TOYOTA LAND CRUISER (2008/1/4) 


トヨタブランドで販売される国内向けは、クラウン(それも旧型)のイメージを前面に打ち出している。
このクラウン顔とともに、SUVとしてもアウディQ7と並んで、最大クラスの寸法は圧倒的な威圧感がある。

世界中で評価されていて、日本を代表するクルマとは?
レクサスLS?プリウス?いいえ、何かを忘れていませんか?
南米ペルーでのゲリラによる日本大使館占拠&人質事件が毎日中継されていた頃、大使館の駐車場に置き去りにされたランクル80。モンゴルなどの探検物に必ず出てくるランクル60。アラブゲリラの映像ではランクル70が出てくるし、そう、日本が世界に誇る車はトヨタランドクルーザー。 ついでに、ニッサンファンの為に付け加えるならば、中東戦争でイラク軍や、そのイラクを査察する国連軍が乗っていた白いニッサンパトロール(日本名はサファリ)にも触れなければならないが、こちらは最近国内販売を中止してしまった。
さて、そのランドクルーザー、通称ランクルの歴史は戦後の混乱期にまで遡る。1950年に警察予備隊(現自衛隊)向けの車両仕様が発表され、これに向けてトヨタで開発を開始したのが3386ccのB型エンジンを搭載した小型4WD車で、その名はトヨタ・ジープ。 そして1951年の入札に挑んだが、残念ながら採用されなかった。ちなみに、この時採用されたのが三菱重工が米国ウィリス社のライセンスにより生産した三菱ジープであった。 その後にジープという名称はウィリス社の商標に触れることが判明し、トヨタ・ジープはランドクルーザーと名称を変更した。この初期型のBJ型は警察予備隊の入札には不採用だったものの、警察や各種官庁、建設会社向けに生産 ・販売されて実績を残した。
2代目は1953年に発売開始された20系で、B型エンジンを引き継いだBJ20と新開発のF型エンジンを搭載したFJ20系があり、多くのバリエーションが作られた。この20系こそ、北米はもとより、中南米、東南アジア、豪州、中東、アフリカなど、世界の奥地で活躍し、「ランドクルーザー」とトヨタを世界中に広める役割を担ったのであった。
そして、今でもランクルの代名詞である40系(写真1)が1960年に発売された。40系にはバリエーションが各種あり、ベースのFJ40に対してホイールベースを145mm伸ばしたミドルホイールベースのFJ43やロングホイールベースのワゴン型ボディを装備したFJ45V、その他にも ハードトップやソフトトップ(要するに幌クルマ)などの作業用4WD車独特の各種バリエーションを誇っていた。
さらに時期的には40系と併売されていたステーションワゴンの50系があるが、実はこの50系こそが、今回の新型ランクル(200系)に繋がる上級ワゴン仕様のランクルのルーツとなった。50系の後継車である60系(写真3、1980年〜)は、 従来と打って変わったアメリカナイズされたワゴンボディを載せ、その走破力と共に従来の作業車とは一線を画した内容から、国内でもマニア憧れの高級4WD車として高い人気を誇っていた。勿論、多くが海外にも輸出されて、報道用や大使館、政府高官の辺境地への視察用など、多くの用途に使用されたのは、当時の海外ニュースや特派員だよりなどでもお馴染みだったので、写真3を見て、ああ、あれっ、と思い 出す読者も多いと思う。
そして、世の中はバブル時代。 真打でもある80系(写真4)が発売されたのは1989年。エクステリアは丸みを帯びて、内装は豪華絢爛。しかも足回りには60系の板バネからレンジローバーやゲレンデワーゲン、そして商売敵のニッサンサファリなどと同じコイル式のリジットとなり、 長大なサスストロークを得て、ライバルの走破性に追いついた。時代はバブルの真っ最中で、本来は役場や消防署で使うような大型の4WDを一般市民がファミリーカーとして買うという、今からは信じられない現象が起こっていた。ブームの発端はといえば、やはり三菱のパジェロだろう。パリダカの戦果を上手く使った販売戦略により、小型ボンネットトラックベースの4WDバンに豪華装備を 付加して、総額400万円近い価格で売ったのだから、笑いが止まらなかったに違いない。当時の小金持ちのユーザーはパリダカのイメージから、パジェロというクルマがスポーツカー並みの動力性能と操舵性能をもつ、全く新しい 万能車だと勘違いしたようだ。しかし実際に売れたパジェロの多くはディーゼルエンジン仕様だったために、 軽自動車に煽られえる程の動力性能に、納車されてから気が付いた等という笑い話のような実話も結構あったようだ。何時の世にも本格的なものに憧れる人はいる物で、そんなブームの中で、本物のオフローダーを欲しいという気持ちから、海外の未開地で活躍するランドクルーザー、それも単なる作業車ではなく高度の走破性を持つ80系が、マニアのみならず、本物志向の金持ちのステータスとなり、当時は80系の納期といえば半年以上は当たり前で、中古車ショップには新車より高い値札を付けた、新品同様のランクル80が並んでいたものだった。

