NISSAN FUGA 450GT (2007/9/30)
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外観上は250や350との区別はつかない。
試乗車のブラックは実際に、このクルマの用途からしたらメジャーなカラーでもある。
価格は554.4万円 |
日産のEセグメントセダンであるフーガは米国ではインフィニティMとして、それなりの人気を保っている。フーガについては既に250GT(04年10月)と350XV(05年2月)に試乗しているが、最上級グレードの450GTは未体験だった。今回、偶々試乗の機会があったことで、タイミング的には遅すぎの感もある
(なんと東京モーターショーにはMCモデルが出品されたから、近々旧型になる!)が、V6モデルとの比較とライバルであるクラウンマジェスタとも比べながらの試乗記とする。
フーガはV6モデルでは、スポーツ志向のGTとコンフォート志向のXVの2系統がラインナップせれているが、450の場合はGTのみとなる。まあ、GTとはいっても、決して走りを追求するクルマではない。それどころか、V6モデルが個人ユーザーも結構存在するのに比べて、V8の450は殆どが法人需要だろうし、場合によっては大手企業の役員車としてショーファードリブンとしても使われるだろう。
450GTのエンジンはV8、4.5ℓのVK45DEで333ps/6400rpmの最高出力と455Nm/4000rpmの最大トルクを発生する。
グレードは2種類あり、今回試乗した450GT(554.4万円)と450GTスポーツパッケージ(567万円)で、大きな違いはスポーツパッケージが19インチタイヤ&ホイールを装着している程度だ。
外観上でV6モデルと見分けるには、ホイール(V6でもオプションでつければ同じ)と左右各2本の排気管(V6は左右各1本、そしてトランクのエンブレムくらいしか思いあたらない(写真1)。このリアスタイルをライバルであるマジェスタ(写真2)と比べてみると、一言でいえばスポーティなフーガとエレガントなマジェスタとなる。
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写真1
左右各2本の排気管に気が付かなければ、あとは450GTのエンブレムが識別点となる。 |
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写真2
ライバルのクラウンマジェスタ。フーガのスポーティーなイメージに対して、こちらは高級感を強調している。 |
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国産車でマジェスタ以外にEセグメントのV8モデルを探してみると、同じトヨタのレクサスGS430があるが、それ以外となると、レクサスLSはセグメントが違うし、ホンダレジェンドはV6ということで、意外に
ライバルがいないことに気が付く。これら国産V8ライバルと、定番でもあるメルセデスEクラスとBMW5シリーズを加えて基本諸元を比較すると、以下の一覧表となる。Eクラスの場合は現行V8となると5.5ℓだから、同一クラスとして比較することには無理がある。BMWの場合はE550に相当する車種は無く、V8は4ℓ(540i)と4.8ℓ(550i)があるが、今回は他車とスペックの近い550iで比較してみた。
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ニッサン |
トヨタ |
レクサス |
メルセデスベンツ |
BMW |
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フーガ450GT |
クラウンマジェスタ |
GS430 |
E550 |
540i |
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寸法・重量・乗車定員 |
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全長(m) |
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4.900 |
4.975 |
4.830 |
4.880 |
4.855 |
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全幅(m) |
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1.795 |
1.795 |
1.820 |
1.820 |
1.845 |
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全高(m) |
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1.510 |
1.465 |
1.425 |
1.465 |
1.470 |
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ホイールベース(m) |
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2.900 |
2.850 |
2.850 |
2.855 |
2.890 |
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最小回転半径(m) |
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5.60 |
5.30 |
5.20 |
5.30 |
5.70 |
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車両重量(kg) |
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1,770 |
1,670 |
1,700 |
1,820 |
1,810 |
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乗車定員(名) |
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5 |
5 |
5 |
5 |
5 |
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エンジン・トランスミッション |
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エンジン種類 |
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V8 DOHC |
V8 DOHC |
V8 DOHC |
V8 DOHC |
V8 DOHC |
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総排気量(cm3) |
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4,494 |
4,292 |
4,292 |
5,461 |
4,798 |
