3のシートが外側に寄っているか、幅が広いかだろう。 M3の標準トリムはチタニウム・シャドー・トリムだが、試乗車にはブラック・レザー・カーボン・ストラクチャード・トリムという長〜い名称のオプションが装着されていた。
内装は材質、仕上げとも3シリーズの最上級仕様という扱いだが、良く見ればスイッチや操作パネル類は3シリーズそのものだったりする。その中で明らかに違うコンポーネントといえばメーター類だろう。標準の3シリーズとはデザインも異なるし、何より速度計はフルスケールが330km/h、回転計が8200rpmからレッドゾーンのフルスケール9000rpmで、更には回転計の下には油温計が組み込まれている。メーターというのは運転中に度々目に入るものだから、この部分が流石は高性能車という内容になっているのは、オーナーにとっては嬉しいものだが、1千万円超で400ps超という尋常ではないクルマを想像させるだけの雰囲気があるかといえば、チョッと物足りないのも事実である。
 

  
写真13
基本的には標準の3シリーズと変わらない室内だが、良く見ればレザーを多用するなど、高級な仕様となっている。
現在のM3は3シリーズの最高級グレード的な位置にあるようだ。
 


写真14
フルスケール330km/hの速度計と8200rpmからレッドゾーンの回転計は明らかに320と違う。

 


写真15
ドア@とシートAの隙間←→が狭いのでシートの調整スイッチ⇒の操作がし辛い。 320iではコレほどでな無かった筈だが。シート形状の違いだろうか?それともドアの厚みが違うのか?

 


写真16
試乗車はブラック・レザー・カーボン・ストラクチャード・トリムというオプションのトリムが装着されてい た。  

 


写真17
エアコンやオーディオのパネルは基本的に3シリーズそのもの。

 

インテリアも一通り見回したところで、いよいよ憧れのM3の試乗に出発しよう。
この続きは後編にて。

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