ところで、この本物志向というのは、どんな物にもあるが、取り分けクルマの場合は単たる市販車では飽き足らずに、特殊な用途のプロ用を欲しがるマニアは多いし、それがステータスとなって、金持ち達の憧れになるようだ。ランクルのようなオフローダーのブームはバブル崩壊と共に消え去ってしまったが、オフローダーとともに昔からメジャーなのが、レーシングカーのストリートバージョンである。このカテゴリーについては、近い将来取り上げたいと思っているので、今回はこれ以上触れないことにする。

話をランクルに戻して、80系の次の100系(1998年〜)に進化した時点で、フロントが独立懸架となった。えっ?今時、フロントがリジットアクスルだったなんて!と驚く読者も多いだろうが、実は本格的にオフロードを走るには、4輪ともリジットアクスルが望ましいのだ。なぜかといえば、左右の車軸もデフも繋がっていることで、左右のストローク差を 極めて大きくとることが出来るので、極端な凸凹道、というよりもモーグル状の極悪路を走破するのに向いている形式だからだ。ただし、4輪リジットは旋回性能では当然に劣るので、オンロード走行の機会が多くなってしまったランクルのようなクルマではデメリットのほうが大きくなってしまったのも事実。ただし、100系の場合は輸出仕様ではフロントにリジットアクスルを残したモデルもあった、というよりも、こちらがベースモデルだったようだ。 100系の国内販売では、その後フロントグリルや内装を北米でレクサスブランドで販売されていたLX相当のシグナスも併売された。

そして、今回の200系へと進化した訳だが、ここで気になるのはレクサスLXとしての国内販売はどうなのかということだろう。米国では既にトヨタブランドで200系が販売されている。それに大して米国のレクサスLXは未だ旧型(100系)になっているが、これはトヨタブランド(ランドクルーザー)が2008モデルになったのに対して、レクサスは 未だ2007モデルのためであろう。それよりも気になるのが、2007のLX470が$62,811であるのに対して、ランドクルーザーは$63,200で、幾ら新型と旧型とはいっても、価格的に差がない。と、いうことは国内でLXを売る場合はどうするのだろうか?日本国内のみレクサスブランドのLXは併売のトヨタブランドに御もてなし料を上乗せするのだろうか?官公庁向けの納入が多いランクルの場合は、トヨタブランドの国内販売を止める訳にはいかないのだろう。確かに、機動隊の警備車や道路公団のパトロールカーをレクサスの御もてなし価格込みで売る訳にはいかないという、マンガ的な状況があるのは大いに笑えるし、国内でのレクサスブランドの展開の矛盾をさらけ出すことにもなってしまう。

ところで、年々豪華路線を歩んでいるランクル60⇒80⇒100のラインとは別の、本来のオフロード用作業車両である、言ってみれば40系からの直系はといえば70系(写真2)となる。この70系にはショートとロングの両方のボディが用意されていて、ロングバンに豪華装備と乗用車系のエンジンを載せて、フロントサスも独立懸架としたのが70プラドと呼ばれるシリーズで、その後はハイラックスと共通化により現在のプラドとなった。


写真1
ランクルの代表作でもある40系(1960〜)。
世界中に輸出されてトヨタの知名度アップにも貢献した。如何にもオフロード作業用という、プロの雰囲気がムンムンしている。

 


写真2
40系から進化した70系は、本来の不正地作業に徹した正当派のオフローダーで、このワゴンバージョンにはプラドというサブネームが付いていた。

 


写真3
ランクル60系(1980〜)
このモデルからは旧来のランクルから分かれてフラッグシップモデルとして別路線を歩き始めた。ランクルといっても40⇒70系とは別の世界でもある。

 