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最高出力(ps/rpm) |
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333/6,400 |
280/5,600 |
280/5,600 |
387/6,000 |
367/6,300 |
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最大トルク(N・m/rpm) |
455/4000 |
430/3,400 |
430/3,400 |
530/4,800 |
490/3,400 |
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トランスミッション |
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5AT |
6AT |
6AT |
7AT |
6AT |
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サスペンション・タイヤ |
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サスペンション方式 |
前 |
ダブル
ウィッシュボーン |
ダブル
ウィッシュボーン |
ダブル
ウィッシュボーン |
4リンク |
ストラット |
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後 |
マルチリンク |
マルチリンク |
マルチリンク |
マルチリンク |
インテグラル・アーム |
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タイヤ寸法 |
前 |
245/45R18 |
215/55R17 |
245/40R18 |
245/40R18 |
245/40R18 |
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|
後 |
245/45R18 |
215/55R17 |
245/40R18 |
265/35R18 |
245/40R18 |
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価格 |
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車両価格(\) |
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5,544,000 |
5,670,000
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6,320,000
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10,460,000
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9,910,000
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備考 |
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タイプA |
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LHDのみ |
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北米価格($) |
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49,100 |
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52,375 |
59,400 |
58,500 |
上表で比較するとスペック的には同等の輸入車は、国産車と比べれば遥かに高価なのは毎度おなじみの事ながら、BMW540iはフーガ450GTに対して約1.8倍もする。こうして比べて見ると、欧州車は勿論のこと、レスサスと比べてもフーガは約100万円近く安いことになり、買い得感からいえば抜群でもある。
そのコストパフォーマンス抜群のフーガ450GTのドアを開ければ、標準装備されるレザーシートやドアの内張りの各所にレザーを使った内装が目に入る。流石に同じフーガでもV6に標準装備されるジャガード織と人工皮革(これが目いっぱい安っぽい)のシートに比べれば、高級感は段違いだ。もっとも、V6モデルでもオプションでレザーシートの装着は可能だから、特にV8だけの特徴でもない。
試乗車の内装の質感を高く感じさせる大きな要因に、オプション装着されていたピアノ調のフィニッシャー(欧州車でいうところのトリム)によるところが大きい。マジェスタの場合も基本はクラウンだが、こちらはどちらかと言えばクラウン以上にコテコテの演歌調で、これに比べればフーガは欧州車的でもある。 |
写真3
スペース自体はV6搭載モデルと変わらないが、内装の高級感では当然ながら勝っている。が、V6でもオプションで同等になるのも事実。 |
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写真4
レザーのシートやドア内張りのレザーはニッサン車としては質感が高い。 |
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シートに座ってみると、決して評判の良くない日産のレザーシートとしては一番良い部類の座り心地なのは、550万円のクルマとしては当然でもあるが、その雰囲気は同じくV8エンジンを搭載する欧州のプレミアムブランドと比較すると、世界が違うくらいの差があるのも事実。
そう、何だかんだ言っても、このクルマはフーガであり、欧州車を目指したとはいっても、基本的にはセド/グロが改名しただけなのだ。
インテリジェントキーを所持してスターターボタンを押すという、お馴染みの方法でエンジンを始動すると、流石にV8だけあってアイドリングは静かだが、マジェスタのようにエンジンが回っているのを確認するのに回転計を見る必要があるという程の静けさではない。発進するために足踏み式パーキングブレーキの解除レバーを探すが見当たらない。よく見ると足踏みペダルには"PUSH ON-OFF"と書いてあった。要するに踏む毎に作動と解除を繰り返すタイプで、シルフィーあたりならとも角、V8 4.5Lの高級セダンにはどうかと思う。この点では、マジェスタは勿論、クラウン(ロイヤル&アスリート)でもダッシュボートにリリースレバーを持つトヨタを見習うべきだ。なお、トヨタの場合はマークXになると、フーガのようなプッシュ/プッシュタイプになるなど、しっかりと差別化を図っているのも流石に上手い。
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写真5-1
ダッシュボードも基本的にはV6と変わらないが、試乗車のトリムはオプションの漆塗りのような
ピアノ調仕上げが装着されていた。
写真5-2
こちらは350GTの室内。内装色が異なるので、印象が大いに異なるが、基本的なデザインは全く同一なのが判る。