写真4
バブル時代の象徴でもあるランクル80系(1989年〜)。写真のカラーは上級車に限定のオプションカラーだが、そのセンスの悪い中東カラーは通称ウルトラマンと馬鹿に されていた。見意味な社外品のオージーバーが当時を思い出す。

 

以上、駆け足でランクル200のルーツについて述べてみた。 本当はもっと、もっと書きたいことがあるのだけれど、今回はこの位にして本題に入る事にしよう。

このようなルーツを知れば、ランクルのライバルといえばレンジローバーやGワーゲンとなるのが判るだろう。 少なくともオフロードユースを第一に考えられた最近のSUVとは目的が違うクルマだから、直接比較すればオンロード性能で多少劣るのは当然でもある。

    TOYOTA PORSCHE Mercedes Benz BMW X-5 AUDI Q7
      LAND CRUISER Cayenne S G55 AMG 4.8i 4.2 FSI quatrro
寸法重量乗車定員
全長(m)   4.950 4.810 4.530 4.860 5.085
全幅(m) 1.970 1.930 1.860 1.935 1.985
全高(m)   1.880 1.700 1.950 1.765 1.740
ホイールベース(m) 2.850 2.855 2.850 2.935 3.000
最小回転半径(m) 5.9 6.2 6.4 6.0
車両重量(kg)   2,500 2,420 2,500 2,250 2,350
乗車定員(   7 5 5 7 7
エンジン・トランスミッション
エンジン種類   V8 DOHC V8 DOHC V8 DOHC SC V8 DOHC V8 DOHC
総排気量(cm3)   4,663 4,806 5,438 4,798 4,163
最高出力(ps/rpm)   288/5,400 385/6,200 500/6,100 355/6,300 350/6,800
最大トルク(N・m/rpm) 448/3,400 500/3,500 700/4,000 475/3,800 440/3,500
トランスミッション   5AT 6AT 5AT 6AT 6AT
サスペンション・タイヤ
サスペンション方式 ダブルウィッシュボーン ダブルウィッシュボーン リジットアクスル ダブルウィッシュボーン 4リンク
  リジットアクスル マルチリンク リジットアクスル インテグラル・アーム ダブルウィッシュボーン
タイヤ寸法 285/60R18 255/55R18 285/55R18 255/55R18 255/55R18
  285/60R18 255/55R18 285/55R18 255/55R18 255/55R18
価格
  車両価格   5,400,000 9,270,000 17,030,000 9,700,000 9,450,000

上の表でランクルとG55の車両重量がライバルに比べて重いのに気が付くだろうが、実は、この2車はラダーフレームのセパレートシャーシーを持っている。しかもランクルはリア に、G55は前後のサスにリジットアクスルを採用している。勿論理由は極悪路の走破性と、強靭な耐久性。更には軍用や警察、その他各種の特装車への展開の容易さもセパレートシャーシーの採用理由がある。

ここで、上表でエンジン出力をライバル各車と比較すると、何とランクルは一番低いではないか。実は新型ランクル200のエンジンは同じトヨタのV8でも旧セルシオやマジェスタなどの乗用車系とは別系統で、先代のランクル(100系)用エンジン(2UZ−FE)をベースに吸気側へのVVT−i(可変バルブタイミング)採用により 、53psのアップを実現しているから、新型はそれなりに改良されていることになる。
では、なぜライバルより出力が低いかといえば、ランクル本来の極悪路での超低速走行を視野にいれて、アイドリングに近い回転数から十分なトルク(左表参照、約370Nm/1100rpm)を発生するという、実用主体のエンジンの為であり、スペック重視のトヨタとしては極めて異例なのも、このクルマが今でも本来は未開地での ヘビーディーティーな使用を前提としているからに他ならない。

では、実車を見てみよう。ドアを開けると、背の高いSUVとしても一際高いフロアーが見える(写真6)。ランクルは乗用車のプラットフォームを流用した軟弱なSUVと異なり、ごっついラダーフレームを使用している。 実はランクルにしてもサファリ(パトロール)にしても、そのルーツは中型トラックのフレームを短くストレッチしたような構造で、新型ランクルも当時からの伝統を守っているから、フレームの強度は日本国内での使用を考えると極端なオーバースペックでもある。
今度は後部に回ってリアのバックドアをみれば、日本車としては珍しく上下に開く(写真7)方式で、その昔は米国のフルサイズステーションワゴンに多く採用されていた方式でもある。この方式は重量物を積むようなヘビーユースの場合は下のドアが邪魔になり、決して使い良くは無いために、80系までは観音開きもラインナップされていた。しかし、80系では上級クレードに観音開きは無く、全て標準ボディとなるなめに、オーバーフェンダーの付いたワイドボティ+観音開きというのがマニアの憧れだった。と、いうのは一般には販売されていないこの仕様は、黄色に白線をあしらった首都高公団のパトロールカーには特別仕様として納入されていたのだった。オマケにこの首都高公団仕様は黄色いボティにオーバーフェンダーは黒という凝りようで、そのカッコ良さは格別だった。ただし、確かモデル末期の80系には限定仕様としてワイドボティと観音開きリアドアの組み合わせが発売された記憶がある。


写真5
80時代にはリアに馬鹿でかいスペアタイヤを背負うのが流行ったが、最近は殆ど見なくなってしまった。排気管が見えないのは、急勾配で路面に当たらない為と、水没対策で目いっぱい高い位置につけるからだ。

 


写真6
シート位置が高いSUVの中でも、ラダーフレームのランクルは、床の高さは半端ではない。

 


写真7
リアドアは昔の米国製ステーションワゴンのような上下開きとなっている。
この巨大なボディでもサードシートを出すと荷室のスペースはいくらも残らない。


写真8
リアスペースは流石に広い。
写真はベースグレードのファブリックシート仕様。

 


写真9
床から高いシート座面は足を直角に下ろすような姿勢で座る。写真はレザーシート。

 


写真10
サードシートは子供用か、緊急用程度のスペースしかない。

 


写真11
レザーシートは国産車には珍しく、厚くシボの深い表皮を使っている。

 

新型ランクルの外観は言ってみればキープコンセプトで、大型のSUVというより、フルサイズのオフロード車というべきだ。そして、バリエーションは標準グレードのAX(470万円)と、AXに対してパワーレザーシートやKDSS(キネティックダイナミックサスペンションシステム)などを追加装備したAZ”Gセレクション”(540万円)がある。
試乗車は上級モデルのAZ”Gセレクション”で、オプションとして
HDDナビゲーションシステム(約53万円)を装備していたから、車両総額は573万円となり、総額は600万円を超えてしまうだろう。買い得とはいっても、決して誰でも買える金額ではなさそうだ。

先ずはドアを開けて乗り込もうとした時に、フロアの高さが高いことは既にのべたが、この高い運転席には、試乗車の”Gセレクション”に標準の8ウェイパワーレザーシートが装着されていた。レザーの表皮はレスサス各車のような表面が平らななめし革とは 異なり、BMWのような深いシボがある厚い表皮が目に付く(写真11)。シートの座り心地は国産としては最高の部類で硬さも適度だし、約1時間半ほど連続して運転したが腰が痛くなるようなことはなかった。ただし、レザーの表皮は多少滑りやすい傾向がり、これ はちょっと気にはなった。
ランクルの内装はトヨタの高級車として十分な質感があり、旧セルシオや現行ならマジェスタクラスの内装となっていて、伊達に500万円を超える車両価格ではない事を主張している。ダッシュボードも当然ながら指で押せば凹むパッドになっているし、プラスチック部分の表面も質感が高い。また、ATセレクターのベースプレートも安物のクルマとは違い、メッキの質感にも高級感がある。

ランクルの後席も流石に広々としているし、リア専用のエアコンコントロールパネルもある(写真20)から、ショーファードリブンで使用するにも問題は無い。実際に国内でも、高級官僚や国務大臣、大企業のトップなどが山奥の大規模開発現場を視察するなどという時には、ランクルは実に適したクルマでもあるし、そういう用途も実際に多いだろう。それでは、3列目のシートはといえば、これは多くのライバルと同様に子供用か、 短時間の緊急用と割り切ったほうがいいようだった。

ランクルといえば脳裏に浮かぶのが、国内での盗難ナンバーワンという事実だろう。今現在は判らないが、チョット前まではダントツの盗難率最高のクルマだった。何しろ、ランクルといえば海外、特に東南アジアや中近東など日本からの盗難車を捌くには最高の土地で、人気抜群だから、窃盗団が狙わない訳が無い。しかも、80は当然、100系も初期型ではセキュリティーのレベルが極めて低く、簡単に盗まれてしまったから、窃盗団にとっては最高の獲物だった。流石に新型の200系は、予期しないエンジン始動(ACC-ON)をG-BOOKセンターが検知した場合に、サポートアドレスへメールで通知し たり、車両が盗難にあった場合、ユーザーの要請に基づいて、オペレーターが盗難車両の位置情報を追跡、さらに警備員を現場に派遣するという、強力なセキュリティシステムを採用しているようだから、窃盗団も諦めざるを得ないだろ う。