フーガのウッドパネルは全モデルで本物のウッドを使用しているらしいが、高級感ではクラウンの”木目風”に敵わない?! |
写真6
メーターもV6モデルと同じ。写真は夕方でライトを点灯している状態なので文字が淡いオレンジで表示されている。 |
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写真7
オプションのピアノ調仕上げのトリムの高級感は欧州車とは一味違う。 |
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走り出した第一印象は、350GTと比べれば伊達にV8 4.5Lは積んでいないとの感じはするものの、450(333ps、455N・m)と350(280ps、363N・m)との差は圧倒的というほどには感じない。同じV8のライバルであるマジェスタに比べると、フーガ450は低速トルクが痩せ気味のような気がするが
、この辺が低速でイマイチV8らしくない原因かもしれない。そこで、前出の一覧表を見てみれば、なるほどフーガは最高出力、最大トルク共にマジェスタよりも発生回転
数が高い。333psなどに拘らずに、もっとパワーを落として乗りやすい特性にしたほうが、このクルマのオーナー層を考えれば適しているように思う。
とは言っても、フルスロットルを踏んだ時の加速の迫力はV6の350とは一味違う。この時の雰囲気はマジェスタよりもスポーティな味付けになっているから、高回転
寄りのトルク特性を上手く利用すれば、相当俊敏に走れるので、マジェスタより”オヤジ度”は低い。 |
写真8
V8、4.5ℓエンジンは333ps/6400rpmの最高出力と455N・m/4000rpmの最大トルクを発生する。 |
同じフーガといってもV6エンジン搭載モデルに比べて、もっとも違いが判るのは動力性能ではなく、操舵性だった。フロントに搭載しているV8エンジンの重量差は如何ともしがたく、操舵時のレスポンスの
悪さが目立ってしまう。フーガの良さは旧BMW5シリーズをお手本として開発されたというだけあって、国産ミドルサルーンとしてはトップクラスの軽快な操舵性だったのだが、この450GTはマルで別のクルマという感覚だ。
フーガ同士で重量差を調べてみると450GTの1770kgに対して、350GTは1660kgと110kg差で、それでは馬力当たりの重要はといえば、450GTが5.3kg/psに対して350GTは5.9kg/psと、それほどには変わらない。
そして、110kgの差の多くがフロントに錘を付けた状態なのだから、軽快さのないのも当然だし、先程動力性能では驚くほどの差は見つからなかっ
たことも、数字でも裏付けられていた。これは、フーガだけでなく、レクサスGSでも同様で、GS350とGS430では、確かにV8のほうが低速トルクが多少太い気はするが、これも大きな差ではなかった。
その意味ではクラウンロイヤル(V6、3L)に比べてると、クラウンマジェスタのチョッと踏んだだけでグアッと加速する、圧倒的なトルク感は大いに魅力的でもあった。勿論、スロットル特性はお世辞にもリニアではないが、ダンプの運ちゃんから
身を起こし、今では運送会社の社長とか、溶接工から鉄工所の社長などという、裸一貫から身を起こした叩き上げの経営者から見れば、実に納得の性能でもある。さらには、極端に軽いステアリングも、左腕は
アームレストに置いたままで
、右手で軽くステアリングをつまみながらの運転スタイルが、如何にもそれらしい。勿論、シートバックは目いっぱい寝かせるのは言うまでもない。
話をフーガに戻して、ブレーキについてはV6の250/350GTと同程度のキャリパーだが、元々V6でも十分な容量があったから、V8となっても決して不安を感じないし、勿論軽い踏力で良く効く。最近の新型車のブレーキは、車両のカテゴリー(大きさ/排気量)に関係なく、コンパクトカーから高級セダンまで、効きが悪いということが殆どなくなったが、そうなってからは未だ3〜4年程度で、それ以前は酷いのが多かった。フーガの先代であるセドリック/グロリアや、クラウンならゼロクラウンと呼ばれる現行モデルの一つ前までは、何しろホイールサイズが小さかった。今でも偶に遭遇するセドリックの覆面パトカーのタイヤは、何と14インチだったりする。そんな小さなホイールだから、ディスクローターのサイズも小さく、したがってキャリパーのピストンサイズが同じでも、ローター径が小さい分だけブレーキ力も小さくなる。
ところが、最近の新型車ときたら、フーガ/クラウンクラスならば17インチは当たり前で、一部のスポーツモデルでは、19インチなんていうのもある。このお陰で、ディスクローターも大きくなり、同じシリンダやピストンでも、ローター径の大きい分だけ効きが良くなる。これは、回っている円盤を掴む時に、中心に近い位置を掴むのと、外周に近い位置を掴むのでは、円盤を止める力は大いに異なるのと同じ理屈で、ブレーキ力はローター径に比例する(厳密にはローターの有効径に比例し、パッドの中心位置での径となる)。
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t
写真9
450GTの標準はフロント/リア共に245/45R18タイヤを装着する。
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写真10
比較用として、V6モデルの標準タイヤ&ホイール。
フロント/リア共に225/55R17タイヤをとなる。
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トロイ操舵性とはいっても、基本的にはスポーティ志向で、乗り心地もシャキっとしたフーガ450GTと、これぞ究極のオヤジクルマで、スピーカーからは美空ひばりが聞こえてきそうなマジェスタと、どちらが良いかはオーナー次第。いや、その前に、この手のクルマを個人で買うことは
、まず無いだろう。事実上は個人のオーナーカーとして使われるとしても、業界の寄り合いや親会社の接待などの送迎車も兼ねるから、高級感とともにフォーマルな雰囲気も必要だ。
しかし、こういう叩き上げ世代も、徐々に二代目に後を譲っているようで、そうなると子供の時から既に裕福で、大学の付属高校では、ろくに勉強もしないで同級生である生粋のお坊ちゃんから”クルマは欧州車が最高だ”なんて仕込まれたりしてる若社長や専務が、いくら仕事用とはいっても、フーガ450やマジェスタを買うだろうか?考えられる可能性は仕事に関する立場上、国産車に乗るしか選択の余地が無い場合か。どうせ、経費で落とすんだから、V8の高級な奴にでも乗るか、という感覚で・・・・。
それでは、フーガ450GTをどう結論付けるべきか。同等車が米国ではインフィニティM45 Sport($50,550)として、レクサスGS430($52,375)などと同一市場の一角を占めてることを考えれば、国産V8搭載車としては買い得感ではナンバーワンは間違いない。後はV8搭載車に価値を見出すかだから、これはもう個人の趣向の問題で
あって、他人が如何こういう筋合いではない。と、まあ、いつもの結論になってしまった。
そういう意味では、何やらシャキッとしない試乗記でもあった。要するにフーガのベストグレードは350GTで決まり。
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