写真12
トヨタ製高級サルーンと変わらぬ豪華な室内。ゴム長靴を履いてで泥んこ道を走るのに全く向かない。
トヨタ車の中でも質感は最高の部類で、出来もすこぶる良い。


写真13
一目でトヨタの高級車と判るオプティトロンメーター。燃料、水温に加えて電圧、油圧の各メーターが付いているのが他の高級車と違うところだ。本来の用途では、これが必要な場面もあることを意味する。

 


写真14
左上はパワーモード、左下はセカンドスタート時の表示。右はATポジションと瞬間燃費などを表示するセンターのディスプレイの例。

 


写真15
ATセレクターの質も極めて高い。左の細長いパネルは上部が極低速走行クロールコントロール、下がATのモード切替スイッチ。

 


写真16
ナビやエアコンの操作パネルも、トヨタの高級車としての上質感に溢れている。

 

エンジンのスタートは当然な がら最近の流行であるインテリジェントキーとスタートボタンの組み合わせで、キーを所持して(またはコンソールなどに転がして)、ブレーキペダルを踏みながらダッシュボードのボタンを押すとエンジンが始動する。トヨタのV8エンジン搭載車といえば、真っ先に脳裏に浮かぶのがセルシオ(現レクサスLS)やマジェスタのような、本当にエンジンが掛かっているのかと回転計を確認する程の無振動のアイドリングだが、 ランクルの場合はそれ程ではなく、多少の振動を伴う。特にセレクターをDに入れて、ブレーキでクリープを抑えていると、ステアリングとブレーキペダルに僅かな振動を感じるのもトヨタV8の概念とは異なる。以前に比べれば豪華に変身したとはいえ、このクルマの本質は極悪路を走破可能な、本物 のオフローダーの血筋だから、前述したフラットなトルク特性を重視して最大出力を抑えたり、エンジン自体が耐久性や悪路での酷使を前提としている点は大いに考慮が必要だ。

このクルマにはATのECTモードスイッチ(写真17の下側)が付いている。このスイッチはシーソー式でノーマル位置から左を押すとPWRに、右に押すと2ndモードになるが、このスイッチ のストロークが小さく、思ったポジションを上手く選びにくいなど使い辛い面がある。最初は中間のノーマルに設定すると、 アクセルを静かに踏んだ後はトルコンがスリップするような感じで即座に発進せず、そこでチョッと多目に踏むと、巨体にも係わらずに飛び出すように発進し、スムースなスタートには慣れを必要とする。 次に右に押す2nd発進モードでは、スムースというよりもトロい点ばかりが目だってしまう。欧州車のATは2nd発進が常識的だが、 これらは違和感無く発進するのに対して、ランクルの場合は緩慢さばかりが目立つ。国産のATは今や世界レベルに達している筈なのに、このクルマに限っては、スリップの多さというか、ダイレクト感の欠如というか、あまり出来が良いとはいえないようだ。

そこで、今度は停止からATをPWRモードにしてフルスロットルを踏んでみると、エンジンはスタートから勢い良く回り、レッドゾーン手前でシフトアップをしながら、この巨体を適度な速さで加速する。が、これも怒涛の加速ではない。とは、言っても、大型SUVとしてなら十分で、これに勝つのはカイエンならばS以上、 X−5ならばV8版というところで、圧倒的な差を付けるにはカイエンターボやAMG55などという、お値段1500万円級かそれ以上のSUVとなるから、500万円チョイのランクルとしては抜群のコストパフォーマンスであることは間違いない。
こんな状況だから、怒涛のV8パワーを想像すると肩透かしを食らってしまうが、このクルマの本来の舞台でもある中東の砂漠などでは渋滞の中での発進停止や、信号機だらけの交差点で青と同時に少しでも速く速度に乗りたいなんていう事も必要ない訳で、このクルマを日本の都会で使うのが間違っている のもまた事実だ。

ランクルが高級SUV化してしまった現代でも、シッカリと本格派の面影を残しているのが、駆動系に組み込まれた副変速機の存在だ。極悪路を超低速で走破するには通常の1速でも速すぎるし、大きな突起や岩の欠片を乗り越えるには更に強力なトルクを必要とする。こういう場合のために、オフロードカーの駆動系には主変速機(通常の変速機、ランクルの場合は5速AT)の出力側に更に高低2段の副変速機を付けている。普通、この副変速機の出口には、駆動力を前後に配分するメカも組み込まれ、これらを合わせてトランスファーと呼んでいる。本来オフロード用4WD車は通常はリア2軸駆動で走行し、 いざとなったらフロントにも駆動するパートタイム式が主流だったが、この方式では舗装路では只のRWDとなってしまい、トレーラーなどを引く欧米的な使用では駆動力不足 なる弱点があった。そこで、前後のプロペラシャフトにデフを介することで、前後の回転差を吸収する、フルタイム4WDが主流となってきた。が、良いことばかりではない。デフがあるために極悪路で1輪が空転すると、その軸に駆動力が偏ってしまい、反対側の車軸はタイヤが接地しているにも係わらず、駆動力が伝わらない事態となっていまう。この様な状況を抜け出す為に、本格的なオフローダーはセンターデフロックを装備している。
それでは、ランクルの場合はというと、当然副変速機は装備されていて、ダッシュボード上の回転スイッチで切り替えられるし、その右側にはセンターデフロックスイッチもある(写真18参照)。 ランクルは40系の時代からトランスファーの切り替えをダッシュボード上のスイッチで操作できるのが特長だった。これに対して、三菱ジープはMTのシフトレバー(3速MT)とハイ/ローの切り替え、そして2WD/4WDの選択のために3本のレバーがフロアから生えていて、これが何ともメカメカしくもあり、マニアックでもあった。サファリの場合は極最近までシフトレバー(MTの場合は5速)と副変速のハイ/ロー および2WD/4WDの切り替えを1本のレバーにまとめたトランスファーレバーの2本がフロアから生えいるため、ランクル80(当時)などに比べるとマニアックな雰囲気では勝っていると感じたものだった。

では、欧州のライバルはといえば、一見舗装路専用のスポーツ仕様にも思えるポルシェカイエンはしっかり副変速機を装備しているのは流石だ。しかもカイエンは車高の調整がスイッチ一つで可能で、悪路では車高を上げて路面との干渉を有利にすることが出来る。この辺の拘りは流石にポルシェのポリシーだろうか。そして、恐れ入るのがG55で、副変速機 やセンターデフロックは言うに及ばず、前後のアクスル(車軸)のデフも夫々別にロックが出来る。ランクルでは、2輪が浮く対角スタックでは、どうにも成らないが、アクスルデフロックを使えば脱出できる。 ただし、以前のランクルにはオプション設定されていたのを覚えているから、新型でも装着できるかもしれないし、海外仕様には間違いなくオプションがあると思われる。


写真17
ATセレクター左の細長いパネルは上部が極低速走行クロールコントロール、下がATのモード切替スイッチ

 


写真18
エンジンスタートボタンの下は、副変速機の切り替えスイッチ。右に回しL4にすると、副変速機がLoになり、極悪路の走破用として速度が半分に、トルクが倍になる。右のスイッチはセンターデフロックで、1輪が浮いた時(3点接地)反対側の車軸のトルクが逃げないように、デフをロックする。副変速機とセンター デフロックを持たないSUVは本格的な悪路走行は不可能だ。

 


写真19
ダッシュボード右端に並んだ操作パネル。最下部はECTのユニットだが、カードを入れておくと外から見えるのが防犯上で不安となる。

 


写真20
まるでショーファードリブンカーのごとくリア用のエアコンコントローラを装備している。実際に、ゼネコンのトップや国交省の高級官僚などが山奥の建設現場に視察するときはランクルの出番となる。

 


写真21
V型8気筒、4.7ℓエンジンは288ps/5400rpmの最高出力と4480Nm/3400rpmの最大トルクを発生する。
このエンジンはセルシオ/レクサスLS等とは異なるオフロード仕様で、低回転と耐久性を重視している。

ランクル80等オフローダーは凹凸の激しい路面でもタイヤが十分に追従するように、サスのストロークが一般のクルマに比べると極端に長く、そのストロークは軽く数十センチを超えていた。このために、舗装路では如何しても大きなピッチング や旋回時のロールを許していた。まあ、言ってみれば不正地専用車なのだから、舗装路での安定性がイマイチでも当然という事だった。ところが、最新の 国内向けのランクルは不正地での使用などは全く考慮されていないようだ。そのメリットとしては、旧来のオフローダーに比べて大幅に安定した挙動があり、試乗車も走行中のピッチングなどは殆どなかった。この点では前回試乗したアウディQ7のユラユラとボンネットが上下するのが判るような挙動に比べると、フラットな走行では勝っているが、表現を変えれば、クルマのイメージにからすると、意外に乗り心地が良くないと感じる。そして、ピッチングは無い代わりに路面の段差やうねりが大きな場合はクルマ全体が上下する。スポーツカーのように低い重心と着座位置なら問題ないが、ランクルのように高い着座位置で、クルマ全体が上下し、さらには多少左右に揺れるのを感じるのは、重量車のイメージと異なり違和感がある。同じスポーツカー的な挙動でも実に違和感がないカイエンSと比べると、今後の改良を期待したくなる。タイヤはどのグレードも前後とも285/60R18タイヤ+18×8Jアルミホイールを装着している(写真24)が、パターンを見る限りはオンロードに振ったもので、精々オールシーズン程度だで、本格的なオフロードパターンのタイヤを標準装着したG55とは大いに異なる。 となると、あんな不利なタイヤを履いて、しかも、4輪リジットアクスルを採用しているのに、舗装路であの大パワーのAMGエンジンに負けることなく、結構マトモな安定性を示したG55の完成度の高さにもあらためて溜息がでる。

ランクルのステアリング特性は想像していたとおりに緩慢だが、それでも遅すぎて怖いこともなく、エスティマ等のミニバンと同程度だから、大型SUVとしては特に不満は出ないだろう。ただし、相手がX−5やカイエンとなると旗色が悪い。まあ、そのトヨタ的なフィーリングが嫌ならば、BMWやポルシェを買うしかないのはサルーンとて同じだから、今更言うまでもない が・・・・・。 ただし、欧州製の大型SUVでもアウディQ7のステアリングのトロさはランクル以上と言いたくなる程だったから、これはメーカーとして、車種として、どういうコンセプトにするかで決まる ようだ。
ランクルの場合は特に交差点の左折など、直角に曲がる時にステアリングホイールをグルグルと何回も回さなくてはならない事に気が付く。普段スポーツタイプでギア比がクイックに設定されているクルマに慣れていたりすると、思いの他大回りになって、最悪交差点内での切り返しという何とも恥ずかしい事態になる可能性すらある。そういえば、サファリも左折時にはフルステアで曲がる必要があったのを思い出した。ところが、走行時はランクル以上にトロいステアリングだったアウディQ7で左折する時は、これ程にはステアリングを回さなかった記憶があるから、恐らくQ7はフルステアに近くなるとクイックになるバリアブルレシオを採用しているのだろう。 それではランクルはといえば当然ながらバリアブルレシオのステアリングギアを採用しているのだが、ランクルのこの特性を贔屓目に見れば、極悪路では超低速でのクローリング時に、フルステアに近い付近でもシビアな操作を要求される用途を考慮しているのかもしれない。


走行中に2度ばかり、ポーンという警報音と左前方クリアランスの警告が音声とディスプレイ表示された。最初は一瞬状況が判らなかったが、その3秒ほど後に原チャリバイクが左の隙間をぬって前に出てきた(写真23)。なるほど、これは便利だ。いくら運転中は後方確認の義務があるといっても、路肩との狭い隙間を強引に、しかも結構な速度ですり抜けようとする無知なバイクは、よほど気を付けていても一瞬で近づかれてヒヤッとすることもあるから、この機能は実に有用だった。

アルミホイールから覗くブレーキは、その形状からフロントに対向4ピストンのキャリパーを搭載しているようだ。リアにはフロントに比べて随分小さく、しかも鋳鉄製の1ピストンのフローティングキャリパーがついていた。この巨体からすると、まるで大衆車の上位グレードの4輪ディスク車に付いているような、チャチなリアキャリパーには疑問が残るが、恐らくリアの荷重配分が少ないのだろう。すなわち、V8エンジンや大トルク用のトランスファーなどの重量物がフロントに集中するため、 相当なフロントヘビーなのだと推定される。そのブレーキの効き味はといえば、最近進歩の著しい国産車のブレーキとしては、踏み始めのストロークが長く、しかも効き始めの位置からの剛性感にも乏しい。このフィーリングはパッドの精度が悪いか、キャリパーの精度と剛性が低いような気がする。しかも、踏力が大きく、緊急時の急制動には結構な踏力を必要とする し、その重さもポルシェのように重いなりにもリニアに効くのと違い、なんだか一生懸命踏んでいるのに車は止まらずスーッといってしまう感じで、何やらドライバーを不安に落し入れそうだ。とは、いっても通常走行なら大きな危険はないし、数年前の国産SUVならコンナ物だったから、ボロクソ言う程でもないが、ライバルに比べて見劣りがするし、現行のハリアーなどはもっと良く効くから、いくら重量がハリアー/クルーガー(もう無いが)より 重いとはいえ、最上級のランクルが自社内のランクの落ちる車種よりブレーキの効きで劣るのは何とも承服できない面でもある。


写真22
広い車幅は隣の車線が大型バスの場合は、お互いの隙間はギリギリでランクルのミラーとバスの間は20cmがやっと。


写真23
左の狭い隙間を強引に突進してくるバイクをクリアランスソナーが確実に捕らえた。

 


写真24
前後とも285/60R18タイヤ+18×8Jアルミホイールを装着している。全グレードで同じサイズ、同じホイールを使用している。

 


写真25
フロントキャリパー(左)は対向4ピストンのようだ。リアは鋳物のピンスライドで可也小さいことから、クルマとしては相当なフロントヘビーなのだろう。

 

昨年から始めたSUVの試乗記では、本編で扱った国産車はなく、全て簡易試乗記で取り上げたのみだった。 今回のランクルは現在国内発売されているSUV系では唯一、カイエンやX−5などと対等に比較できるレベルのクルマだから、多くの読者が、それなりに興味あると思う。ランクルは昨日今日のブームで出てきた2匹目のドジョウ狙いではない伝統を持つという面では、 カイエンもX−5も全く寄せ付けないものがあり、歴史的にはランドローバー(レンジローバー含む)とメルセデスGクラスくらいしか対抗馬といえないし、更にはそれらとも違う独自の進化をして来た点では、全くライバルが不在でもある。 80時代に比べると先代100系あたりからは、悪路走行車というよりも、豪華SUV路線に振ってしまった新型ランクルでもあるが、こうして乗ってみれば、やはり悪路での作業車という出生は隠せないし、それがまたマニアにとっては魅力でもあるのだが、Gクラスと同様に、その歴史も内容も全く理解できない金持ちが、単なる 見栄の小道具として使用している例があり、何か悲しいものがある。80時代には、中南米の道無き道を探検するようなイメージを夢に描いて、国内では全く無用の長物であるランクル(やサファリ)に、更に使う 機会のないウインチやアクスルでフロックなどの極悪路走破用装備を付けて、自己満足に浸るマニアもいたが、今回の新型ランクル(200)を見ていると、既にそういう用途での購入もなさそうだ。となると、ランクルの存在意義は何なんだと疑問にもなるが、それでも国内で買えるとう事実は、マニアにとっては有難い気もする。
実はこの試乗記を書くにあたって、本来の作業車のラインでもある70系を調べてみたら、既に国内では販売していないようだった。それではと、豪州での販売状況を調べてみたらば、200系は 日本国内と同じような豪華仕様で、本当に作業用としての用途は・・・・・・ありましたよ!70系が。それもディーゼルの4.5ℓ、V8の自然吸気エンジンで、これぞオフローダーという奴が。まあ、この話は、これぐらいにしておこう。

世界の果てまで知れ渡ったオフロードの高級車。大統領も大実業家もゲリラも乗っている、本物志向の高級オフロード車が総額でも600万円以下で買えると思えば、買い得感は十分ある。スポーツカー顔負けの乗り味はないが、人によっては、何やら完全に場違いなものをドライブしているという珍しさでは十分に満足が得られるだろう。それに高速道路を100km/h+αで巡航するには、実に平和な移動を可能にするから週末の別荘へ向かうリゾート特急としても最適だ。ある面では、MBやBMWのサルーンは勿論、X−5辺りと比べても決して引けを取らないこの車、買う価値は十分にある。だがしかし、成金の集まりに500万のクルマでの出席では、911ターボやSL6 5で来る友人に馬鹿にされるという状況では、やはりG55かカイエンターボがベストセレクションには違いない。ここはひとつ、ランクルベースの超豪華な高級仕様を国内レクサスブランドで導入して、1000万円以上とすれば、ユーザーは成金仲間にも顔が立つというもんだ。トヨタさん、考えてみたらどうですか?えっ、既に企画中ですか?